このページの本文へ

ここから本文

テクノロジー

技術レポート:アーカイブ

Category:社会インフラシステム

社会インフラ維持管理システムの開発

社会インフラ維持管理システムの開発

日本の道路(橋梁、トンネル、舗装)の社会インフラ施設の多くは、高度経済成長期に集中的に整備されてきた。表1は、社会インフラの現状で約70万本の橋梁、約1万本のトンネルがある。これらが建設されてから30年以上経過しており、今後急速に老朽化するインフラ設備が増えることが懸念されている。
今後20年間で、建設後50年を経過するインフラ設備の割合は急激に増加する見込みであり、限られた予算の中で、計画的かつ効率的な老朽化対策を実施することが喫緊の課題となっている。

社会インフラ維持管理システムの開発[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の社会インフラシステムソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • 社会インフラシステムソリューションは、神戸事業所が提供しています。
社会インフラ維持管理システムの開発
1. まえがき
日本の道路(橋梁、トンネル、舗装)の社会インフラ施設の多くは、高度経済成長期に集中的に整備されてきた。表1は、社会インフラの現状で約70万本の橋梁、約1万本のトンネルがある。これらが建設されてから30年以上経過しており、今後急速に老朽化するインフラ設備が増えることが懸念されている。今後20年間で、建設後50年を経過するインフラ設備の割合は急激に増加する見込みであり、限られた予算の中で、計画的かつ効率的な老朽化対策を実施することが喫緊の課題となっている。表1. 社会インフラの現状出典 国土交通省 (平成25年)(1)2012年12月の笹子トンネル天井板崩落事故をきっかけに、道路法が改正され、2014年には5年に1度の近接目視点検が義務化された。あわせて、点検要領も改定されている。国土交通省では、インフラ点検ロボット技術を適用するガイドライン及び点検支援技術性能カタログを公開し、現場でロボット技術を推進していく意向である。このような社会情勢の中、三菱電機では、インフラ点検ロボット技術に当たる社会インフラ維持管理システム(Mitsubishi Mobile Monitoring System forDiagnosis以下、MMSD)を開発した。図1. 計測車両MMSDは、社会インフラ設備の点検業務支援を行うために必要となるデータ(三次元点群データ及びトンネル壁面画像データ)を収集する計測車両(図1)と収集したデータを解析するデータ解析システム(図2)からなる。本システムを構成する装置とその役割を表2に示す。当社は、このデータ解析システムの点群解析サーバと画像解析処理装置のアプリケーションソフトウェアを担当している。図2. データ解析システム構成図表2. 本システムを構成する装置とその役割社会インフラ維持管理システムの開発神戸事業所 技術第2部 広域第2課佐土 宏和19社会インフラ維持管理システムの開発特集論文本稿では、MMSDが提供する計測・解析システムを紹介するとともに、その実現に当たっての課題とその対策について述べる。
2. システムの概要
2.1 システムの目的と特徴現状、トンネル、鉄道沿線設備の維持管理のための点検は、人手を多く要するものになっている。例えば、鉄道における建築限界(注1)への支障状況の確認やトンネル壁面に現われるひび・漏水・析出物等の変状の有無・程度の確認などが行われるが、それらの作業には目視に頼る部分が多く存在している。また、そのことが点検作業に多くの時間とコストが必要となる要因にもなっている。限られた予算・人員の中で、社会インフラの維持管理・点検作業を進めるには、このような多くの時間とコストのかかる点検作業の効率化、省力化や安全性の向上が必要であり、その支援を目的として、計測車両および本システムを開発した。本システムでは、計測車両で道路や鉄道線路を走行し、三次元点群データ(以下、点群データ)及びトンネル壁面画像データを収集することで現場作業は完了する。また、取得したデータを解析することで点検・確認を行うため、以下の効率化、省力化と安全性の向上を実現できる。① 人手で実施する際には多くの作業時間・作業人数を必要としていた点検作業の時間短縮② 人が実施することによる計測誤り・変状箇所の抽出漏れの削減、点検精度の向上③ 危険を伴う高所作業の削減による安全性の向上2.2 システムが提供する機能MMSDでは、社会インフラ設備の点検業務支援を行うために以下の機能を提供する。2.2.1 道路分野向け機能(1) トンネル設計断面-計測点群比較機能この機能は、トンネルのスパンごとに区分した点群データをトンネル設計断面と比較し、凹凸を算出する機能である。建設後、年数の経過した実際のトンネル断面と設計時のトンネル断面の『人の目では判断しにくい僅かな凹凸』を定量的に評価することができる。図3は、トンネル設計断面比較図の一例である。図3. トンネル設計断面比較図(2) ひび/変状解析機能この機能は、計測車両に搭載されている高解像度ラインカメラにより撮影されたトンネル壁面画像を解析し、ひび割れ、漏水・析出物箇所を検出する機能である。図4は、計測車両で撮影した背景画像付きの変状展開図である。背景写真画像を付けることにより、現場での場所特定を容易としている。この変状展開図により、詳細な点検作業を行うべき箇所の特定を行い、点検時の確認図面にも使用される。図4. 変状展開図(3) 経年変化比較機能この機能は、点群データを任意の過去の測定データと比較し、凹凸を算出する機能である。図5は、経年変化比較結果の一例である。異なる複数の時期に計測した同じ地点の点群を重ね合わせて、差異を抽出できる。(注1) 安全な運行を確保するため、鉄道軌道上で構造物等を配置してはいけない空間範囲。20社会インフラ維持管理システムの開発図5. 経年変化比較結果(4) CADデータ生成機能本システムでは、計測した点群データから三次元 CADデータの生成を可能としている(図6)。これにより、生成したCADデータを設計図面として活用できる。図6. 三次元CAD図生成2.2.2 鉄道分野向け機能(1) 建築限界解析機能この機能は、沿線設備が鉄道の安全運行を妨げる状態になっていないかを確認するため、各鉄道事業者にて規定されている建築限界枠のデータを読み込み、建築限界枠近傍に物体が存在するか、存在する場合、建築限界枠からの距離(mm)を算出する機能である。図7は、鉄道レーザ計測(断面図)である。この断面図を用いて、下記の手順で建築限界解析を行う。①点群データから軌道中心を求める②軌道中心位置を基準に、建築限界枠を設定する③点Aから建築限界枠への最短距離を計算する図7. 鉄道レーザ計測(断面図)図8は、建築限界解析結果の一例である。線路は建築限界枠に接しており、一方、架線は建築限界枠の内側(支障あり)で、建築限界枠から外壁までの最大距離は350mmであることが分かる。また建築限界枠からの距離を色で定性的に表現することにより直観的にも物体の存在を分かりやすく表現している。図8. 建築限界解析結果21社会インフラ維持管理システムの開発(2) 設備計測機能この機能は、地上子(注2)、信号機などの沿線設備が設計どおりに設置されているかを確認するために、指定した2つの設備間の距離や設備の傾き、設備数を計測する機能である。図9は、トンネル内の照明設備から路面までの距離を点群データから計測している設備計測結果の一例である。図9. 設備計測結果3. システム開発における技術課題本システムでは、各解析処理において、計測車両で収集した点群データを利用する。この点群データは、計測車両に搭載された高密度レーザにより収集されるが、1秒間に100万点の点データが取得可能となっている。例えば、路線延長10kmを時速10km/hで走行して計測した場合、36億点群データが採取されることになる。MMSDで扱う点群データは、1点当たり100Byteとなっており、この例の場合、扱うデータサイズとしては、360GBとなり、大規模なデータである。システムを開発する上では、この大規模なデータをどのように蓄積し、高速に検索、取得できるかが大きな課題であった。この課題への対応として、本システムのデータベースには、大規模データ処理を得意とする三菱電機製センサ・ログデータベース(2)(以下、SLDB)を採用することとした。SLDBの主な特徴は以下のとおりである。・ データ圧縮方式の最適化・ データ配置の最適化・ データ処理単位の最適化(並列処理性能を向上)3.1 点群データの登録本システムにおいては、前述のとおり、大規模な点群データを取り扱う必要があるが、計測車両から取り出した点群の生データは、本システムでの利用に必要なデータ形式へ加工し、登録を行うことになる。課題対策前のデータ登録に要する時間は、データ点数120億点(時速10km/hで計測した場合、路線延長約33km分=大阪駅-神戸駅間の距離に相当)で、15.6時間であった。本システムでは、最大点数120億点の登録を8時間以内で完了することを性能改善目標とした。3.2 点群データの検索・取得MMSDでは、点群データを図5の経年変化比較結果表示のように表示・視覚化する機能を有する。データを検索・取得する時間は、利用者の操作性に関わることから、十分な性能を確保する必要がある。課題対策前のSLDBに登録した点群データを検索・取得するのに要する時間は、データ点数:200万点で8.4秒であった。性能改善の目標を、操作待ち限界値として4.0秒に設定した。4. 対策前章で挙げた2つの性能改善のために、SLDBとアプリケーションの両面から検討を行い、以下の対策内容を実施することとした。対策内容:データ登録処理と検索処理の並列化対策箇所:アプリケーション部分4.1 データ登録処理の高速化SLDBは、その仕様上、複数処理から同一テーブルへの書き込みは許容していないが、異なるテーブルであれば、並列的に書き込むことが可能である。一方、点群データに含まれる各点のデータは互いに独立しており、依存関係は存在しない。したがって、ある点について、その点を書き込むべきテーブル番号が特定できれば、並列して書き込むことができる。(注2 ) 列車に設置されている機器との間で情報の送受信をするために地上(線路内)に設置された装置。22社会インフラ維持管理システムの開発4.1.1 並列化の効果の検証SLDBへの登録処理の並列化を検討するに当たり、その効果の検証を行った。なお、今回の検証に使用したPC、HDD、OSおよびデータベースの仕様と処理対象データは表3、表4のとおりである。表3. 検証用PC 仕様表4. 処理対象データ数量データサイズ30GBの3億点群データを用意し、並列度を1、2、4、8、16と変化させて、それぞれの登録開始から終了までにかかった時間を計測した(表5、図10)。表5. データ登録性能 検証結果図10. 登録処理 並列度-登録速度関連図このことから、予想どおり、複数の登録処理を並列実行することで登録速度が向上し、登録時間を大幅に短縮できた。さらに、適用するPC、ハードディスクの性能仕様等による制約があるものの、並列化による効果の傾向を確認することができた。これらの検証作業の結果、以下の方針とすることを決定した。・ 点群データを先頭から読み込んで順に書き込む方式(図11)から、任意の点数で区切って、複数の登録処理から互いに異なるテーブルへ並列的に書き込む方式(図12)に変更すること。・ 利用するPCサーバの性能仕様により、並列化効果が最大限得られる並列度の値が変化することから、この値を可変にできる仕組みとすること。・ SLDBへのデータ入出力に使用するファイルは、CSV形式(テキスト形式)と比較して、一般に性能向上が期待できるバイナリ形式とすること。図11. 順次・点群データ登録処理(改善前)図12. 並列・点群データ登録処理(改善後)23社会インフラ維持管理システムの開発4.2 対策の結果前述の検証作業で得られた結果を踏まえて、並列度を設定し、データ登録処理/検索処理の並列化を行った結果、表6で示すとおりとなり、目標性能を達成した。ここで、並列度は大きいほど性能向上につながるが、同時にH/Wコストなどの増加につながることも考慮し、登録機能では並列度15、検索機能では4と決定した。表6. 性能改善の対策結果5 むすび本稿では、社会インフラの点検・維持管理業務の効率化支援を目的に開発された社会インフラ維持管理システムとその機能改善例を紹介した。社会インフラの管理主体である国、地方自治体や鉄道事業者など顧客のニーズは多様である。今後も、それらニーズを踏まえた機能の追加・改善を継続的に行い、顧客の期待に応えられる点検維持管理サービスの提供に貢献していきたい。また、そのことが社会的課題である社会インフラの維持・改善につながることにもなると考える。最後に、本システム開発において、貴重なご意見、ご指導いただいた三菱電機(株)及び関係各位に深く感謝申し上げる。参考文献(1)国土交通省 社会インフラの維持管理の現状  https://www.mlit.go.jp/common/001016267.pdf(2)三菱電機技報・Vol.90・No.7・2016(3)三菱電機技報・Vol.93・No.7・2019(4)三菱電機技報・Vol.94・No.12・2020執筆者紹介佐土 宏和 サド ヒロカズ1995年入社。主に設備管理BUのソフトウェア開発に従事。現在、神戸事業所技術第2部広域第2課。24社会インフラ維持管理システムの開発