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Category:社会インフラシステム

配水管理システムにおける信号分岐装置の開発

配水管理システムにおける信号分岐装置の開発

配水管理システムは、一般家庭や工場、ビル施設など需要家への安全・安定した水の供給を目的とし、配水場の設備(以降、現場機器)により配水池水位や水質、ポンプの運転状態等を監視制御するものである。
昨今、各自治体向け配水管理システムは、設備老朽化による運用コストの高騰、ネットワーク環境の進歩、及びハードウェア性能の向上を背景に、システムの更新が進められている。
上水道設備は、その重要性から24時間365日稼働している。そのため、配水管理システムのシステム更新時にも、監視制御機能を停止させない仕組みと高度な技術が求められている。
本稿では、システム更新期間中における新旧システムの並行運用を実現するために開発した信号分岐装置について紹介する。

配水管理システムにおける信号分岐装置の開発[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の社会インフラシステムソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • 社会インフラシステムソリューションは、神戸事業所が提供しています。
配水管理システムにおける信号分岐装置の開発1.まえがき配水管理システムは、一般家庭や工場、ビル施設など需要家への安全・安定した水の供給を目的とし、配水場の設備(以降、現場機器)により配水池水位や水質、ポンプの運転状態等を監視制御するものである。昨今、各自治体向け配水管理システムは、設備老朽化による運用コストの高騰、ネットワーク環境の進歩、及びハードウェア性能の向上を背景に、システムの更新が進められている。上水道設備は、その重要性から24時間365日稼働している。そのため、配水管理システムのシステム更新時にも、監視制御機能を停止させない仕組みと高度な技術が求められている。本稿では、システム更新期間中における新旧システムの並行運用を実現するために開発した信号分岐装置について紹介する。2.配水管理システムの概要とシステム更新要件配水管理システムの概要、及びシステム更新要件について説明する。2.1 システム概要配水管理システムは、中央監視設備と現場設備から構成され、各設備は、図1に示す装置及び機器で構成されている。図2にシステムのデータフロー図を示す。監視制御に必要な配水池の水位やポンプの起動停止/回転数などの運転状態は、現場機器からテレメータ装置(以降、TM装置)が取り込む。これらの監視情報(以降、監視データ)は、中央監視設備の通信制御装置を経由して、データベースサーバ装置に蓄積し、監視制御装置や大型表示装置に表示する。また、ポンプの起動停止/回転数の調整などが必要な場合には、監視制御装置から操作を行い、通信制御装置からTM装置を経由して現場機器に制御情報(以降、制御データ)を送信し、現場機器を動作させる。神戸事業所 技術第2部 公共第2課坂口 諒、荻内 鉄平中央監視設備大型表示装置操作卓監視制御装置通信制御装置広域ネットワーク現場設備データベースサーバ装置広域ネットワークTM装置TM装置TM装置現場機器(水位計、ポンプなど)図1.配水管理システム構成図中央監視設備監視制御装置・・・通信制御装置データベースサーバ装置監視データ 制御データ現場設備TM装置現場機器(水位計、ポンプなど)図2.システムのデータフロー図38配水管理システムにおける信号分岐装置の開発2.2 システム更新要件配水管理システム更新では、中央監視設備の各装置、及び現場設備のTM装置を更新する。TM装置は、近年のネットワーク環境の進歩に伴い、中央監視設備との通信回線がHDLC (High-Level Data Link Control)(注1)等の専用回線型(以降、旧TM装置)から、TCP/IP(注2)等、ネットワーク接続型(以降、新TM装置)への更新が進められている。大規模なシステムでは、TM装置が50台以上で構成される場合もあり、旧システムから新システムへのTM装置の更新には数か月~数年かかる場合もある。(1)システム更新スケジュール図3は一般的な配水管理システムの更新スケジュールを示したものであり、顧客要求である新旧配水管理システムの並行運用及び操作員の操作訓練期間の確保を前提とした更新スケジュールを実現している。設備中央監視期間(時間)→旧システム運用③設備撤去新システム現場旧TM装置①仮運用③運用仮運用(試験運用)運用②TM装置更新開始④TM装置更新完了運用TM装置更新新TM装置旧→新・・・・・・TM装置更新運用新旧システム並行運用新システム運用運用状態新システム操作訓練配水管理システム並行運用(システム更新期間)図3.配水管理システムの更新スケジュール①中央監視設備の新システム仮運用中央監視設備の新システムが仮運用(試験運用)を開始する。この時、旧システムと新システムを並行運用させ、新旧システムが旧TM装置と接続することにより、現場機器の状態を両システムから確認できる必要がある。②TM装置の更新開始旧TM装置の更新を開始する。新TM装置を接続して監視機能を確認後、配水管理システム全体の監視機能を停止させることなく、新TM装置に更新する。(注1)標準化機構(ISO)によって標準化された、ビットオリエンテッドなフレーム同期型のデータリンク層プロトコル(注2)TCP/IP:インターネット通信及びイントラネット通信において最も利用されている通信プロトコル③旧システム設備撤去/新システム運用新システムの仮運用(試験運用)が完了すると、旧システム設備を撤去し、新システムの更新が完了する。④TM装置更新完了旧TM装置から新TM装置への更新が完了する。(2)システム更新における要件長期間にわたるシステムの更新では以下の要件がある。①新システムが安定稼働するまでの期間は、旧システムと並行運用を行い、新システムで問題が発生した場合に、速やかに旧システムに運用を切替え、システムの運用を継続させる必要がある。②旧システムは、設備構成及びソフトウェアを変更せずに運用継続し、新システムへ移行する必要がある。③旧システムで運用しつつ、新システムでは、操作員の訓練期間を十分に確保したいという顧客ニーズに応える必要がある。これらの要件を満足するために、新旧TM装置と新旧通信制御装置を接続する信号分岐装置を開発した。次章では、信号分岐装置について詳しく説明する。3.信号分岐装置の開発3.1 機能概要信号分岐装置は、新旧TM装置と新旧通信制御装置を接続する装置である。図4に信号分岐装置を設置したシステム構成を示す。中央監視設備新システム監視制御装置・・・旧システム監視制御装置・・・データベースサーバ装置新通信制御装置②新TM装置の監視・制御データ旧通信制御装置信号分岐装置①旧TM装置の監視・制御データ現場設備○○ポンプ場△△浄水場新TM装置(D局)旧TM装置(C局)機器新TM装置(B局)旧TM装置(A局)機器機器機器図4.信号分岐装置を設置したシステム構成信号分岐装置は、新旧TM装置からの監視データを受信し、また、監視制御装置から制御データを通信制御装置経由で39配水管理システムにおける信号分岐装置の開発受信し、新旧TM装置に送信する。この様に、信号分岐装置は、新旧TM装置に接続する現場機器を、中央監視設備の新旧システムで監視制御可能とする役割を担っている。次に、信号分岐装置のソフトウェア構成及び伝送処理方式について説明する。3.2 ソフトウェア構成信号分岐装置は、三菱電機製の広域監視制御装置MELFLEXシリーズの基幹機種である、MELFLEX4200を用いて開発を行った。MELFLEXシリーズの特徴は、多種多様な通信回線を接続可能としていることである。MELFLEX4200は、通信回線の種別として、前述のHDLC、TCP/IP他、LAPB(Link Access Procedure, Balanced)(注3)、CDT (Cyclic Digital data Transmission equipment)(注4)、BSC (Binary Synchronous Communications)(注5)をサポートしている。信号分岐装置では、新旧TM装置の通信を制御する必要があるため本機器を採用した。今回開発した信号分岐装置では、前述の通信種別に対応したアプリケーションソフトウェアの開発を行った(図5)。その構成は、主に監視データ及び制御データの処理を行うデータ処理部と、通信回線インターフェースに関連する通信処理部品で構成した。データ処理部プロセス管理他3.3 伝送処理方式信号分岐装置の伝送処理は、信号分岐装置用メンテナンスツール(以降、メンテナンスツール)からダウンロードされた伝送定義ファイルを基に、新旧TM装置と新旧通信制御装置間の監視及び制御データの編集と、伝送先の振り分け処理を実施する。その概要図を図6に示す。中央監視設備新システム旧システム新通信制御装置旧通信制御装置監視データ制御データ信号分岐装置現場設備新TM装置伝送定義ファイル旧TM装置ダウンロード信号分岐装置用メンテナンスツール現場機器図6.信号分岐装置の伝送処理概要図次に、監視データ及び制御データの伝送処理の詳細について、現場設備における、旧TM装置から新TM装置への更新及び、現場機器の切替え手順を交えて説明する。アプリケーションソフトウェア通信処理部品HDLC TCP/IP LAPB CDT BSCOS、ミドルウェア通信ドライバ(ミドルウェア) HDLC TCP/IP LAPB CDT BSC LinuxOS図5.信号分岐装置のソフトウェア構成図また、保守性・可用性を向上させるため、通信回線インターフェースに依存する通信回線処理を通信処理部品として局所化した。これにより、アプリケーションのデータ処理部が通信種別に関係なく処理することが可能となった。(注3)ITU-T X.25の通信回線端末(DTE)と通信回線終端装置(DCE)間で行われるデータ伝送手順を制御するためのプロトコル(注4)電気学会で定められているデータ伝送プロトコル(注5)IBM社が開発したデータ伝送プロトコル(1)監視データの伝送処理監視データの伝送処理概要図を図7に示す。現場機器「機器X」の「旧TM装置(A局)」から「新TM装置(A局)」への接続切替え手順及び信号分岐装置における伝送処理について説明する。①監視データ編集定義の設定/ダウンロードメンテナンスツールで、「機器X」の監視対象TM装置の定義情報を「旧TM装置(A局)」から「新TM装置(A局)」に変更し、信号分岐装置へファイルをダウンロードする。②現場機器「機器X」の接続先切替え「機器X」の接続先を「旧TM装置(A局)」から「新TM装置(A局)」に切替える。この時、「旧TM装置(A局)」からの「機器X」の監視データは、非接続のため「欠測」となり、一方、切替え後の「新TM装置(A局)」からの「機器X」の監視データ「現状値(X)」が、信号分岐装置へ送信される。4041配水管理システムにおける信号分岐装置の開発説明する。①制御データ定義の設定/ダウンロードメンテナンスツールで、TM装置(B局)の制御権定義情報を旧システムから新システムに、また、「機器P」の対象TM装置の定義情報を「旧TM装置(B局)」から「新TM装置(B局)」に変更し、信号分岐装置へファイルをダウンロードする。②現場機器「機器P」の接続先切替え「機器P」の接続先を「旧TM装置(B局)」から「新TM装置(B局)」に切替える。③制御データ受信新システムの通信制御装置から「機器P」に対する「制御値(P)」と「機器Q」に対する「制御値(Q)」の制御データを受信する。④制御権判定制御権定義を基に、TM装置(B局)の制御権情報より新システムからの制御データを有効と判定する。判定は、新旧システムの両方から同一TM装置に制御操作が実施されない抑止機能を持っており、旧通信制御装置から制御データを受信した場合は破棄する。③監視データ受信信号分岐装置は、「旧TM装置(A局)」から専用回線(HDLC)で、「新TM装置(A局)」からTCP/IPで監視データを受信する。④監視データ編集監視データ編集定義を基に、通信制御装置向けの監視データを編集する。この場合、「機器X」は「新TM装置(A局)」の「現状値(X)」を、「機器Y」は「旧TM装置(A局)」の「現状値(Y)」で欠測を補完する。⑤フォーマット変換TM装置と通信制御装置が新旧異なる場合には、HDLC⇔TCP/IPの伝送フォーマット変換を行い、新旧両システムの通信制御装置に送信する。この様に、信号分岐装置は、新TM装置及び旧TM装置の両方から送信される監視データを、監視データ編集定義を基に編集し、中央監視設備の通信制御装置へ送信する。これにより、現場機器とTM装置との接続状態に依存することなく、新旧システムで継続的に現場機器を監視可能としている。(2)制御データの伝送処理制御データの伝送処理概要図を図8に示す。現場機器「機器P」の「旧TM装置(B局)」から「新TM装置(B局)」への接続切替え手順及び信号分岐装置における伝送処理について⑤フォーマット変換新TM装置(A局)旧TM装置(A局)TCP-IP HDLC新通信制御装置旧通信制御装置旧システム新システム信号分岐装置②接続切替監視データ機器X機器Y更新③監視データ受信TCP-IP HDLC ④監視データ編集定義ファイル信号分岐装置用メンテナンスツール①設定/ダウンロード現状値(X)現状値(Y)監視データ機器X現状値(X)機器Y欠測機器X欠測機器Y現状値(Y)機器X現状値(X)機器Y現状値(Y)機器X現状値(X)機器Y現状値(Y)機器X現状値(X)機器Y欠測機器X欠測機器Y現状値(Y)機器X現状値(X)機器Y現状値(Y)機器対象TM機器X新A局機器Y旧A局監視データ編集定義機器対象TM機器X旧A局⇒新A局機器Y旧A局監視データ編集定義図7.監視データの伝送処理の概要図③制御データ受信新TM装置(B局)旧TM装置(B局)TCP-IP HDLC新通信制御装置旧通信制御装置②接続切替制御データ機器P機器Q更新⑥フォーマット変換TCP-IP HDLC ⑤制御データ編集定義ファイルメンテナンスツール①設定/ダウンロード④制御権判定制御値(P)制御値(Q)制御データ旧システム新システム制御権定義TM装置制御権情報B局旧⇒新システム制御データ編集定義機器対象TM装置機器P旧B局⇒新B局機器Q旧B局信号分岐装置機器Q制御値(Q)機器P制御値(P)機器Q制御値(Q)機器P制御値(P)機器Q制御値(Q)機器P制御値(P)制御権定義TM装置制御権情報B局新システム制御データ編集定義機器対象TM装置機器P新B局機器Q旧B局機器Qへ機器Pへ図8.制御データの伝送処理の概要図配水管理システムにおける信号分岐装置の開発⑤制御データ編集制御データ編集定義を基に、「機器P」の制御データ「制御値(P)」を「新TM装置(B局)」に、「機器Q」の制御データ「制御値(Q)」を「旧TM装置(B局)」に振り分け送信する。⑥フォーマット変換TM装置と通信制御装置が新旧異なる場合には、HDLC⇔TCP/IPの伝送フォーマット変換を行い、TM装置に送信する。この様に、信号分岐装置は、中央監視設備の新システム及び旧システムの両方から送信される制御データを、制御権定義の判定と制御データ編集定義を基に、対象となる新旧TM装置を振り分け送信する。これにより、中央監視設備は、現場設備の接続状態に依存することなく、新旧システムからの現場機器を制御可能としている。3.4 導入による成果3.1~3.3で説明した様に、機器単位で、旧TM装置から新TM装置への切替えを可能としたことで、他の機器に影響を与えないTM装置の更新が可能となった。また、信号分岐装置を設置することで、旧システムの設備構成やソフトウェアを変更することなく、新旧両システムから新旧TM装置経由で現場機器の監視制御が可能となった。以上の様に、信号分岐装置の開発により、2.2(2)に記述の配水管理システム更新における要件を満足し、旧システムの設備構成及びソフトウェアを変更せず、かつシステム全体を停止させることなく、円滑なシステム更新を可能とした。また、新システムの操作訓練の期間を十分に確保したいとする顧客ニーズにも応えたことで、顧客満足度の向上が図れた。4.むすび本稿では、配水管理システムの新旧システム更新における、信号分岐装置について紹介した。今後も、各自治体におけるシステム更新需要は見込まれ、自治体ごとに異なる運用や移行計画に応じた製品を開発していく必要があると考えている。最後に、本開発に当たり貴重な御意見、御指導をいただいた関係者の方々に深く感謝申し上げる。