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Category:FAトータルソリューション

省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発

省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発

当社では、1996年から産業用途向けパソコン(以下、FA-PC)の開発、製造、販売、保守を行っている。FA-PCは、耐環境性の重視、長期安定供給、長期保守を実現し、社会・公共・電力・交通分野の監視制御システムで採用されている。ラインアップは高機能システム向けのPEACE-Hシリーズと省スペース/組込向けのPEACE-Eシリーズがある。PEACE-Eシリーズ初の機種となるPEACE-E100は、2012年の販売開始から、約1050台を生産し採用頂いたが、2018年3月で生産終息のため、後継機種としてPEACE-E200を開発した。

省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開するFA・産業メカトロニクス事業のFAトータルソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • FAトータルソリューションは、トータルソリューション事業所が提供しています。
省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発
1.まえがき
当社では、1996年から産業用途向けパソコン(以下、FA-PC)の開発、製造、販売、保守を行っている。FA-PCは、耐環境性の重視、長期安定供給、長期保守を実現し、社会・公共・電力・交通分野の監視制御システムで採用されている。ラインアップは高機能システム向けのP E A C E - Hシリーズと省スペース/ 組込向けのPEACE-Eシリーズがある。PEACE-Eシリーズ初の機種となるPEACE-E100は、2012年の販売開始から、約1050台を生産し採用頂いたが、2 0 1 8 年3月で生産終息のため、後継機種としてPEACE-E200を開発した。
2.製品仕様
PEACE-E200の製品仕様を以下に示す。2.1 ハードウェア仕様PEACE-E200のハードウェア仕様を表1、ブロック図を図1に示す。表1.PEACE-E200ハードウェア仕様項目仕様CPU Intel®CoreTM i5 4570TEメモリ4GB×1枚 DDR3(注 *1) ECC付グラフィックDVI-I、DVI-D ともにフルHD対応(独立2画面表示可能)HDD 500GB(最大2基まで搭載可能)RAID RAID1構成(対応可能)LAN 10BASE-T、100BASE-TX、1000BASE-T ×2chWake On LAN対応USB USB3.0/2.0 ×2ch(前面 2ch)USB2.0 ×4ch(背面 4ch)シリアルポートRS-232C ×2chサウンドLine-In、Line-Out拡張スロットPCI Express×8 ×2chRAS(注 *2)CPU温度上昇検出、筐体内温度上昇検出、筐体ファン回転数検出、WDT(注 *3)による異常検出、RAID状態検出、電源電圧検出、振動・衝撃検出、故障履歴の保存/表示、NMI(注 *4)によるメモリダンプ機能エラーLED/7SEGコントロール筐体サイズW300×H110×D260mm図1.PEACE-E200ブロック図前機種PEACE-E100からの主な変更点を以下に示す。(1) CPU処理速度の向上CPUは、前機種の第1世代Intel®Core™プロセッサ・ファミリーであるCore i5 520E(2.4GHz、2コア)から、第4世代省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発長崎事業所 技術第2部 ハードウェアシステム課三根 雅生(注 *1 ) Double-Data-Rate3 Synchronous DynamicRandom Access Memoryの略称。半導体集積回路で構成されるDRAM規格の一種である。(注 *2 ) R e l i a b i l i t y( 信頼性)、A v a i l a b i l i t y( 可用性)、Serviceability(保守性)の略称。システムに関する評価指標である。(注 *3 ) Watch Dog Timerの略称。一定時間ごとにリフレッシュするが、リフレッシュされなかった場合、異常と判断しリセットや電源断などの処理を行う。(注 *4 ) Non-Maskable Interrruptの略称。いかなる場合でもCPUに対して外部から強制的に割り込みを入力することができる。49省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発一般論文Intel®Core™プロセッサ・ファミリーであるCore i5 4570TE(2.7GHz、2コア)に変更した。これにより、ベンチマークテストで、CPU処理速度が1.4倍に向上した。(2) メモリのデータ転送速度、搭載容量の向上メモリは、前機種のDDR3-1066規格から、DDR3-1600規格に変更した。これにより、最大データ転送速度が約8.5GB/sから約12.8GB/sと1.5倍向上した。また、前機種の搭載メモリ容量は最大8GB(4GB×2枚)であったが、PEACE-E200では最大16GB(8GB×2枚)まで搭載可能とした。(3) 拡張スロットデータ転送速度の向上拡張スロットは、前機種のPCI Express×1から、PCIExpress×8へ変更した。これにより、最大データ転送速度が約1.0GB/sから約8.0GB/sへと8倍向上した。(4) RASの充実RASの充実のため、専用マイコンの搭載、電源電圧低下検出機能、振動/衝撃検出機能など6つの機能改善を実現した。詳細は3章で述べる。(5) 筐体の小型化筐体の上にモニターを設置することを前提に、筐体の更なる小型化を図った。前機種の筐体サイズはW300×H132×D260mmであったが、筐体の内部構造見直しにより、PEACE-E200ではW300×H110×D260mmとなり、高さを約16%低くした。PEACE-E200の外観を図2、筐体サイズの比較を図3に示す。図2.PEACE-E200外観図3.筐体サイズ比較2.2 環境仕様環境仕様については、FA-PCに要求される耐環境性能を実現するため、動作温度範囲の広い部品を選定し、ノイズ・振動を考慮した筐体・配線設計を行った。さらに、信頼性を確保するため、国内設計部品を採用した。また、JEITA-IT-1004 Class B(注1)の試験規格に沿って設計及び試験することで、FA-PCとしての耐環境性能を満足させた。表2にPEACE-E200の環境仕様を示す。表2.環境仕様項目仕様対応規格動作温度0~45℃ JEITA-IT-1004 ClassB以上保存温度-10~60℃ JEITA-IT-1004 ClassB以上動作湿度30~80%RH(結露なし) JEITA-IT-1004 ClassA以上保存湿度30~80%RH(結露なし) JEITA-IT-1004 ClassA以上最大振動1.96m/s2(動作時) JEITA-IT-1004 ClassB最大衝撃19.6m/s2(動作時) JEITA-IT-1004 ClassS以上電源ノイズ2kV(100ns)1kV(1μs) JEITA-IT-1004 ClassB以上静電気ノイズ6kV(接触)8kV(気中) JEITA-IT-1004 ClassS定格電圧AC100/240V JEITA-IT-1004 ClassB以上定格周波数50/60Hz JEITA-IT-1004 ClassS以上瞬時停電20ms以下JEITA-IT-1004 ClassB3.RASの充実PEACE-E200の特徴は、RASの機能充実と、信頼性及び保守性を向上させたことである。前機種から充実した内容を、(1)から(6)に示す。(1) RAS専用マイコンの搭載前機種では、RAS機能をマザーボード搭載のCPU内蔵機能で実現し、ハードウェアの故障やソフトウエアの障害によりCPUが停止すると、RAS機能が動作しなかった。今回、RAS専用マイコンをマザーボード上に搭載することにより、CPUが停止した場合でも、ハードウェア異常の検知やログ保存を可能とした。(注1 ) JEITA-IT-1004は、一般社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electrics and Information TechnologyIndastries Association) が定めた環境基準に関する規格。Classは、設置環境により以下の3段階で分類される。•Class A(一般事務所環境レベル)•Class B(一般工場環境レベル)•Class S(Class Bよりも厳しい環境)50省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発(2) 電源電圧低下検出機能電源電圧監視回路をマザーボードに搭載し、電源装置からマザーボードに入力されるDC24V電源電圧の低下を検出可能とした。(3) 振動/衝撃検出機能加速度センサーをマザーボード上に搭載することで、本体の振動及び衝撃を検出可能とした。これにより、設置場所の振動やユーザーの取り扱いによる衝撃を検出し、故障の原因を特定可能とした。(4) NMIによるメモリダンプ機能OSやアプリケーションソフトウェアが異常停止した際に、本体前面のNMIスイッチを押下することで、メモリ内に格納されているデータをHDDに保存するメモリダンプ機能を追加した。ダンプされたデータを解析することにより、OSやアプリケーションソフトウェアの異常停止した原因の調査を可能とした。NMIスイッチの位置を図4に示す。(5) CPU及び筐体内部温度の2段階検出機能CPU及び筐体内部温度検出は、警告/異常の2段階検出とし、1段階目の警告検出時に、フィルタの汚れや目詰まりを確認し、処置することで筐体内部の温度上昇を予防可能とした。(6) 前期種との互換性今回開発したRASに関するドライバーやAPIなどのインターフェース仕様は、前機種互換とした。これにより、OSやアプリケーションの移植を容易にした。図4.NMIスイッチ(ファンカバー取り外し状態)4.課題と対策本開発での課題と対策を4.1節、4.2節に示す。また、環境試験中に発生した問題点と対策について4.3節に示す。4.1 集積回路のエラッタ対策前機種では、CPUのエラッタ(注2)に起因する障害が発生した際に、原因の究明に時間を要した。本障害の是正策として、エラッタの調査、内容の確認、対策の実施可否を設計フェーズに追加した。本開発では、マザーボード上に搭載するCPU、チップセット(注3)、通信ICのエラッタ内容を確認し、全223件の内、90件の対策をとりエラッタに起因する障害を未然に防止することができた。4.2 筐体ファンとHDDの共振点確認これまでに生産したFA-PCでは、筐体ファンから発生する振動が、HDDの磁気ヘッドと共振し、HDDの磁気ヘッドの振動が大きくなり、HDDのアクセスが正常にできなくなる障害が発生した。今回の開発では、筐体ファンによる筐体の振動特性とHDDの磁気ヘッドの振動特性が一致しないことを試験にて確認した。確認方法の流れを以下に示す。(1) 筐体ファンによる筐体の振動特性確認筐体のファン取り付け部付近に、加速度センサーを設置し、振動が最も大きい周波数を確認する。(2) HDDの磁気ヘッドの振動特性確認HDDの磁気ヘッドの振動特性確認構成を図5に示す。ファンクションジェネレータ(注4)から出力される正弦波をアンプで増幅し、低周波振動スピーカーでHDDに振動を加え、HDDのアクセス速度が低下する周波数をオシロスコープで確認する。(3) 振動特性の比較確認(1)で確認した振動が最も大きい周波数は、1200Hz、1400Hzであり、(2)で確認した振動が最も大きい周波数は、900Hz、1900Hzであった。(1)(2)の確認結果より、一致していないことを確認した。(注2 ) 製造メーカーから公開される集積回路に存在する構造上の欠陥や設計ミスなどを指す。対処方法まで公開されることもある。(注3 ) CPUからの情報を受けて、HDDや光学ドライブ、USBデバイス、LANなどの機器を制御する集積回路を指す。(注4 ) 任意の周波数と波形を持った交流電圧信号を生成することができる電圧波形発生器のこと。51省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発図5.HDDの磁気ヘッドの振動特性確認構成4.3 電源ノイズ対策電源ノイズ試験時においては、環境仕様の2 k V(100ns)、1kV(1μs)を満たさないことが判明した。対策として、電源ソケットをノイズフィルタ付に変更し、電源線からのノイズを防止することで、環境仕様を満たすことができた。電源ノイズ対策前を図6、電源ノイズ対策後を図7に示す。図6.電源ノイズ対策前図7.電源ノイズ対策後5.むすび信頼性、耐環境性、長期安定供給・長期保守に加えて、互換性の維持、新機能の追加、筐体の小型化など、開発要求事項を満足することができた。今後も最新技術やユーザーの要望を収集・検討すると同時に、今まで培ったノウハウを次回のFA-PC開発に活用していく。最後に、本開発にあたり、貴重な御意見、ご指導を頂いた関係者の方々に深く感謝申し上げる。執筆者紹介三根 雅生 ミネ マサキ2011年入社。FA-PCなどのハードウェア開発に従事。現在、長崎事業所技術第2部ハードウェアシステム課。52省スペースFA-PC PEACE-Eシリーズ新機種開発