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Category:交通システム
トレインビジョンにおける運行情報の多言語化対応

トレインビジョンは、鉄道車両内のドア上やドア横に設置、または天井吊りされた複数のディスプレイ(以下、メディア表示器)を通して、行先・路線図・駅設備などの行先案内や運行情報、及び広告・ニュース・天気予報などの情報サービスを乗客に提供するシステムである。
近年、訪日外国人客が増加し、2018年には前年比約8.7%増の約3,119万人に達している。観光庁では、2020年に4,000万人の訪日外国人客数を目標に掲げ、訪日外国人客が快適に旅行できる環境整備の実施を、公共交通事業者に促している。
特に、災害時や異常発生時における列車の運行状況を、より多くの鉄道利用者に提供することは重要な課題である。そこで、トレインビジョンにおける運行情報の表示を、従来の2ヶ国語(日・英)から4ヶ国語(日・英・中・韓)に多言語化した。本稿では、トレインビジョンの概要と、今回開発した運行情報の多言語化の実現方法を紹介する。
参考情報:
トレインビジョンにおける運行情報の多言語化対応 (1)行先案内表示車上システムは、車両情報統合管理装置(注1)から受信した現在走行中の区間や行先駅などの情報を基に、行先・路線図・設備などを表示する。 1.まえがき トレインビジョンは、鉄道車両内のドア上やドア横に設置、または天井吊りされた複数のディスプレイ(以下、メディア表示器)を通して、行先・路線図・駅設備などの行先案内や運行情報、及び広告・ニュース・天気予報などの情報サービスを乗客に提供するシステムである。近年、訪日外国人客が増加し、2018年には前年比約8.7%増の約3,119万人に達している。観光庁では、2020年に4,000万人の訪日外国人客数を目標に掲げ、訪日外国人客が快適に旅行できる環境整備の実施を、公共交通事業者に促している。特に、災害時や異常発生時における列車の運行状況を、より多くの鉄道利用者に提供することは重要な課題である。そこで、トレインビジョンにおける運行情報の表示を、従来の2ヶ国語(日・英)から4ヶ国語(日・英・中・韓)に多言語化した。本稿では、トレインビジョンの概要と、今回開発した運行情報の多言語化の実現方法を紹介する。 2.トレインビジョンの概要 トレインビジョンシステムは、車上システム、運行情報配信システム、広告配信システムの3つのシステムから構成される。MCRは、全てのシステムのソフトウェア開発を担当している。1つの鉄道会社における、トレインビジョンステム全体の構成を、図1に示す。運行情報配信システム及び広告配信システムに対して、複数の車系の複数の編成が接続される。各編成には、車系ごとに異なる車上システムが搭載される。車上システムは、2016年に、ハードウェアやソフトウェアを刷新した、4世代目の車上システム開発が完了し、各鉄道会社の新規車系や機器更新車系へ展開している。トレインビジョンで表示する内容は、行先案内、情報サービス、運行情報の3つに大別される。トレインビジョンにおける表示イメージを図2に示す。行先案内表示、情報サービス表示、運行情報表示の動作概要について述べる。特集論文トレインビジョンにおける運行情報の多言語化対応伊丹事業所 技術第2部 映像情報システム課古金 達也、谷川 美沙紀運行情報配信装置広告編集装置広告配信装置運行情報入力システム低速移動体通信 高速移動体通信運行情報配信システム広告配信システム・・・・・・車系A(○○線用)車系B(□□線用)車上システムメディア表示器メディア表示器メディア中央装置・・・・・・メディア端末装置車両情報統合管理装置車両情報統合管理装置メディア端末装置・・・・・・送受信装置拡大:トレインビジョンシステムの範囲・・・・・・車上システム(車系A) 編成車上システム(車系A)車上システム(車系A)車上システム(車系B)車上システム(車系B)車上システム(車系B)図1.トレインビジョンのシステム構成(3)運行情報表示(2)情報サービス表示(広告・ニュース・天気予報など)(1)行先案内表示(行先・路線図・設備など)次は 駅名C7 号車○月△日の天気□□◇◇▽▽□△2ヶ国語表示(従来の表示)4ヶ国語表示路線Line区間Section状況Status原因Cause○○線aaa Line□□~△△bbb - ccc遅延Delay安全確認Inspection线路노선区间구간情况상황原因원인●●◆◆◆■■~▲▲◆◆-◆◆晚点지연检查점검運行情報路線Line区間Section状況Status原因Cause○○線aaa Line□□~△△bbb -ccc遅延Delay安全確認Inspection図2.トレインビジョン 表示イメージ(注1)鉄道車両搭載機器の情報を統合制御し、機器監視、制御、乗務員支援を行うシステム。7トレインビジョンにおける運行情報の多言語化対応図4に示すとおり、運行情報データを、1件ずつ運行情報配信システムから車上システムへ伝送する。従来のI/Fは、鉄道会社ごとにI/Fのフォーマットやシーケンスに多少の差異がある。また、運行情報データを1件ずつ伝送するため、車上システムで運行情報データの一部が受信できなかった場合のリカバリが必要となり、処理が複雑であった。それに対応するために、運行情報配信システム-車上システム間I/Fを、ファイル伝送方式として標準化した。図5に示すとおり、ファイル伝送方式では、運行情報配信システムで全件分の運行情報データを1つのファイルに出力し、車上システムへ配信する仕組みとした。車上システムから運行情報配信システム内の配信サーバに対して接続し、ファイルを要求する。要求を受けた運行情報配信システムは、ファイルの内容を送信する。車上システムは受信したファイルデータを、ファイルに書き込む。これにより、運行情報データのフォーマットに依存しない伝送方式を実現した。(2)運行情報データフォーマットの変更運行情報データのフォーマットは、独自のフォーマットではなく、汎用的かつ、車上システム内で使用実績のあるCSV(comma-separated values)(注2)を採用した。また、新たな言語や項目の追加や、従来の2ヶ国語表示による新フォーマットの運用を想定し、言語や項目の数を可変で記載可能とした。運行情報データに使用する文字コードは、従来のJIS-X0208(注3)が韓国語及び中国語に対応していないため、多言語に対応可能なUTF(UnicodeTransformation Format)(注4)に変更した。(2)情報サービス表示広告配信システムは、広告主から入稿されたコンテンツを基に、表示用データと放映スケジュールを作成し、高速移動体通信を用いて車上システムに配信する。車上システムは、受信した表示用データ及び放映スケジュールに基づいて表示を行う。(3)運行情報表示運行情報配信システムは、運行情報入力システムより運行情報を受信する。その後、車上システム用のフォーマットに変換し、低速移動体通信にて車上システムへ配信する。車上システム内の送受信装置は、運行情報を受信し、メディア中央装置及びメディア端末装置を経由してメディア表示器へ送信する。メディア表示器は受信した運行情報の内容を基に表示を行う。3.運行情報の多言語化対応今回、ある鉄道会社のトレインビジョンシステムのうち、運行情報配信システムと、各車系の車上システムに対して、運行情報を多言語化した。開発に当たり、トレインビジョンシステムの運行情報機能を標準化した。大きく分けて、下記3点を実施した。(1)運行情報配信システム-車上システム間インタフェース(以下、I/F)の標準化(2)運行情報配信システムの新規開発(3)車上システムの運行情報機能標準化多言語化対応後のシステム構成を図3に示す。3.1 運行情報配信システム-車上システム間I/Fの標準化運行情報配信システム-車上システム間I/Fを標準化し、将来的により多くの言語や運行情報項目を追加可能とした。以下に、従来のI/Fとの差異について述べる。(1)伝送方式の変更従来の運行情報配信システム-車上システム間I/Fでは、運行情報配信装置メディア中央装置メディア表示器メディア表示器広告編集装置広告配信装置メディア端末装置メディア端末装置・・・運行情報入力システム高速移動体通信運行情報配信システム (2) 広告配信システム(1)(3)送受信装置(変更対象外)車上システム図3.運行情報の多言語化 対応後のシステム構成運行情報配信システム車上システム(送受信装置)配信制御③ 運行情報データ(1~n件目)送信配信サーバ 運行情報取得運行情報データ(n件目)運行情報データ(1件目)・・・運行情報データ(n件目)運行情報データ(1件目)・・・① 書込み ② 読込み ④ 書込み・・・図4.従来の伝送方式運行情報配信システム車上システム(送受信装置)配信制御配信サーバ運行情報ファイル① 作成③ 読込み④ 運行情報ファイルデータ運行情報取得⑤ 書込み運行情報ファイル② ファイル要求図5.標準化した伝送方式(注2)カンマで区切ったテキストデータ(注3)情報交換用の2バイト符号化文字集合を規定する日本産業規格(JIS)(注4)文字符号化形式及び文字符号化方式8トレインビジョンにおける運行情報の多言語化対応語の追加、“言語別 運行情報テーブル”へ該当言語の各項目追加により対応が可能となった。(2)各鉄道会社に対応した設計各鉄道会社で運行情報の多言語化が見込まれており、今回開発するシステムは各鉄道会社の運行情報入力システムへの対応が要求された。そこで、別の鉄道会社に本システムを適用する際に、運行情報配信システムのソフトウェアの変更範囲が小さく、流用や改造が容易な設計とした。具体的には、図7に示すとおり、運行情報入力システムに依存する範囲と依存しない範囲に機能分割した。今後、別の鉄道会社に本システムを適用する際は、運行情報入力システムに依存する“運行情報データ変換”の機能をソフトウェア変更対象とし、それ以外は変更不要とした。(3)OSに依存しないシステム開発従来の運行情報配信システムでは、OSにWindowsのみを採用しているが、将来的にOSに依存しないシステムへ移行したいという要求があった。ただし、一般的にWindowsから他のOSへ移行するには、移行期間を要し、その間は両方のOSで動作するシステムの開発が必要である。そのため、開発言語にはOSに依存しないJavaを採用した。3.3 車上システムの運行情報機能標準化今回、運行情報配信システムを新規投入する鉄道会社の各車系の車上システムに対して、多言語化対応を完了した。また、ある鉄道会社の1つの車系に対して、新規運行情報配信システムへの置き換えに備え、標準化した運行情報機能を車上システムに適用した。車上システムの多言語化及び、標準化した運行情報機能の適用について説明する。(1)車上システムの多言語化従来の車上システムの運行情報の機能構成を図8に示す。送受信装置で、運行情報配信システムから従来フォーマットの運行情報データを取得する。メディア表示器で、運行情報ファイルの内容に従い運行情報を表示する。(3)通信媒体の変更従来、広告の配信に比べてリアルタイム性の高い運行情報の配信には、圏内エリアが広範な低速移動体通信を使用し、リアルタイム性の低い広告の配信には、圏内エリアが限定される高速移動体通信をそれぞれ使用していた。近年、高速移動体通信の圏内エリアが拡大したことにより、低速移動体通信を使用する利点が減少している。今回、運行情報の配信は、将来的な伝送データの増大を想定し、広告と同じく高速移動体通信が採用された。車上システムにおける通信媒体を1種類に集約したことで、移動体通信の処理を簡素化した。3.2 運行情報配信システムの新規開発多言語化対応に伴い、運行情報配信システムは、下記3点を重視し、新規にソフトウェアを開発した。(1)将来的な拡張性を考慮した設計従来の運行情報配信システムは、2ヶ国語のみの運行情報を想定した設計となっていた。今回、多言語化で要求された運行情報の言語は4ヶ国語であるが、より多くの言語への対応が可能となるようにデータ管理を検討した。運行情報配信システムは、運行情報入力システムから受信した運行情報データを、データベースに登録して管理している。運行情報入力システムから受信する運行情報の項目は、路線名などの言語に依存する項目と、発生時刻などの言語に依存しない項目に分類できる。従来、全項目を1つのテーブルで管理していたが、運行情報の多言語化に伴い、新たに“言語テーブル”を定義し、言語種別で各言語を管理する。また、図6のように、言語に依存しない項目は、“言語共通 運行情報テーブル”で管理し、言語に依存する項目は、“言語別 運行情報テーブル”に“言語テーブル”の言語種別を関連させ、管理する。上記のデータ管理方法により、言語の種類が増えた場合は、テーブル構成は変更せずに、“言語テーブル”へ言図6.運行情報の各項目のデータ管理方法図7.運行情報配信システムの機能構成図9トレインビジョンにおける運行情報の多言語化対応4.今後の展開今回の開発では、1つの鉄道会社の運行情報配信システムと、その鉄道会社の各車系の車上システムに対して、運行情報機能の標準化を行い、多言語化を実現した。また、ある鉄道会社の1つの車系に対して、新規運行情報配信システムへの置き換えに備え、標準化した運行情報機能を車上システムに適用した。今後は、各鉄道会社のトレインビジョンシステムに対して、運行情報多言語化及び標準化した運行情報機能を適用する。5.むすび運行情報の多言語化により、訪日外国人乗客は、運行状況をタイムリーに把握し、自身で乗換えや振替輸送を利用できる。鉄道会社にとっても、駅乗務員の外国人旅行者対応の負担軽減が見込まれる。トレインビジョンはサービス機器として、現状でとどまらず、日々進化するべきシステムである。今後も、社会インフラに貢献する製品の実現を目指してトレインビジョンの開発を継続する。最後に本開発に際して貴重な御意見や御支援、御協力いただいた社内外の関係各位に深く感謝を申し上げる。多言語化対応の機能構成を図9に示す。送受信装置で、運行情報配信システムから標準フォーマットの運行情報データが記載された運行情報ファイルを取得する。メディア表示器で、運行情報ファイルの内容に従い運行情報を表示する。(2)標準化した運行情報機能の適用標準化した運行情報機能適用後の機能構成を図10に示す。送受信装置で、運行情報配信システムから従来フォーマットの運行情報データを取得し、標準フォーマットに変換して運行情報ファイルを作成する。メディア表示器で、運行情報ファイルの内容に従い運行情報を表示する。これにより、運行情報配信システムの新旧に依存せず、車上システムの運行情報機能を共通化できた。運行情報路線Line区間Section状況Status原因Cause○○線aaa Line□□~△△bbb -ccc遅延Delay安全確認Inspection図8.従来車上システム 機能構成図9.多言語化車上システム 機能構成運行情報路線Line区間Section状況Status原因Cause○○線aaa Line□□~△△bbb -ccc遅延Delay安全確認Inspection図10.従来の第4世代車上システム 機能構成執筆者紹介古金 達也 フルカネ タツヤ2012年入社。主にトレインビジョンのソフトウェア開発に従事。現在、伊丹事業所技術第2部映像情報システム課。谷川 美沙紀 タニガワ ミサキ2011年入社。主にトレインビジョンのソフトウェア開発に従事。現在、伊丹事業所技術第2部映像情報システム課。