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2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

二輪車のスマート化を支える
ボディ制御ECUを開発し
ライダーのきめ細かな嗜好に対応

二輪車向けBCMシステムの開発

ウインカーやシートヒータ、スマートキーなど、最新の二輪車には数多くの電子制御機能が搭載されています。これらの機能を効率的に制御するための「頭脳」となるのが、ボディ制御ECU(Electronic Control Unit)です。三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)では、三菱電機モビリティ株式会社製の二輪車製品メーカー向け統合型ボディ制御システムBCM(Body Control Module)に搭載されるソフトウェアを開発し、安全性と快適性の向上に貢献しています。

  • ■清岡 万之(キヨオカ カズユキ)

    1990年入社。通信系システムやカーナビシステム関連の業務を経験後、二輪向けのボディ制御ECUソフトウェアの開発に従事。モビリティ事業統括部 姫路事業所 パワートレイン技術部 パワートレイン技術4課

  • ■森本 理沙(モリモト リサ)

    2020年入社。四輪系システムのソフトウェア開発を経験し、二輪向けのボディ制御ECUの開発に従事。モビリティ事業統括部 姫路事業所 パワートレイン技術部 パワートレイン技術4課

移動手段を超えた二輪車制御
~趣味性重視がもたらす技術的挑戦~

MESWが開発を手がける二輪向けボディ制御ECU(以下、BCM)は、70×90×27mmのコンパクトなサイズに高度な制御機能を集約した統合型の制御ユニットです(図1)。ハンドルスイッチやウインカー、シートヒータなどのボディ系信号をCAN(Controller Area Network)バスと呼ばれる自動車業界標準の通信ネットワークを使用して統合し、複数のECU間でリアルタイムにデータを送受信できる仕組みを構築しています。また、小型・軽量化を実現しながら、スマートエントリーシステムとの連携や防水構造を備え、二輪車製品の厳しい使用環境に対応しています。

図1. 二輪向けボディ制御ECUの概要

(※三菱電機モビリティ株式会社ホームページより引用)

図1. 二輪向けボディ制御ECUの概要

二輪車の電子制御技術は近年、大きな転換期を迎えています。モビリティ事業統括部 姫路事業所 パワートレイン技術部 パワートレイン技術4課の清岡万之氏が所属するBCM開発プロジェクトが発足したのは2018年で、この頃から業界全体で従来のエンジン制御中心からボディ制御に移行が進んでいる状況にありました。

従来の制御では、燃料噴射や点火タイミング、アイドリング制御などを管理し、主に燃費向上や排ガス削減を目的としていました。しかし現在では、ライダーの安全性、操作性、快適性を向上させるボディ制御が主要な技術課題となっています。また、機能安全やサイバーセキュリティの対応という要求も出てきています。

さらに、二輪車特有の要件もあります。清岡氏は「四輪車は移動手段である要素が強いのに対して、二輪車はライダーの快適性や、趣味・嗜好が重視される傾向にあります」と語ります。高速走行時の風圧軽減のための風防自動制御、ウイリー(前輪持ち上がり)防止制御、さらにはライダーが体感するエンジンの鼓動感を演出する調整まで、多岐にわたる制御が求められています。

また、二輪車は四輪車に比べると多品種少量生産になっており、スポーツバイクからクルーザー、オフロードバイクまでバラエティに富んだ機種が存在します。それぞれのライダーの嗜好や用途に合わせた多様な制御要求に対応することも、開発における重要な開発要素となっています。

分散制御から統合制御へ
~BCMがもたらす開発効率化~

従来の二輪車制御システムでは、ハンドルスイッチ、ウインカー、シートヒータなどの制御機能がFI-ECU(燃料噴射制御)、ABS-ECU(アンチロックブレーキ制御)、メータなど複数のユニットに分散配置されていました。

MESWがソフトウェア開発に参画しているBCMシステムは、従来の分散型制御が抱える課題を解決するために、統合的なアプローチを採用した製品です。 図2に示すように、BCMがハンドルスイッチやウインカー、シートヒータ、燃料タンクキャップの開閉スイッチなどの各種ボディ系機能を直接制御する一方、FI-ECU(燃料噴射制御)やスマートエントリーシステム、メータなどの他の制御装置とはCANバス通信(車載ネットワーク)で連携する設計としています。なお、BCMは、スマートエントリーシステムと連携して、ハンドルロックの解除やラゲッジの開閉に認証機能を付加し、セキュリティ面での重要な役割も果たしています。

図2. 二輪向けボディ制御ECU(BCM)および関係装置のシステム構成イメージ
図2. 二輪向けボディ制御ECU(BCM)および関係装置のシステム構成イメージ

分散制御の課題は、開発効率にもありました。清岡氏は「何か新しい機能を追加しようとしたときに、各ユニットの基板を変更して調整する必要があり、開発効率に課題がありました」と以前を振り返ります。BCMシステムでは、ボディ系の制御入出力をBCMに集約し、接続する機器を標準化しながら、新しい機能はBCMのアップデートで対応することで、他の機器のバージョンアップが不要となり、開発効率の大幅な向上を実現しています。

図3. 従来システム(ボディ制御統合機能無し)とBCMを搭載した統合システムとの比較
図3. 従来システム(ボディ制御統合機能無し)とBCMを搭載した統合システムとの比較

二輪車機器用のBCMは、四輪車以上に過酷な環境条件に対応する必要があります。清岡氏は「BCMユニット構造においては、水が侵入するような空洞が生じないように、隙間には樹脂を充填し、浸水を防ぐ工夫がされています」と防水構造について説明します。 また、小型・軽量化について清岡氏は「回路を多層化することや複雑な機能を一つのチップに集約するなどして、部品点数を減らすことでサイズを小さくし、重量を軽減するなどの工夫がされています」と語ります。

品質面では、ハードウェア開発チームとの連携も重要です。清岡氏は「ハードウェア開発チームでは、耐熱試験や振動試験など、様々な試験を行いますが、私たちはそのテストのためのプログラムも開発しています」と、BCMそのものだけではない、ソフトウェアチームとしての貢献について説明します。

快適性や安全性を追求できる
企画提案から開発、完成までの一貫体制

ソフトウェアチーム自身でも、開発したシステムの試験を行います。なかでも技術的な難易度が高いのが、ウインカー制御の実装です。清岡氏は「日本の場合、道路運送車両の保安基準に関わる部分で、点滅時間や周期などが明確に定められていますので、細心の注意をして開発しなければなりません」と、法規要件への適合の重要性を強調します。

実際の制御ロジックは単純ではありません。通常の方向指示、ハザード点滅、短押し時の3回点滅、リモコンキー連動のアンサーバック機能など要求、複数の動作モードが存在するためです。

モビリティ事業統括部 姫路事業所 パワートレイン技術部 パワートレイン技術4課の森本理沙氏は「ウインカーには多くの動作パターンがあり、それぞれ優先順位が異なるため、動作パターンの網羅試験には十分時間をかけて実施しています」と、品質確保のための検証工程の複雑さを語ります。

MESWの技術的優位性は、このような複雑な要求に対応する効率的なソフトウェアアーキテクチャにあります。清岡氏は、「機能ごとに部品化して実装をしやすいように、インタフェースをうまく整理しています。これにより、改修によって既存のところにできるだけ影響のないようなソフトウェアの構成にしています」と話します。

ソフトウェア設計だけでなく、要求分析から製品完成まで一貫して対応できる点もMESWの強みです。清岡氏は「ありがたいことに、お客様の要求に対して私たちも提案をさせていただき、そして開発を行い、最終的に製品を完成させるところまで一貫して担当できます。メンバーによってはメーカーの試験場での走行試験にも参加しています」と説明します。

森本氏は、業務の魅力について「ウインカーやシートヒータなど、用途が分かりやすいものが多く、ソフトウェアを作ったうえで試験なども担当して実際に動作を確認できるのも面白さの一つです」と語ります。また「新しい技術にも触れられるので勉強になります」と、継続的な学習機会の豊富さについてもコメントします。

清岡氏は技術者としての社会貢献について、「二輪車は身近な乗り物なので、自分で開発したBCMが実際にバイクに搭載されて、メーカーのカタログに掲載され、公道を走っているのを見ると、社会に貢献しているという満足感があります」と語り、実感しています。

今後の技術展開として、ナビゲーション情報や道路状況に応じた制御、クラウド接続によるコネクテッド技術の活用なども求められているといいます。清岡氏は「ライダーの趣味性が高くなっていて、それに応えるような要求が増えています。コーナーリング中のスリップ防止制御など、今後様々な対応をしていく予定です」と、多様なニーズへの対応について語ります。

一方で、機能の複雑化に伴う課題もあります。森本氏は「様々な機器や機能と接続しますので、セキュリティ機能も強化していきたいです」と、セキュリティの重要さを指摘します。清岡氏も「BCMにはますます複雑な制御が要求されてくると思います。それでも、不具合を出さないように努めていきたいです」と、高品質な製品提供への継続的な取り組みへの意欲を示しました。