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Category:防災・環境システム

もし、自動運転車が被災したら…– 準天頂衛星を活用した自動運転バスへの防災情報提供実験結果

将来の自動運転社会において、公共交通機関に自動運転車を導入していくためには、地震等の災害発生時にも乗客に安全・安心を提供する防災機能を具備しておくことが重要である。三菱スペース・ソフトウエア株式会社(MSS)は、準天頂衛星みちびきを活用し、地震災害発生時に自動運転車の安全・安心を確保することを目的とした「走行車両緊急停止システム」及び「リアルタイム危険度通知システム」の2つのシステムを構築。それらの有効性を確認するための実証実験を行った。本稿では、2020年2月に実施した実証実験の結果を報告する。

もし、自動運転車が被災したら…– 準天頂衛星を活用した自動運転バスへの防災情報提供実験結果[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の防災・環境システムソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • 防災・環境システムソリューションは、つくば事業所が提供しています。
もし、自動運転車が被災したら…– 準天頂衛星を活用した自動運転バスへの防災情報提供実験結果Demonstration experiment of disaster information provision function for autonomous buses using QZSS江村 尚紀* 西野 哉誉** 渡辺 勇武**Hisanori Emura, Toshitaka Nishino, Tsuyoshi Watanabe将来の自動運転社会において、公共交通機関に自動運転車を導入していくためには、地震等の災害発生時にも乗客に安全・安心を提供する防災機能を具備しておくことが重要である。三菱スペース・ソフトウエア株式会社(MSS)は、準天頂衛星みちびきを活用し、地震災害発生時に自動運転車の安全・安心を確保することを目的とした「走行車両緊急停止システム」及び「リアルタイム危険度通知システム」の2つのシステムを構築。それらの有効性を確認するための実証実験を行った。本稿では、2020年2月に実施した実証実験の結果を報告する。In order to introduce autonomous driving vehicles to public transportation in the future society, it is important to implement a disaster prevention function that provides safety and security to passengers even in the event of a disaster such as an earthquake. Mitsubishi Space Software Co., Ltd. (MSS) has constructed two systems, a “emergency brake system” and a “real–time hazard alert notification system” using QZSS(Quasi–Zenith Satellite System) for the purpose of ensuring the safety and security of autonomous vehicles in the event of an earthquake disaster. Then, a demonstration experiment was conducted to confirm their effectiveness. In this paper, we report the results and consideration of this demonstration experiment conducted in February 2020. 1.まえがき我が国が目指すべき未来社会の姿として、科学技術基本計画(2016~2020年度)⑴において「Society 5.0」という概念が提唱されており、その中でも「移動革命(自動走行)」の実現に向けた取り組みが注目を集めている。また、自動運転を始めとした次世代モビリティ関連産業の規模は2016年から2030年にかけて約50倍に進展するとの目算もなされており⑵、近い将来、自動運転車が走り回る「自動運転社会」の訪れが予想されている。一方、公共交通などでも自動化・無人化が進んでくると、(ドライバレスであるが故に)災害発生時における自動運転車両の振る舞いが課題となることが想定される。特に、大規模地震などの即時性が求められる災害が発生した場合には、乗客の安全・安心を確保する防災機能を具備しておくことが重要となる。MSSは、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が主催する“ みちびきを利用した実証実験⑶”の枠組みのもと、地震災害発生時に、自動運転車両を緊急停止させるための*つくば事業部 事業推進室 **つくば事業部 第四技術部システムと、被災した乗客に必要な情報を提供するシステムを構築した。さらに、その有効性を確認するため、埼玉県川口市が実施した自動運転バス走行実証実験と連携し、実際に自動運転バスを用いた実証実験を行った。本稿では、2020年2月に実施した本実証実験の結果と、実験を通じて得られた知見及び今後の方向性について報告する。図1 実験用自動運転バスMSS技報・Vol.31 12.自動運転に必要な防災機能とは走行する車両が大規模な地震に被災した際には、ハンドルがとられる等を要因とする事故を避けるため、迅速かつ安全に車両を減速・停止させることが重要とされている⑷。しかし、車両が走行中に発生した地震を瞬間的に認識することの難しさも指摘されており、自動運転車が自ら地震を検知することの技術的ハードルは高い⑸。また、地震発生に伴い車両を停止させた後は、停止した位置に応じて避難の要否を早急に判断し、乗客の安全・安心を確保することが重要となるが⑹、地震だけでなく津波や土砂崩れ、液状化などが複合的に発生した場合(マルチハザード)に、車両移動先の現場で必要な情報を収集し、適切な判断を下すことは容易ではない。MSSでは、保有する宇宙関連技術(衛星測位データのリアルタイム処理技術)と防災関連技術(緊急地震情報配信サービスMJ@lert⑺及びGISデータ処理技術)を掛け合わせることで、地震発生時の自動運転車両に求められる上記課題に対応する2つのシステムを、川口市及びBOLDLY株式会社の協力を得て構築した。2.1 走行車両緊急停止システム構築したシステムの1つは、「走行車両緊急停止システム」である(図2)。(1) システム概要地震発生時に気象庁から発表される高度利用者向け緊急地震速報をトリガとし、「移動体向け地震予測システム」にて、車両位置における地盤特性情報(増幅率など)を用いて到達する際の震度や到達時刻を即時に予測する。予測結果は自動運転バスの制御センターにリアルタイムで提供され、車両位置での揺れの大きさが事前に地震発生発生気象庁地盤情報車両位置震度、到達時刻算出準天頂衛星(みちびき)など緊急地震速報(高度利用者向け)位置情報制御センタ移動体向け地震予測システム車両位置の震度・到達時刻予測結果自動運転バス警告地震到達前の緊急停止※緊急地震速報受信緊急地震速報受信停車します8秒後 震度6弱走行車両緊急停止システム※:車両が震源地に近い場合など、緊急地震速報の情報が間に合わない場合があります設定した閾値を超えていた場合は、バスの運行管理システム(Dispatcher⑻:BOLDLY株式会社が担当)を通じて、地震の主要動が到達する前を目標に、バスの緊急減速・停止が自動的に行われる。(2) 即時かつ的確にバスを停止走行車両緊急停止システムでは、準天頂衛星みちびきを始めとする衛星測位を利用することでバスの位置を常に正確に把握するとともに、クラウド上のAPI(Application Programming Interface)を通じてリアルタイムに各機能で共有している。時々刻々と移動するバス位置をタイムリーに把握し、地震発生時にはしかるべき地盤情報を基に揺れの大きさを算出することで、即時性と的確性の両立を追求したシステムとなっている。2.2 リアルタイム危険度通知システムもう1つのシステムは、「リアルタイム危険度通知システム」である(図3)。(1) システム概要準天頂衛星みちびきからは、災害・危機管理通報(災危通報)と呼ばれる気象警報や地震・津波警報、それぞれの対象エリアなど、災害に関連する様々な情報が配信されている。リアルタイム危険度通知システムでは、この災危通報に含まれる災害の種類やエリアの情報と、あらかじめ登録されている走行経路のハザードマップ、そして車両の正確な現在位置とを照らし合わせ、その場所の危険度(災害リスク)を判定し、表示する。また、衛星測位による位置情報を用いて、事前に登録された近隣の避難所などの避難支援情報も表示される。(2) “ その時、その場所で”必要な情報を提供ハザードマップには、地震、津波、洪水や土砂災害など様々な種類が存在しており、同じ場所でも災害によって準天頂衛星(みちびき)GNSS受信端末位置情報災危通報車両位置から抽出したハザード各種ハザードマップから抽出したハザード情報データベース災害発生情報※リアルタイム危険度算出システム車載表示装置(タブレット端末など)災害危険度情報危険度算出最寄避難所今、その場所の危険度表示(イメージ(イメージ)イメージ)リアルタイム危険度通知システム※:今回の実証実験では、川口市防災課様より情報をご提供いただきました。図3 リアルタイム危険度通知システムの構成2図2 走行車両緊急停止システムの構成MSS技報・Vol.31リスクの有無は異なる。リアルタイム危険度通知システムでは、災危通報内の災害種別情報をトリガとして、“ 今見るべき”ハザードマップを自動的に表示し、現在の車両位置における適切な危険度が算出される。情報が錯綜しやすい複合災害(地震及び津波のような複数の災害が同時複合的に発生)時には、各ハザードの横通し評価を行い、被災した乗客が判断に戸惑うことがないよう工夫がなされている。また、災害情報も車両位置情報も、地上のインフラに頼らず衛星データのみを使って取得できることから、万一、地上の通信が途絶してしまった場合でも支障なく継続利用できる、災害に強いシステムであることも特徴である。3.実証実験を通じた検証前章で示した2つのシステムの有効性を確認するため、“みちびきを利用した実証実験”の枠組みに基づき、埼玉県川口市SKIPシティにて実証実験を行った。3.1 実験シナリオ(1) 実験シナリオの概要実証実験では、2章の各システムを実装した自動運転バスが、相模トラフ内(北緯35.4度,東経139.9度 深さ10㎞)を震源としたマグニチュード7.3の地震に罹災するシナリオとした。実験のタイミングで、相当する緊急地震速報(模擬)及びみちびきからの災危通報(訓練・試験データ)を配信いただき、実時間、実信号インタフェースで各機能を検証する。また、実証実験は、将来の社会実装時の課題を抽出する観点から、乗客(今回は実験評価者)を搭乗させて実施した。(2) 実験シナリオの流れ実証実験の大まかな流れ(実験時のバスの動きとイベ実験実施場所(川口市)20km震源60km 40km ※相模トラフでは、地震調査研究推進本部事務局(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)発表においてM7級(M6.7~M7.3)地震が30年以内に70%の確率で発生するとされる図4 震源設定学館川口市立科学館バス停ラザ彩の国ビジュアルプラザ3 2 1 4 5 6,7 8川口市立高校(避難所)図5 実験時のバスの動きとイベントント)は、以下のとおりである。<走行車両緊急停止システム実証:図5①~⑤>① SKIPシティの仮設バス停から、自動運転バスが出発した直後、模擬地震(震源設定:図4)が発生(主要動の理論到達時刻は約15秒後、理論震度5強~6弱)② バス走行中に緊急地震速報(模擬)発報③ 緊急地震速報をトリガに、位置情報と地盤情報を用いて、バス位置ピンポイントでの震度と到達時刻を「移動体向け地震予測システム」で予測④ 震度、到達時刻などの地震情報を、運行管理システムを通じて配信⑤ バス内のモニタに緊急停止情報を表示するとともに、バスを緊急減速・停止<リアルタイム危険度通知システム実証:図5⑥~⑧>⑥ みちびきの災危通報(訓練・試験データ)を受信⑦ 停車した場所が災危通報とハザードマップに照らして危険地域かどうかを判定し、周辺の危険度を「リアルタイム危険度通知システム」の画面に表示⑧ バス周辺の避難所を表示し、乗客が画面上の避難所を選択した際に特性情報を「リアルタイム危険度通知システム」から提供みちびきからの災危通報(訓練・試験データ)の発報タイミングは、あらかじめ決められた時刻に設定されていたため、バスの発車は、災危通報の発報タイミングに合わせて実験を行うこととした。3.2 実証実験の結果と考察3.2.1 走行車両緊急停止システムの実験結果(1) 実験結果概要典型的な実験結果(車両速度の時系列データとイベントタイミング)を図6に示す。2020年2月25日から28日までの4日間にわたり計20回3 MSS技報・Vol.31[km/h] 15車両速度10 5 0 14:44:50 14:44:55 14:44:55地震発災EEW 14:45:00発車加速図6 走行車両緊急停止システムの実験結果例以上の実験が行われたが、全ての実験で正常にシステムが作動し、主要動(S波)の想定到達時刻前に自動運転バスを安全に減速・停止できていることが確認できた。実験時のログデータ評価結果からは、「移動体向け地震予測システム」による車両位置での震度及び到達時刻の予測は、全て0.01秒以下の極めて短時間で算出されており、処理結果としても問題ないことが確認されている。現実に発生する地震は、場所も規模も様々であり、本結果が一概に適用できるわけではないものの、今後発生が予想されている相模トラフや南海トラフなどの大規模な地震に対し、本システムの実現性と有効性が一定程度確認できたと考える。(2) 実験を通じて得られた知見等また、実験中に取得していたログデータの事後分析評価から、今後の更なる改善につながる知見を得ることもできた。ログデータによると“バス位置での震度や地震到達時刻を演算する処理”や、“送信データを形成する処理”は、極めて短時間で実行されている一方、“運行管理システムとの信号インタフェース処理”において若干の遅延時間が発生していることが確認された。この遅延時間の要因について更なるデータ分析を進めた結果、システム間でやり取りする信号に重複(=並列処理)が発生した時間と処理遅延時間との間に強い相関関係がみられることが判明した(図7)。つまり、データ遅延は信号重複による処理の並列化が要因であり、並列主要動14:45:05 [ [模擬模擬] EEW EEW 14:45:10 14:45:10 14:45:10到達到達警告緊急地震速報受信停車します8秒後 震度6弱[時刻]制御速度で巡行車両が停止信号受信車両位置地盤情報移動体向け地震予測システム震度、到達時刻算出EEWを受信、即時演算緊急停止完了0.01秒以下の極めて短時間にて演算できることを確認[秒] 5.0 5.0 ↑遅延時間4.0 4.0 3.0 3.0 2.0 2.0 1.0 1.0 ← 緊急地震速報の処理が重複 → ※EEW:緊急地震速報← 処理の重複はない →(左側ほど重複時間が長い)0.0 0.0 0.0 1.0[余裕時間]図7 処理重複時間と遅延時間の関係分布[秒] 2.0処理を回避する措置を行えば遅延時間を短縮できる可能性が高いと考えられる。並列処理が発生しないようなデータインタフェースとすることは、「移動体向け地震予測システム」の出力データを工夫することで実現できる。ログデータの分析結果は、この工夫により、システムの迅速性を更に向上させられる見込みがあることを示している。3.2.2 リアルタイム危険度通知システムの実験結果(1) 実験結果概要今回の実証実験では、みちびきから「地震」「津波」の災危通報が配信されたが、危険度通知システムでは、これらの災害種別に応じた適切なハザードマップ(地盤の揺れやすさ、建物倒壊被害予測、液状化マップ)を参照4 MSS技報・Vol.31し、危険度を算出していることが確認できた。また、SKIP シティ以外の場所(鳩ヶ谷駅付近、芝川付近等)では、その場所に応じた危険度がタイムリーに表示されることも確認されており(図8)、地上の通信インフラに頼らず“その時その場所で”必要な情報を提供できるシステムとしての実現性が実証された。その他、避難所情報の表示、操作性についても問題はなく、実験を体験いただいた参加者からもおおむね好評を得ている(図9)。(2) 実験を通じて得られた知見等今回の実証シナリオ、実験環境に限って評価すると、全く問題のない実験結果であったが、リアルタイム危険度通知システムの「実用化」に向けては課題もある。まず、SKIPシティ以外の場所では、災危通報の受信状況が良くない、又は受信できない場所や時間帯があることがログデータから判明している。今回の実証実験では、アンテナと受信機が一体となった端末(QZ1)を用いたため、搭載性の観点からバスの側面に端末を設置して実験を行った。図10右側図のように、みちびきの配置が特定の方向に偏る時間帯もあるため、アンテナ搭載面側からみちびきがとらえられない時間帯などに、受信状況が悪化したものと考えられる。図8 自動運転バスの位置と算出された危険度の関係図10 みちびき配置状況(「GNSS View⑼」による表示)[左2/25 14:15 JST、右16:15 JST]災危通報は継続的に配信されるため、短時間の不通であればリカバリ可能だが、避難判断の遅れや誤りにつながる可能性がある。そのため、実用化にあたっては、みちびきの配置によらず受信状況を安定させるためにも受信アンテナをバス上部に設置することが望ましい。また、今回の実証実験では、最新のハザード情報(GISデータ)を川口市からご提供いただくことができた。本システムで有意な危険度を算出するためには、バス路線エリアのハザード情報が十分に整備、更新されていることが重要であり、実用化及び利用拡大のためにも、今回のようにハザードデータの整備、公開及び共有の取り組みが広がっていくことが望まれる。4.「本当に」自動運転バスが被災したら…今回の実証実験は、川口市の近未来技術等社会実装事業102019年度実証実験と連携し、車両や走行ルート等を共用させていただいた。川口市の実証実験は、自動運転バスの実証走行による課題整理と対応策の検討、社会受容性の評価等が目的とされており、公道を含めて自動運転バスを走行させていた(介在可能なようにドライバーは搭乗するが、自動運転モードで走行させる)。図9 危険度及び避難所表示画面の様子図11 自動運転バス走行の様子(参考)5 MSS技報・Vol.31一方、今回の2つの地震防災機能の実証実験は、“安全に停止させる”“必要な情報を提供する”という機能の実現性検証を主目的としていることもあり、SKIPシティの敷地内という限定的な閉鎖環境で実施している。そのため、「技術的実現性」の観点では十分な検証結果が得られたものの、公道利用を含め「社会実装」された自動運転バスに適用していくためには、まだまだ越えなければならないハードルが残っている。(1) 越えるべき課題1つは他交通への影響である。飛び出しなどに対応するため、自動運転バスの機能としての緊急停止は既に実装されているものの、被災時にリモートからの信号を使って緊急停止を行うにあたっては、追突回避のための後続車両への情報提供(サイネージなど)や、乗客・交通への影響などを考慮した停止方法の工夫が必要である。また、停止することが適当でない場所の判断も必要となる。交差点や踏切内など、そもそもバスを停めてはいけない場所かどうかを判断するプロセスや、公道の走行車線で緊急停止する場合は左側路肩に寄せてから停止させる、といった対応も必要になってくる。(2) 社会実装に向けて今後は、これら社会実装に向けて必要となる検討事項を一歩ずつクリアしていくことが必要である。走行車両緊急停止システムについては、停止までの猶予時間をできる限り確保することが、追突防止の観点や停止禁止域を避ける観点からも望ましい。また、正確な位置情報を確実に取得するという観点からは、リアルタイム危険度通知システムで取得する高精度位置情報や危険度情報を活用することも視野に入ってくる。自動運転バスの2つの地震防災機能を実用化していくためには、このような改善を繰り返し、社会受容性の醸成を図ることが重要となってくるであろう。「本当に」自動運転バスが被災した場合にも乗客に安全・安心を提供すべく、今回の実証で得られた知見を活用し、これらのハードルを一つ一つ越えていく活動を継続していく所存である。5.むすび自動運転バスの地震防災機能として、みちびきから配信される測位信号や災危通報を活用した「走行車両緊急停止システム」、「リアルタイム危険度通知システム」の2つのシステムを構築し、実証実験を行った。実験の結果、これら2つのシステムの各機能について、技術検証と有効性の確認がなされ、実用化に向けて有用なベースラインデータが得られたと言える。今後は、2つの地震防災機能の実用化を進めることで、将来の自動運転社会において、より安全・安心なモビリティシステムの提供に貢献できれば幸いである。最後に、今回の実証事業を通じて多くのアドバイスを頂いた内閣府宇宙開発戦略推進事務局準天頂衛星システム戦略室のご関係者、また実証実験の実施にあたりご協力を頂いた川口市都市計画部都市交通対策室、危機管理部防災課、及びBOLDLY株式会社のご関係者、並びに本実証実験を支えていただいた全ての皆様に、深く感謝申し上げます。参考文献(1) 内閣府:科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)(2) 経済産業省:IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会 中間整理(2018年10月)(3) 内閣府 みちびき(準天頂衛星システム)HP:2019年度 みちびきを利用した実証実験公募https://qzss.go.jp/overview/information/ applidemo_191024.html (4) 国土交通省自動車局:自動運転車の安全技術ガイドライン(2018年9月)(5) 山之内 宏安,山崎 文雄:運転シミュレータを用いた地震時の走行安定性に関する検討,第25回地震工学研究発表会講演論文集,1049~1052(1999)(6) 総務省消防庁:防災マニュアル-震災対策啓発資料(2018 年8月改訂)(7) 三菱スペース・ソフトウエア株式会社:高度利用者向け緊急地震情報配信サービス MJ@lert https://www.mss.co.jp/product/mjalert.html (8) BOLDLY株式会社:自動運転車両運行プラットフォーム Dispatcher https://www.softbank.jp/drive/service/dispatcher (9) 内閣府 みちびき(準天頂衛星システム)HP:GNSS View https://qzss.go.jp/technical/gnssview/index.html (10) 川口市HP:近未来技術等社会実装事業についてhttps://www.city.kawaguchi.lg.jp/soshiki/01130/030/ 29781.html執筆者紹介江村 尚紀2000 年入社。つくば事業部事業推進室所属、技術士(航空・宇宙部門)。入社以来、衛星システムの設計、開発及び提案活動に従事。2019年から現職。6 MSS技報・Vol.31西野 哉誉1997 年入社。つくば事業部第四技術部所属。緊急地震情報配信サービスMJ@lertの運営、鉄道事業者を対象とした地震防災分野に従事。渡辺 勇武2014 年入社。つくば事業部第四技術部所属。主に防災分野におけるGISシステムの設計、開発に従事。