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2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

発電所の定期検査で欠かせない
系統図や作業手順書の作成を支援する
「系統隔離支援システム」により
作業計画者や作業者の負担を軽減

発電所向け「系統隔離支援システム」

法律にもとづき一定期間おきに実施される発電所の定期検査。点検作業では、対象の機器を取り外して検査を実施し、再び機器を取り付ける作業が発生します。三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)では、三菱電機株式会社(三菱電機)からの委託を受けて、点検対象機器の取り外し・取り付け作業の計画作成ならびに実際の作業を支援する「系統隔離支援システム」を開発しています。安全と信頼が求められる発電所の設備において、点検作業を効率化する「系統隔離支援システム」の提供を通して、エネルギーインフラの安定運用を支えています。

  • ■井上 泰成(イノウエ ヤスナリ)

    1999年入社。入社以来、原子力情報通信ビジネスユニットのソフトウェア開発、プロジェクトリーダー業務、システム設計などに従事。現在、火力・水力情報通信、電力DX、原子力情報通信のソフトウェア開発ビジネスを担当する。社会インフラ事業統括部 神戸事業所 発電システム技術部 発電システム第3課 課長

発電所の定期点検作業における
対象機器の隔離と復旧を効率化

系統隔離支援システムは、発電所の定期点検作業における対象機器の取り外し(隔離)と取り付け(復旧)の作業計画ならびに隔離の実施・復旧管理等の効率化を目的としたシステムです。原子力発電所の場合であれば、法令で約1年に1回(13カ月以内)発電を停止し、機器に応じて必要な点検・検査を実施することが定められています。点検内容は設備の分解点検、部品の交換、必要に応じた工事など多岐にわたります。

この点検作業に欠かせないのが、機器を正確に隔離して復旧を行うための「隔離系統図」です。例えば、1台の循環ポンプを点検する場合でも、発電所内には冷却水用のパイプが複雑に張り巡らされているため、やみくもにポンプを取り外してしまっては水があふれてしまいます。そこで、ポンプにつながっている配管への水の出入りを止めるための経路や、閉めるべきバルブ、配管の中に残留している水を抜くための水抜き弁(ベント弁)などを特定し、CAD図面上に表示したものが「隔離系統図」です。

MESWが開発する「系統隔離支援システム」は、CAD図面上に隔離系統図を作成したうえで、それをもとに隔離手順を表形式にまとめた作業手順書を自動作成します。CAD図面上で機器の隔離状態を設定すると、作業手順書に該当機器の機器番号や機器名称、隔離状態等が自動的に出力される仕組みです。作成した作業手順書は印刷し、点検作業員は現場に持ち出して記載されている手順に従って点検を実施します。

社会インフラ事業統括部 神戸事業所 発電システム技術部 発電システム第3課 課長の井上泰成氏は「従来は、紙に印刷した系統図上に点検対象機器を書き込み、さらにそれを作業手順書に手作業で転記していました。本システムにより、CADデータから自動的に作業手順書が作成できるため、隔離作業計画者の負担軽減を図るとともに、ヒューマンエラーの発生確率を低減することが可能になります」と語ります。

操作伝票作成機能やチェックシート
作成機能など4機能を装備

系統隔離支援システムの主な機能として、①操作伝票作成機能、②ホース処置依頼票作成機能、③チェックシート作成機能、④データ管理機能の4つを装備しています(表1)。

表1. 系統隔離支援システムの主な機能
① 操作伝票作成機能 隔離系統図上で機器の状態設定を行い、操作伝票を自動で作成する
② ホース処置依頼票作成機能 系統図上でホース取り付け、取り外し対象機器に状態設定を行うことで、対象機器に特化したホース処置依頼票を自動で作成する
③ チェックシート作成機能 発電所の運用に合わせて、各種作業を実施するための前提条件が揃っているか、正しい状態になっているかを確認するためのチェックシートを作成する
④ データ管理機能 系統隔離支援システムで使用する各種データのメンテナンスを行う。各機器のデータをメンテナンスする「設備データ管理機能」とCAD系統図の修正や新規作成を行う「系統図管理機能」がある

4つの中でも中心的な役割を果たすのが、設備点検のための作業手順書を作成する①操作伝票作成機能です。隔離系統図からの作業手順書作成のほか、作業手順書の印刷、作業時に設備に直接取り付ける「タグ」の印刷、隔離系統図の印刷を行うことができます。作業手順書は、過去に作成したものの流用や、標準パターンの利用が可能なため、作業手順書の作成時間を短縮することができます。さらに、ベテラン作業員のノウハウを蓄積することができるため、資産として継承することも可能です。

作業手順書にはユーザー自ら点検対象の機器番号や開閉対象の弁番号とそれらの状態を示す記号(開状態を示す○、閉状態を示す× 等)を入力することができ、作業手順書に登録した情報とCAD図面に設定された隔離状態はデータ連携により同期が維持されます。CAD図面上で点検対象機器や開閉対象の弁を選択して状態を設定し、手順書に自動的に反映することもできるため、機器番号や開閉対象の弁番号の入力ミスを防ぐことが可能です。

②ホース処置依頼票作成機能は、①の操作伝票作成機能と類似していますが、ホースの取り付け忘れや取り外し忘れなどがあると水漏れ事故などにつながる可能性があるため、対象機器に特化した帳票レイアウトを採用し、確実なホースの取り付けや取り外しを実現しています。

③チェックシート作成機能は、各操作開始前と後の状態をチェックすることに特化した帳票で、発電所の運用に合わせて作成が可能です。チェックシートは隔離業務に合わせて複数の種類があり、それぞれにチェック結果を入力すると、システムが各チェックシートの状態を重ね合わせて系統図上に表示し、重ね合わせた系統図をユーザーが確認することで、隔離作業の前提条件が揃っているか、正しい状態になっているかなどがわかります。

④データ管理機能は、機器情報や系統図データのマスタ管理機能です。発電所内の設備が追加になったり、撤去されたり、型番などが変更になったりした際、機器情報の追加・修正・削除や系統図(CAD情報)の追加・修正などが可能です。メーカーにデータの修正を依頼することなくユーザー自身で修正ができるため、効率化とランニングコストの低減につながります。機器情報に注意事項などを紐づけたり、作業時の注意事項などを登録しておいたりすることでノウハウや技術情報の蓄積が可能です。

図1. 操作伝票作成機能
図1. 操作伝票作成機能

上流工程から参画し
要件定義やシステム設計を担当

系統隔離支援システムにおいて、MESW独自の強みを発揮しているのが、三菱電機製のCAD「Rschemer」に対応していることにあります。三菱電機製のCADであるため、Rschemerの開発部門と連携してCADの改造や機能追加などが可能で、ユーザーのニーズに合わせて仕様をカスタマイズすることができます。

また、系統図から整合性を判断しながら、隔離する範囲を自動識別し、系統図上に色分けしてわかりやすく正しく表示する機能も特徴で、MESWが長年かけて培ってきた技術が結集されています。

「点検時は広範囲の配管設備を確実に止める必要があるため、ソフトウェアの工夫により、自動的に隔離範囲を指定できるようにしています。データベースも複雑なため、チェック機能も整備して高速かつ正確性を維持することを心がけて開発しています」(井上氏)

系統隔離支援システムの開発は、三菱電機から業務委託を受ける形で行っています。当初はソフトウェアの設計と開発領域のみをMESWが担当していましたが、その後のサーバやプリンターの老朽化に伴うリプレースや導入後の運用保守などに関わる中で、徐々に機能改善にも加わるようになっていきました。現在は上流工程からMESWのエンジニアが参画し、従来の開発領域に加えて発電所のニーズの落とし込みから要件定義、システム設計も担当しています。

「系統隔離支援システムは、私が入社した1999年頃には開発が始まっていたシステムで、すでに25年近くの実績があります。当初はUNIX系のワークステーションで動いていましたが、現在はWindowsのクライアント/サーバシステムとして開発しています。このシステムの開発に携わることの醍醐味は、電力という重要なインフラを支えている実感が持てることになります。2011年の東日本大震災により、一旦運転停止した原子力発電所は、新たに制定された規制基準に合格し順次再稼働しています。定期点検も再開され、系統隔離支援システムは、定期点検の期間短縮にも大きく貢献し、ユーザーである電力会社様にとっても重要な位置付けになっています。原子力発電所の安全性がより求められている昨今は、以前になかった新しい設備が追加されたり、システムへの機能要求が随時発生したりと常に進化をしているため、開発を通して新しい技術を習得できることもやりがいとなっています」(井上氏)

系統隔離支援システムの開発は、発電所の業務に関する知識が求められます。また、Rschemerを理解することも必要です。そのため、開発に慣れるまでは時間を要しますが、その分だけ達成感の大きい仕事でもあります。

「私自身も最初はRschemerを理解するのに時間を要しましたし、開発元の三菱電機にも問い合わせました。発電所の点検業務も当初は理解が難しい面もありましたが、電力会社のお客様と話すようになると自然と身に付いていきます。仕事をやりながら成長できることも面白みだと実感しています」(井上氏)

作業省力化や作業時間短縮に向けて
タブレット対応やWeb化を検討

「今後については、点検現場へのタブレットの持ち込みによるさらなる作業の効率化を検討しています。」(井上氏)

系統隔離支援システムの完成度は高まりつつあるものの、現場での隔離作業は依然として紙台帳への手書き管理となっており、現場での記録、持ち帰った後のシステム入力や印刷といった作業があり、煩雑さが残っています。現場にタブレットを持ち込み、作業実績を入力できるようになれば点検時に系統状態が反映され、省力化、作業時間の短縮、最新情報の共有が可能になります。

また、タブレット端末で実際に操作する弁やポンプなどを撮影して形状や銘板などから機器を特定し、作業対象の機器をAIや画像解析でチェックできれば、現場機器確認の省人化と安全性の向上を両立することが可能になります。

現在、RschemerはWebに未対応であり、クライアント/サーバシステムの構成でシステムを実現しています。そのため、クライアントごとにRschemerをインストールする必要があります。機種変更に伴うOS更新ではその都度、Rschemerの開発と動作検証が必要で、電力会社様にとってコストがかかるものになっています。今後はRschemerをWeb化し、ブラウザー上で同様のシステムを実現することも構想しています。

「今や系統隔離支援システムは、発電所の定期点検作業にはなくてはならない存在となっており、ユーザーにとって重要でかつ利用頻度の高いシステムとなっています。引き続きユーザーの声を吸い上げ、さらなる利便性向上に向けた機能提案や改善提案をしていきたいと思います」(井上氏)

商標について

  • ・Rschemerは三菱電機株式会社における商標または登録商標です。
  • ・UNIXはThe Open Group の米国およびその他の国における登録商標です。
  • ・Windowsは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。