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Category:電力システム
Redmineを活用したプロジェクト管理業務の改善

当所では、主に電力事業者向けのシステムを開発しており、複数の電力事業者に対応した開発を行っている。システム開発時には、標準パッケージが提供する共通機能を各電力事業者向けにカスタマイズしているため、機能の要否や固有のカスタマイズの有無などの細かな調整が発生し、プロジェクト管理が複雑になっている。このようなプロジェクトを効率的に遂行するためにプロジェクト管理ツールRedmine(注1)及び拡張プラグインであるLychee(注2)を導入した。本稿では、これらを活用したプロジェクト管理業務の改善について紹介する。
参考情報:
- この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の電力システムソリューションに係る技術について著述されたものです。
- 電力システムソリューションは、神戸事業所/横浜事業所/ トータルソリューション事業所が提供しています。
Redmineを活用したプロジェクト管理業務の改善 そのため、Redmineや管理台帳に記録された情報を手動で集計しながら工程を立案する必要があった。3.Lycheeの導入工程管理の問題点を解決するため、Redmine用のスケジュール管理や、担当者ごとの作業時間管理等、利便性が高い拡張プラグインがセットになったLycheeを導入した。Lycheeは、「もっと“見える”、“さわれる”プロジェクト管理」を目指した拡張プラグインであり、以下の機能を提供する。(1)可視性の向上・ガントチャートでイナズマ線の表示ができる。・チケットの階層表示と、子チケットの表示/非表示(折り畳み表示)切替えができる。・先行チケットと後続チケットの紐づけ、クリティカルパスを設定できる。(2)操作性の向上・ガントチャート、及びチケット一覧画面からのマウス操作で、開始日や作業期間を変更できる。(3)便利機能の追加・マイルストーン表示ができる。・リソースマネジメント機能で担当者ごとの負荷状況を見える化できる。上記の機能による工程管理作業の省力化を目的として、導入を決定した(図2)。 1.まえがき 当所では、主に電力事業者向けのシステムを開発しており、複数の電力事業者に対応した開発を行っている。システム開発時には、標準パッケージが提供する共通機能を各電力事業者向けにカスタマイズしているため、機能の要否や固有のカスタマイズの有無などの細かな調整が発生し、プロジェクト管理が複雑になっている。このようなプロジェクトを効率的に遂行するためにプロジェクト管理ツールRedmine(注1)及び拡張プラグインであるLychee(注2)を導入した。本稿では、これらを活用したプロジェクト管理業務の改善について紹介する。 2.工程管理の問題点 当所では、顧客から提示される機能変更点ごとに開発を進めるためチケット駆動開発(注3)を採用している。プロジェクト管理ツールにはチケット駆動開発で代表的に使用されているRedmineを採用している。Redmineの運用は定着したが、以下の問題により工程管理に要する工数が増大し、15名規模の開発プロジェクトで年間290時間を費やすこととなった。(1)進捗確認が困難Redmineはガントチャートにイナズマ線を表示できない。週次のプロジェクト会議では、登録済みの数百件のチケットを1件ごとに進捗確認しており、会議時間が増大した。回避策として、Microsoft ProjectやExcelの管理台帳を併用したが、ライセンス数により利用者が限られること、管理台帳を複数人で並行して更新することが難しいことから、プロジェクトリーダーに入力業務が集中し、工程の組替え作業に対応できない状況となった。(図1の①)(2)工程立案時の作業効率低下各チケットが独立しているため、工程を見直す場合には、全てのチケットに対して、担当者、開始日、及び終了日を手入力する必要があり、作業効率が低下した。(図1の②)(3)担当者ごとの作業負荷の把握が困難工程立案時には、担当者の負荷状況を考慮しながら工程を調整するが、Redmineには担当者ごとの負荷を集計する機能はない。(図1の③)Redmineを活用したプロジェクト管理業務の改善神戸事業所 横浜センター 技術第3課有田 忠生一般論文(注1)チケットを管理する無償Webアプリケーション。(注2)“さわれるガントチャート”などの機能を持ったRedmineを拡張する有償プラグイン。(注3)開発手法の一種。作業を細分化したタスクをチケットとして起票して作業を管理する。Microsoft ProjectMicrosoft Excelプロジェクト 担当者リーダー要件細分化してチケット起票チケット状況更新進捗確認チケット進捗更新①イナズマ線がなく進捗確認が困難②手入力が多く工程立案の効率が悪い③担当者ごとの作業負荷把握が困難①の回避策としてイナズマ線は管理台帳併用管理台帳更新がプロジェクトリーダーに集中作業の詳細化・担当者割り振り管理台帳による進捗管理REDMINE図1.工程管理の問題点44Redmineを活用したプロジェクト管理業務の改善3.2 担当者ごとの負荷状況の見える化担当者の負荷状況把握のため「予定作業時間」、「実績作業時間」をチケットに入力する運用を徹底している。しかし、Lychee導入前は個人ごとの負荷状況を視覚的に確認する術がなく、負荷状況の判定が非常に困難であった。Lycheeが提供するリソースマネジメント機能では、負荷状況が容易に可視化(図5の①)できるため、いつでも担当者ごとの負荷状況の確認が可能となった。その結果、「担当者の高負荷による工程遅延のリスク」の事前検出や、担当者間での負荷調整が可能になった。3.3 Lychee導入後の残課題前述の通り、Lychee導入によって管理工数を削減できた。ただし単にLycheeを導入しただけでは解決できない、以下の運用上の課題が表面化した。(1)チケットの粒度や階層構造があいまいチケットのツリー構造、粒度に関する運用ルールがなく、チケット起票者任せとなっていた。Lycheeの有用な機能であるチケットの階層構造表示を活用しようとする際、あいまいな構造による分かりにくさが新たな課題となった。(2)品質情報が一元管理できない品質を分析する際に必要となる情報が複数の資料に分散しており、品質情報の入力、収集に多くの手間がかかっていた。(図6の①)(3)品質分析に時間がかかる品質分析は「開発フェーズごと」ではなく、より粒度の細かい「機能変更点ごとの開発フェーズ単位」で行うため、3.1 進捗確認、工程管理の省力化Lycheeを活用することで、チケットを機能単位で集約できるようになると同時に、ガントチャートのイナズマ線の表示が可能になった。(図3の①)その結果、フォロー項目の削減と工程遅延作業の可視化が可能となり、会議時間の大幅な短縮を図ることができた。さらに、ガントチャートをマウスで直接操作することで作業順序の入れ替えや、作業期間の見直しが容易(図3の②)になったこと、ガントチャート上で担当者のチケットの情報を変更できるようになったことから、スケジュール見直しの省力化を実現できた。また、担当者が日々の進捗を直接更新することによって、タイムリーな進捗確認が可能となった。Lychee導入後、年間290時間を費やしていた工程管理に要する工数を年間50時間に削減(導入前比83%削減)できた。実際のプロジェクト進捗会議では、リリースバージョンや機能でチケットを絞り込み(図4の①)、さらに終了予定日を過ぎているチケットのみに絞り込む(図4の②)ことで、遅延のあるチケットに着目したフォローが容易になった。(図4の③)Microsoft ProjectMicrosoft Excelプロジェクト 担当者リーダー要件細分化してチケット起票チケット状況・進捗更新作業の詳細化・担当者割り振り進捗管理の一元化2重管理の廃止進捗確認REDMINE図2.Lychee導入①イナズマ線表示可能項目ツリーの折り畳み可能チケット一覧担当者開始・終了日工数②マウスドラッグで時期・期間変更可能図3.進捗確認、スケジュール見直しの省力化②進捗会議までに終了予定のチケットを絞り込む③遅延しているチケットを重点的にフォロー①リリースバージョンや機能で進捗フォロー対象を絞り込む図4.進捗会議での使用例①担当者ごとの予定/実績時間を日単位で集計高負荷になっている担当者は色替表示担当者図5.担当者の負荷状況の見える化45Redmineを活用したプロジェクト管理業務の改善第3階層のチケット起票時には、必ずチケットの担当者が1名となるよう、細分化を徹底した。これによって、チケットのツリー構造、粒度を統一し、新たなプロジェクト参加者にも理解しやすい運用環境を構築できた。4.2 チケット更新ルールの見直しRedmineであらかじめ登録されている「担当者」、「作業開始日」等の入力項目に加え、「ドキュメント頁数」、「DR指摘件数」等の品質情報を入力項目へ追加(図8)することで、品質情報を一元管理するための「品質データベース」を確立した。また品質情報を集計するため、新たに追加した入力項目はチケットの担当者が更新するよう、運用フローを見直した。(図9)担当者が対処時に品質情報を入力することによって、品質情報を早期に確認できるようになった。さらに入力作業を担当者が行うことで、プロジェクトリーダーと担当者の重複作業を削減し、プロジェクト管理の作業効率が改善した。短期間で品質分析を繰り返し行う必要がある。一方、品質情報は手作業で集計していたため、品質資料の作成やフェーズ移行審査に多大な時間を要していた。(図6の②)4.プロジェクト管理業務の見直し3.3で述べた課題に対し、プロジェクト管理業務の見直しを実施した。以下に見直した3点について述べる。4.1 チケット運用ルールの見直しチケットの階層表示を有効活用するため、チケットのツリー構造を以下の構成で定型化するとともに、進捗率の考え方を明確化するように運用ルールを見直した。第1階層:機能的な変更内容を記載する。(図7の①)第2階層:「S/W設計」、「製作」等、開発フェーズを記載する。(図7の②)第3階層:「作成」、「DR」、「DR是正」等、具体的な作業項目を記載する。(図7の③)品質資料担当者プロジェクトリーダー品質情報入力品質情報手動集計品質情報確認品質情報生産量(ライン数)障害件数進捗率︓︓品質情報生産量(ページ数)DR指摘件数作業工数︓︓②手動集計に手間がかかる①品質情報が分散図6.品質分析の課題::親チケットXX機能追加子チケット調査・検証子チケット基本設計孫チケット設計書作成孫チケット設計書レビュー子チケット詳細設計孫チケット設計書作成孫チケット設計書レビュー子チケット製作孫チケット製作孫チケットコードレビュー子チケット結合試験孫チケット試験実施孫チケット試験結果レビュー①第1階層②第2階層③第3階層図7.チケットツリー構造の見直し品質情報の入力項目を追加チケット編集画面図8.品質情報の一元管理プロジェクト 担当者リーダー要件細分化してチケット起票受付チケット対応を指示チケットの確認・処置チケットの状況・進捗更新品質情報の入力進捗のフォロー品質情報の収集・分析フィードバックチケットクローズREDMINE図9.運用フローの整備46Redmineを活用したプロジェクト管理業務の改善現在は、監視者が定期的に入力遅れをチェックし、フォローしている。入力遅れがあるとチケットを更新できないようにするといった対策や、構成管理サーバから自動で品質情報を収集する仕組みなどを検討し、入力遅れの防止を進めていく。(3)チケット単位でのフェーズ移行審査の見直し当所ではより詳細に生産物を審査することを目的に、チケットの単位でフェーズ移行審査(設計/製作/試験のフェーズごとに、生産物の審査を行うこと)を実施している。しかし、チケットの件数が多い場合には、手作業で品質指標と比較して評価することは、作業量が膨大となる。実績値を自動で収集し、指標値と差異をタイムリーに比較し、ガントチャート上に視覚化して表示できるようにできると理想的である。自動集計ツールの改善を進め、プロジェクトの更なる見える化・効率化を図っていく。6.むすびLychee導入により、スケジュール見直しの省力化、担当者の負荷状況を見える化して負荷平準化が容易となった。また確立した品質データベースを有効活用することで、品質確認の効率を向上させることができた。今後は、品質データベースの更なる有効活用を目指し、生産効率や品質情報を担当者ごとに集計する仕組みの構築や、品質情報の入力の自動化を進め、組織の弱点分析に活用していく。最後に、本改善及び執筆に当たり、様々な面で支援いただいた関係者の方々に深く感謝を申し上げる。4.3 品質分析用ツールの開発品質情報を効率的に集計するためにRedmineの「品質データベース」を活用した自動集計ツールを開発した。自動集計ツールはRedmineから出力した品質情報のCSVファイルを読み込み、読み込んだ値を集計、整形するためのExcelマクロである。本ツールを利用することで、開発フェーズごとの品質情報の集計や、案件ごとの品質情報の集計作業を効率化することができた。(図10)自動集計ツールの活用により、15名のプロジェクトで年間120時間を費やしていた品質情報の集計時間を、年間25時間へと削減(導入前比80%削減)することができた。5.今後の課題と改善に向けた取り組みLycheeの運用が定着しつつある中、新たな課題も明らかになってきた。以下に今後取り組むべき課題を記述する。(1)チケット初期投入の作業効率化4.1節に記述のルールに従い、改造項目ごとに複数のチケットを作成するため、チケットの初期投入に手間がかかっている。作業項目はほぼ定型化されているため、入力データのテンプレート化、及びテンプレートからの自動入力といった仕組みを実現することで、初期投入作業の効率化を進めていく。(2)品質情報入力遅れの防止担当者の作業が繁忙の際には、進捗に直接関連しない品質情報の入力がおろそかになりがちとなる。品質資料チケット品質情報生産量(ページ数)生産量(ライン数)障害件数進捗率DR指摘件数作業工数(見積と実績)︓︓CSV担当者プロジェクトリーダー自動集計による品質確認の効率向上品質情報入力品質情報確認CSVファイル内容品質資料に手動コピーして使用するLycheeRedmine図10.品質確認の効率向上執筆者紹介有田 忠生 アリタ タダオ1994年入社。主に電力事業向けシステムのソフトウェア開発に従事。現在、神戸事業所横浜センター技術第3課。