2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)
IoT技術でエスカレーターの予防保全を変革
メンテナンスの未来を切り拓く遠隔点検システム
エスカレーター遠隔メンテナンスサービス「ES-REMO」
故障などによる停止と
運用保守の負担が大きな課題に
普段何気なく利用しているエスカレーターですが、故障などによる長時間停止が与える影響は深刻です。三隅氏は「多くの商業施設や駅の動線の中心にはエスカレーターが設置されており、故障などで長時間停止してしまうと、フロア移動の輸送量が大幅に減少し、施設や利用者への影響は非常に大きくなります」と語ります。
エスカレーターが安全・安心で快適に動作し続けるためには、専門技術者による定期的なメンテナンスが欠かせません(図1)。メンテナンス作業はエスカレーターを停止させて行うため夜間に行うことも多いです。夜間作業は建物管理者や保守員の身体的負担が大きく、夜間作業のために警備員を雇う場合もあり、金銭的負担も発生します。
さらに、保守業界全体の課題もあります。「保守作業を実施する方々の平均年齢は40~50代と言われており、慢性的な人手不足のため、技術力のある若手社員の採用も難しくなっています」。こうした背景から、IoTによるセンシング技術や画像認識技術を現場に適用し、誰でも保守作業ができるようになることが求められていました。
社会インフラを支えるために
専門性を活かした開発体制
MESWでは、MEBSが展開するエレベーター・エスカレーターの様々なソフトウェアを受託開発しています。三隅氏は「ES-REMOは現在、MEBSのエスカレーター保守商品の目玉の一つとなっています。弊社が本プロジェクトに関わることができたのは、MESWがこれまで培ってきたノウハウや実績が評価されたからと考えています」と説明します。
ES-REMOの開発は、三菱電機グループの連携による長期プロジェクトでした。三隅氏は「アルゴリズム開発は三菱電機の研究所が担当し、それをMESWで具現化・作り込むという流れになりました。アルゴリズムに関する検討は5年以上前から始まっており、MESWは2022年頃からソフトウェア開発に参画しています」と話します。
MESW内でも制御系、保守系、管理系の機能開発について、様々な部門を横断して実施しました。「MEBSの要件を抽出し、それを具現化することがMESWの役割です。今回はES-REMOで必要なシステム要件をMEBSから引き出し、それを実現するための仕様をMESWで検討しましたが、アーキテクチャ設計に工夫が必要でした」と三隅氏は振り返ります。研究所の基礎アルゴリズムを実用レベルまで磨き上げる過程では、シミュレータや実機で試験を重ねることで、現場で精度良く検知できるよう調整を進めました。
ES-REMO遠隔点検システムの技術機能
IoT技術による総合監視の実現
ES-REMOは従来の「遠隔監視」機能に「遠隔点検」機能を追加した総合保守サービスです(図2)。三隅氏は「エスカレーター内に設置したセンサや通信機器により、各機器の運行状態を常時点検し、劣化や異常音などの兆候を『変調』データとして自動収集します」と概要を説明します。
「電磁ブレーキの変調検知」では、制動・停止距離が一定値を超えた場合に変調を検知します。「エスカレーターの機種ごとに基準値を設定し、その差分をチェックすることで変調検知と予防保全を実現しています」と三隅氏は語ります。
「移動手すり運行状態監視」では、手すりと踏段の移動距離を比較してスリップの兆候を検知します。小栗氏は「これまでコンピュータを搭載していない古いエスカレーターでは現場で実測しなければ点検できませんでしたが、ES-REMOを設置することで遠隔点検可能となりました」と改善効果を説明します。
「機械室内各機器の異常音検知」は、音をチェックして外れ値を確認する特許技術です。また「自動運転状態監視」では、安全回路や制御盤信号の正常動作をモニタリングします。
そして「上下部乗場環境状態の画像監視」も特許取得技術です。これは、カメラを設置して遠隔で踏段のくしの取付状態や破損の有無を確認します。
小栗氏は「従来のくし破損確認は、訪問点検時に保守員による目視確認で実施していました。ES-REMO適用により保守員が現地に出向くことなく、従来より高頻度で確認できるようになったことは大きなメリットです」と、点検品質向上と省力化を実現できたことを強調しました。
さらにES-REMOの競合優位性について三隅氏は「音やカメラ画像による診断は、三菱電機グループが結集して開発した技術であり、特許を取得しています」と語ります。
IoT技術を活用した点検により
頻度向上と品質安定化の実現
ES-REMOを導入することにより、点検の頻度と品質の大幅な改善が可能になりました。三隅氏は「毎月1回の現地点検が、ES-REMOによって遠隔で毎日点検可能となり、変調検知がしやすくなってサービス向上に貢献できています」と成果を報告します。「保守員の手作業では計測誤差が避けられませんでしたが、機械的に見ることで点検品質が均一化されました」と改善効果を語ります。
メンテナンス業務も効率化されました。「ブレーキの制動距離確認や手すりスリップチェックなど重要な項目について遠隔で点検可能となったことから訪問点検頻度が少なくなり、3ヶ月に1回の訪問で対応できるようになりました」と三隅氏は説明します。「エスカレーターを停止させる必要がない遠隔点検は、日中に対応可能となりました。訪問点検による夜間作業がなくなったわけではないですが、頻度が少なくなりました」と作業環境の改善も実現しています。
顧客業務の省力化では、MEBSの情報センターへの自動通報システムが効果を発揮しています。図4の構成で遠隔監視および遠隔点検を実現していますが、「エスカレーターの停止情報などは情報センターの管理画面に表示されるため、お客様からコールをいただく前に対処可能となりました」と三隅氏は語ります。
やりがいは技術的独自性と
制約条件下での最適解追求
小栗氏はMESWにおけるシステム開発のやりがいについて「研究所でアルゴリズムが開発され、それが私たちに共有されます。それを製品に組込む際、限られたメモリ容量や処理速度などが壁となりますが、その中で最大限に要求を実現する方法を考案し、現実化することがエンジニアとしてのやりがいです」と語ります。
三隅氏も「習得した技術をすぐ製品開発に活かすことができます。それがフィールドに出ると、『これを自分たちが作ったんだ!』という達成感を得られます」と話します。
エンジニアを目指す人にとってのMESWの魅力について三隅氏は「三菱電機グループのソフトウェアを開発する会社なので、ビル、宇宙、鉄道、自動車、通信、防衛など選択肢が広範に及びます」と語ります。「私はビル事業を20年近くやっていますが、日々学ぶことが多くあり、やりたいことが尽きることはありません」と話しました。
ES-REMOの今後について、三隅氏は「画像診断の精度をさらに高めて、できる診断を増やしていきます」と展望を明かします。「今後はセンサや画像認識による保守・点検が主流になり、クラウドや生成AIなどの技術を使用する可能性もあります」とメンテナンス技術の未来像を描きます。
小栗氏は「IoT・AI技術の進歩はめざましく、程なくAIを活用した機能が適用されることもあり得ると思います。いつでも最高品質の製品を生み出せるよう、常にトップレベルのエンジニアであり続けるための努力を続けていきます」と話します。
商標について
- ・ES-REMOは三菱電機株式会社の登録商標です。