2025年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)
AR技術で効率アップ!
材料の無駄をなくすレーザ加工方法の開発
マルチユース向け板金レーザ加工機HV2-Rシリーズのリニューアル
材料の効率的な活用と段取り時間の短縮
多品種対応の現場が直面する課題
三菱電機株式会社は長年にわたりレーザ加工機の開発・製造を手掛けています。
レーザ加工とは、レーザ発振器(レーザ加工機の心臓部)から生成された高エネルギーのレーザビームを、制御装置によって極めて細かい次元で制御し、材料の高速切断、および、小穴やエッジなどの高付加価値な加工を行う技術です。三菱電機は、1979年に日本で初めてレーザ加工機を製品化して以来、この分野のパイオニアとして幅広い加工技術を培ってきました。そこに搭載されるソフトウェアの開発をMESWは前身となる三菱電機メカトロニクスソフトウエア株式会社の1983年設立時から一貫して委託を受けており、この40年以上の間、製造現場の課題解決に取り組み続けてきました。
現在、三菱電機では、高生産性タイプの主力機として、光走査方式を採用したファイバレーザ加工機「GX-F」シリーズを展開しています。GX-Fシリーズは、高出力なファイバレーザと高度なNC制御技術によって、大量の部品をスピーディに連続で加工し続けることができます。また、材料の自動供給装置や、加工後の製品を自動で仕分ける周辺装置と連携できる高生産な加工システムとなっています(図1)。
三菱電機ファイバ二次元レーザ加工機GX-Fシリーズカタログ(K-K02-8-CA315-K)より引用
そして、市場ニーズの多様化により多品種少量生産へ対応するために展開しているのが「HV2-R」シリーズです。今回は、このHV2-Rシリーズに搭載したAR(拡張現実)技術や高性能配置システムなどの開発と、それによる製造現場への貢献について紹介します。
FA・ファシリティ事業統括部 名古屋事業所 加工機システム開発部 レーザ技術課の重田亮氏は「HV2-Rシリーズは、オープン構造による段取り替えのしやすさが特長で、金属材料だけでなく、樹脂やアクリルなどの非金属材料の加工や、小型・安価というニーズに応える機種です」と説明します。
三菱電機クロスフロー二次元レーザ加工機 HV2-Rシリーズカタログ(K-K02-4-CB019-C)より引用
レーザ加工では、限られた材料サイズ内で切り出す部品をどう配置するかで材料の有効利用率(材料歩留まり)が決まります。HV2-Rシリーズは、この材料歩留まりを向上させるための工夫が凝らされています。
HV2-Rシリーズの最大の特長は、独自の駆動方式にあります。通常のレーザ加工機は加工ヘッドがX・Y方向に動作しますが、HV2-Rでは加工テーブルがX方向、加工ヘッドがY方向に動く方式を採用。この構造により小型化と低コスト化を実現しています。
重田氏は「段取り替えや材料の乗せ降ろしが容易で、多種多様な注文に対応できます。これこそが日本の製造現場で求められる柔軟性だと考えています」と、現場での使いやすさを重視した設計思想を説明します。
最新制御装置「D-CUBES」による
革新的な操作性
多品種対応の現場では段取り作業が大きな負担となります。オペレータは材料サイズと部品の大きさを頭で計算し、最適な加工開始位置を判断する必要がありました。また、端材への追加加工ではメジャーで加工可能な領域を測定したり、ドライランを繰り返して確認するなど、操作に経験が必要となっていました。
この課題解決の突破口となったのが、制御装置「D-CUBES」に搭載の三菱電機独自のAR(拡張現実)技術「MEL'S AR」です(図3)。操作画面に加工テーブルを上から見た実際の画像を表示し、そこに部品の形状や加工経路を重ね合わせて表示します。
重田氏は次のように開発コンセプトを語ります。
「スマートフォンのように直感的に操作できる環境を目指しました。加工テーブルを上から見た画像に部品の形状を重ねて表示できれば、経験の浅いオペレータでも簡単に操作できます」
三菱電機クロスフロー二次元レーザ加工機 HV2-Rシリーズカタログ(K-K02-4-CB019-C)より引用
MEL'S ARをHV2-Rシリーズに搭載する際、大きな技術的課題に直面しました。FA・ファシリティ事業統括部 名古屋事業所 加工機システム開発部 レーザ技術課の金久保幸平氏は次のように語ります。
「MEL'S ARを先行搭載するGX-Fシリーズでは加工機エンクロージャの天井にカメラを設置して加工テーブル全体を撮影していました。しかしオープン構造のHV2-Rには天井がなく、限られた場所にしかカメラを設置できません。全く別のアプローチが必要でした」
この問題を解決するため、新しい撮影方式を考案しました。カメラを選定し直しガントリー部に設置し、加工テーブルを動かしながら分割して撮影し、最後に画像をつなぎ合わせる方式を採用しました。
また、金久保氏は「カメラ制御プログラムは三菱電機の情報技術総合研究所が開発したもので、MESWではプログラムの詳細を把握していませんでしたが、研究所のご支援をいただきながら新しいカメラシステムに対応できるように改良することができました」と当時を振り返ります。
こうした技術開発により操作画面に表示した加工テーブル画像の位置精度±5mmという高精度を実現。加工機ユーザーの現場での段取り作業を効率的に支援できるシステムが完成しました。
自社CAD/CAMソフトの技術を融合し、材料歩留まり向上へ
AR技術の活用をさらに発展させたのが、高性能配置システムとの組み合わせです。従来の加工機の配置機能では、複雑な形の部品も単純な四角形状として扱うため大きな隙間ができて材料の効率的な利用が難しくなっていました。
この課題解決のため、MESWが長年開発してきた自社製品の技術を投入しました。二次元レーザ加工機用CAD/CAMソフトウェア「CamMagic LA」が持つ高性能配置システムを加工機に組込んだ「LAネスティング」を開発しました(図4)。
LAネスティングは、部品の形を認識して材料上に最適な配置を自動計算する高度な技術です。従来はCamMagic LAを使用するために別のパソコンが必要でしたが、加工機へ直接搭載することで利便性を向上しました。
「画面上をタッチして材料の範囲を指定するだけで、その範囲に最適な配置を自動計算します。複雑な操作は一切不要で、誰でも直感的に使えるシステムになりました」と、金久保氏は使いやすさを強調します。
その効果については、材料や部品の形状によって大きく異なるため、定量的に示すことは難しいものの、従来方式と比較して材料歩留まりの向上が見込まれます。また、段取り時間の短縮も期待できます。
三菱電機クロスフロー二次元レーザ加工機 HV2-Rシリーズカタログ(K-K02-4-CB019-C)より引用
社内外で高評価を獲得、研究所との連携強化で次世代加工機開発へ
今回の開発においてMESW社内で事業所長表彰を受賞しました。重田氏は「自社ソフトの一部を加工機に組み込み、ユーザーに高い利便性を提供できたことが評価されました」と受賞の意義を語ります。
市場での反響も非常に好調です。2024年9月のリリース後、各種展示会で高い評価を得ています。特に材料の端材を有効活用できるネスティング機能が、加工機単体で実現できる点が注目を集めています。
海外でも、2025年9月の米国大型展示会FABTECHでは主力機のGX-Fシリーズにもこの機能を搭載して展示し、大きな反響と高い評価を得ました。
今回の取り組みの中で既存プログラムを解析し、実機に適用するという新たな取り組みを通じてMESWの新たな可能性を示すことができました。
重田氏は「このことによって研究所はより先端的な研究に集中でき、製品化も迅速にできるという相互メリットがあります」と、グループへの貢献を語ります。
この流れを加速するため、開発担当者の情報技術総合研究所への出向も決定しました。AI技術など最先端の技術を学び、次世代加工機への適用も進めています。
三菱電機ファイバ二次元レーザ加工機GX-Fシリーズカタログ(K-K02-8-CA315-K)より引用
重田氏はMESWでの開発力の高さと源泉について、その環境の優位性を話します。
「同建屋の中でMESWのソフトウェア開発部門と依頼元である三菱電機のレーザシステム部があります。依頼元との緊密な連携から実機での検証まで、一つの建物内で完結できる環境は、エンジニアとして理想的です」と語ります。
このような整った環境の中で開発業務を行う金久保氏はやりがいについて、次のように語ります。
「新しい技術に触れることで、できることが広がっていく面白さがあります。自分が設計した通りに機械が動いて、お客様から高い評価をいただけたときの達成感は何事にも代えがたい充実感があります」
重田氏は今後の展開を示すキーワードとして「GX-F Ever-next Strategy」を上げました。これは、お客様がGX-Fシリーズ購入後も新機能を活用できるよう、最新技術の追加・アップグレードを可能にするというものです。
「人手不足や熟練工減少といった製造現場の課題を、AIなど新技術で解決していきます。MESWは三菱電機グループの関連部門と連携し、日本の製造業を支える技術開発に貢献します」と語ります。
商標について
- ・D-CUBES,Maisartは三菱電機株式会社の登録商標です。
- ・CamMagicは三菱電機ソフトウエア株式会社の登録商標です。