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Category:情報処理システム
プロジェクトファシリテーションの紹介~身近なプロセス改善~

プロジェクトファシリテーション(Project Facilitation:PF)とは、プロジェクトマネジメントにファシリテーションの要素を取り入れた手法である。;本稿では、プロジェクトファシリテーションの特徴について概論するとともに、プロジェクトですぐに活用できるいくつかのツールについて紹介する。これらのツールを活用することにより身近なところからのプロセス改善を行うことができる。
参考情報:
プロジェクトファシリテーションの紹介~身近なプロセス改善~ Introduction of Project Facilitation~Familiar Process Improvement~木村 良一*Ryoichi Kimura プロジェクトファシリテーション※(Project Facilitation:PF)とは、プロジェクトマネジメントにファシリテーションの要素を取り入れた手法である。本稿では、プロジェクトファシリテーションの特徴について概論するとともに、プロジェクトですぐに活用できるいくつかのツールについて紹介する。これらのツールを活用することにより身近なところからのプロセス改善を行うことができる。 Project Facilitation is a method for taking elements of Facilitation in Project Management.Thispaper explains the outline of the Project Facilitation, and introduces some tools for ProjectFacilitation. Software production process can be improved by using these tools. 1.まえがき米国プロジェクトマネジメント協会(ProjectManagement Institute:PMI)によると、プロジェクトマネジャーに必要なスキルの中で、最も重要なのはコミュニケーションスキルであり、プロジェクトマネジャーの作業の90%がプロジェクト関係者とのコミュニケーションに占められている、といわれている。プロジェクトマネジャーに限らず、プロジェクトメンバにおいても、技術力だけではなく、メンバ間での相互コミュニケーションができることは必須事項であり、プロジェクト成功のための重要な要因のひとつとなっている。プロジェクトファシリテーションはそうしたプロジェクトメンバ間のコミュニケーションをベースとしたプロジェクト遂行の仕組みである。プロジェクトマネジメントが「計画」を重視し、プロジェクトマネジャーが計画と実績との差異を監視・制御するのに対し、プロジェクトファシリテーションは計画からの変化に迅速に対応し、プロジェクトメンバが協力しあって成果を出していく。本稿では、プロジェクトファシリテーションについて概論し、「バーンダウンチャート」、「ソフトウェアかんばん」、「KPT」など、プロジェクトファシリテーションにおけるいくつかのツールを紹介し、プロセス改善のヒントを提供する。2.プロジェクトファシリテーションとはプロジェクトファシリテーションの目的とは「プロジェクトメンバひとりひとりの能力を最大限に発揮させるとともに、個人の総和以上の価値をプロジェクトとして発揮することによりプロジェクトを成功させること」である。プロジェクトファシリテーションの特徴について、見える化、変化への対応、プロセス改善の3つの観点から説明する。盧見える化よく言われることだが、ITプロジェクトは、その進行状況がそのままでは目に見えない。そのため、第三者のみならず、プロジェクトメンバも自分のプロジェクトの状況が現在どうなっているのか分からなくなってしまう場合がある。プロジェクトファシリテーションは、現在のプロジェクトの状況をさまざまな手段で「見える化」し、模造紙やホワイトボードなどに記入して、開発現場の壁など全員が見ることができるところに掲示することを推奨している。「サーバに格納しているから見てね」ではなく、現場に行けばプロジェクトの状況が分かるという状況を作り出すことが、コミュニケーションを重要視したプロジェクトファシリテーションの大きな特徴のひとつであるといえる。盪変化への対応プロジェクトファシリテーションの2つ目の特徴として、変化への対応がある。プロジェクトマネジメントは、事前にゴールが明確に決まっており、それに到達する計画を立て、あとは計画通り作業を行えばゴールに到達す*鎌倉技術部 生産技術部 MSS技報・Vol.19 30事例紹介プロジェクトファシリテーションの紹介~身近なプロセス改善~Introduction of Project Facilitation~Familiar Process Improvement~木村 良一*Ryoichi Kimuraプロジェクトファシリテーション※(Project Facilitation:PF)とは、プロジェクトマネジメントにファシリテーションの要素を取り入れた手法である。本稿では、プロジェクトファシリテーションの特徴について概論するとともに、プロジェクトですぐに活用できるいくつかのツールについて紹介する。これらのツールを活用することにより身近なところからのプロセス改善を行うことができる。Project Facilitation is a method for taking elements of Facilitation in Project Management.Thispaper explains the outline of the Project Facilitation, and introduces some tools for ProjectFacilitation. Software production process can be improved by using these tools.※ 提唱者は、株式会社チェンジビジョン代表平鍋健児氏ることができるという考えのもと、「計画」を重視している。しかし、大抵の場合、客先からの仕様変更要求や、その他の状況によりプロジェクトの途中でゴールや計画を変更する必要が発生する。プロジェクトファシリテーションにおいて、「見える化」の実践により、プロジェクトメンバ全員がゴールや計画の変更を認識し、現場で対策を検討および実行することができる。例えば、後述するバーンダウンチャートで進捗が計画通りにいかないと分かった場合は、人員の追加投入を決定できる。また、ソフトウェアかんばんにより、作業が停滞している機能が判明した場合、余力のある人間がフォローに入る、といった対応策(図2bを参照)を、プロジェクトメンバ全員の合意の下に行うことができ、問題解決の構造が「プロジェクトマネジャーvs.プロジェクトメンバ」ではなく、「問題vs.われわれ」になることもプロジェクトファシリテーションのメリットのひとつであると考える。蘯プロセス改善プロジェクトファシリテーションは、「ふりかえり」を重視している。ふりかえりはすなわちフィードバックであり、暗黙知の共同化と形式知化を行うことである。この作業により「プロジェクトに良い結果を与えたやり方」が明確になるが、それを組織のナレッジとして蓄積していくことこそプロセス改善である。3.プロジェクトファシリテーションのツールプロジェクトファシリテーションは、「実践」、すなわち「現場力の向上」に注目しており、現場でプロジェクトメンバが、いかに情報を共有し、効率的に、気持ちよく作業を進められるか、についての様々なツールを紹介している。本項ではプロジェクトファシリテーションのいくつかの代表的なツールについて説明する。盧バーンダウンチャート(Burn Down Chart)バーンダウンチャートはアジャイル開発方法論であるスクラムでも紹介されているツールであるが、機能要件の確定状況の確認、コーディング・試験の進捗状況の確認など様々な局面で活用することが可能である。図1は、試験フェーズにおける不具合修正に関するバーンダウンチャートの例である。特徴的なのは、縦軸を残作業量(この場合は残不具合数)としていることであり、時間経過とともにゼロに近づくことである。このチャートを開発現場などに掲示することにより、残作業や計画からどの程度遅れているかを誰もが一目で把握することができ、計画通りにいっていない場合は、この図を元にプロジェクトメンバと、あるいは上長と対策を検討し、実行することができる。盪ソフトウェアかんばんソフトウェアかんばんは、現在の各タスクの状態を把握するためのツールである。今のプロジェクトの作業の何が終わり、何が着手中であり、何が未着手なのであるかが分かるようにすることを目的とする。これは、トヨタにおける「かんばん方式」と同様の考え方である。図2aにソフトウェアかんばんのイメージを示す。ホワイトボードなどを活用することで容易に構築することができる。各作業をカードあるいは付箋紙(もちろんホワイトボードに直接書き込んでも構わない)などに書いて、定期的(例えばプロジェクトミーティングのとき)に確認すれば、ミーティングの時間を短縮することができる。図2aは作業状況の把握に主眼をおいているが、時間についてより注目したのが図2bである。直近の3日間31事例紹介3503002502001501005001月2月3月4月5月6月時間残不具合数7月8月9月10月11月計画実績図1 バーンダウンチャートの例未着手・機能A試験・機能A試験規格・機能A製作(5/1~) ・機能A設計(4/13)・機能B製作・機能C設計・機能B設計(4/28~)・機能D製作/試験・確認試験規格・機能D設計(5/10~)・機能B試験規格(4/27)・プロジェクト管理計画書(2/14)目黒木村小嶋着手中作業完了図2a ソフトウェアかんばんのイメージMSS技報・Vol.19 32の作業案件の状況を確認できるようにして、集中的に管理できるように工夫している。日々のフォローが必要なプロジェクトのミーティングなどに活用できる。名称は「ソフトウェアかんばん」であるがこの手法はソフトウェア以外でも活用可能である。蘯KPT(Keep/Problem/Try:ケプト)KPTはふりかえりシートの一種であり、改善を行う際に用いるフレームワークでもある。ふりかえりはプロジェクトファシリテーションの中核をなす「実践」である。図3にKPTのイメージを示す。模造紙やホワイトボードを三つの区画に仕切り、Keep(続けたいこと)、Problem(問題)、Try(試したいこと)として、Keep、Problem、Tryの順に参加者の意見を集約していく。以下にKPTの活用を図3に従って説明する。ア.テーマを決める議論の対象となるテーマを確認する。テーマを確認することにより、参加者のベクトルを揃え、意見を出しやすくし、脱線を防ぐ意図がある。イ.Tryを出す(初期)Try欄には「試したいこと」を記入する。「効率的に作業を行い、開発期間を短くする」という抽象的なものではなく、「静的解析ツールQAC++を導入する」といった、なるべく具体的な行動を書く。(施策A,B,C)ウ.Keepを出すイ項の施策を実行した後、「静的解析ツールを導入したことにより、以前より試験時間が短くなった」など、「よかったこと」「これからも続けたいこと」を記入する。(施策A,B)エ.Problemを出すイ項の施策を実行した後、「静的解析ツールを導入しても、試験時間はあまり変わらなかった。」など、「うまくいかなかった点」を書く。さらに、将来発生しそうな問題(リスク)についても記入する。(施策E,問題D)オ.Tryを出すエ項に記載された「うまくいかなかった点」あるいはこれから発生しそうなリスクに対しての具体的な解決策を書く。さらに、「次に試してみたいこと」がある場合は、それも記入する。目黒・機能A製作 済 レビュー レビュー(10:30~)・機能B設計(28/30) ・機能B設計(10/20)・機能A製作(400/500)・機能B設計(20/50)・機能A製作(450/500)・機能B設計(23/50) フォロー(支援)・機能C設計(30/35)・出張(仕様調整)・機能C設計 済 機能B設計支援 (20メソッド分)2/8(金)2/6(水)2/7(木)木村小嶋図2b 時間を考慮したソフトウェアかんばんの例33事例紹介KPTは、イテレーション開発など反復型の開発手法において、1回目より2回目の開発を効果的に行うために考えられたものであるが、それだけではなく、プロジェクト完了時の反省会において、他のプロジェクトにも活用可能な良い点(Keep)を収集することができ、それを蓄積することにより、組織の資産として活用が可能になる。これは、プロジェクトマネジメントでいう「教訓(Lessons & Learned)」であり、同時に組織的なプロセス改善の実施に他ならない。4.むすび以上、プロジェクトファシリテーションについて、筆者の私見も交えながら、分かりやすく紹介したつもりである。プロジェクトファシリテーションで紹介しているツールは、どれも簡単なものばかりであり、プロジェクトの開発プロセスの中に、身近なプロセス改善として、容易に組み込むことができるので、ぜひ挑戦してみていただきたい。参考資料参考URL:オブジェクト倶楽部 http://www.objectclub.jp/参考書籍:盧プロジェクトマネジメントの基礎知識体系ガイド2004年度版(Project Management Institute)盪実務で役立つプロジェクトファシリテーション(中西真人、翔泳社)蘯リーンソフトウェア開発(メアリー・ポッペンディーク、日経BP社)盻ファシリテーションの教科書(名倉 広明、日本能率協会マネジメント)眈ファシリテーター型リーダーの時代(フラン・リース、プレジデント社)Keep(続けたいこと)Problem(悪い点)Try(試したいこと)施策A施策B施策A施策B施策C施策C問題D新しい問題! 新しいアイデア!施策C+施策D解決法うまくいったうまくいかなかった施策E図3 ケプトのイメージ