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Category:防災・環境システム

東海道新幹線早期地震警報システムにおける統合検知点処理装置の開発

東海道新幹線早期地震警報システムにおける統合検知点処理装置の開発

東海道新幹線では、地震発生を早期に検知し、沿線が強く揺れるより前に被害を推定し、列車を減速・停止させることを目的に、東海旅客鉄道株式会社が整備・運用する東海道新幹線早期地震警報システム(以下「テラス」という)が利用されている。テラスでは、沿線から離れた場所で発生する地震に対して、沿線を取り囲むように設置された地震観測網を用いて震源位置やマグニチュードを推定する手法が利用されている。本稿では、地震観測網を構成する単一の地震計が単独で推定を行う従来の手法における精度向上の課題を挙げる。次に、課題を達成するために三菱スペース・ソフトウエア株式会社が開発に携わった、複数の地震計の観測情報をベイズ統計の手法で統合する統合検知点処理と統合検知点処理装置を紹介する。

東海道新幹線早期地震警報システムにおける統合検知点処理装置の開発[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の防災・環境システムソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • 防災・環境システムソリューションは、つくば事業所が提供しています。
東海道新幹線早期地震警報システムにおける統合検知点処理装置の開発Development of integrated single and multi–site earthquake estimation unit for the Tokaido shinkansen EaRthquake Rapid Alarm System (TERRA–S)下野 五月* 奥冨 剛史* 安孫子 一敏*Satsuki Shimono, Takeshi Okutomi, Kazutoshi Abiko東海道新幹線では、地震発生を早期に検知し、沿線が強く揺れるより前に被害を推定し、列車を減速・停止させることを目的に、東海旅客鉄道株式会社が整備・運用する東海道新幹線早期地震警報システム(以下「テラス」という)が利用されている。テラスでは、沿線から離れた場所で発生する地震に対して、沿線を取り囲むように設置された地震観測網を用いて震源位置やマグニチュードを推定する手法が利用されている。本稿では、地震観測網を構成する単一の地震計が単独で推定を行う従来の手法における精度向上の課題を挙げる。次に、課題を達成するために三菱スペース・ソフトウエア株式会社が開発に携わった、複数の地震計の観測情報をベイズ統計の手法で統合する統合検知点処理と統合検知点処理装置を紹介する。The Tokaido Shinkansen uses the Tokaido shinkansen EaRthquake Rapid Alarm System (TERRA–S) developed and operated by Central Japan Railway Company to detect earthquakes at an early stage, estimate the damage before the railway line is strongly shaken, and slow down or stop the trains. The TERRA–S system uses a method to estimate the hypocenter location and magnitude of earthquakes that occur far from the railway line by using a seismic observation network that surrounds the railway line. In this paper, we discuss the challenges of improving the accuracy of the conventional method, in which a single seismometer in a seismic observation network performs the estimation alone. Next, we will introduce the single and multi–site earthquake estimation method and unit that we were involved in developing to accomplish the task, which integrates the observation information from multiple seismometers using Bayesian statistics. 1.まえがき日本はプレートの密集地帯に位置し地震の多発地域である。世界全体で発生するマグニチュード6.0以上の地震のうち約2割が日本国周辺で発生している⑴。また、分かっているだけでも約2,000の活断層が存在し⑴、地震は日本のどこでも発生する可能性がある(日本各地が大きな揺れに見舞われる確率等の詳細は、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」という)と当社が構築した、全国地震動予測地図⑵のインターネット公開システムである「地震ハザードステーションJSHIS」⑶⑷で公開されている)。日本の鉄道はそのような地震の多発地域を走行するうえ、地震動が大きく増幅*つくば事業部 第四技術部する軟弱地盤である埋立地や湖畔等の沿岸部も走行する必要がある。特に、新幹線は時速200km以上に達する高速鉄道であり脱線した際の被害が大きいため、地震対策は必須となっている。日本の鉄道では地震対策として、構造物の耐震設計や耐震補強、レール転倒防止装置や脱線防止ガードの設置、地盤改良による液状化対策等のハード面での対策が講じられてきたが⑸、それと同時にソフト面では1950年代以降に地震防災システムの導入と改善が進められてきた⑸⑹。地震防災システムの目的は、地震観測網にて地震発生を早期に検知し、沿線が強く揺れるより前に被害を推定し、列車を減速・停止させることである。その際、列車は急ブレーキをかけたとしても止まるまでに長時間(時速270kmで走行するMSS技報・Vol.32 1新幹線では約90秒かかり約4km進む)かかるため、地震発生直後に少しでも早く減速を開始することが重要である。地震防災システムが動作した大地震のケースとしては、2004年新潟県中越地震における上越新幹線と2011 年東北地方太平洋沖地震における東北新幹線の例が挙げられる⑺⑻。特に後者の例では、地震発生時に2本の新幹線が仙台エリアを時速約270kmで走行中だったが、地震防災システムが機能して、地震動による揺れの大きさが運転中止基準値を超過する12~15秒前に非常ブレーキが作動している⑻。なお、地震防災システムは列車停止後に実被害を推定して点検作業や運転再開の意思決定を支援する機能(被害把握機能)も有するが、本稿では主に前者の列車の減速・停止機能を紹介する。東海道新幹線では地震防災システムとして、後述する遠方地震計を利用するテラスや後述する沿線地震計等を利用するシステムが運用されている⑼⑽⑾⑿⒀(これらはシステムとして一体になっているため本稿では一括して「テラス等」という)。テラス等は東海旅客鉄道株式会社によって整備・運用されている。地震発生時のテラス等の処理の概略を図1に示す。遠方地震計は、図2に示すように沿線からある程度離れた位置で沿線を取り囲むように計21か所設置されている。沿線地震計は、同様に東京から大阪までの全沿線に約10km間隔で計50か所設置されている。ここで、同図の橙色の線は在来線の路線であり、参考のため示した。社外地震観測網情報は社外地震観測網情報遠方地震計・・・中継所P波S波・・・・・・図1 テラス等の処理の概略⒁送電停止列車減速・停止沿線地震計沿線処理装置名称(凡例)①遠方地震計②沿線地震計箇所数21 50図2 テラス等を構成する遠方地震計と沿線地震計の配置⒁後述する海底地震観測網からの観測情報及び緊急地震速報を指す。これらの地震観測網で地震波を検知した場合、その情報は転送機能を持つ中継所を介して沿線の各変電所に設置された沿線処理装置と呼ばれる装置に送信される。沿線処理装置で被害が発生すると予想されたときは(被害の発生を予想することを「警報」という)、変電所からの電力供給を停止してその付近を走行中の列車を緊急停止させる。新幹線は電力供給が途絶えると自動的に急ブレーキが作動する仕組みとなっている。なお、本稿では詳細を述べないが、テラス等が観測・収集した情報は在来線の地震防災システムでも利用されている⒂⒃。地震防災を目的としたテラス等のシステム自体は自然災害時にも運用を続けられることが肝要であるため、次に述べるような対策が講じられている。つまり、地震計の地動センサは地震で被災しにくいように台座に固定されている。中継所等の装置は同様のものを地域的に離れた場所に複数設置してあり、1か所が被災しても運用を続けられるようになっている⒁。地震や台風等によって地上の通信回線が断絶した場合に備えて、バックアップ回線に衛星電話を利用している⒂。地震計や中継所は電源が途絶えた場合でも機能を維持できるよう無停電電源装置(UPS)が搭載されている⒂。第2章では、テラス等で従来から用いられている様々な警報手法と、遠方地震計を利用した警報の精度に関する課題を述べる。第3章では、前記課題を達成するために開発したアルゴリズムである統合検知点処理について述べる。第4章では統合検知点処理を実装した統合検知点処理装置の開発とそのテラス等への導入について述べる。なお、鉄道向け地震防災システムを含めこれまでの当社の地震防災分野への取り組みについては過去のMSS技報⒀⒄⒅で紹介している。2.従来の警報手法とその課題本章では、テラス等で従来から用いられている様々な警報手法と、遠方地震計を利用した警報の精度に関する課題を述べる。2.1 テラス等における従来の警報手法従来のテラス等では表1に示すように、ターゲットとする地震の種類に応じて複数の地震観測網と複数の警報手法を組み合わせて警報を出力している⒂⒆。地震観測網のうち沿線地震計は、第1章で述べたテラス等を構成する地震観測網であり、沿線の直下で発生する地震(以下「直下型」という)を主なターゲットと2 MSS技報・Vol.32表1 テラス等がターゲットとする地震の一覧地震観測網警報手法閾値超過(S波)閾値超過(P波)沿線地震計直下型(※)遠方地震計海底地震計緊急地震速報非直下型 海溝型震源推定非直下型(※)全地震している。遠方地震計は、同様にテラス等を構成する地震観測網であり、沿線から離れた位置で発生する地震(以下「非直下型」という)を主なターゲットとしている。海底地震計は、防災科研が日本海溝沿いに整備する日本海溝海底地震津波観測網(S–net)及び南海トラフ沿いに整備する地震・津波観測監視システム(DONET)を指し、それらの海溝付近で発生する地震(以下「海溝型」という)を主なターゲットとしている。緊急地震速報は、地震の発生直後に日本の気象庁が予想して発表する震源位置やマグニチュード等の情報であり、日本付近で発生する全ての地震をターゲットとしている。緊急地震速報が利用する地震観測網は、主に気象庁と防災科研が日本全国に整備する、海底地震計を含めた合計約1,700点(2020年3月24日現在)の地震計で構成される。一方で、警報手法は大きく分類して閾値超過(S波)、閾値超過(P波)及び震源推定の3種類がある。ここで、P波とは地震波のうち初期微動を起こす縦波(伝播速度は約5~7km/s)であり、S波とは主要動を起こす横波(伝播速度は約3~4km/s)である。P波はS波よりも速く進むが振幅は一般的に小さい。以下では、主に表1の(※)印で示した3つの組合せ(沿線地震計による閾値超過(S波)、沿線地震計による閾値超過(P波)及び遠方地震計による震源推定)について詳細を説明する。初めに、沿線地震計による閾値超過(S波)の手法⑿⒂ ⒇の概略図を図3に示す。沿線付近で地震(直下型)が発生した場合(震源を「★」印で示す)、震源に近い沿線地震計が地震波を観測する(①)。その時、観測した地震波のうちS波の振幅があらかじめ設定しておいた閾値を超過した場合(②)に、警報を出力してその沿線地震計P波 S波震源★主にS波列車停止①沿線地震計による地震波観測②S波の閾値超過③列車停止閾値沿線地震計観測地震波近傍を走行する列車を緊急停止させる(③)。ここで、閾値は経験を基に実際に被害が発生すると予想される振幅よりも安全を考慮してある程度小さく設定してある。しかし、閾値超過(S波)では地震の主要動であるS波が沿線に到達してからでないと警報を出力できないため、精度が高い一方で早期性が低い欠点がある。そのため、S波に先行するP波が沿線地震計に到達した段階で警報を出力する閾値超過(P波)の手法⑿⒂㉑㉒が導入されており、その概略図を図4に示す。沿線地震計が地震波を観測し(①)、沿線地震計にP波が到達した段階でP波の振幅があらかじめ設定しておいた閾値を超過した場合(②)に警報を出力して列車を緊急停止させる(③)。その際、観測したP波から後に到達するであろうS波の振幅を予想している。以上のようにすることで、閾値超過(S波)に比べて精度は低いが、沿線が大きく揺れるよりも早期に列車を停止させることが可能となる。たとえ、震源が正確に沿線の直下であったとしても、地下で発生した地震(典型的な内陸地殻内地震では深さ約10km)の地震波が地表に到達する際のP波とS波の時間差(1~2秒程度)を利用することが可能である。ところで、沿線から離れた位置で発生した地震(非直下型)に対しては、沿線地震計に地震波が到達するのを待つよりも震源により近い遠方地震計を利用した方が早期性の点で得策である。そのような目的で、遠方地震計による震源推定の手法㉓が導入されており、その概略図を図5に示す。遠方地震計付近で地震が発生した場合、その遠方地震計が地震波を観測する(①)。次に、遠方地震計はP波初動1秒間の地震波の形状を基にC–Δ法⑼⑿ ⒆㉓と呼ばれる手法で震央距離Δを推定する(②)。また、同時に地震波による地表面の振動方向を基に主成分分析法⒆㉓と呼ばれる手法で震央方位Azを推定する(②)。震央距離Δと震央方位Azが分かれば測地計算を行うことで震央位置を推定することができる(推定された震源を「★」印で示す)。また、震央距離Δと観測した地震波の振幅から距離減衰式と呼ばれる地震波の減衰を表すP波震源S波①沿線地震計による地震波観測予測P波主にS波列車停止閾値②P波の閾値超過③列車停止沿線地震計観測地震波図4 沿線地震計による閾値超過(P波)の概略3図3 沿線地震計による閾値超過(S波)の概略MSS技報・Vol.32③震央位置とマグニチュードから被害範囲を推定(M-Δ法)北推定震源Az ★ Δ ④列車停止列車停止S波P波①遠方地震計による地震波観測②震央距離Δ、震央方位Az、マグニチュードMを推定図5 遠方地震計による震源推定の概略経験式を用いて、地震の規模であるマグニチュードMを推定する(②)。次に、震源位置とマグニチュードMを基にM–Δ法⒇と呼ばれる手法で鉄道構造物に被害が発生する可能性がある範囲を推定する(③)。M–Δ法はマグニチュードMの対数に比例する半径を持つ円の内部を被害範囲(図5では青い円の内側)として推定する手法であり、その半径は過去の地震被害の経験から事前に求めておいたものである。最後に、被害範囲内に警報を出力して走行する列車を緊急停止させる(④)。ここで、遠方地震計には電気的パルスや自動車等による雑振動等で誤って警報が出力されないようにノイズ識別機能が搭載されている。複数の遠方地震計が同一の地震による地震波を観測した場合は、各遠方地震計が個別に上記の処理を行い、いずれかの遠方地震計が被害を推定した範囲に警報を出力する。他の警報手法として、遠方地震計による震源推定の手法では、M–Δ法以外にも日本海溝や南海トラフを震源とする連動型の超巨大地震に対して確実に警報を出力することを目的に特別な配慮を加えた連動型地震警報⒂が利用されている。また、遠方地震計では震源推定よりもより確実に警報を出力する目的で閾値超過の手法⒂㉔も利用されている。なお、沿線地震計ではP波のみ到達した段階での警報手法として震源推定を採用していない。その理由は、沿線では列車通過等のノイズ源が多く、地震動とノイズが重なったときに推定精度が劣化する場合があるからである。そのため、同様にP波段階で利用でき、よりノイズへの耐性が高い閾値超過(P波)の手法が採用されている。社外地震観測網情報については、海溝型地震をターゲットとする海底地震計を利用した閾値超過の手法⑼⑿ ⒆㉕、日本全国全ての地震をターゲットとする緊急地震速報を利用した震源推定の手法⒂⒆㉖が利用されている。1種類の地震に対して上記のように複数の手法を利用する冗長構成としているのは、万が一に備えたバックアップとしての役割、トレードオフの関係にある警報の精度と早期性とを複数の手法で補完しあうこと、を目的としている。2.2 遠方地震計による震源推定の課題遠方地震計による震源推定は前節で説明したように非直下型地震に対して早期に警報を出力できるという利点がある。しかし、震央距離Δを推定するためのC–Δ法や震央方位Azを推定するための主成分分析法には各種ノイズや地殻の不均質性等に起因してある程度の推定誤差が含まれる。特に、後述する図8のシミュレーション結果に見られるように、震央から遠く離れた遠方地震計で推定誤差が大きくなる傾向がある。そのため、推定誤差が招く誤警報を抑制するための推定精度向上が課題となっていた。3.統合検知点処理本章では、第2.2節の最後に述べた遠方地震計による震源推定の精度に関する課題を達成するために開発したアルゴリズムである、統合検知点処理⑿⒁について述べる。統合検知点処理に対して従来の震源推定の方法を単独検知点処理といい、両者の比較の概略図を図6に示す。単独検知点処理では、地震波を観測した遠方地震計ごとに震源推定と警報範囲の推定を行う。そのため、1つでも推定精度が悪い遠方地震計があると誤警報につながるおそれがある。一方の統合検知点処理では、複数の遠方地震計から得られる観測情報を確率統計の手法で組み合わせて1つの震源と警報範囲の推定を行う。図中の「×」印は遠方地震計ごとに推定した震源位置であり、単独検知点処理の場合と同じ位置であるが、統合検知点処理では1つの震源位置「★」に統合される。統合検知点処理は、IPF法㉗と呼ばれる緊急地震速報の内部処理で使われている手法を参考にしているが、テラス等の特性に応じて改良している。例えば、遠方地震計による地震観測網の密度や地震計の数は緊急地震速報の場合に比べて小さいが、テラス等では沿線付近のみを【単独検知点処理】【統合検知点処理】図6 単独検知点処理と統合検知点処理との比較4 MSS技報・Vol.32警報の対象とすればよく、小規模地震で推定誤差が大きかったりノイズで誤推定したとしても、推定された被害範囲が沿線から離れた場所であれば誤警報につながらず許容できる。また、誤警報が発生したとしても第1章で述べた被害把握機能を利用して速やかに運転再開が可能であることを考慮し、トレードオフの関係にある警報の精度と早期性のバランスを調整している。以下では、統合検知点処理の手法の概略とシミュレーションによる効果の検証について述べる。3.1 手法地震が発生した際における一連の統合検知点処理の手順は以下のとおりである。(1) ある遠方地震計が最初の地震波の到達を検知し、統合検知点処理を開始する。(2) (3) 遠方地震計からの新しい観測情報が得られるたびに、逐次精度の良い震源(震源位置とマグニチュード)の推定を行う。観測情報は、いずれかの遠方地震計が観測した地震波の到達時刻、震央距離、震央方位、地震波の振幅のいずれかであり、それぞれ異なるタイミングで得られる場合もある。特に地震波の振幅は時間の経過と共に大きくなるに伴い、逐次新しい観測情報として得られる。地震動の終息を判定し、統合検知点処理を終了する。手順⑵において、観測情報から震源位置を推定する流れの概略図を図7に示す。ここで、震源の位置はベイズ統計的に確率変数として扱う。つまり、震源の位置を確率分布𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽) で表現する。𝜽𝜽𝜽𝜽 は数式⑴に示すように震源の緯度𝜑𝜑𝜑𝜑 、経度𝜆𝜆𝜆𝜆 、深さ𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑 を成分とした3次元ベクトルである。𝜽 𝜽 𝜽 𝜽 =(𝜑𝜑𝜑𝜑,𝜆𝜆𝜆𝜆,𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑𝑑)  ⑴確率分布𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽) の値が大きくなる𝜽𝜽𝜽𝜽 ほど、そこに震源が存在する確率が高い。遠方地震計から観測情報が得られると、まず数式⑵に示すベイズ推定式で条件付き確率分布𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) を求める。統合検知点処理遠方地震計21か所事前確率𝑃 𝑃 𝑃 𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) = ℒ(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫)×𝑃𝑃𝑃𝑃s(𝜽𝜽𝜽𝜽)  ⑵ここで、𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫 はそれまでに全ての遠方地震計が観測した全ての観測情報の集合である。確率分布𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は観測情報𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫 が得られた後の𝜽𝜽𝜽𝜽 の確率分布(事後確率分布)である。𝑃𝑃𝑃𝑃S(𝜽𝜽𝜽𝜽) は観測情報が何も与えられていない状態での𝜽𝜽𝜽𝜽 の確率分布(事前確率分布)であり、過去約90年間に発生した地震の震源分布から事前に求めておいた固定値である。ℒ(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は震源位置𝜽𝜽𝜽𝜽 を変数とする尤度関数であり、震源位置を𝜽𝜽𝜽𝜽 と仮定した場合に観測情報𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫 が得られる確率を表す。尤度関数ℒ(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は数式⑶に示すように、5種類の尤度関数の積で構成される。𝑁 𝑁 𝑁 𝑁 ℒ(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) = ℒ𝜐𝜐𝜐𝜐(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫)×�ℒ𝑑𝑑𝑑𝑑 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) 𝑗 𝑗 𝑗 𝑗=1 𝑁 𝑁 𝑁 𝑁 ×�ℒ𝑎𝑎𝑎𝑎 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) 𝑁 𝑁 𝑁 𝑁 ×�ℒ𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) 𝑗 𝑗 𝑗 𝑗=1 𝑁 𝑁 𝑁 𝑁 ×�ℒ𝑚𝑚𝑚𝑚 𝑗𝑗𝑗𝑗 (𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) 𝑗 𝑗 𝑗 𝑗=1 ×尤度関数・・・観測情報・地震波の到達時刻・震央距離・震央方位・地震波の振幅=ベイズ推定事後確率震源・震源位置MAP推定図7 統合検知点処理による震源位置の推定の概略𝑗 𝑗 𝑗 𝑗=1 ⑶ ℒ𝜐𝜐𝜐𝜐(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) はテリトリ法による尤度関数であり、地震波が遠方地震計に到達した順番が震源位置を𝜽𝜽𝜽𝜽 と仮定することで実現される確率を表す。ℒ𝑑𝑑𝑑𝑑 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は震央距離による尤度関数であり、推定した震央距離が震源位置を𝜽𝜽𝜽𝜽 と仮定することで実現される確率を表す。ここで、𝑗𝑗𝑗𝑗 は1から𝑁𝑁𝑁𝑁=21 までの値をとる遠方地震計の識別番号であり、観測情報が得られている遠方地震計についてそれぞれ尤度関数を計算して掛け合わせる(以降の他の尤度関数でも同様である)。また、震源からの距離が大きくなるに従ってその遠方地震計による震央距離の推定精度が下がることを考慮して尤度への影響が小さくなるように調整している(以降の他の尤度関数でも同様である)。ℒ𝑎𝑎𝑎𝑎 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は震央方位による尤度関数であり、推定した震央方位が震源位置を𝜽𝜽𝜽𝜽 と仮定することで実現される確率を表す。ここで、遠方地震計が180度逆向きに誤推定した場合にもテリトリ法等と組み合わせて正しい方位を推定できるように、180度逆方向にも一定割合の尤度を与えている⒁。ℒ𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は地震波の到達時刻による尤度関数であり、地震波の到達時刻が震源位置を𝜽𝜽𝜽𝜽 と仮定することで実現される確率を表す。その際、震央距離と地震波の理論的な到達時間の関係を表す走時関数㉘を利用している。ℒ𝑚𝑚𝑚𝑚 𝑗𝑗𝑗𝑗(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) は振幅による尤度関数であり、現時点までに観測した地震波の振幅が震源位置を𝜽𝜽𝜽𝜽 と仮定することで実現される確率を表す。その際、遠方地震計までの5 MSS技報・Vol.32震央距離に応じた地震波の減衰を表す経験式である距離減衰式を利用している。震源位置の最終的な推定結果は、数式⑵のベイズ推定式で計算した事後確率𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) が最大となる位置𝜽 𝜽 𝜽 𝜽𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌 とする(最大事後確率推定、MAP推定)。素朴には、MAP推定を行う計算アルゴリズムとして震源位置𝜽 𝜽 𝜽 𝜽 をグリッドに分割して事後確率𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) が最大となる位置を探索するグリッドサーチの方法が採用できそうであるが、𝜽𝜽𝜽𝜽 は3次元であるため計算量が多くリアルタイムな利用には向かない。そこで、震源位置𝜽𝜽𝜽𝜽 の候補を1,000 点程度のサンプル(パーティクル)で代表し、パーティクルを尤度ℒ(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) が大きな場所に逐次移動させることで事後確率𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) が最大となる位置を探索するパーティクルフィルタ法を採用している。パーティクルフィルタ法は、パーティクルの移動にモンテカルロ法を利用することで、事後確率𝑃𝑃𝑃𝑃(𝜽𝜽𝜽𝜽|𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫) をガウス分布等の解析的に計算しやすい関数形に仮定したり、震源位置𝜽𝜽𝜽𝜽 と観測情報𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫𝑫 との間に線形性を仮定したりすることなく高速に計算できる利点がある。また、マグニチュードの推定結果は、単独検知点処理の場合と同様に、推定した震源位置𝜽𝜽𝜽𝜽𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌𝐌 を基に計算した震央距離と観測した地震波の振幅から距離減衰式を用いて求めている。なお、地震波を観測した遠方地震計が震源に最も近い1点のみの段階では、単独検知点処理でも利用可能な震央距離と震央方位の推定結果に統合検知点処理特有のテリトリ法の結果が加わることで、単独検知点処理に比べて早期性を低下させることなく推定精度の向上が可能である。これは、統合検知点処理では地震動の観測情報だけでなく「観測していない事実」も情報として利用できることの効果である。手順⑶においては、列車停止後にいち早く点検作業を開始したり運転を再開したりするため、遠方地震計全体における地震動の揺れの終息を早期にかつ正しく判定するよう考慮している。その他、統合検知点処理には補助機能として、地震同定機能、地震ノイズ再判定機能、縮退運転機能、通信量抑制機能、を有している。地震同定機能は、異なる複数の地震が同時に発生した場合にそれらを誤って同一の地震と扱ってしまうとマグニチュードの過大推定や震源位置の誤推定の原因となるため、観測した地震波がどの地震に対応するのかを同定する機能である㉗。地震ノイズ再判定機能は、遠方地震計単体で地震動を誤ってノイズと誤判定してしまった場合でも、複数の遠方地震計の観測情報を利用して地震と再判定することでノイズ識別の精度を改善する機能である⒁。縮退運転機能は、一部の遠方地震計がメンテナンスや故障等で運用を停止している場合にも残りの遠方地震計で運用を続ける機能である⒁。通信量抑制機能は、テラス等を構成する装置や通信回線が過負荷に陥らないように、数が膨大になり得る震源推定結果のうち必要最小限なもののみを識別して利用する機能である。3.2 シミュレーションによる導入効果の検証第2.2節で挙げた遠方地震計による震源推定の課題が統合検知点処理で達成されたことを確認するため、2007年から2014年までの間に東海道新幹線において警報の出力があった37地震について、統合検知点処理による震源推定のシミュレーションを行った。その際、第4章で後述するシミュレータを利用した。その結果、震央距離が近い地震については緯度経度共に0.1度程度の推定誤差であり、単独検知点処理と比較して警報の精度が向上していることを確認した⒁。特に、遠地で発生したため沿線の揺れが小さくとどまるような大地震において、単独検知点処理では推定誤差が大きくなることがあったが、統合検知点処理では同じ地震に対して推定誤差が縮小することを確認した。例として、2000年10月6日に発生した鳥取県西部地震(マグニチュード7.3、最大震度6強)についてのシミュレーション結果を図8に示す⒁。駿河湾の北側に位置する遠方地震計単独では震源から遠いため震央方位の推定誤差が大きく誤って北向きに推定しているが、統合検知点処理では他のより震央に近い遠方地震計の観測情報を利用して、震央位置をほぼ正確に推定していることがわかる。また、橙色の領域は前述したテリトリ法による尤度が大きな範囲(テリトリ)であり、ある遠方地震計が震源をテリトリの外に誤って推定したとしても、最終的な震源の推定位置への悪影響を小さく抑えられることが確認できる。★:実際の震源☆:本手法による推定震源×:遠方地震計単独の推定震源★図8 統合検知点処理のシミュレーション事例⒁ 6 MSS技報・Vol.324.統合検知点処理装置本章では、統合検知点処理を実装した統合検知点処理装置の開発とそのテラス等への導入について述べる。開発は図9に示す工程で行った。初めに、第3章で述べた統合検知点処理のアルゴリズムを記載した「処理手順仕様書」を作成した。次に、「処理手順仕様書」が規定する処理をパッケージ化したSWライブラリである「機能モジュール」を作成した。その際、「機能モジュール」のAPI(Application Programming Interface)等は「ライブラリ仕様書」を作成して規定した。最後に、同一の「機能モジュール」を組込んだ「シミュレータ」及び「統合検知点処理装置」を開発した。シミュレータは統合検知点処理に関するパラメータの調整や性能の検証等に利用するものである。機能モジュールを作成した目的は、統合検知点処理に関わる機能の開発とそれ以外の機能の開発を分離して作業分担の効率化を図る、統合検知点処理装置とそのシミュレータとの計算結果の整合性を確保する、今後の同様なシステム開発においても再利用可能とすることで開発効率の向上を図る、ためである。また、統合検知点処理装置をテラス等に組み込むにあたり、統合検知点処理による改善効果をできる限り引き出すため、既設のテラス等自体の改良もあわせて実施した。処理手順仕様書実装機能モジュール(SWライブラリ)利用ライブラリ仕様書実装利用シミュレータ統合検知点処理装置図9 統合検知点処理装置の開発工程4.1 装置の開発統合検知点処理装置⑿⒁は、汎用計算機上に統合検知点処理を実装したものであり、遠方地震計からの観測情報を基に震源の位置とマグニチュードを推定する。本節では、統合検知点処理装置の開発において、外部設計と内部設計で重視した点、ハードウェアの選定で特に重視した点を述べる。外部設計では、ネットワーク負荷を考慮したインタフェース設計を重視した。統合検知点処理装置は、遠方地震計の観測情報を漏れなく集約して遅滞なく推定処理を実施する必要がある。したがって、統合検知点処理装置と遠方地震計間の通信インタフェース仕様には、通信データの信頼性と即時性の両方が求められる。通信データの信頼性の点では通信プロトコルにUDPではなくTCPを用いることとし、即時性の点では通信データサイズの最適化と第4.2節に後述する通信回線の変更を行った。内部設計では、処理の並列化等のアルゴリズムの最適化を重視した。統合検知点処理は、多数の遠方地震計から非同期的に送信される観測情報をリアルタイムに処理することが求められる。そのため、遠方地震計ごとの通信は、非同期かつ並列に処理するように設計し、また最も負荷のかかる統合検知点処理の演算は他の処理に影響しないように独立したプロセスで動作するように設計した。ハードウェアの選定では、前記リアルタイム処理を実現できることを重視した。そのため、CPUに高クロックのマルチコアCPUを採用するとともに、演算処理に関連するファイルのInput/Outputスループットを向上させるため補助記憶装置にSolid State Drive(SSD)を採用した。また、サーバの部品が故障した時も処理を継続できるようにするため、冗長性を考慮した部品構成とした。4.2 テラス等への導入テラス等に対して、統合検知点処理装置を導入したシステム構成図を図10に示す。統合検知点処理装置は既設の中継所内に設置した。また、観測情報を受信するため遠方地震計と、推定結果を送信するため沿線処理装置と通信回線で接続した。・・・・・・遠方地震計統合検知点処理装置(中継所内)・・・沿線処理装置・・・・・・・・・光回線図10 統合検知点処理装置等のシステム構成⒁ 7 MSS技報・Vol.32導入するにあたっては特に次の対策を講じた。1点目は、地域的に離れた複数の中継所内に同様の統合検知点処理装置を設置する構成としたことである。これは、自然災害等による装置の破損や、電力喪失による停止等のリスクに備えてDR(Disaster Recovery)対応を行うためである。2点目は、従来の銅線を用いた回線(デジタル専用線、アナログ専用線)から光ファイバーを用いた回線(閉域VPN)に変更したことである。これは、中継所からの距離が区々な遠方地震計の観測情報を統合検知点処理装置に集約して演算する都合上、回線の伝送速度や伝送遅延のばらつきを低減し、統合検知点処理装置による推定の速度と精度に悪影響を及ぼさないようにするためである。3点目は、第3.1節の最後に述べた縮退運転機能を実現するため、遠方地震計故障時にテラス等の設定を自動的に変更するようにしたことである⒁。テラス等は常時稼働を前提に設計されているが、自然災害による停電や通信回線の切断、構成部品の故障等の不測の事態により、遠方地震計の観測情報が統合検知点処理装置に届かなくなる障害事象の発生が予想される。そのような場合に統合検知点処理装置が障害事象を検知できないと、地震動を「観測していない事実」も情報として利用する統合検知点処理が適切に動作しないリスクがある。このリスクに対処するため、統合検知点処理装置は、遠方地震計の状態を定期的に確認し、障害の有無を自動的に検知して、正常な遠方地震計のみで統合検知点処理を行う機能を実装している。4.3 稼働実績統合検知点処理装置の運用を開始した2020年9月末から2021年1月までに発生した5地震において、従来の単独検知点処理と比べて震源の推定精度が向上していることを確認した⒁。5.むすび本稿では、地震の多発地域である日本で運行される鉄道におけるソフト面での地震対策として地震防災システムを紹介した。その目的の1つは、地震発生を早期に検知し、沿線が強く揺れるより前に被害を推定し、列車を減速・停止させることである。次に、地震防災システムの例として、東海道新幹線で運用されているテラス等のシステム構成と従来の警報手法を紹介し、遠方地震計を利用した手法における震源の推定精度を向上する課題を挙げた。最後に、その課題を達成するために開発した統合検知点処理と統合検知点処理装置を紹介した。今後は、第4.3節で述べた稼働実績の更なる蓄積を行い、効果の検証や課題の分析を進めていきたい。また、今回は震源推定の次の処理段階である被害推定に利用されているM–Δ法には手を加えなかったが、よりきめ細やかな警報範囲の特定のため、地域的な表層地盤の違いによる地震波の増幅特性の違いを考慮可能な距離減衰式を用いた手法㉔㉙㉚の検討も今後の課題である。これらの課題を念頭に、当社は今後も地震防災システムの更なる発展と鉄道の安全・安定輸送の確保に貢献できるよう努める所存である。最後に、統合検知点処理装置の開発にあたり、処理手順やシステム仕様の検討等についてご指導・ご助言いただいた東海旅客鉄道株式会社、ジェイアール東海コンサルタンツ株式会社、ジェイアール東海情報システム株式会社、株式会社ANETの関係者様に感謝いたします。参考文献(1) 内閣府:平成25年版防災白書(2013)(2) 地震調査研究推進本部:全国地震動予測地図2020年版(3) 早川 俊彦,高橋 真理,成田 章:地震ハザードステーションJ–SHISの構築,MSS技報,23(2013) https://www.mss.co.jp/technology/report/pdf/23-04.pdf (4) 藤原 広行,森川 信之,河合 伸一,青井 真,先名 重樹,前田 宜浩,東 宏樹,はお 憲生,岩城 麻子,若松 加寿江,井元 政二郎,長谷川 信介,奥村 俊彦,早川 俊彦,高橋 真理:東日本大震災を踏まえた地震動ハザード評価の改良,防災科学技術研究所研究資料,No.399(2015)(5) 久保村 圭助,菅原 操,仁杉 巌(監修):鉄道を巨大地震から守る―兵庫県南部地震をふりかえって,山海堂(2000)(6) 山中 浩明,武村 雅之,岩田 知孝,香川 敬生,佐藤 俊明:地震の揺れを科学する―みえてきた強震動の姿,東京大学出版会(2006)(7) 国土交通省 航空・鉄道事故調査委員会:鉄道事故調査報告書(RA2007–8–I) 東日本旅客鉄道株式会社 上越新幹線浦佐駅~長岡駅間 列車脱線事故(2007)(8) 東日本旅客鉄道株式会社:東日本大震災の被害状況と復旧・復興に向けた取り組み,JR東日本グループ社会環境報告書,8(2011)(9) 下鳥 桂,庄司 朋宏,新海 英昌:東海道新幹線における地震防災システムの取替・機能向上について,土木学会第73回年次学術講演会概要集,VI–807(2018)(10) 他谷 周一:東海道新幹線地震防災システムについ8 MSS技報・Vol.32て,情報処理学会研究報告,2007,No.86(2007MPS–66),87 ~90(2007)(11) 他谷 周一:東海道新幹線の地震防災システム,土木技術,69,No.9,28~34(2014)(12) 西山 裕之,松岡 亮介:東海道新幹線地震防災システムの機能強化,日本鉄道施設協会誌,59,No.7,546 ~547(2021)(13) 渡辺 篤,本間 芳則,大庭 健太郎,奥冨 剛史:新幹線地震防災システムの開発,MSS技報,19(2008)(14) 児玉 聡,西山 裕之,松岡 亮介:東海道新幹線早期地震警報システムにおける統合検知点処理手法の導入,土木学会第76回年次学術講演会概要集,IV–88(2021)(15) 東海旅客鉄道株式会社:東海道新幹線 地震防災システムの機能強化について,報道発表資料(2012年4月23日)(16) 東海旅客鉄道株式会社:地震防災システムの機能強化等について,報道発表資料(2017年3月2日)(17) 古瀬 慶博,成田 章,和田 安司:地震防災分野への取り組み,MSS技報,20(2009)https://www.mss.co.jp/technology/report/pdf/20-04.pdf (18) 古瀬 慶博,成田 章,和田 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俊六:利用目的に応じた地震動指標の距離減衰式を作成するための一般化手法の提案,土木学会第66回年次学術講演会概要集,I–482(2011)執筆者紹介下野 五月2005 年入社。つくば事業部第四技術部所属、技術士(応用理学部門)。主として鉄道事業者を対象とした地震防災分野に携わる。奥冨 剛史2004 年入社。つくば事業部第四技術部所属。主として鉄道事業者を対象とした地震防災分野に携わる。安孫子 一敏2010 年入社。つくば事業部第四技術部所属。主として鉄道事業者を対象とした地震防災分野に携わる。