2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)
ゲノムデータ解析技術でがん医療現場を支援
全国の40を超える病院や医療センターで
サービスを提供
がん遺伝子解析サービスPleSSision検査
がんは日本人の死因の第1位
がん医療は日本において最も重要な課題の一つ
厚生労働省の統計では、がんは、1981年から現在まで40年以上連続で日本人の死因の第1位となっており、2023年には約38万人が亡くなっています。国立がん研究センターの2021年の統計では、生涯でがんに罹患する確率は、男性63.3%、女性50.8%とされており、日本人の2人に1人が生涯で一度はがんに罹患する可能性があります。今後もがん患者は増加すると予測されており、がん医療は日本において最も重要な課題の一つとなっています。この課題に対して、検診による早期発見とゲノム解析に代表される医療技術・創薬の目覚ましい進歩が、がん患者の生存率の向上へ導いています。
MESWでのがん遺伝子解析サービス提供の経緯を、電子システム事業統括部 通信機事業所 バイオインフォマティクス部 第一課の岡田千尋氏は「MESWは、2014年よりiPS細胞の安全性評価のゲノム解析に関わり、その技術を応用して2016年から、がんゲノム検査に適用したがん遺伝子解析サービス PleSSision検査の提供を開始しました」と語ります。
がんの原因は遺伝子の変異
ヒトのゲノム約30億塩基から数百遺伝子に絞るがん遺伝子解析
がんは遺伝子が傷つくことによっておこる病気で、がんが発生する場合、最初に遺伝子の変異が生じます。図1は大腸がんを例にしたがん発生のメカニズムです。大腸の粘膜細胞は10日で入れ替わるとされており、その新陳代謝の中でがん細胞の異常増殖や転移に関与する遺伝子変異(ドライバー変異)が増加することで、がん(悪性腫瘍)が発生します。
ヒトの体細胞には、23本が2対、計46本の染色体が存在します。染色体に含まれているすべての遺伝子と遺伝情報のことをゲノムといい、ヒトのゲノムを構成するDNA配列は塩基数で約30億となります。遺伝子はゲノムのうちタンパク質をコードする特定のDNA領域のことを指し、ヒトではゲノム全体の1%程度の領域で、遺伝子数としておよそ2万数千になります。遺伝子解析では、全ゲノムを読むのではなく、この遺伝子領域のみを解析対象としており、またがん遺伝子解析では、がんとの関係が分かっている数百遺伝子にさらに対象を絞って解析を行います。
がん遺伝子解析がもたらす精度の高い治療
MESWのがん遺伝子の解析サービスPleSSision検査
従来のがん治療は、肺がん、乳がん、胃がんといった臓器別に効果を持つとされる薬剤を用いていました。現在では、特定遺伝子変異を持つがん細胞だけを攻撃するように設計された薬(分子標的薬)が数多く開発されています。中には、免疫細胞にがん細胞への攻撃を促す保険適用の分子標的薬も登場しています。そうした薬が使えるかどうかを調べるために、次世代シーケンサ(NGS)を用いて患者の方の遺伝子を網羅的に解析します。対応する治療薬が存在する遺伝子の異常を見つけた場合は、分子標的薬の効果が見込めます。がん遺伝子解析により、患者の方個人のドライバー変異に対する精度の高い治療を行うことができます。
MESWが提供するPleSSision検査の概要を図2に示します。
「がん遺伝子解析では、まず病院側で患者の方への説明と検体採取を行っていただきます。次に検体から(1)DNA抽出とシークエンスを行い、得られたシークエンスデータから(2)解析パイプライン(標準配列と比較してがん特有の遺伝子変異や構造異常を検出・同定するための一連のワークフロー)を行います。そして解析結果の確認とレポート作成を行ったのちに、(3)病院側と合同でエキスパートパネルというWeb会議を行い解析結果の共有(薬の候補の説明など)を行います。エキスパートパネルでは、解析を担当したMESWエンジニアが技術的な質問にお答えし、医師の方々が患者の方の状態とか治療歴も配慮して使用する治療薬を臨床的に解釈されることになります。最後にレポートを返却して病院側で患者の方への説明を行っていただき、遺伝子変異を元にした投薬も行うことになります。MESWが提供するPleSSision検査は、(1)DNA抽出から(2)解析、レポート作成と(3)エキスパートパネルの実施までの部分になります。それ以外の部分については依頼元の病院で実施していただきます」(岡田氏)
常に新しい解析技術や治療薬に対応
万全のプライバシー保護対策も
岡田氏は、がん遺伝子解析サービスを進める上での留意点を次のように話します。
「実際の患者の方の治療に結び付く可能性のある解析サービスなので、解析の際に有用な変異の見落としが無いよう常に新しい知見を集めて情報を更新していかなければなりません。がん遺伝子解析の分野自体が最先端の研究で、成長中の領域です。次々と新しい解析技術や治療薬が出てくるため、私たちもそれにしっかり追従することに注力しています」
最新の情報は、新しい論文や学会報告から収集することになります。最新の情報をPleSSision検査の依頼元の医師の方から教えていただくこともあります。これまで治療に結びつくかどうかがわからなかった変異も、研究の進展によって、適合する分子標的薬が見つかる場合もあるとのことです。
また、患者の方の個人情報に直接関わることが多いので、プライバシー情報のセキュリティに対しては特に配慮しています。
「ゲノムというのは究極のプライバシー情報と言われることもあります。家族性腫瘍症候群という遺伝性の体質があります。遺伝性がんの情報は患者の方に留まらず、家族の方にも関わる極めて機微なプライバシー情報のため、特に慎重に取り扱っています」(岡田氏)
共同研究パートナーとしてネットワークを構築
より多くの患者の方の利用に向けてMESWはがん医療現場に貢献
現在、PleSSision検査は、慶應義塾大学病院様をはじめとする全国の40を超える大手病院や医療センターで、各種がん遺伝子検査を実施し、共同研究パートナーとしてネットワークを構築しています。
「将来的にはPleSSision検査を保険診療で受けられるようにしていきたいと考えています」(岡田氏)
より多くのがん患者の方への利用に向けて、MESWは引き続き、がん医療現場に貢献して参ります。
商標について
- ・PleSSisionは三菱電機ソフトウエア株式会社の登録商標です。