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2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

エアコンの地球温暖化対策に対応した
冷媒漏えい検知・遮断システムソフトウェアを開発

R32冷媒ビル用マルチエアコンシステムの開発

近年、エアコンで使われる冷媒(フロン)の、地球温暖化への影響が問題となっています。三菱電機株式会社(三菱電機)のビル用マルチエアコンでは、従来のフロンよりも地球温暖化へ影響が少ない新冷媒「R32」を採用しました。新しい冷媒を使うには、冷媒の漏えいをいち早く検知して遮断する装置が必要になります。三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、新開発の漏えい検知・遮断装置の制御ソフトウェアの開発により、環境負荷を抑えた安心・安全な製品づくりを推進しています。

  • ■森下 篤(モリシタ アツシ)

    1991年入社。ビル用マルチエアコンの室内機、システムコントローラ、遮断弁キットなどの制御ソフトウェア開発に従事。FA・ファシリティ事業統括部 和歌山事業所 業務部 技術推進課 主席技師長

  • ■松本 和也(マツモト カズヤ)

    2019年入社。主にビル用マルチエアコンの室外機の制御ソフトウェア開発に従事。FA・ファシリティ事業統括部 和歌山事業所 機器組込ソフトウエア技術部 機器技術第二課 グループリーダー

  • ■木戸 真梨子(キド マリコ)

    2004年入社。主にビル用マルチエアコンの室外機の制御ソフトウェア開発に従事。FA・ファシリティ事業統括部 和歌山事業所 機器組込ソフトウエア技術部 機器技術第二課 課長

図1. 冷媒漏えい検知・遮断システム
図1. 冷媒漏えい検知・遮断システム
三菱電機HP:三菱電機の低GWP冷媒「R32」のご紹介より引用

環境への影響が少ない冷媒の採用で
新たな安全対策が必要に

エアコンに使われる「冷媒」は、室外機と室内機の間を循環しながら、室内の熱を外に運び出したり、逆に外の熱を室内に取り込んだりする物質です。

従来、エアコン用として広く使われてきたフロン系冷媒は、地球温暖化の要因とされてきました。フロン系冷媒には様々な種類があり、冷媒の種類によって環境への影響も異なります。冷媒の温暖化への影響は地球温暖化係数(GWP値)で表され、数値が高いほど影響が大きくなります。近年はGWP値の低い冷媒が登場し、従来の冷媒からの置き換えが進められています。

日本でもフロン排出抑制法が施行され、フロンによる環境負荷を低減する取り組みが進められています。2025年からはビル用マルチエアコンが同法で定める「指定製品」に追加され、低GWP冷媒への移行が求められました。ただし、低GWP冷媒の採用にあたっては追加の安全対策が必要でした。

FA・ファシリティ事業統括部 和歌山事業所 業務部 技術推進課 主席技師長の森下篤氏は、新しい冷媒と安全対策について次のように語ります。

「三菱電機では、フロン排出抑制法に対応するために、ビル用マルチエアコンに『R32』という低GWP冷媒を採用しました。R32は従来のフロン系冷媒に比べてGWP値が約3分の1と非常に小さいものです。その一方、R32は微燃性を持つため、これを採用したビル用マルチエアコンは、万が一冷媒が漏れ出した時に火災の発生を防ぐための安全対策を講じる必要があります。安全対策は日本冷凍空調工業会のガイドラインに則って行われます。MESWでは三菱電機からガイドラインの定める安全対策の一つである、遮断装置の設置と検知警報設備の設置に関する開発を受託しました。私たちはその中で、遮断弁キットと室外機のソフトウェアの開発を担当しました」

ビル用マルチエアコンは、一台の室外機に複数の室内機を接続して、建物内の複数の部屋やフロアを効率良く冷暖房できる空調システムです。室外機と室内機は内蔵のマイコンで制御されており、それぞれが自立して動くと同時に、ネットワークを通じて情報をやりとりしながら最適な制御が行える仕組みになっています。

遮断弁キットは冷媒の漏えい時に配管経路を閉じる装置で、室外機と室内機の間にある冷媒を循環させる配管に取り付けて使用します。センサが冷媒の漏えいを検知すると、遮断弁キットは、冷媒を室内機へ送る配管と、室内機から戻ってくる配管に取り付けられた両方の弁を直ちに閉じます。これにより冷媒の流れが止まり、それ以上の漏えいを防ぎます。漏えいが検出され、遮断弁が閉じられたことは、ネットワークを通じて関連する機器に伝えられ、警報を鳴らして周囲の人に漏えいを知らせる、遮断弁に接続されている室内機の動作を止める、リモコンの画面に状況を表示するなどの対応が行われます。例えば、図3のように、一台の室外機に複数の遮断弁キットが接続されている場合は、遮断弁キットごとに適切な制御が行われます。図3上段中央の室内機が冷媒の漏えいを検知すると警報を鳴らし、接続元の遮断弁キットの弁を直ちに閉じ、遮断弁キットに接続されている室内機は運転を停止し異常表示を行います。このとき、他の遮断弁キットに接続されている室内機(図3下段)は、異常表示を行い運転を継続します。

図2. 冷媒漏えい検知システム
図2. 冷媒漏えい検知システム
ユニット画像は三菱電機ビル用マルチエアコン総合カタログ 2025年5月より引用
図3. 冷媒漏えい検知時のシステム挙動例
図3. 冷媒漏えい検知時のシステム挙動例
ユニット画像は三菱電機ビル用マルチエアコン総合カタログ 2025年5月より引用

室外機がシステム構成を
自動的に把握する機能を追加

今回の開発では、室外機にいくつかの新しい機能が搭載されました。その一つが、どの遮断弁キットにどの室内機が接続されているかというシステム構成を把握する機能です。システム構成の把握は、遮断弁キットと室内機の接続が正しく構成されているかの確認のほか、遮断弁が閉じられた後の制御にも必要になります。FA・ファシリティ事業統括部 和歌山事業所 機器組込ソフトウエア技術部 機器技術第二課 グループリーダーの松本和也氏は次のように語ります。

「遮断弁が閉じた時は、その下流にある配管と室内機の中に冷媒が密封された状態になります。もし、外気温の影響などで冷媒の温度が上昇して気化すると圧力上昇によって配管が破裂する恐れがあります。その場合、室外機から室内機に対して弁を少しだけ開けて圧力を逃がすという指示を送ります。この指示を的確に送るためには、どの遮断弁キットにどの室内機が接続されているかを把握しておく必要があります」

システム構成の把握には、遮断弁キットに搭載されている伝送リレーを使います。室外機と室内機をつなぐ冷媒配管に遮断弁キットを挟んで接続するように変更されたと同時に、室外機と室内機の通信ネットワーク配線も遮断弁キットの伝送リレーを介して接続されるようになりました。遮断弁キットはこの伝送リレーを使って、自身に接続されている室内機をネットワークから切り離すことができます。システム構成の把握では、室外機は一台の遮断弁キットを選んで、その遮断弁キットに接続されている室内機をネットワークから切り離すように指示します。この状態で、ネットワークを通じてシステムに接続されているはずの室内機に呼びかけ、その反応の有無によって選択した遮断弁キットに接続されている室内機がどれか分かります。この手順を全ての遮断弁キットに対して行うことでシステム構成を把握できます。

図4. システム構成の把握機能
図4. システム構成の把握機能
ユニット画像は三菱電機ビル用マルチエアコン総合カタログ 2025年5月より引用

そのほかにも「インターロック」「回路検査」といったガイドラインで要求されている機能と独自機能として「セルフチェック」が開発されました。

インターロックとは、必要な安全装置が接続されていない場合には、空調システムを起動、運転しないようにする機能です。開発では、初期状態は起動できないようにし、安全装置の接続確認後に、インターロックを解除して起動できるようにする仕組みを作ることになります。リモコンやPCの管理ツールからインターロックの解除操作をすると、室外機が遮断弁やセンサの情報を収集し、接続の構成に問題が無ければ最終確認の画面をリモコンやPCに表示し、基本は人が承認操作をすると起動できる仕組みになっています。

「インターロックの解除機能には、しっかりと安全が確認できるまでは運転させないような工夫をしています」(松本氏)

回路検査は、冷媒漏えい時を想定して遮断弁が実際に動作するか、警報が正しく鳴るかをテストする機能です。リモコンなどから検査を指令すると、遮断弁を実際に全開から全閉まで動かすと同時に、警報を鳴らします。

セルフチェックは、遮断弁の固着を防止することと、故障を早期に発見するための機能です。24時間ごとに、遮断弁を運転に影響のない程度に動かして、要求通りに動いているかを計測して、問題があれば異常を表示します。

「これは三菱電機独自の新しい機能です。遮断弁がどれだけ開いているかの情報を取り込むハードウェアも新しいものでしたので、ソフトウェアの開発にも試行錯誤がありました」(森下氏)

遮断弁キットをはじめとする安全装置を備えたビル用マルチエアコンは、すでに国内向けに出荷されており、海外にも展開される予定です。

「グローバルに展開する製品では、地域ごとの異なる仕様に対応することが求められます。また、冷媒漏えいに関する規制やガイドラインも、国や地域によって異なります。例えば、室外機と室内機の通信が途切れた場合、特別な処理を求められない地域もあれば、冷媒漏えいした時と同じ対応を求められる地域もあります。地域ごとに異なる要求を1本の制御ソフトウェアとしてまとめるには、設計の工夫が必要です」(松本氏)

FA・ファシリティ事業統括部 和歌山事業所 機器組込ソフトウエア技術部 機器技術第二課 課長の木戸真梨子氏は、空調システム開発でのMESWの強みは、豊富な開発経験にあると言います。

「長年、三菱電機とともに空調機を開発してきたことで、この分野の知見が豊富であることがMESWの強みです。室外機、室内機、周辺機器、さらにはシステム全体がどのように振る舞うのかをしっかりと把握したうえでのソフトウェア開発が可能になります。今回、新しく開発した遮断弁キットについても、システム設計の初期段階からMESWの担当者が加わり、三菱電機と保有知見を共有することで仕様の構築にも貢献することができました」

組込みソフトウェアの独自の
開発ノウハウを若手に継承していきたい

今回のプロジェクトを踏まえて、メンバーはエンジニアとしての心構えや、やりがい、今後に向けた意気込みについて次のように話します。

「今回のように新しいシステムを開発するときには、特に依頼元との協調・協力が大切です。依頼元が実現したいことをきちんと理解して対応し、確かな協力関係を築くことは、開発のスピードや品質を高めるうえで欠かせません」(松本氏)

「業務用空調機は街中で目にする機会が多い製品ですので、自分が開発した製品が世の中の役に立っていることを実感します。また、技術的にも新しいことに取り組む機会が増えてきているので、それもこの仕事の面白い部分だと思います。今後は、AIの活用なども考えていきたいと思っています」(木戸氏)

「私は、様々な組込みソフトウェアの開発を経験してきたエンジニアとして、若手の育成に力を入れていきたいと思います。組込みソフトウェアには独特のノウハウがあり、他の分野のソフトウェア開発とは異なる技術が求められます。これらの技術は簡単に身に付くものではありませんので、自身の経験を活かして、若手がノウハウを体得でき、開発の楽しさを体感できるように支援していきたいと考えています」(森下氏)