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Category:交通システム

GPSを利用した 列車接近情報表示技術

GPSを利用した 列車接近情報表示技術

国内の鉄道会社では , 駅員や保守員が ,GPS で取得した列車の位置情報をタブレット端末で確認し 列車接近時に安全な場所へ避難 している 。本稿は, 駅員や保守員が タブレット端末にてより正確で視認性高い方法で列車接近状態を確認できるようにするための以下の三つの実現方法を記載した。
 (1) 正確な列車位置情報を取得できるようにするため ,GPSの測位誤差の補正方法を検討した。
 (2) J avaScript による W EB アプリケーションとして実装する方法を検討 しプラットフォーム依存性を排除した。
 (3) G oogle Map JavaScript API により地図を取得しその上に列車や現場の保守員を画像アイコンとして描画する方法を 検討及び検証した。
将来商用化に向けた開発の際は 実環境の位置情報でこの実現方式での 更新速度や補正効果を検証する。

GPSを利用した 列車接近情報表示技術[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の交通システムソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • 交通システムソリューションは、神戸事業所伊丹事業所が提供しています。
GPS を利用した列車接近情報表示技術
GPS を利用した列車接近情報表示技術
野中 健史
1. まえがき
国内の鉄道会社では,保守員が利用している携帯端末は,未だに地図を活用できてなく,昨今のスマホの普及状況からすると数世代前の保守機能となったままの現状がある。鉄道会社向けに駅員や保守員の作業効率化,安全性向上を目的に,アプリケーションの一例として,列車位置をタブレット端末の地図上に表示するシステムの実現方式を検討した。図1 にこの概略的なイメージを示す。図 1.タブレット端末を活用したシステムイメージ図
2. 取組み内容2.1 背景鉄道会社では保守端末にタブレット端末を利用し,現時点の列車在線位置を把握するニーズが高まっている。このニーズを満たすシステムの概略を図2 に示す。列車,位置情報を管理するサーバー,タブレット端末間で,図2 のような位置情報のやり取りが発生する。図 2.システム概略図現在保守員の列車位置を把握する手段を説明すると,列車の位置情報は,線路の区間単位となっており,図3 の時間ごとの列車位置のイメージ図で示すように,区間1(橙色)や区間2(緑色)の管理で,列車の詳細な位置特定になっていない。図 3.現状の位置情報の取得状況この位置情報の取得状況のため,図4 の状況が発生する。図 4.現状の位置情報で起こる状況例図4 の列車1,列車2 共に位置情報が区間1 なので,安全重視のため, 駅員や保守員は避難することになる。しかし,各区間は数km 離れており, 列車2 も通過するまで待機するため,待機時間が多くなり,作業時間が無駄になる。このため,正確なリアルタイムの列車位置情報を取得できる表示技術を検討した。2.2 実現すべき項目本節では,実現すべき3 つの項目について示す。(1) 正確な列車位置の情報取得(2) 機種に依存しない端末の汎用化(3) 視覚的な地図への描画方法GPS を利用した列車接近情報表示技術22.2.1 位置情報の補正列車にはGPS 受信機を搭載しており,在線位置の把握にはこれを利用する。GPS で取得する位置情報は,最低3 つのGPS 衛星と測定対象に搭載するGPS 受信機との距離から位置情報を計測している。GPS での位置情報取得イメージを図5 に示す。図 5.GPS での位置情報取得イメージ図各GPS 衛星とGPS 受信機の距離は,GPS 衛星の信号送信時刻とGPS 受信機の信号受信時刻から算出するので,建物などの影響で受信できるGPS 衛星の数が少なくなる場合や,電離圏遅延などの影響で信号の到達が遅れると測位誤差が発生し,位置情報の測位誤差が大きくなる。この位置情報のズレは,数メートルから100 メートル以上にもなるため,補正方法を検討する必要がある。2.2.2 プラットフォームへの依存性の排除タブレット端末は,iPad やAndroid,Windows 等,プラットフォームが異なり,地図描画機能が影響を受けて同じ動作結果にならない場合がある。図6 のように個別に専用ソフトウエアを設けて対応する方法もあるがメンテナンスや開発コストを抑えるべきと考える。図 6.プラットフォーム依存がある場合の対応図7 のようなプラットフォームに依存せず,同じプログラムで,地図描画機能を提供できる手段を検討する必要がある。図 7.プラットフォーム依存性を排除した場合の対応2.2.3 地図への描画方法視覚的に位置関係を把握できるように,各列車やタブレット端末の位置情報に対応する地図上の位置にアイコン等を描画する方法が必要である。また,実際の地形は,建物増築や道路新設などの理由で変化し続けるので,定期的に地図更新及び配布が必要となる。描画対象の位置情報を指定して地図上に描画でき,かつ,地図メンテナンスの手間が少ない描画方法を検討する必要がある。2.3 実現方式2.3.1 位置情報の補正地図上の位置情報の距離を計算してデータ分析する開発のノウハウを活用して,補正に有効な位置情報とその利用方法を検討した。列車は線路上を走るので,一定区間ごとの線路の中心の線路上の位置情報を用いて補正する方式を検討した。このイメージを図8 に示す。図 8.位置情報の補正GPS の位置情報が,最も近い線路上の中心位置からどのGPS を利用した列車接近情報表示技術3程度離れているかを判定し,図中の点線枠の範囲内であれば最も近い線路上の中心位置の位置情報に補正する。また,点線枠の範囲外の場合は,不正な取得値として廃棄する。さらに,不正な取得値を廃棄した場合,図9 のように,保持する直近三回分の正常な位置情報を元に平均移動速度を算出して予測移動位置で補正する。図 9.直近の位置情報を用いた移動位置予測2.3.2 プラットフォームへの依存性の排除JavaScript でのWEB アプリケーション開発実績を活かして,そのノウハウを用いる実現方式を検討した。WEB ブラウザー上で動作するGoogle Maps JavaScriptAPI を活用したWEB アプリケーションにて位置情報の地図描画機能を実装し,プラットフォーム依存性を排除する。このダウンロードの流れを図10 に示す。図 10.Google Maps を使うWEB アプリケーションダウンロード保守員が,タブレット端末のブラウザーで図中の(1)の列車位置情報管理システムのサーバー上のWEB アプリケーションのURL を指定してアクセスすると, 図中の(2)のように列車位置情報管理システムのサーバー上のWEB アプリケーション(HTML ファイル+JavaScript)がタブレット端末にダウンロードされブラウザー上で動作する。このHTML ファイル内でGoogle Maps JavaScript APIを外部スクリプトとして指定しているため,図中(3)のアクセスが発生し, 図中(4)のようにGoogle Maps サーバーからGoogle Maps JavaScript API のスクリプトファイルがタブレット端末内にダウンロードされ,Google Maps が利用可能となる。2.3.3 地図への描画方法Google Maps JavaScript API での地図情報描画についてノウハウを活用して,その振る舞いと検討した実現方法を示す。図10 完了後,タブレット端末上でWEB アプリケーションが動作した状態から表示対象の地図を取得する流れを図11 に示す。図 11.地図の取得地図情報は,図中(1)相当である地図の中心座標(世界座標系の緯度,経度)指定でGoogle Maps JavaScript API の地図取得関数の実行により取得できる。すると,GoogleMaps のサーバーに図中(2)の指定で地図取得が要求される。Google Maps のサーバーは,図中(3)のように(2)の指定位置を中心とする地図(位置情報を含む)を応答する。Google Maps JavaScript API は,図中(3)の応答を元にWEBページに地図と位置情報を埋め込む。GPS を利用した列車接近情報表示技術4描画対象の位置情報を取得後,地図上に描画する流れを図12 に示す。図 12.位置情報の取得と描画タブレット端末の位置を列車位置情報管理システムのサーバーに渡すことで,付近の列車の位置情報を取得する。列車位置情報管理システムのサーバーとタブレット端末は,図中(1)と(2)のように位置情報(世界座標系の緯度,経度)をXML 電文に埋め込み,HTML リクエストで通信する形式とした。位置情報の描画は,図中(3)に相当するその座標(世界座標系の緯度,経度)指定でGoogle Maps JavaScript API の画面部品の描画関数の実行により図中(4)が行われることで実現できる。任意画像をアイコンとして表示することも可能なので,列車と保守員それぞれのアイコン画像を位置情報として描画できる。3. 検証線路情報を利用したGPS 位置情報の補正は検証に至らなかったが, WEBアプリケーションによるプラットフォームへの依存性の排除,Google Maps API を活用した地図への描画方法を2.3.2 と2.3.3 で説明した手段で実装し検証した。この検証では,列車は列車のアイコン,保守員は工事マークのアイコンで地図上の位置を描画する。描画機能の検証のみのため,各位置情報は列車位置情報管理サーバーに固定で保持したものを用いた。列車位置情報管理サーバーのアプリケーションは,列車が保守員付近を通過する動きに相当する列車の位置情報を一定時間ごとにタブレット端末に送信し,タブレット端末側のブラウザー上で動作するWEB アプリケーションがGoogle Maps の地図上に都度取得した位置情報の位置に列車のアイコンを描画する。図13 に列車が下から上に移動して描画した検証例を示す。図 13.地図上の作業者付近を通過する電車の描画例通過前通過中通過後GPS を利用した列車接近情報表示技術5また,タブレット端末のプラットフォームの違いはWEBブラウザー上で動作するWEB アプリケーションとした事で対応したが,代わりに各タブレット端末の主要なWEB ブラウザー同士で描画結果が一致するか確認が必要なので,下図14 に異なるブラウザー上に同じ地図と位置情報を描画した検証例を示す。図 14.異なるブラウザーでの同じ地図と位置情報の描画例Google Chrome(上図)/Microsoft Edge(下図)図14 のとおり,異なるブラウザー上で同じWEB アプリケーションを動作させ,同じ地図の位置に,列車と作業員のアイコンを描画できることが確認できた。4. むすび列車位置をタブレット端末の地図上に表示するシステムの実現方式として,GPS 位置情報を利用して列車位置情報を表示するため,線路情報を利用したGPS 位置情報の補正,WEB アプリケーションによるプラットフォームへの依存性の排除,Google Maps API を活用した地図への描画方法の実現方式を検討した。本実現方式では,以下の3 点の課題が残っており,実開発に入るまでに解決が必要な状況である。(1) トンネルのように長時間GPS 信号が届かず,位置情報を取得できない箇所の位置情報補正方法。(2) 複数路線が並行して走っている場合や線路が高架と高架下で重なり並行する場合に対して,保守員の作業路線と列車の走行路線情報を考慮した通知対象の列車位置情報の絞り込み。(3) 位置情報の描画処理の性能評価は, 描画対象が少なく,ローカルの通信環境での検証であったのでできていない。将来活用する際は,実際の通信環境にて,必要な更新速度を満たせるか検証する必要がある。さらに,本開発においては,実際の路線情報を利用して,GPS 位置情報の補正処理(アルゴリズム/実現方式)に関する検証を実施するまでには至らなかった。将来,商用化に向けた開発の際には,ここで提案した実現方式の検証を合わせて実施していく所存である。商 標Windows,及び,Microsoft Edge は,米国MicrosoftCorporation の米国及びその他の国における登録商標である。iPad は,米国Apple の米国及びその他の国における登録商標である。Android,及び,Google Maps, Google Chrome は,米国Google の米国及びその他の国における登録商標である。JavaScript は,米国オラクル社の米国及びその他の国における商標又は登録商標である。執 筆 者 紹 介野中 健史(のなか たけし)2001 年入社。通信機器に関するソフトウエア開発に従事。現在,第2事業部通信システムソフトウエア技術部通信システムソフトウエア第2課に所属。