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2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

生成AIを活用した設計支援RAGシステムの開発によりソフトウェア開発の生産性を大幅に向上

設計支援RAGシステム開発プロジェクト

顧客の多様化など事業環境の大きな変化に追従するため、新製品の早期市場投入、市場要求への迅速な適応が必要となっています。これを背景に三菱電機株式会社(三菱電機)は、循環型デジタル・エンジニアリング企業への変革を図るため、『DevOps(開発・運用)×生成AI × Security』に立脚したクラウドベースのソフトウェア生産基盤プロジェクトを2024年度に立ち上げ、三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)もそのプロジェクトに参画しました。本プロジェクトにおいてMESWは、生成AIを活用した設計支援RAGシステムの開発を担当。LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)が設計書や取扱説明書を効率的に検索する仕組みを構築し、ソフトウェア開発のリードタイム短縮に寄与しました。

  • ■中原 諒(ナカハラ リョウ)

    2021年入社。ソフトウェア生産基盤の設計支援RAGシステム開発を担当。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所 FAシステムソリューション技術部 開発課

  • ■三谷 崇志(ミタニ タカシ)

    2024年入社。ソフトウェア生産基盤の設計支援RAGシステム開発を担当。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所 FAシステムソリューション技術部 開発課

ソフトウェア生産基盤プロジェクト
「設計支援RAGシステム」

三菱電機が推進するソフトウェア生産基盤は、パイプラインやチケット管理を中心としたDevOps機能と、生成AIサービス機能、セキュリティ機能を柱に構成されています。そのうち、MESWは見積作成支援機能、仕様問い合わせチャットボットなどといった生成AIサービスの開発プロジェクトを担当。なかでも設計作業の大幅短縮という観点で重要な役割を担っているのが、生成AIに設計書や取扱説明書を効率的に検索させる仕様問い合わせチャットボッド「設計支援RAGシステム」です。そのプロジェクトリーダーに抜擢されたのが、当時入社4年目の中原諒氏でした。

「社内改善活動における課題の解決策として、RAGシステムの構築に取り組んだことが評価されたのだと思います。これをきっかけにリーダーに選ばれ、設計支援RAGシステムがソフトウェア生産基盤の中で最初に三菱電機の全製作所に向けてリリースされたことは、嬉しい限りです」(中原氏)

生成AIとして活用するのは、LLMと呼ばれる自然言語処理モデルと連携して、質問に応じて文章・画像などのコンテンツを自動生成する技術です。生成AIには、LLMが未学習の場合や事実に基づいていない情報を用いて学習している場合に、ハルシネーションと呼ばれる回答の齟齬が生じます。

そこで注目を集めているのが、LLMにデータベースとの検索機能を組み合わせて、正確かつ根拠のある回答を生成するRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)です。RAGは、生成AIが回答する前に関連資料を検索し、その内容を踏まえて回答を生成する仕組みです。生成AIがWebなどを通じて学習した一般的な知識だけでなく、企業が積み重ねてきたノウハウに基づいて回答を行うことが可能になります。

「目指したのは、育成型RAGシステムの実現です。RAGは構築してしまえば終りというわけではありません。日々蓄積され続けていく社内の知見・ノウハウ・経験・データを反映しつつ、必要に応じて過去の資産を掘り起こして活用するなど、常に成長・進化させてこそ、真価を発揮します」(中原氏)

図1. RAGシステムの概要
図1. RAGシステムの概要

前処理とフィルタリングにより
高精度なRAGシステムを実現

三菱電機の製作所内には技術文書・設計図・仕様書・取扱説明書など、様々な情報資産が多様なデータフォーマットで蓄積されています。これらをデータベースに取込み、RAGを介して生成AIに検索させていますが、通常の手順でRAGを構築・運用した場合は、想定していたほどの回答精度が得られないことが判明しました。

そこでプロジェクトが着目したのが、RAGに格納するデータの「前処理(図1:⓪データ整形)」 でした。

「前処理が充分にできていなければ、検索しても該当する情報を見つけられず、正しく解釈して回答することはできないという結論に達しました。そのため、プロジェクトでは前処理の改善をテーマに掲げて、システムに文書の構造を理解させる仕組みについて検討を重ねました」(中原氏)

解決のポイントは、2つの最新クラウドサービスにありました。1つは、AWS (Amazon Web Services)が提供するAmazon Bedrockです。API経由で生成AIアプリケーションを構築・運用できるプラットフォームですが、ここにはテキスト生成や画像処理などの機能が含まれています。これを利用して、シンプルな文書は、前処理できるようになりました。

シンプルな文書については前述した方法で正しくテキストを抽出できるようになったものの、複雑な図やセル結合がある表などを含んだ文書については十分ではありませんでした。そこで、2つ目の解決策として目を付けたのがOCR(Optical character recognition:光学文字認識)でした。

「複数のOCRツールを検証した結果、Anthropic社の提供する生成AI、ClaudeによるOCRの精度が高かったため、こちらを採用。さらに文書全体をそのまま登録すると余計な文脈が混ざり検索精度が落ちるため、文書を意味や構造に基づいてマークダウン形式へ変換することで精度向上を図りました。これにより、質問と意味が近い文章を見つけることができるようになり、検索精度が向上できます。これらの前処理により、目標の回答精度を達成することができました」(中原氏)

図2. 設計支援RAGシステムの「前処理機能」

※MD:マークダウン記法のファイル

図2. 設計支援RAGシステムの「前処理機能」

図2のように、独自の「前処理機能」を実装したことが、設計支援RAGシステムにおける最大の特長です。とはいえ、実際には活用すればするほど、RAGには膨大な量のナレッジが蓄積されていきます。検索すべき情報の量が増えれば、ミスマッチの頻度が高くなります。そこでさらなる回答精度を目指して取り組んだのが、不要な情報をフィルタリングする「ナレッジ絞り込み機能」です。

「特定期間に作成された仕様書だけを参照したい、お客様向けの回答なので取扱説明書に準じて欲しいなど、時間・場所・場面・対象に応じた絞り込みができるのが特長です。これらの機能による回答精度の向上は、三菱電機からその精度とMESWの技術力を高く評価されました」(中原氏)

「伴走型支援」のもと、各製作所の
設計作業の生産性向上に貢献

プロジェクトが目標とする「育成型RAGシステム」を実現するためには、さらなる精度向上はもちろんですが、各製作所のユースケースに応じたチューニングが必要となります。そこでプロジェクトでは、最適なRAGシステムを個別に開発・構築する必要性を実感し、それぞれの現場に密着した「伴走型の支援」を進めていきました。

「伴走型の支援として、導入から日々の運用定着、継続的な改善まで現場目線でやり切ります。現状のRAG構築導入期間は2週間~1カ月ですが、増員計画を踏まえて1週間程度の迅速な導入を目指します。導入後に伴走型サポートを実践し、より多くの部門の生産性向上に寄与したいと考えています」(中原氏)

設計支援RAGシステムは現在、三菱電機の複数の製作所で導入され、それぞれの設計業務や目的に特化した高精度な生成AI活用環境として評価されています。すでに三菱電機グループ内への横展開も計画されており、活用する業務範囲も拡がりを見せつつあります。それだけに、プロジェクトメンバーの意気込みは、さらに高まっています。

「プロジェクトの目的がソフトウェア開発の生産性向上にあるだけに、開発でもスピード感が求められることを意識して進めました。その結果、成果が次々と見え始め、大きな達成感とやりがいを得られました。プロジェクトはアイデアや技術の実現可能性を検証するPoC(Proof of Concept:概念実証)の段階から、本番導入のフェーズに入り、佳境を迎えています。これまでの要望をフィードバックし、さらに磨き上げていきます」(三谷氏)

「生成AI×RAGの新規開発に入社4年目で参画し、上司の後押しと有識者の支援のもと、不確実性を乗り越えPoCから運用までをやり遂げることができました。MESWには、失敗を学びに変え、新しい技術に挑戦していく文化があることを、身をもって実感しました。それだけに、今後も設計支援RAGシステムのポテンシャルを高め、実証していくことに邁進します」(中原氏)

生成AIがビジネスにもたらしたインパクトは多大であり、かつ猛スピードで進化し続けていくといわれています。設計支援RAGシステムもまた、常に最新テクノロジーと融合しながら、現状の課題解決だけではなく、変革を支援する循環型デジタル・エンジニアリングのための基盤へと昇華していくことが期待されています。

図3. 設計支援RAGシステムのアーキテクチャ
図3. 設計支援RAGシステムのアーキテクチャ

商標について

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