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Category:カーエレクトロニクス

車載用Head-up Displayのソフトウェア開発

車載用Head-up Displayのソフトウェア開発

近年、自動車へのカーナビゲーションシステム(以下、ナビ)の装着が進んでいる。特に標準装着のナビにおいては車両毎に最適な位置にナビ画面が取り付けられるようになったことで、運転者が画面を確認するための視線移動が小さくなるよう配慮されている。しかし、ディーラーオプションや市販品など後付けのナビでは運転者の視線移動が大きくなる場合もあり、運転時の安全面に懸念が生じている。運転者がナビの画面を見なくとも進行方向に誘導する音声案内機能も標準化されつつあるが、画面に表示される案内図などを直接視認したい場合は、視線の移動は避けられない。そこで、運転者が前方から視線を外さずに案内図などを確認するための手段として、車載用Head-up Display(以下、HUD)を開発した(図1)。HUDは、ユーザーの視線移動を低減できることから安全・安心に関わる表示機として注目されている。また標準装着ナビにおいても、今よりもさらに視線移動を少なくできるため、将来的にはカーメーカへの直納化も期待できる。三菱電機(株)三田製作所でも、2016年度の国内市販をターゲットにHUDの開発が行われ、当所はそのソフトウェア開発を担当した。本稿では、HUDを構成する技術要素と、それらを制御するソフトウェアの仕組みを紹介する。

車載用Head-up Displayのソフトウェア開発[PDFファイル]

参考情報:

  • この技術レポートは、当社が展開する自動車機器事業のカーエレクトロニクスソリューションに係る技術について著述されたものです。
  • カーエレクトロニクスソリューションは、姫路事業所三田事業所が提供しています。
車載用Head-up Displayのソフトウェア開発
1.まえがき
近年、自動車へのカーナビゲーションシステム(以下、ナビ)の装着が進んでいる。特に標準装着のナビにおいては車両毎に最適な位置にナビ画面が取り付けられるようになったことで、運転者が画面を確認するための視線移動が小さくなるよう配慮されている。しかし、ディーラーオプションや市販品など後付けのナビでは運転者の視線移動が大きくなる場合もあり、運転時の安全面に懸念が生じている。運転者がナビの画面を見なくとも進行方向に誘導する音声案内機能も標準化されつつあるが、画面に表示される案内図などを直接視認したい場合は、視線の移動は避けられない。そこで、運転者が前方から視線を外さずに案内図などを確認するための手段として、車載用Head-up Display(以下、HUD)を開発した(図1)。HUDは、ユーザーの視線移動を低減できることから安全・安心に関わる表示機として注目されている。また標準装着ナビにおいても、今よりもさらに視線移動を少なくできるため、将来的にはカーメーカへの直納化も期待できる。三菱電機(株)三田製作所でも、2016年度の国内市販をターゲットにHUDの開発が行われ、当所はそのソフトウェア開発を担当した。本稿では、HUDを構成する技術要素と、それらを制御するソフトウェアの仕組みを紹介する。
2.製品概要
HUDは、ルート案内時の交差点での割込み表示や高速道路の分岐、合流などの情報を表示する。ナビから一定周期で受信した画像を半透明の凹面スクリーン(以下コンバイナー)に投影することで、画像が運転者の視線前方に外の風景と重なるように表示され、運転者は小さい視線移動でナビに表示される情報を見ることができる(図2、図3)。一般論文車載用Head-up Displayのソフトウェア開発三田事業所 開発部 開発第1課木本 輝図1.HUD外観図2.画面表示イメージ図3.画面表示の仕組み78車載用Head-up Displayのソフトウェア開発3.システム構成HUDのシステム構成を図4に示す。HUDは、市販の三菱電機製ナビにオプション装着される。このナビには同じく三菱電機製のETC車載器が装着でき、USBの分岐ボックスを使用して接続する(図4)。ETC車載器との連携により、信号情報活用運転支援システムを利用した赤信号減速支援(図5)や赤信号残時間(図6)をHUD上に表示する。ナビ/HUD間は、USB通信により画像データや各種制御コマンドを送受信する。ナビがETC車載器から受け取った赤信号情報を、画像データとしてHUDへ転送する。4.HUD機能HUD機能は、以下の3つで構成されている。◦USB通信機能◦画面表示機能◦輝度調整機能4.1 USB通信機能HUDは、ナビとUSB接続され、制御コマンドと、HUDが表示する画像データの受信を行う。制御コマンドは、ナビからのHUD画面ON・OFF切り替えや明るさ設定などを行う。画像データはナビで生成され、HUDはナビで生成された画像データを受信し画面表示する。通信の概要を図7に示す。本製品は、IPv4で通信を行うため、ISO13400-2(注1)を一部拡張して利用した。拡張部では、初期接続、データ送受信、通信接続確認の機能を新たに設けた。画像データの転送には、ARIB STD T110(注2)のプッシュ型情報配信アプリケーションのコマンドを利用した。図8に本製品で扱う画像データと制御コマンドのフォーマットを示す。送信したいデータ実体に、各フォーマットのヘッダを付与し、通信データとして構築する。受信時は、各ヘッダを解析し、データ実体を取得する。また、画像データは制御コマンドと比べてデータ量が多いため、ITU-Tx.691(注3)のOctet String形式でデータを変換して送受信を行う(図9)。(注1)Diagnostic communication over Internet Protocol(DoIP)-- Part 2:Transport protocol and network layer servicesの国際規格。(注2)一般社団法人電波産業会が定めたDSRC基本アプリケーションインターフェイス。(注3)ITU(国際通信連合)の電気通信標準化部門が定めたエンコーディング規則。図4.システム構成図図5.赤信号減速支援図6.赤信号残時間表示図7.通信の概要79車載用Head-up Displayのソフトウェア開発4.2 画面表示機能HUDは大きく分けて以下の2種類の画面を表示する。◦ナビから受信するルート案内などの情報を表示する画面◦ナビの状態に因らず固定で表示する画面(オープニング画面など)(1)受信データの表示ナビのルート案内や高速道路の分岐情報は、ナビ上で一枚のJPEG画像として、HUDに送信される(図10)。HUDは、受信したJPEG画像をバイナリデータに変換して液晶ディスプレイに表示し、コンバイナーに投影することで画面表示を行う(図11)。(2)固定画面の表示起動時のオープニング画面や、ナビとの接続不良時の警告画面などの固定画面は、画像データをHUDの内部メモリにバイナリ形式で保持しており、HUD単体で画面表示する。内部メモリの画像データを展開し、画面を表示する(図12、図13)。図8.通信データのフォーマット図9.Octet String形式のデータフォーマット図10.ナビからの受信データ表示図11.受信データ表示例(ルート案内)図12.固定画面表示80車載用Head-up Displayのソフトウェア開発4.3 輝度調整機能(1)照度センサのゲインモード切り替えHUDは、外光照度を適切に画面輝度に反映するため、周りの明るさに応じて照度センサの感度を調整するゲインモードを切り替える(図14)。トンネルの中や夜間走行中など、周囲が暗い場合は、ゲインモードをHighに設定し、細やかな照度の変化にも追従できるよう設定する。逆に、昼間の晴天時など、周囲が明るい状況では、ゲインモードをMiddleまたはLowに設定し、微細な照度の変化は検知しないようにする。また、ゲインモード毎に周囲照度の変化に対して輝度変化をどれだけ行うか設定する。これにより、細やかな照度変化に対する輝度の追従と、周囲照度の微細な変化を過剰に検知することによる画面のちらつき防止を両立した。(2)輝度調整HUDは、画面を運転者の視線前方に投影するという特性上、画面の見やすさが外光照度に大きく影響される。本製品では、自動調光と手動調光の2つの調光機能でユーザーにとって最適な輝度で画面表示を行う。自動調光は、照度センサから取得した照度から、適切な画面輝度となるよう自動で調整する機能である。取得した照度は、照度センサのゲインモード毎にレベルを判定し、当該レベルに応じた明るさで画面出力するよう設定する。手動調光は、ナビ上の操作で画面輝度を段階的に調整できる機能である。ユーザーが設定した値は、制御コマンドとしてナビからHUDに通知され、HUDは設定値に応じて画面輝度を変化させる。実動作では、自動調光と手動調光を組み合わせて最適な明るさになるよう調整する。また、急激に画面の明るさが変わることを防ぐため、緩やかに輝度を変化させるディマー制御を行う。(3)温度による輝度抑制HUDは、外光が明るい場合でも視認性を保つため高出力でLEDを点灯する。また車のダッシュボード上に設置されるため直射日光にさらされるという2点から、本体が高温になりやすい。高温時にも安定して画面表示を続けるため、本体温度に応じた輝度の抑制機能を備える(図15)。5.むすび今後、HUDが市場で広く普及するためには、表示コンテンツの充実が不可欠である。また、より高精細な画像データの追加等、情報量の増加に伴って高速伝送などソフトウェアに求められる処理性能が高くなることが予測されるため、高速大容量通信技術を確立することが今後の課題である。今回のHUD開発に際し、多くの助力をいただいた三菱電機(株)三田製作所はじめ関係各位に深く感謝を申し上げる。図13.固定画面表示例(オープニング)図14.ゲインモード切り替え時の出力図15.温度による輝度抑制イメージ執筆者紹介木本 輝 キモト アキラ2011年入社。主に車載モニタ製品のソフトウェア開発に従事。現在、三田事業所開発部開発第一課。