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Category:防災・環境システム

地震防災のための地盤情報と今後の展開

地震防災のための地盤情報と今後の展開

つくば事業部第四技術部では、独立行政法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」と呼ぶ)研究業務支援等により、地盤情報(地質情報)データベースおよび地盤構造モデル情報作成、地震動予測地図作成作業における地盤情報の取り扱い手法等を検討してきた。本論文では、上記技術を利用した、将来の地盤情報サービスの展開や方向性についてそれぞれ述べる。

地震防災のための地盤情報と今後の展開[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の防災・環境システムソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • 防災・環境システムソリューションは、つくば事業所が提供しています。
地震防災のための地盤情報と今後の展開Future Initiatives of Underground Structure Information for Earthquake Disaster Prevention.先名 重樹* Shigeki Senna つくば事業部第四技術部では、独立行政法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」と呼ぶ)研究業務支援等により、地盤情報(地質情報)データベースおよび地盤構造モデル情報作成、地震動予測地図作成作業における地盤情報の取り扱い手法等を検討してきた。本論文では、上記技術を利用した、将来の地盤情報サービスの展開や方向性についてそれぞれ述べる。 I worked continuously in the disaster prevention section for more than the past ten years as a researcher(now, visiting researcher)of NIED.  The contents of the measure are the directivity of deployment of the foundation information in a underground structure information(geological information)database, structural model information creation, and seismic hazard map creation work, and a future underground structure information service. 1.はじめに 我が国は、1995年兵庫県南部地震や2011年東北地方太平洋沖地震など、過去において地震による甚大な被害を経験してきた。そして、将来においては南海トラフの巨大地震や首都直下地震など、極めて甚大な被害を生じる地震の発生が予想されている。そこで、国は2000年に建築基準法の改正を行い、建築物の基礎の構造は、国交省に示す、「地盤の長期許容応力度に応じて告示1347号1)基礎の種類を選ぶ」ことや、常時微動探査による地盤の卓越周期から地盤種別の推定を行い増幅特性として準用することが可能(国交省告示1113号2))となっている等、地盤調査が必要となってきている。一方で、地震被害を10年で半減させるという地震防災戦略を2005年3月に策定し、さらに2020年までに耐震化率を95%にするという目標が新成長戦略として閣議決定され、住宅をはじめ地盤を考慮した建物の耐震化は喫緊の課題となっている。しかしながら、地盤情報に基づく建物の耐震化をはじめ、耐震診断手法は十分に進んでいないのが現状である。地盤や揺れやすさの情報は、市民にとって関心の高い事柄であり、自宅の耐震性等について考える機会を捉えて地震に関する知識を提供すれば、効果的に知識の普及と地震防災に対する意識の啓発につながると考える。防災科研では、国の地震調査研究推進本部が作成・公表している全国地震動予測地図のデータを地震ハザードステーション(J-SHIS:http://www.j-shis.bosai.go.jp)3)で公開している。J-SHISからは、全国250mメッシュサイズで、工学的基盤における最大速度と、その最大速度を今後30年あるいは50年の間に超える確率、表層地盤の微地形区分と増幅率などのデータを取得することができる。これらのデータと住宅の建物情報を用いることにより、その場所においての地盤のゆれやすさや大きな揺れに見舞われる確率を知ることができ、そのとき予想される建物被害リスク(以下、地震リスク)を評価することができる。暮らしている地域の地震・地盤環境の理解に役立つとともに、将来的な耐震診断の促進に資するものと考える。しかしながら、より詳細で耐震診断および設計に使用できるような地盤情報に関する公開は不十分な状況である。本論文では、近年検討されている地盤情報に関わる研究・開発や地下構造データベース、地盤構造モデル作成・微動システムの研究および今後の新たな展開等を交えて報告する。2.これまでの地盤情報の現状 地下構造の情報がきわめて重要であることは前述にも述べたが、本章では、これまでの地盤情報に関する取り組みの例として、防災科研による強震動予測のための地盤構造モデル作成と、地下構造データベースの構築について述べる。*つくば事業部 第四技術部1 MSS技報・Vol.242.1 強震動予測のための地盤構造モデルの作成  (全国一次地下構造モデル) 工学的基盤以深の高精度な三次元地下構造モデル(深部地盤構造モデル)として、各種探査や地震観測の結果を総合した全国1次地下構造モデル作成の取り組みがある。モデル構築に際しては、Koketsu et al.(2009)4)により提案された、わが国における地域規模の三次元地下構造(速度構造)の標準的なモデル化手法(図1)に従って、屈折法/反射法地震探査、重力探査、表層地質、ボーリング、微動探査等のさまざまなデータを利用し、面的調査データや自然地震観測記録等により調整し、さらに地震動の観測記録とシミュレーション結果を比較することにより調整されている。この手法を首都圏の地下構造に適用して構築された参照速度構造モデル5)は、主に長周期地震動予測地図作成のために用いられ、手法の妥当性が確認されている。なお、全国地下構造モデルの構築の段階は3段階あり、1つめは「0次地下構造モデ「全国初期モデル」6)ル」で、主に地質情報から構築された防災科研によるであり、次は「0.5次地下構造モデル」で、2005年版「全国を概観した地震動予測地図」においてシナリオ地震予測が行われた地域などである程度高精度化されたモデル、3段階目の「1次地下構造モデル」は、防災科研が平成19年度に構築した九州地域全域のモデル、大都市大震災軽減化特別プロジェクト7)や重点的調査観測の一環として首都圏・近畿圏や宮城県域などで構築された地盤モデルを取り込んで作成されたものである。なお、この全国1次地下構造モデルは、現在、長周期地震動予測地図作成に使用されている。一方、工学的基盤以浅の浅部地盤構造モデルは広域的には作成されておらず、推本における「警固断層帯(南東部)の強震動評価」で実施された強震動計算8)において、福岡市の一部地域のみで評価が実施されている状態でしかない。図1 強震動評価のための深部地盤構造モデル作成の流れ2 MSS技報・Vol.242.2 地下構造データベースの構築 日本では、地震災害をはじめ各種自然災害によるリスクが高く、その対策を進めるために、基礎資料となる地下構造に関するデータの利用に対するニーズが高くなっている。 過去には膨大な地下構造調査が実施されてきている。しかしながら、これらの調査は、様々な目的に基づいて様々な機関により実施されているため、限定された目的の利用に留まり、データは各府省・地方公共団体・関係機関等に散在している。これらのデータは他には十分利用されないまま死蔵の状態となっているものが多く、中には散逸の危機にあるものもある。データの散逸を防ぎ、誰でもが利用可能なデータベースを構築することは大変重要な課題となっている。造データベースの構築」9) こうした背景の下、平成18年7月より5カ年間に渡り、科学技術振興調整費重要課題解決型研究「統合化地下構が開始され、防災科研をはじめ6つの研究機関が参加して、地震防災など社会の安全・安心と持続的発展を実現するため、国土の地下構造に関する情報を「国民共有の公的財産」と位置づけ、収集・整備し、表層地盤から深部に至る系統的・網羅的な統合化地下構造データベースを構築することを目指した。検討では、データの標準化や地質と物性特性など異なるデータ間の統合化を進め、各機関に分散したデータベースの相互利用・公開を進めるための分散管理型ネットワークシステムを開発してきた。さらに、地震防災に資する地下構造モデルの高度化やハザードマップ・リスク評価への利活用について研究し、データベースの内容の高度化や、その有効性を示すため、利活用に関する検討を具体的な事例に基づいて実施している(統合化のイメージ:図2)。図2 統合化のイメージ3.現状の地震動予測のための地盤モデルの作成について 強震動予測を行うために重要な情報としては、図3に示すように、震源特性・伝播経路特性・地盤増幅(サイト)特性の3つの特性が重要であるが、中でも地盤増幅特性については、防災上重要な周期特性や増幅特性(長周期地震動および地上における震度予測等)を評価するために最も重要な情報である。現状公開されている地震動予測地図(震源を特定した地震動予測地図)では、図3に示す工学的基盤まで(深部地盤構造)をモデル化し、その上面までの詳細法による地震波形計算10)を行っている。一方、浅部地盤構造については、地震動計算用の速度構造を作成することなく、約250mメッシュ単位のに基づいたAVS30による地盤増幅率12)で、微地形区分11)工学的基盤の最大速度に増幅率をかけることで、地上の最大速度(震度)としている。しかしながら、地盤・耐震工学の分野での利用を考えると、地表の地震動における周波数・増幅特性を求める必要がある。以上のことから、国においても地表までの地盤構造モデルを作成する必要性が出てきている。推本においては、地盤構造モデル高度化への取り組みが平成23年度から開始し、0.1秒から10秒程度の広帯域の地震動特性を評価できるような地盤モデルの構築を念頭に、これまで別々にモデル化を実施してきた浅部地盤モデル13)と深部地盤モデル5)を統合し、地震・常時微動等の観測記録を再現できるようなモデルの作成を進めている(図4)。 ちなみに、既往の研究では地表まで作成された3次元の地盤モデルにおいての地震動の検証が十分になされている状況にはない。上記の理由から、防災科研では地盤構造モデルの高度化の研究として、まずは、国・自治体等のボーリングデータの収集し、初期の地質構造モデルを地表から工学的基盤までを作成し、既往の深部地盤モデルを結合して「初期地盤モデル」を作成している。次に、このモデルを初期値として、K-NET、KiK-net、気象庁および自治体等の地震観測点における地震記録と、多数の常時微動探査の記録より、地盤のS波速度構造・増幅特性(スペクトル増幅率)等を求め、地盤モデルの高度化を行っている。また、面的な補間方法の検討も行い、最終的には約250mメッシュ単位の地盤構造モデル(通称:浅部・深部統合地盤モデル)14),15)を作成している(図5) なお、地盤モデル作成結果の検証については、周期2秒よりも短周期側については、1次元重複反射法による地震観測記録とサイト増幅特性等との検証を行い、周期2秒よりも長周期側については、有限差分法16)による地震観測記録との結果の検証を行い、既往の地盤モデルに3 MSS技報・Vol.24図3 地盤構造のS波速度と各構造モデルの関係概念図図3(補足) 各地盤モデル作成に関する対象周期との関係概念図図4 浅部・深部統合地盤モデル作成概念図MSS技報・Vol.24 4図5 浅部・深部統合地盤モデル作成結果(南関東地域暫定結果)対しての高精度化の検証を行っている。この検討により、日本の広帯域地震動予測用のスタンダードな地盤モデルを構築・公開していくことで、将来的に本検討の地盤モデルを基本として新たな地盤モデルの研究や民間企業が利用できる地盤情報としての利活用を考えており、本研究の最終的な目標としている。4.地盤モデル作成のための微動観測システムの構築について                    前節に示すように、地震動予測地図の高度化のためには、高精度な地盤モデルの作成は必要不可欠であるが、そのためのボーリング調査や反射法地震波探査は、莫大にコストがかかる。一方で、近年、直接的な地震観測以外で地震時の揺れの周期特性や地盤の速度構造を良くとらえることのできる常時微動観測が行われてきている。常時微動観測は、地震動予測のための地盤構造モデル作成に非常に有用な物理探査手法である。その観測の手軽さにより、ここ10年で各大学・研究期間では非常に多くの研究がなされているたとえば17)。しかしながら、研究そのものはバラバラの機材・考え方により各大学の小さな研究素材としてとじられており、データの共有等についても、ボーリングデータ以上に集約の難しい情報となってしまっている。ボーリングデータはその物性の性質(堅さ柔らかさ)や層序に関しての情報は抽出できるもの図6 常時微動システムの概要5 MSS技報・Vol.24の、地震動にとって重要な一部の物性値構造は推定で与えるしかない。動的な特性を得るには常時微動やPS検層・表面波探査のような観測が必要であるが、特にPS検層や表面波探査についてはコストがかかる上に観測者の能力や解析結果の解釈も難しく多くの観測は望めない。 常時微動観測は現在、先名・他(2006,2008)18),19)の微動観測システムの開発により、素人でも数時間のレクチャーを受けることで、熟練者の観測結果と遜色ない精度で観測できるようになった。単点の微動観測については15分程度の観測で、その地点の揺れやすさの周期特性(Tg)・増幅特性等がわかり観測データそのものもデータベースに即時登録が可能なシステム「常時微動システム(先名・他(2012))20)」も開発されている(図6)。このシステムは、現場においてデータ登録・解析等が完了するため、位置情報・写真情報・観測データ・時刻歴情報・解析結果等の登録時のヒューマンエラーが少なくなる仕組みとなっている。 一方、常時微動観測は、研究自体は有名大学を中心に沢山実施されているものの、機材の高価さ・これまでに観測を実施したことがない等、大部分の研究機関は観測を行いたい希望はあっても、二の足を踏み研究活動が出来ないところが多い。全国的にくまなく常時微動データの集約をはかっていくには、このような地域の研究者に機材貸与および技術協力を行いデータ集約の仕組みに賛同していただき、観測者の裾野の拡大を行って「ビックデータ」収集の足がかりにしていくことが、新たな精度の高い全国ハザードマップ(ゆれやすさマップ)を作成していく礎になると考える(図7)。 そのための方法(筆者の提案)として、防災科研がデータセンターとしての機能を持ち、微動計の管理・データベース登録等システム・教育システムをパッケージとして用意・提供し、機材・データの品質・情報管理を効率良く行っていけるものと考える。現在、上記微動システムを地方大学・研究機関等の希望の部署に観測レクチャー教育ともに提供し、大きな成果を得られつつある。先々収集される「ビックデータ」の管理を効率化するため、今後において防災科研の微動システムを大規模に再構築する必要が出てくるであろう。図7 防災科研が目指す相互運用システムの仕組み6 MSS技報・Vol.245.新しい微動探査法の構築と地盤情報サービスシステムの開発への取り組み 近年、筆者らが取り組んでいる新しい微動観測手法および地盤情報サービスシステムについて下記に簡単に紹介する。5.1 新しい微動探査法の活用(極小アレイによるS波速度断面の構築) 筆者らは、現在、新しい微動観測・解析手法を検討している。1つは、微動アレイ解析方法の1つである、CCA 法(Cho et al.(2006))21)の手法をベースに、観測から解析までを自動的に結果を算出する(位相速度を求め、S波速度構造に変換)ように検討した、Cho, Senna and Fujiwara(2013)22),23)の手法である。アレイ半径に対する解析可能波長帯域、解析結果の信頼性、安定性の観点から、コヒーレンスCCA 法(nc-CCA法)による極小アレイ(r<1m)と、必要に応じて3点からなる不規則形の「小アレイ」(r<5m)を別途実施することで従来よりも実用的な浅部(深さ数10m~100 m 程度)構造探査が可能になるとしている(図8)。極小アレイは観測が簡単なため、測線に沿う複数点で観測して「チェーンアレイ」(原口・他、2010)24)と呼ばれるようなS波速度構造を2次元断面にて構造解析する手法も実施されている。この解析方法は、適当な変換式によって分散データをS波速度構造に変換する簡易逆解析である(図9)。もう1つは、H/Vスペクトル25)を利用した手法である。過去の研究は微動の振幅情報が地下構造推定に図9 微動観測結果から簡易逆解析を行う新手法  (位相速度簡易変換・トラフ法・ピーク法)図8 極小アレイ(半径60cm)による各解析結果の比較(nc-CCAの位相速度が最新の研究によるもの)MSS技報・Vol.24 7有効なことを表しており、スペクトルのピーク周波数は速度コントラストの強い軟弱層の厚さや速度に、ピーク高は層間の速度コントラストあるいはインピーダンス比に関連すると考えられている(例えば、Konno and Ohmachi, 1998)26)。しかしH/V スペクトル比で地盤構造を推定しようとするすべての既存研究には、スペクトルのピークによって示される深さスケールの解釈には地盤速度と層厚のトレードオフに起因する任意性があったり、ピークが低く複数あるためにピークの読み取り自体が難しい場合が多い等の問題が常につきまとってきた。本研究では3成分地震計で極小アレイと同時に実施することでトレードオフを解決している。 浅部構造探査のために3成分単点観測とCCA法による極小アレイ、小アレイを多点で展開して疑似S波速度断面とH/V断面(それぞれ疑似S波速度構造、H/V構造の空間補間で得られる2次元プロット)を解析し、統合的に解釈することで、これまでよりも多くの情報を簡易に抽出できるようになった。CCA法による極小アレイ・小アレイ観測は作業コストが低いので多点データの取得に適する。またアレイサイズが小さいので、水平方向の空間分解能が高い。防災科学技術研究所と白山工業(株)の共同開発による微動/強震観測キットJU215は、この目的に適している。図10(先名・他、2006)18)はI地域の約3kmの測線に沿う疑似S波速度断面図(上図はインバージョン無し・中図はインバージョン有り)である。上記の結果は地盤図の地質構造断面(下図)と良く合っており、S波速度値も信頼できる値であると考える。精度・有効性については、今後さらに他の地域についても検討し、研究論文として公表予定である。5.2 新しい探査手法を利用した地盤情報サービスシステムの開発の取り組み 5.1節で示した手法の利用は、当初土木探査を想定していたが、高い周波数100Hz以上でも比較的S/Nが確保できるため、非常に浅い構造(深さ50cm~1m程度)にも対応出来る。現在、2000年の法改正により、住宅建設時に地盤調査が必須となり、SS(スウェーデン・サウによる地耐力調査が行われているンディング)方式27)が、その後、種々の調査方法(水平載荷試験・物理探査)で大きく成長する地盤調査会社が出る市場となっている。本微動観測システムによる観測の簡便性や、解析の自動化による簡易性より、市場展開の可能性が十分にあるものと考える。更に、2011年東北地方太平洋沖地震によりハウスメーカーの調査方法に関する意識が変わりつつあり、地耐力だけでなく地震の卓越周期特性(Tg)や、観測地点で推定される応答スペクトルのニーズも出てきている状況である。S波速度構造を比較的深い部分まで得られる本手法は、基本的な要求を満たしつつ、さ図10 極小アレイによる解析結果の2次元断面図と地質断面図(下図)との比較(I地域)※真ん中のカラーの図が極小アレイによるS波速度構造断面図       (上図は逆解析なし(位相速度簡易変換のみ)・中図はピーク・トラフ法を使用した逆解析有り)8 MSS技報・Vol.24図11 地盤評価システムにおける結果のイメージらに他の手法と比較しても優位な結果が得られ、その結果に基づいた新たなサービスの展開も可能となるものと考える。例えば、前述の浅部・深部統合地盤モデルと合わせて利用することで、調査地点の地震基盤までの構造に基づいて長周期を含む広帯域の揺れの特性や、周辺と比べてどの程度揺れやすいのかという評価結果もサービスすることが可能となる(図11)。また、防災科研のJ-SHIS等に収められているデータとの相互運用を行うことで、種々の地震動予測地図を利用したハザード情報も出すことが可能となり、最先端で高付加価値のリスク情報サービスの提供も可能となる。参考文献1)平成13年国土交通省告示第1347号(評価方法基準),2001.2)平成13年国土交通省告示第1113号(基礎及び地盤の耐震設計用許容応力等の算出方法),2001.3)独立行政法人防災科学技術研究所:地震ハザードステーション(J-SHIS):http://www.j-shis.bosai. go.jp. 6.まとめ 過去13年間、常駐者・契約研究員・客員研究員として関わってきた防災科研研究業務における地盤構造に関する取り組みについて、これまでの経緯に沿って記載した。防災科研での地盤構造に関する取り組みについては、通常は地震動予測のための調査・研究が一般的であるが、それ以外の用途も考慮した地下構造データのデータベース化や、新しい探査手法の研究・開発等、その内容・ボリュームともに拡張しつつ、府省・官民連携による総合防災を意識した取り組みに大きく変化しつつある。その中で、現在の手法を駆使して、新しい地盤情報サービスを提供していくことは、民間企業にとっては大きなチャンスであると考える。 本稿をまとめるに当たり、原稿段階で査読を御願いした関係各機関の各位には御礼申し上げます。4)Koketsu, K., H. Miyake, Afnimar, and Y. Tanaka, 2009,A proposal for a standard procedure of modeling 3-D velocity structures and its application to the Tokyo metropolitan area, Japan, Tectonophysics, 472,290~300.5)纐纈一起:地下構造と長周期地震動,日本地震工学会誌,No. 4,pp. 12-15,2006.6)藤原広行・河合伸一・青井 真・森川信之・ 先名重樹・工藤暢章・大井昌弘・はお憲生・早川 讓・遠山信彦・松山尚典・岩本鋼司・鈴木晴彦・劉瑛:強震動評価のための全国深部地盤構造モデル作成手法の検討,防災科学技術研究所研究資料, 337,2009.7)Miyake, H., K. Koketsu, and T. Furumura, Source modeling of subduction-zone earthquakes and long-period ground motion validation in the Tokyo metropolitan area, Eos Trans. AGU,Vol. 88,No. 52,Fall Meet. Suppl., Abstract S14C-04,2007.8)文部科学省地震調査研究推進本部地震調査委員会強震動評価部会:警固断層(南東部)の地震を想定9 MSS技報・Vol.24した強震動評価について,http://www.jishin.go.jp/ main/,2008.9)防災科学技術研究所:統合化地下構造データベースの構築<地下構造データベース構築ワーキンググループ報告書>,防災科学技術研究所研究資料, 361, 2011. 10)先名 重樹・藤原 広行・河合 伸一・青井 真・功刀 卓・石井 透・早川 讓・森川 信之・本多 亮・小林 京子・大井 昌弘・八十島 裕・神野 達夫・奥村 直子:森本・富樫断層帯の地震を想定した地震動予測地図作成手法の検討,防災科学技術研究所研究資料,第255号.11)若松加寿江・松岡昌志・杉浦正美・久保純子・長谷川浩一:日本の地形・地盤デジタルマップ ,東京大学出版会, 2005.11.12)松岡昌志・若松加寿江・藤本一雄・翠川三郎:日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用した地盤の平均S波速度分布の推定,土木学会論文集 No.794/I-72, 2005, pp.239-251. 13)三宅弘恵・纐纈一起・古村孝志・稲垣賢亮・増田徹・翠川三郎:首都圏の強震動予測のための浅層地盤構造モデルの構築,第12回日本地震工学シンポジウム,2006, pp.318-321. 14)先名重樹・前田宜浩・稲垣賢亮・鈴木晴彦・神 薫・宮本賢治・松山尚典・森川信之・河合伸一・藤原広行:強震動評価のための千葉県・茨城県における浅部・深部統合地盤モデルの検討,防災科学技術研究所研究資料,第370号.15)Senna, S., T. Maeda, Y. Inagaki, H. Suzuki, N. Matsuyama, and H. Fujiwara(2013b), Modeling of the subsurface structure from the seismic bedrock to the ground surface for a broadband strong motion evaluation, submitted to Journal of Disaster, 2013, Vol8, No.5, pp.889-903. 16)Aoi, S. and H. Fujiwara,3-D finite-difference method using discontinuous grids,Bull. Seismol. Soc. Am., 89, 918-930, 1999. 17)Arai, H., and K. Tokimatsu(2004), S-Wave velocity profiling by inversion of microtremor H/ V Spectrum, Bull. Seismol. Soc. Am., 94, 53-63. 18)先名重樹, 安達繁樹, 荒木恒彦, 飯澤清典, 藤原広行:微動探査観測システムの開発, 第115回物理探査学会予稿集, pp.120-122, 2006. 19)先名重樹, 藤原広行:微動探査システムの開発 その1-常時微動解析ツールの開発-, 防災科学技術研究所研究資料, 第313号, 2008. 20)先名 重樹・安達 繁樹・浅香 雄太・藤原 広行:新微動探査システムの開発,第126回物理探査学会予稿集,pp.126-129,2012. 21)Cho, I., T. Tada, and Y. Shinozaki(2006), New method of microtremor exploration: the centerless circular array method and the two-radius method, 3rd International Symposium on the Effects of Surface Geology on Seismic Motion, Grenoble, France, Paper Number 51. 22)Cho, I., S. Senna, and H. Fujiwara(2013), Miniature array analysis, Geophysics, 78, KS13KS23, 10.1190/GEO2012-0248.1. 23)Cho, I., S. Senna, and H. Fujiwara(2014), Depth conversion of the H/V spectrum: A simple method for acquiring information on the S wave velocity discontinuity from microtremors, Geological Survey of Japan(now printing). 24)原口強、松岡達郎、南雄一郎、小野雅弘:チェーンアレー微動探査法による上町断層地下構造のイメージング、日本応用地質学会平成22年度研究発表会講演論文集、2010.25)中村豊:常時微動計測に基づく表層地盤の地震動特性の推定, 鉄道総研報告, Vol.2, No.4, pp.18-27, 1988. 26)Konno, K., and T. Ohmachi(1998), Groundmotion characteristics estimated from spectral ratio between horizontal and vertical components of microtremor, Bull. Seismol. Soc. Am., 88, 228241. 27)日本工業規格:スウェーデン式サウンディング試験方 法,http://www.jiban.or.jp/file/organi/bu/ kijyunbu/kouji/jis_a_1221_kai_201003 kaishikeisai. pdf 10 MSS技報・Vol.24