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テクノロジー

技術レポート:アーカイブ

Category:技術レポート:アーカイブ

当社の知財の進化・深化

当社の知財の進化・深化[PDFファイル]
*技術統括部 MSS技報・Vol.22 54
当社の知財の進化・深化
Strategic advancement of our Intellectual Property
人見 清和* Kiyokazu Hitomi
当社の前身である三菱TRW社の時代には、米国TRW社との技術提携により、知財の確保が図られていたが、その後、三菱スペース・ソフトウエア㈱として独自の企業として発展する過程においては、設立から暫くの間は事業態様に合せて、特に知財への積極的な取り組みは見られなかった。その後に我国のプロパテント政策への転換と世界的な知財の情勢の変化に合わせ、当社においても知財への取り組みとその強化が必要となってきた。ここでは、技術の発展と情勢の変化に伴い、当社の知財に関する状況、取り組みが変遷してきた様相について整理し、報告する。
 The Mitsubishi TRW, the former company, had kept intellectual property by technicalcooperation. After independently establishment as the Mitsubishi Space Software co., Ltd., wehave not developed more intellectual property.Depending upon Japanese pro-patent strategy andmovement of circumstances around intellectual property in the World, we need any activity andreinforcement of intellectual property. We describe statement and activity to intellectual propertyaround movement of advancement and circumstances of technology in this report.
1.まえがき
 当社の知財への取り組みは、事業態様と事業環境の変遷に伴って進展してきた。 すなわち、会社の創成期においては、当社も含め、一般にソフトウェア企業の特質から、知財、特に特許に関する積極的な取り組みは見られなかったが、ビジネスモデル特許が注目を集め始めた2000年前後から、ソフトウェア企業においても知財の重要性が認識され始め、この時期が知財への取り組みの出発点と言っても過言ではない。当社もこの流れに乗るように、知財の強化に取り組むようになり、現在に至っている。2.知財冬の時代 当社は、三菱TRW社からの技術提携を終えた後、三菱スペース・ソフトウエア株式会社として独自の企業として進展してきたが、暫くは当社独自の知財の蓄積は見られなかった。他社との共同、あるいは、他社の特許出願に当社員が発明者として参加する形で知財に参加するという形態はとられたものの、当社独自の知財権の確保に対する意識、あるいは必要性はそれほど強くはなく、当社独自の特許権の確保が図られることはなかった。 ソフトウェアの特許については、従来は媒体特許として認められるのみであり、ソフトウェアはハードウェアの補助的な意味合いでしか特許は認められないということが主流であった。このことも、当社を含め、ソフトウェアを主とする企業において知財、特に特許権の確保がそれほど盛んではないことの大きな原因と言うことができる。 言うなれば、いわゆるソフトウェア関連発明が特許として日の目を見るようになったのは、ここ10数年の間であり、それまでは、一般にソフトウェア企業においては、特許に対する目立った取り組みが見られなかったのが実情である。 その後のビジネスモデル特許の高まりに沿った知財情勢の変化が見られる頃までは、当社にとっては知財冬の時代とも言える時期である。3.知財を取り巻く情勢の変遷と取り組み3.1 知財力強化への転換 ソフトウェアがハードウェアの付録的な位置付けから、ソフトウェアそのものとして独自の立場を持ち、ソフトウェア単独で流通するようになってくると、知財としての扱いも変化してきた。従来の媒体特許から、ハードウェアに組み込まれた形での装置の一部としての位置付けを持つようになった。それに伴い、わが国の特許制度の 55持つべき知財がまだ十分ではなく、まずは、知財の数の確保から始めなければならなかったことが現実である。 その実現と知財活動を推進する目的から、当社においては、2001年に、技術管理部が知財の取扱い部門として指定され、当社の知財方針として、年間の特許出願件数を20件と設定し、これを向こう10年は確保していくこととした。この方針に沿って、その後に示された知的創造サイクルの効果的循環を目指して、知財の数の確保に重点をおいて取り組んできた。4.知財の実績 2001年に年間20件の特許出願目標を10年続けることとしたことには、それによる特許権の継続的確保を狙う目的があることは言うまでもない。 特許出願のうち、特許査定がされる率を約50%と仮定すれば、10年間の累計で200件の特許出願と100件の特許権の確保が図られると考えられる。この頃は、統計的に、拒絶理由通知が送達される率が80%で、そのうちで特許査定される率が80%と言われ、これにより、特許査定がされる率は出願全体の約60%と言われていた。当社はまだ特許出願に対しての経験も浅いことから、それよりも低めの50%に特許査定の率を想定していた。 実際には、特許査定がされるまでには、出願審査の請求の期間(3年)と出願審査の期間(傾向として約2年)を加味して、約5年のタイムラグが発生すると予想されることから、2001年から2011年の10年間では更に半分の50件の特許権の確保が見込まれることになる。4.1 特許出願、保有特許の推移 このような目標設定と見込に基づき、特許出願と権利化を進めてきた結果であるが、2011年末時点で、特許出願の累計は238件、特許権は52件となり、ほぼ見込どおりの創造と権利化を実現できたことになる。 図2に特許出願数・特許権保有数の推移を示す。4.2 分類 当社の事業分野別に特許権と特許出願の割合をまとめたものが、図3である。 外円が特許出願、内円が特許権の割合を示す。 当社の基幹事業の一つである宇宙・航空分野においては、当初から知財強化に取り組んできたことから、特許出願、特許権ともに大きな割合を占める。次に割合として多いのがASP・製品分野であるが、当該分野自体が比較的新しいこともあり、特許出願が多い割には、まだ特許権として成立しているものがそれほど多くはないのが実情である。中でも、ソフトウェアについても独自の特許権を認める動きが高まった。この流れに合わせるかのように、米国を中心にビジネスモデル特許が隆盛を見せるようになり、わが国でもビジネスモデル特許が増加するようになる。 当社もそれにもれず、ちょうど外販事業も芽を出し始めたことから、ビジネスモデル特許及びソフトウェア特許の要請が出てきた。そうした情勢の変化と事業ニーズに対応するため、知財力の強化が必要となってきた。ビジネスモデル特許がわが国でも盛んになった1999年から2002年にかけては、当社の知財力強化の出発点と言うことができる。3.2 知的創造サイクルの実現 知財活動を進める上で基本となるものとして、知的創造サイクルがある。すなわち、ただ単に知財の確保だけでは本来の知財制度の趣旨・目的を達成することはできないため、その実現のために、2006年に特許庁が示したものが知的創造サイクルである。 知的創造サイクルとは、創造→権利化→活用 の連携を循環させることであり、このサイクルが循環することで、知財の保護と活用を図り、産業の発達に寄与することができる。(図1) 創造とは、発明等の知的創作である知的財産を創造することであり、次にこれを権利化することで知財の効果的な保護に資するものである。権利化することで保護された知財は、眠らせたままでは、知財制度の目的たる産業の発達には貢献しない。そこで、権利化した知財を活用することで産業の発達を促し、更に次の創造につなげることで、知的創造サイクルが効果的に循環することになる。 当社にとっては、この知的創造サイクルを循環させることは事業発展も含めてまさに理想ではあるが、この当社が知財に取り組み始めた当初においては、当社として権利化創造活用知財権による収益の向上収益を基に新たな知財を創造知財権の確保図1 知的創造サイクルMSS技報・Vol.22 56は、知財が開発と事業につながることで、初めて、産業の発達に貢献し得ると言うことができる。 また、開発と事業の中から知財が生まれ、知財が事業と開発につながることで、知財の創出と企業活動への貢献ができる。 こうした視点から、2010年度から、当社の知財活動の最大の柱を、「事業、開発、知財の三位一体での知財活動」とすることで、集中的かつ網羅的な知財の構築を図ることとした。すなわち、開発に際して知財を創出し、事業に貢献し得る知財を確保し、当社の知財活動の要とすることとした。(図4) 当社に限らず、企業としては、知財活動が経営戦略と事業活動の一部となることで、収益性と企業価値を高めるように、事業、研究開発及び知財を三位一体として構5.当社の知財の向かうところ5.1 事業、開発、知財の三位一体での知財活動 企業としては、知財なくして事業の発展はなく、また、知財なくしては技術の発展はない。 当社はこの2つの理念に基づき、知財の促進を図ってきた。 更に、知財の理念に立ち返ると、特許制度が、発明の保護と利用の調和により産業の発達に寄与することを目的とすることから、知財活動も、産業の発達に貢献することで、真の意義を発揮することができる。そのために特許出願件数・特許権保有数推移年度050100150200250050100150200250前年度まで累積当年度出願件数特許権保有数1985 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011特許出願件数特許権保有数図2 特許出願件数推移宇宙・航空情報通信10%防災・環境8%SI3%ASP・製品38%ASP・製品21%その他5%その他5%バイオインフォマティクス10%バイオインフォマティクス10%33%防衛1%防衛3%情報通信2%防災・環境3%SI3%宇宙・航空45%宇宙・航空防災・環境防衛SI ASP・製品その他情報通信バイオインフォマティクスSI:System IntegrationASP:Application Service Provider図3 事業分野別特許権・特許出願の割合事業開発知財開発での知財の創出技術競争力の強化事業に貢献する知財の確保図4 事業、開発、知財の三位一体での知財活動576.むすび 以上のように、当社の創成期から、時代の変化に応じての知財活動の変遷についてまとめた。 現代の技術は、知財の保護と利用によって大きく進歩し、企業活動、事業も知財によって大きく発展してきた。技術に生きる当社の事業においては、同様に知財の確保と利用がなくしては、その発展はないものということができる。 当社は引き続き、知財の確保とその活用に重点を置いて、知財活動を行っていくことに変わりはない。築することが理想である。 更に、企業のグローバル化に伴い、企業競争力の優位性の確保と企業価値の向上のために、技術経営(MOT:Management of Technology)の一環として、事業、研究開発及び知財が一体となって推進されることが必要となる。また、企業の知財活動は、知財の創出と権利化だけではなく、研究開発の構想段階から事業化の段階でも、知財の創造・権利化・活用の知的創造サイクルを循環させ、知財が経営戦略の一部となり、事業及び研究開発と一体となって活動することで、守りの知財と、その先にある攻めの知財へ発展して、企業競争力を強化することになる。5.2 当社の知財活動 ソフトウェア企業としての当社においても、経営、事業、技術における競争力を確保しなければならないことは言うまでもなく、事業、開発に知財が加わることは重要な意味を持つ。 その意味でも、技術を標榜する当社にとっては、事業、開発、知財の三位一体での知財活動は必要不可欠なものと言うことができる。