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2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

衛星画像ノイズ補正システムの開発により
気象衛星「ひまわり」の画像品質向上に貢献

ひまわり9号衛星画像のノイズ補正と品質向上

静止気象衛星として天気予報や気候変動などの監視・予測に欠かせない「ひまわり9号」。ひまわり9号から送られてくる画像の画質は、地球環境の監視・予測に大きな影響を及ぼします。そこで、三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、三菱電機株式会社(三菱電機)や気象庁/気象衛星センターと共同で衛星画像のノイズを補正するシステムを開発しました。ノイズ補正システムは、気象庁が保有する画像処理地上システムに実装され、画像データの処理に活用されています。

  • ■國宗 智寛(クニムネ トモヒロ)

    2017年入社。人工衛星の光学センサシステムに関する設計解析業務に従事。現在、電子システム事業統括部 鎌倉事業所 宇宙システム第三部 第2課

観測データのノイズを軽減するシステムを
気象庁/気象衛星センターなどと共同で開発

「ひまわり9号」は、2016年11月2日に打ち上げられた日本の静止気象衛星です。2014年10月7日に打ち上げられた「ひまわり8号」の待機衛星(バックアップ機)として、2017年3月より運用を開始しました。ひまわり8号・9号の2機体制による観測運用は2030年度まで行う計画で、2022年12月にひまわり9号がメインの観測衛星となり、ひまわり8号が待機衛星と役割を変更しました。

ひまわり8号・9号は、地球で暮らす人々の生活にとって重要な存在で、日本の気象観測を担うだけでなく、アジア・太平洋の30以上の国や地域に観測データを提供しています。電子システム事業統括部 鎌倉事業所 宇宙システム第三部 第2課の國宗智寛氏は次のように語ります。

「ひまわり9号は、多くの国を自然災害から守る一翼を担っています。海洋や砂漠、山岳地帯を含む広い地域の雲、水蒸気、海氷などの分布を観測し、地球全体の気象・気候を監視しています。特に海洋上の台風監視では、台風追跡画像の配信によりリアルタイムに近い台風情報の提供を可能にしています」

ひまわり9号の観測画像には、東西方向に筋が伸びるように見えるノイズ(これをストライプノイズと呼ぶ)が発生する場合があり、このノイズは画質の低下を招きます。そこで、MESWはひまわり9号のストライプノイズを軽減する補正システムを、衛星の製造元である三菱電機や衛星の運用・管理を行う気象庁/気象衛星センターと共同で開発しました。

ひまわり9号には、「可視赤外放射計(AHI)」と呼ばれる気象観測センサを搭載し、人の目で見える可視画像から、目には見えない近赤外画像や赤外画像までを撮影することで、植生、雲、水蒸気、海面水温などのデータを幅広く取得しています。AHIの検出器には地球の南北方向に向かって検出素子が並べられ、スキャナを用いて地球を撮像します。AHIは、地球を含む領域を南北方向に23分割し、それぞれ西から東に向かって走査鏡を走査することで地球をスキャンしています。地球画像は23分割で撮影された23枚の画像データを結合することで1枚の画像として生成されます(図1)。ひまわり9号から見える地球全体の観測画像(フルディスク画像)は10分ごとに観測され、西端はインドやスリランカ、東端はハワイまでが含まれます。

図1. 画像データ結合のイメージ
図1. 画像データ結合のイメージ

AHIが搭載している検出素子(画素)は、一つひとつ感度校正が行われ、検出素子間の感度の違いを補正しています。しかし、感度補正がしきれないまま残ってしまったわずかな誤差は、東西方向の縞模様の画像として現れることがあり、これがストライプノイズの原因となります。

「この縞模様は南北方向に隣接する各検出素子間の相対的な感度補正誤差の影響によるもので、AHIが東西方向にスキャンを行っている関係上、東西方向に向かって筋のようなノイズが発生します。ストライプノイズは画像の鮮明さを損なう要因となり、品質の低下を招きます。そこで、MESWは三菱電機の依頼を受けてストライプノイズを補正するシステムを開発し、画像品質の向上を図りました」(國宗氏)

画像処理地上システムに適用し
2024年度より運用を開始

2023年から2024年にかけて実施した衛星画像ノイズ補正システムの開発は、①評価用画像観測フェーズ、②取得データ解析フェーズ、③補正システム設計・評価フェーズ、④補正システム実装フェーズの4ステップで実施しました(図2)。

図2. 衛星画像ノイズ補正システム開発の概要
図2. 衛星画像ノイズ補正システム開発の概要

①評価用画像観測フェーズは、MESW、三菱電機、気象庁/気象衛星センターが共同で実施しました。評価に必要な画像データの検討から、評価に必要な画像データを取得するための観測スケジュールの計画、評価用画像データを衛星で実際に観測する作業までを行っています。
「まずはどのような画像が必要か、そのデータを取得する時間、場所などを検討したうえで、評価用画像データをスケジュールに沿って取得しました」(國宗氏)

②取得データ解析フェーズは、MESWが単独で行い、取得した評価用データの品質や特性を確認しました。

③補正システム設計・評価フェーズは、再びMESW、三菱電機、気象庁/気象衛星センターが共同で実施しました。MESWが構築した補正システムの効果を、気象庁/気象衛星センターがひまわり画像データを使用して検証しています。
「私たちは気象衛星センター様から評価結果をフィードバックしていただきながら、改善・ブラッシュアップを重ねていきました」(國宗氏)

④補正システム実装フェーズでは、気象衛星センターが画像処理地上システムに補正システムを適用し、運用を開始しました。その結果、ストライプノイズは軽減され、フルディスク画像も鮮明に見えるようになりました。
図3はストライプノイズの改善例です。可視帯域のバンド帯におけるフルディスク画像に対して、雲域周辺を抽出・強調したものです。暖色系は厚い雲域、寒色系は薄い雲域や海面を表しています。補正後の画像では、黄色から赤色で表示されている雲域の縞模様が補正前と比べて軽減していることが確認できます。

図3. ストライプノイズの改善例
図3. ストライプノイズの改善例
(画像提供元:気象庁/気象衛星センター[*1])

ハードウェア特性を考慮した技術を適用し
画像品質の向上を実現

画像品質向上の手段としてノイズを補正する技術は、様々なものが研究・提案されています。しかし、それらの技術が衛星画像に対して必ずしも効果を発揮するとは限りません。今回の案件では、MESWのソフトウェア技術を駆使して画像データを解析・分析し、光学センサ装置のハードウェアの特性を解析してその特性にあった方法を適用したことで、画像品質の向上を実現しました。

國宗氏が所属する宇宙システム第三部には、光学センサ装置の設計解析・評価やデータ処理に関するノウハウが蓄積されています。このノウハウは、ソフトウェアの観点からだけではなくハードウェアの観点からも課題解決につながることがあり、衛星画像ノイズ補正システムの開発は、MESWの技術力の高さを裏付けています。

「システム開発当初は既存の技術をベースに開発を計画していました。しかし、システムの実用化を進めていく中で、画像データにおける特定の条件下では画質向上の効果が想定どおりに得られず、実装上の課題が残りました。最終的にはこの課題を解決し、補正システムの実装を実現することができましたが、MESWがこれまでに培ってきた画像評価に関するソフトウェア力と、“必ず実用化する”といった揺るぎない信念、決してあきらめない粘り強さが必要不可欠だったと考えています」(國宗氏)

気候分析や防災などに役立つ衛星画像の
品質維持を担うことが仕事のやりがい

今回の衛星画像ノイズ補正システムの開発は、MESWからは國宗氏が主担当として参画し、三菱電機、気象庁/気象衛星センターと連携してプロジェクトを進めてきました。衛星画像の解析システムの開発に関わる現在の國宗氏にとって、「気象・気候分析や防災などで役立っている衛星画像の品質維持を担っている点がやりがいにつながっている」といいます。

「衛星画像処理システムは、衛星画像の品質を担保するための重要なシステムの一つです。自分が開発に携わったシステムがより高品質な衛星画像の実現に貢献し、その成果が画像として目で確認できる点において、達成感を得ることができました。ひまわり9号は、日々の天気予報でも欠かせないもので、近年の台風や豪雨でも注目を集めています。日常生活に貢献しているだけに達成した時の喜びややりがいもひとしおです」(國宗氏)

開発プロジェクトでは、気象庁や気象衛星センターの担当者と話す機会も多く、気象関連の知識やひまわり9号の気象観測センサに関する知識など全般的な知識も求められますが、日々の勉強を重ねることが学びを深めていきました。

「私自身、学生時代に打ち込んだ専門領域を高めてきたことが、現在につながっています。異なるジャンルに携わることになったとしても、これまでに身につけた学びの方法や情報整理の方法は必ず役立つと思います。また、宇宙開発、衛星開発技術の最新の動向を追うためにも、専門書や論文を読んで調査する力があると開発業務の支えになると思います」(國宗氏)

衛星画像品質向上のソリューションを
より多くのお客様に提供

MESWが開発した衛星画像ノイズ補正システムは、気象衛星センターによる運用フェーズに入り、MESWからは手が離れていますが、今後もこれまで開発してきたリモートセンシング画像処理技術を活かした衛星画像品質向上のソリューションをより多くのお客様に提供し、システムの適用先を拡大していく構想です。

「気象庁様や国内の気象情報会社だけでなく、世界の気象情報会社も視野に、データ処理や画像処理の技術を展開していきたいと思います。災害対策や環境保護などの様々な用途で衛星画像が利用される今の時代において、私たちが提供するサービスが衛星画像の品質向上の支えとなることで、人々の暮らしと安全を守ることに少しでも貢献できればと考えています」(國宗氏)

【参考資料】