2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)
製鉄プラントの大規模停電を未然に防ぐ
電力系統安定化装置(SSC)を導入・運用
発電プラント統合管理システムMELSEP5Gと電力系統安定化装置
巨大な製鉄プラントが
三菱電機のMELSEP5Gを採用
日本には、巨大な製鉄プラントが10箇所以上あります。2025年3月、その中の一つの製鉄プラントがMELSEP5Gによる電力系統安定化装置の運用を開始しました。MELSEP5Gは、オペレータステーションを通して、三菱電機製の汎用シーケンサMELSECと通信することで、発電プラントでのプロセス制御と監視を自動化・最適化します(図1)。SSCは、電力系統に事故が発生した時、電源や負荷を遮断することで、電力系統の安定化を図り大規模停電を未然に防ぐシステムです。このシステムの設計、製作から試験までをMESWが担当しました。
製鉄プラントは大量の電力を使用し
高炉は止められない
鉄鉱石から鋼材まで一貫して生産する製鉄プラントの多くは海辺に広大な敷地を有しています。製銑工程で、船積みされた鉄鉱石や石炭を高炉で溶かし、溶けた鉄(銑鉄)を製造します。銑鉄は製鋼工程で、転炉などにより不純物を取り除き、鋼に変えられます。鋼は冷却・成形により自動車や家電製品に使われる薄板や、建築、土木や船舶に使われる厚板などの様々な鉄鋼製品に変わります。製鉄プラントは現代の産業を様々な鉄鋼製品で支えています。この製鉄プラントを稼働・維持するためには大量の電力が必要です。大量の電力を賄うため、製鉄プラントは複数の方法で電力を得ています。まず、電力会社から電力の供給を受けています。加えて、製鉄会社の関連会社が建設したプラント隣接の共同火力発電所からも電力の供給を受けています。停めてはならない高炉への送風施設には多くの場合、製鉄会社独自の自家用発電所を有しています。
巨大製鉄プラントの大規模停電を未然に防ぐ
電力系統安定化装置(SSC)
落雷などにより電力会社からの受電が喪失した場合、プラント内の需要電力はプラント内や隣接する発電設備により賄うことになります。その際、電力の需給バランスが急変することにより周波数の変動が起きます。プラントの発電設備が追従できない状況になると発電機が連鎖的に停止してしまい、最終的にはプラントの全停電に陥ります。この状態を防ぐのが、SSCです。
この製鉄プラントでは、5つ変電・発電所(原料、製銑、送風、製鋼、中央変電所)の電源や連絡線、負荷などに対する遮断器・電力データなどの多くの系統情報をやり取りするため、各場所にMELSECを配置しています。これらMELSECとの情報を統括し、核となるSSCの機能を搭載した制御装置としてMELSEP5Gのコントローラステーション1台を配置しています。そして、システムを統括する監視室のオペレータステーションが、コントローラステーションを通してシーケンサと通信することで、システム全体の制御・監視を行います(図2)。
今回、MELSEP5Gで実現したSSCの二段階の機能を、山崎氏は次のように語ります。
「SSCの一段目の機能は、自動選択負荷遮断機能(ALS)です。電力会社からの電力供給が止まった時、発電機の余力を考慮したうえで不足する電力量に該当する負荷を優先順位に基づき停止します。二段目の機能は、周波数低負荷遮断機能です。ALS機能による遮断実行後、供給より需要が多い状況に変化した場合は発電機の周波数が低下します。周波数低下による発電機重故障を防ぐため、数十台の遮断器を優先順位に基づいて、周波数が回復するまで遮断し続けます。これらにより、全停電を回避します」
蓄積された負荷遮断機能に対する知見を活かした
待機型ALSの機能改善とSSC機能の構築
プラントの電力安定供給で大切なことは、需要(負荷)と供給(発電)を一致させ、周波数を安定させることです。電力供給事故発生時の保護機能として、三菱電機はALSを納入してきました。従来の三菱電機の自家用発電所に対するALSには瞬時型と待機型があります。瞬時型は、電力事故発生時に事故が発生した電力系統と、その系統に接続中の負荷を瞬時に判断し、事故により不足する電力を補うために、不足電力に見合う負荷電力の遮断を行います。三菱電機独自の「プラント系統接続状態判断処理」により、多様な系統接続状態に対応できます。一方、待機型は、電力事故発生前に、特定の電力系統での事故ケースに対し、不足する電力を補うために遮断する負荷を決定しておき、事故発生を検知すると定められた負荷の遮断を行います。事故前に演算完了しているため事前に遮断する負荷を確認でき、遮断時間が速い特長があります。今回は、お客様から待機型が要望されました。
今回の製鉄プラント向けSSCの開発のポイントを山崎氏は、次のように語ります。
「従来の発電プラントでは、柔軟に保護が可能な瞬時型ALSを要望されることがほとんどで、三菱電機及びMESWは瞬時型ALSの豊富な実績と経験を持っています。今回、お客様は事前に遮断する負荷を確認できる待機型ALSを要望されました。これまでの待機型ALSは、お客様の系統運用パターンに応じた系統状態に限定して保護する機能を提供してきました。今回要望されたお客様は電力系統が複雑であり、保護するパターンも多数ありました。そこで瞬時型ALSの強みである『プラント系統接続状態判断処理』に関する知見を活かして待機型ALSに応用し、系統接続状態を限定することなく待機型を構築可能とする機能改善を行いました。
また、お客様とSSCに求める詳細な要求仕様について擦り合わせを行い、上述の待機型ALSへ周波数低負荷遮断機能を付加した、負荷の遮断を二段階で行い系統安定化を実現する自家用発電所案件向けのSSCとして確立しました。このプラントで確立したSSCの機能は、SSCを要望される他の製鉄プラントの要求とも合致し、引合いが増加しています」
世界に羽ばたく
発電プラント統合管理システムMELSEP5G
MELSEP5Gは、自家発電、水力発電、新電力、付帯設備の分散制御システムなど、様々な発電プラントに必要な監視制御機能をパッケージ化したシステムです。「使いやすさ・汎用性・顧客満足・世代継承・国際標準」というMELSEP5Gのコンセプト(図3)があり、ユニバーサルデザインを適用して「使いやすさ」を向上させているほか、MELSECとの連携による幅広い「汎用性」を提供しています。加えて、機能をパッケージ化することでコストの低減を実現し、また、ブロック図エディタ機能等のユーザビリティを実現し、「顧客満足」を高めています。
MELSEP5Gは通信の国際標準規格(OPC-UA、IEC61850等)やPLCプログラミング言語の国際標準規格(IEC61131-3)に準拠しており、システムインテグレーターを通して海外での展開も始まっています。
当たり前を支える仕事
インフラ設備のソフトウェア開発
山崎氏はMESWにおけるインフラ設備のソフトウェア開発のやりがいについて次のように語ります。
「発電には大規模な設備が必要です。MESWでは大規模な発電設備を制御するための設計から試験まで関わることができます。私はMESWに入社するまで、日常生活で当たり前のように使用している電気分野への特別な関心はありませんでした。しかし、この仕事に携わることで、年中無休で電気を供給するために多くの人たちが努力し、支えていることを初めて意識し、多くのことを学びました。
現在では、業務を通して電気分野の仕組みや専門的な知識が身についていくことに技術者としての成長を実感しています。また、関連資格の取得にも積極的に取り組むことで自信も蓄積され、仕事に対する面白さ・やりがいを感じています。今後も三菱電機や関係各社と連携しながら、「当たり前」を実現していきます」
商標について
- ・MELSEP、MELSEC、CC-Link、MELHOPE、MELJCは三菱電機株式会社の登録商標です。
- ・MODBUSはSchneider Electric USA, Inc.の登録商標です。