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Category:レーダー関連

粒子線用線量計算エンジンの開発

粒子線用線量計算エンジンの開発

近年、数ある放射線治療の中でも、その治療効果の高さなどから「粒子線がん治療」に対する関心が高い。粒子線治療を実施するにあたって、がん細胞を確実に狙う照射が実施できるよう、照射条件などを決める治療計画を立てるのが治療計画システムであり、粒子線照射時にどのような線量分布が得られるかを予想する三次元シミュレーション計算をする。当社では、粒子線治療装置の国内トップメーカーである三菱電機株式会社の下で、独立行政法人放射線医学総合研究所(以下、放医研)の支援を得て、医療支援分野において行ってきた製品開発での経験も踏まえて、前記のシミュレーション計算ソフトウエア(線量計算エンジンと呼ぶ)の開発の実務を担当した。本報告では、本ソフトウエアの技術的概要について紹介する。

粒子線用線量計算エンジンの開発[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する防衛システム事業のレーダー関連ソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • レーダー関連ソリューションは、通信機事業所が提供しています。
MSS技報・Vol.21 36技術論文*関西事業部 第四技術部
粒子線用線量計算エンジンの開発
The Development of Dose Calculation Engine for A Particle Therapy山本 啓二* 足立 和子* Keiji Yamamoto, Kazuko Adachi
近年、数ある放射線治療の中でも、その治療効果の高さなどから「粒子線がん治療」に対する関心が高い。粒子線治療を実施するにあたって、がん細胞を確実に狙う照射が実施できるよう、照射条件などを決める治療計画を立てるのが治療計画システムであり、粒子線照射時にどのような線量分布が得られるかを予想する三次元シミュレーション計算をする。当社では、粒子線治療装置の国内トップメーカである三菱電機株式会社の下で、独立行政法人放射線医学総合研究所(以下、放医研)の支援を得て、医療支援分野において行ってきた製品開発での経験も踏まえて、前記のシミュレーション計算ソフトウェア(線量計算エンジンと呼ぶ)の開発の実務を担当した。本報告では、本ソフトウェアの技術的概要について紹介する。
 Recently, "A Particle Therapy" is highly concerned because of therapeutic gains among variousradiotherapy methods. "A particle beam treatment planning system" is a system to plan a medicaltreatment program that decides the device conditions aiming to irradiate the cancer cells surely. Inthis system, a dose distribution is simulated by three dimensional calculation. We won the supportof National Institute of Radiological Sciences(NIRS), and took charge of the development of theabove-mentioned simulation software(dose calculation engine)under Mitsubishi ElectricCorporation(MELCO), that is a domestic leading company of the particle therapy plant. Thisreport introduces a technical outline of this simulation software.
1.まえがき
1.1 粒子線がん治療の推進 厚生労働省の人口動態統計(2009年)によると、日本国内の年間死亡者数のうち、がんによる死亡者数はほぼ3人に1人である。がんに対する治療方法のうち放射線治療は、手術や抗がん剤などの治療と比べると副作用が小さく、また通院で治療できるなど患者のQOL(Qualityof Life)を確保する上でメリットがあると言われている。日本での放射線治療を受けるがん患者数は、全がん患者の約25%にのぼり、10年前と比べ倍増して、今後ますます増えると予想されている。既に、欧米ではがん患者の約6割が放射線治療を受けている(1)。 放射線治療にも様々な治療手法があるが、がんに対する線量集中性の高さから(図1)、「粒子線がん治療(陽子線、炭素線)」に対する関心が高まりその普及が望まれており、日本でも各地で治療専用施設建設が進みつつある。しかし、特に炭素線の場合、従来は大型の加速器が必要となるなど建設費・維持費が非常に高いのが難点であった。放医研では、世界初の医療専用機(HIMACと呼ばれている)による重粒子線がん治療開始以来、重粒子線がん治療(炭素線のことを、特に重粒子線と称す 放射線患者体内 (直径10cm)がん1008060402000 5 10 15 20深さ(cm)線量比(%)25 30 35 40X線炭素線粒子線は、“がん”の深さと大きさに最適な線量を照射できるので、がん以外の正常細胞への影響が小さい図1 粒子線がん治療の原理37技術論文(線量分布と呼ぶ)をシミュレーション計算するソフトウェアである線量計算エンジンが搭載されており、小型普及型治療装置の仕様に準拠したものとなっている。当社は、主として線量計算エンジンの開発に従事することで、粒子線治療に貢献している。2.ソフトウェアの概要と特徴 ここでは、線量計算エンジン(以下、本ソフトウェア)の概要とその特徴について説明する。2.1 粒子線治療の全体運用 本ソフトウェアを包含する粒子線治療装置は、図3で示されるような装置構成となっている。イオン源装置で生成し、線形加速器、シンクロトロンで加速された粒子ビームは、照射室に導入されて治療照射に使用される。照射室内では、ビーム経路上に挿入した各種照射機器を使って粒子ビームを整形、制御して、患部標的に照射するようになっている。すなわち、治療装置を運転する治療パラメータに従って、非常に細い荷電粒子束である粒子ビームを、電磁石(ワブラー)で曲げて回転制御して、散乱体で太く広げて、リッジフィルタでSOBP※2を形成して、コリメータ(多葉コリメータと患者コリメータ)で横方向に照射領域を制限して、レンジシフタとボーラスで深さ方向にビーム到達距離(飛程と呼ぶ)を調整するようになっている。る)の研究開発を進めてきており、従来よりも大幅に小型化した普及型重粒子線治療装置についても研究開発し、その実証施設第1号機が国立大学法人群馬大学(以下、群馬大学)に建設されて、2010年3月より治療開始した(図2)。1.2 治療計画システムと線量計算エンジンの開発 群馬大学の重粒子線治療装置製作の主体である三菱電機は、国内トップメーカ(建設中を含めると、国内12施設中8施設)であり、構成要素の一つである治療計画システムとしては、放医研の支援を得て、小型普及型治療装置向けの新規システムXiO※1−Nを開発した(2)(3)(4)。治療計画システムXiO−Nには、標的(がん細胞を取り囲む3次元領域)や照射方向に対応して治療照射したときの、患者体内における照射線量の精度の良い3次元分布図2 群馬大学での普及型実証機(http://heavy−ion.showa.gunma−u.ac.jp/)照射室加速器室治療計画室患者治療計画通りの条件で照射するシンクロトロン標的粒子ビームワブラー電磁石(X方向/Y方向)散乱体リッジフィルタレンジシフタ多葉コリメータボーラス患者コリメータ多葉コリメータボーラスイオン源装置線形加速器治療計画システム粒子ビームの照射方向治療計画システムで、照射室での条件(治療計画)と照射時の結果(線量分布)を計算する患部周辺のCT撮影治療計画標的患者線量分布図3 粒子線治療装置の構成と照射の様子※1 XiOは、Elekta /CMS Inc.の登録商標である。※2 Spread−Out Bragg Peak(拡大ブラッグピーク)の略。標的の厚さに合せて線量ピーク範囲を拡大することを表し、リッジフィルタはそのために使用される。MSS技報・Vol.21 38う。ここで不適当な治療計画だと判断されれば、必要に応じて手順⑵〜⑸の一部または全体が繰り返されることになる。⑹ 作成された治療計画は、照射回数など照射計画を追加決定した後に、複数の医師によるカンファレンスで承認されて、実際に治療に使用される治療計画となる。⑺ 治療計画データは、患者毎の照射器具であるボーラス加工に使用されたり、粒子線治療装置に送信して、治療照射の準備をする。2.3 線量計算サーバとしての動作 本ソフトウェアは、拡張性と接続性を考慮して、治療計画プラットフォームから独立した外部線量計算エンジンとして動作する構成としている(図5)。接続インターフェイスとしては、業界標準のDICOM※3規格(DICOM3.0)を粒子線治療向けに拡張したDICOM−ION規格に対応しており、RT Ion PlanやRT Structure Set、RT 治療計画作業においては、標的に必要な照射線量が集中して、かつ、標的以外の正常組織への照射線量ができるだけ小さくなるように、標的に対する粒子ビームの照射方向や、各種照射機器の設定条件を調整、決定する作業を行う。このように治療内容を計画したものであるため、設定条件全体の内容を「治療計画」と呼び、それをシミュレーションして作成するシステムが治療計画システムである。2.2 ソフトウェアの運用 粒子線用の治療計画システムは、治療計画端末、データサーバ、照射管理端末などで構成される。治療計画作業において、本ソフトウェアは以下で説明するような運用手順の中で使用されることになる(図4)。⑴ がん患者の患部周辺のCT撮影をして、得られた3次元CT画像を治療計画システムの入力データとする。⑵ CT画像上で患部周辺の構造が分かるので、治療マージン等を含む3次元輪郭として標的を画面入力する。⑶ 照射対象の標的に対して、粒子ビームの照射方向を含む治療計画の一部分を画面入力する。⑷ 線量計算エンジン(本ソフトウェア)において、治療計画を完成させる計算と、線量分布の計算を実行する。⑸ 線量計算エンジンの計算結果である治療計画と線量分布が画面表示される。治療に使用可能な治療計画かどうかを医師が判断するために、線量分布の3次元表示や、標的内部の線量体積ヒストグラム表示などの確認操作を、治療計画プラットフォームの画面上で行※(1)~(7)は、本文中の 運用手順と対応するデータサーバ(DICOM-IONサーバ)治療計画端末#1治療計画システム XiO-N粒子線治療装置(7)(1)DICOMデータ(5)(3)(2)治療計画プラットフォーム治療計画輪郭情報治療計画線量分布線量計算エンジン(4)CT装置端末照射計画(6)承認(6)照射器具管理(7)照射管理端末治療計画端末#2 治療計画端末#3治療計画治療計画治療計画治療計画輪郭情報線量分布ボーラス加工データCT画像 CT画像治療計画治療計画システム: への入力データ治療計画システム: での作成データ図4 治療計画システムの運用図5 線量計算サーバとしての動作オペレータ計算実行トリガー治療計画表示・線量分布表示DICOM通信治療計画プラットフォーム線量計算サーバとして動作する線量計算エンジン※3 Digital Imaging and COmmunications in Medicineの略。医用画像に関するフォーマットと通信プロトコルの世界標準規格。39技術論文過去の経験に基づいて、最適な治療パラメータを手動選択していたが、本ソフトウェアでは、標的に最適な治療パラメータを自動選択、自動計算できるようなアルゴリズムが組込まれている。ボーラス加工形状の自動作成など、他にも幾つかの仕組み追加により、より整合性のある治療パラメータの作成を支援できるようになっている。その結果、オペレータは得られた治療計画及び線量分布を元に、治療計画が妥当かどうかを判断することに集中できるようになった。⑵ ペンシルビーム法による線量分布計算 線量分布計算アルゴリズムのベース部分としては、三菱電機の従来の治療計画システムでの使用実績があるペンシルビーム法が採用されている。ペンシルビーム法とは、粒子ビーム全体(ブロードビーム)を、局所的なビーム(ペンシルビーム)の集合体として表現して、ペンシルビーム毎に個別に、粒子ビームの輸送による物理計算をしていく手法である(図7)。個々のペンシルビームに対しては、リッジフィルタの不均一な厚さ分布による変調特性、隣接するペンシルビーム間のビーム混合など、種々の物理モデルを考慮した線量分布計算を実行する。他の代表的な計算手法であるモンテカルロ法と比較すると、物理現象のモデル化の粒度が適度に粗いので、実用的な時間での計算が実行可能である。また、放医研での最新の研究開発成果を反映して、従来アルゴリズムよりも改善・追加した物理モデルを組込んでおり、よく言われるアルゴリズムチューニングのような作業無しに、実際に測定された線量分布特性とよく一致する精度の高い線量分布計算結果が得られている。3.2 新技術への対応 本ソフトウェアには、三菱電機の従来の治療計画システムが持つ機能に加えて、小型普及型治療装置に特有な新技術に対応した計算アルゴリズムが組込まれている。それが、以下で説明する積層原体照射とらせんワブリングであり、これらに対応した治療計画最適化と線量分布計算が可能になっている。その他にも、より詳細な物理現象(大角度散乱など)を模擬する計算モデルを追加して、高精度な線量分布計算を実現している。⑴ 積層原体照射 「積層原体照射」とは、標的を深さ方向に多数のスライスに分割して、スライス毎に最適照射する方法である。従来の照射方法(通常照射と呼ぶ)との比較図を図8に示す。積層原体照射では、分割したスライス毎に、多葉コリメータのリーフ開度、及び 加速器の線量出力を最適に設定し直すことで、上流側の線量分布が改善して、標的の形状により合致した照射(原体照射)となる。Dose、CT ImageのようなDICOM−ION形式でデータ送受信される線量計算サーバとして機能する。治療計画プラットフォームともDICOM接続して計算実行するため結合が疎であり、線量計算エンジンの改良や、将来的な粒子線がん治療装置の発展に対応した新たな計算アルゴリズム組込みなど、容易に改造できる仕組みとなっている。3.線量計算アルゴリズム ここでは、本ソフトウェアの線量計算アルゴリズムの具体的な技術内容について、その特徴を中心に説明する。3.1 アルゴリズム概要 本ソフトウェアのアルゴリズムは、大きく2段階の手順で実行される(図6)。前半部(ビーム設計計算)は、標的などの情報と、治療計画プラットフォームで画面入力された未完成の治療計画を元にして、最適化された治療計画を計算する処理である。後半部(線量分布計算)は、得られた治療計画を元に治療照射したときの3次元線量分布を計算する処理である。以下では、前半部、後半部それぞれについて、アルゴリズムの特徴となる内容について説明する。⑴ 治療パラメータの自動生成 ビーム設計計算は、治療装置を運転する治療パラメータを決定することがメイン処理となる。治療パラメータを決定するに当たっては、治療に使用可能な設定値の組み合わせを、標的の基本条件(深さ、厚さ、横方向の大きさ)毎に予め決めておいて登録し、その登録済みリスト中から選択することが必要となる。設定値の組み合わせ毎に実際に測定して、その線量分布などの特性(線源データ)を記録しておくことで、線量分布計算にも利用する。従来は、オペレータ(医師または医学物理士)が出力データ装置・線源データ線量計算アルゴリズム治療計画(未完成)輪郭情報(標的など)CT画像(3次元分布)治療計画線量分布(3次元分布)ビーム設計計算線量分布計算入力データ図6 線量計算アルゴリズムの概要MSS技報・Vol.21 40⑵ らせんワブリング 粒子ビームを電磁石(ワブラー)で回転制御しているが、新技術の「らせんワブリング」を使用して制御すると、細い粒子ビームをらせん状に移動することによって、従来より平坦な線量分布を得ることができるため、粒子ビームの利用効率が向上し、線量分布が改善する。従来技術(単円ワブリングと呼ぶ)との比較図を図9に示す。粒子ビーム線量弱多葉コリメータのリーフ開度により上流側線量分布を改善する線量強粒子ビーム標的標的①通常照射(従来技術)②積層原体照射(新技術)積層原体照射での分割スライス重ね合せ線量値全スライスでの合成線量分布各スライス深さ0 #87 6 5 4 3 2 1図8 通常照射と積層原体照射の線量分布比較ワブラー電磁石(X/Y2対)散乱体粒子ビームリッジフィルタレンジシフタブロードビーム多葉コリメータボーラスペンシルビーム患者標的標的中心ペンシルビーム発生面照射野内の各 (多葉コリメータ下面)ピクセル毎にペンシルビーム発生照射野入射点通過ボクセル出射点3次元計算グリッドペンシルビームyDxDzDOD ペンシルビームはガウシアンビームとして模擬される3次元計算グリッドは、患者体内を表すCT画像と同領域図7 ペンシルビーム法による線量分布計算の様子図9 手法別の横方向線量分布プロファイル1.21.110.90.80.70.60.50.40.30.20.10-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3単円ワブリング(従来技術)の場合OCR(r)1.21.110.90.80.70.60.50.40.30.20.10-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3らせんワブリング(新技術)の場合OCR(r)r/rsr/rs41技術論文ある。そこで、アルゴリズム実装上の工夫による高速化と合せて、マルチコアプロセッサのPC上で並列化処理をすることによる高速化を図った。ここでの高速化手法としては、並列プログラミングのための標準規格OpenMP 3.0を使用した。OpenMPは、ソースコード(C++やFortran)の基本構造には手を入れずに、繰返しループの箇所にAPIを追加してやることで、マルチスレッドによるループ並列化を実現するものである。コンパイラが持つ自動ベクトル化の機能と合せて適用することで、インテルCPUの計8コア(クアッドコア×2)のPC上で概ね1/6倍程度の計算時間短縮を達成したので、治療運用にストレス無く使用できる計算時間となっている(図12)。3.3 ノウハウの反映 本ソフトウェアは、放医研における研究開発で得られた、治療装置の特性を考慮した様々なノウハウを反映したものとなっている。 ここでは、例を2つ挙げる。⑴ ボーラス加工形状の段差補正 ボーラスは、図3にも示したように標的形状に合せて細かく飛程調整するものであり、厚い板をドリル加工して、場所によって厚さが異なるように作成する。その加工機ドリルによるボーラス加工時に、治療計画通りの加工精度を確保するには、ボーラス加工形状に急激な段差がつかないようにする方がよい。そこで、治療計画時のボーラス加工形状に対して、ドリル加工精度に基づいて段差を修正するアルゴリズムを組込んで、実際のドリル加工に対応した治療計画が作成されることを保証するようにした(図10)。⑵ 浅い標的に対するデータ補正 患者皮膚表面に近い場所にある浅い標的に、粒子ビームがちょうど止まるように照射しようとして、レンジシフタだけで飛程調整すると、レンジシフタ位置は患者から遠いため、患者体内で一様な線量分布を形成しないことが分かっている。そこで、浅い標的に対しては、患者により近い照射機器であるボーラスで飛程調整するように設定変更させて、治療計画通りに患者体内で一様な線量分布を形成させるようにした(図11)。3.4 計算高速化 本ソフトウェアでは3次元データによる物理シミュレーション計算を実行するので、計算時間が非常にかかる。特に、3次元計算グリッドの解像度をより細かくしようとすると、ペンシルビーム数の増大などによる計算時間の増加度合が著しく、何らかの計算高速化が必須で段差制限急峻な加工形状があると、隣のピクセルを削ってしまう急峻な加工形状を予め解消するように形状生成加工機ドリルボーラス加工形状補正前補正後図10 ボーラス加工形状の段差補正の様子レンジシフタ多葉コリメータボーラスボーラス患者残飛程小飛程を残す浅い標的粒子数が少ないため、平坦照射野を形成しない粒子数が十分であり、平坦照射野を形成する【補正前】レンジシフタだけで飛程調整するように、パラメータ計算する【補正後】ボーラスでも飛程調整するようにパラメータ補正図11 浅い標的に関するデータ補正の様子(sec.)10090807060504030201001 2 3 4スレッド数ある計算条件下での処理時間5 6 7 8(threads)※インテルコンパイラ使用2.1倍2.8倍自動ベクトル化ループ並列化(OpenMP3.0)図12 OpenMPによる計算時間短縮MSS技報・Vol.21 42参考文献⑴ 「がんは放射線治療で治す」中川恵一著, 株式会社エム・イー振興協会発行(2007)⑵ 高谷保行,他, “普及型重粒子線用治療計画装置の開発”, O−024, 第99回日本医学物理学会学術大会報文集(2010)⑶ 山本啓二,他, “重粒子線用線量計算エンジンの開発”, O−023, 第99回日本医学物理学会学術大会報文集(2010)⑷ 溝田 学,他, “重粒子線治療計画XiO−Nのコミッショニング”, O−025, 第99回日本医学物理学会学術大会報文集(2010)執筆者紹介山本 啓二1992年入社。関西事業部第四技術部第四課 専任。入社以来、熱応力解析、流体解析などの数値解析業務や顔認識システム、医用画像支援システム、画像処理などのアルゴリズム開発及びソフトウエア開発に従事。専門分野は、ソフトウエア開発、数値解析、応用物理学、画像処理。日本放射線技術学会、日本医用画像工学会、日本医学物理学会会員。足立 和子1999年入社。関西事業部第四技術部第四課 担当。入社以来、概念検索システム、リモートセンシング、放射線治療計画システム、医用画像処理などのソフトウエア開発及び新規事業に係るアルゴリズム開発に従事。専門分野は、ソフトウエア開発、画像処理、自然言語処理。4.実証評価と今後の展望4.1 治療施設での実証評価 本ソフトウェアを組み込んだ治療計画システムXiO−Nは、小型普及型治療装置の実証施設である群馬大学にて、通常照射における検証評価が実施された。この実証評価により、本ソフトウェアが出力する治療計画と線量分布の妥当性が確認されて、2010年3月より通常照射での治療運用に供されている。今後は、積層原体照射についても、同様の検証評価を実施した後に治療運用していく予定となっている。4.2 今後の展望 本ソフトウェアは、放医研における長年の研究開発成果を具現化するものとして、治療計画システム全体とともに完成させた。今後は、新しい計算モデルの組込みや、現行の計算モデルの改良を適用していくことで、更なる高精度化、高速化を図っていく予定である。5.むすび 本報告では、当社が開発に従事した粒子線用線量計算エンジンの技術的内容について述べた。当社としては、医療支援分野における情報処理システムの業務実績を重ねるとともに、今後とも、将来の粒子線治療の発展の一翼を担えるよう取り組んでいきたい。最後になるが、本ソフトウェアの開発においては、放医研、群馬大学、並びに 三菱電機電力システム製作所の皆様には、深く感謝するものである。