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Category:電力システム
次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発

発電所で作られた電力は、消費地の近くの配電用変電所で降圧し、配電線を通じてビルや工場、一般家庭等の需要家に供給される。配電系統は、このうち配電用変電所から需要家に至る送配電設備である。 現行の配電系統は、配電用変電所内のLRT(Load Ratio control Transformer)(注1)や、配電線路上に設置されたSVR(Step Voltage Regulator)(注2)の自律的なタップ切替で供給電圧を適正に維持している。この電圧制御方法は、配電系統に分散型電源が無く、負荷のみが接続されるものとして推定している。 しかし、近年、メガソーラー等のPV(Photovoltaics)(注3)の急激な増加により、配電系統に及ぼす電圧変動や逆潮流が拡大し、現行の電圧制御方法では、供給電圧を適正範囲に維持することが困難になりつつある。 このような課題に対し、各電力会社では、次世代配電系統の構築に向けて、整定値制御が可能な次世代型SVR(注4)の導入と、新たな電圧制御方法を具備した電圧制御システムの開発が急務となっていた。 このような背景から、三菱電機(株)は配電系統の複数箇所で計測した電圧・電流値から翌日の電圧分布を推定し、次世代型SVRの運転スケジュールを決定する次世代配電系統電圧制御実証実験システムを開発した。 本システムの開発において、当社はソフトウェアエンジニアリング全般を担当した。本稿では、次世代配電系統電圧制御実証実験システムの概要と、開発における当社の取り組みと課題、対策を紹介する。
参考情報:
- この技術レポートは、当社が展開する公共・エネルギー事業の電力システムソリューションに係る技術について著述されたものです。
- 電力システムソリューションは、神戸事業所/横浜事業所/ トータルソリューション事業所が提供しています。
次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発 1.まえがき 発電所で作られた電力は、消費地の近くの配電用変電所で降圧し、配電線を通じてビルや工場、一般家庭等の需要家に供給される。配電系統は、このうち配電用変電所から需要家に至る送配電設備である。 現行の配電系統は、配電用変電所内のLRT(LoadRatio control Transformer)(注1)や、配電線路上に設置されたSVR(Step Voltage Regulator)(注2)の自律的なタップ切替で供給電圧を適正に維持している。この電圧制御方法は、配電系統に分散型電源が無く、負荷のみが接続されるものとして推定している。 しかし、近年、メガソーラー等のPV(Photovoltaics)(注3)の急激な増加により、配電系統に及ぼす電圧変動や逆潮流が拡大し、現行の電圧制御方法では、供給電圧を適正範囲に維持することが困難になりつつある。 このような課題に対し、各電力会社では、次世代配電系統の構築に向けて、整定値制御が可能な次世代型SVR(注4)の導入と、新たな電圧制御方法を具備した電圧制御システムの開発が急務となっていた。 このような背景から、三菱電機㈱は配電系統の複数箇図1.システム構成所で計測した電圧・電流値から翌日の電圧分布を推定し、次世代型SVRの運転スケジュールを決定する次世代配電系統電圧制御実証実験システムを開発した。 本システムの開発において、当社はソフトウェアエンジニアリング全般を担当した。本稿では、次世代配電系統電圧制御実証実験システムの概要と、開発における当社の取り組みと課題、対策を紹介する。 2.システム概要 次世代配電系統電圧制御実証実験システムの概略構成を図1に示す。 本システムは、配電系統に係る設備データを設備管理システムから取得し、配電系統の構成および配電線路上の機器の把握を行う。 また、設備単位での現在状態および計測値を配電自動化システムからリアルタイムに取得し、充停電の把握および負荷分布を解析し、これらを蓄積データとしてシステム内に保存する。 次世代型SVRに対しては、この蓄積された過去データを基に翌日の配電系統全体の電圧分布を推定し、1日を通次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発神戸事業所 技術第3部 電力システム第3課足立 盛彦(注1 ) 負荷時タップ切替変圧器(注2 ) 自動電圧調整器(注3 ) 太陽光発電(注4 ) 遠隔地より整定値制御が可能なSVR整定値は30分単位の目標電圧であり、整定値を目指して自律的にタップ切替する。(注5 ) 機器の入切などの現在状態(注6 ) 電圧・電流などの計測値40次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発一般論文して電圧が適正となるよう、運転スケジュールとして30分単位の整定値を決定するとともに、決定した整定値を次世代型SVRに遠隔設定する。 さらに、次世代型SVRは、この運転スケジュールに沿って自律的なタップ切替を行うが、それでも電圧が適正範囲を逸脱した場合は、本システムよりリアルタイムに整定値を変更し、電圧逸脱を解消する。 なお、本システムは実証実験を目的とするため、実装機能は制限を設けており、画面表示機能は実装していない。3.システム機能の開発 本システムには、実証実験に最低限必要なアプリケーション機能として、設備DB生成機能、系統解析機能、系統計算機能、通信管理機能の4つを実装した。 当社は全機能を担当したが、このうち設備DB生成機能、系統解析機能、系統計算機能の特徴を紹介する。3.1 設備DB生成機能 設備DB生成機能は、設備管理システムからオフライン連係により受領したテキスト形式の設備データを、系統計算の演算に適したデータモデルに変換する機能である。3.2 系統解析機能 系統解析機能は、日々刻々と変化する配電系統の充停電状態を把握するSV(Super Vision)解析と、三相の電圧・電流値を代表とする計測値の解析を行うT M(TeleMeter)解析がある。 SV解析は、配電線路上に配置された自動開閉器の入,切など現在状態を配電自動化システムよりリアルタイムに取り込み、配電系統全体の充停電状態を把握するとともに、次世代型SVRの電圧制御範囲の特定を行う。 TM解析は、配電自動化システムから周期的に配信される計測機器の計測値(三相平均の電圧・電流・力率)を本システム上の設備データに割り付け、配電系統全体の負荷分布および電圧分布を把握するとともに、計測値の蓄積を行う。 さらに、負荷分布を把握するために必要な無効電力の按分手法としては、従来の配電システムで採用されてきた有効電力の分布のみを用いた按分手法ではなく、近年、高圧需要家の過剰なコンデンサ設置により、慢性的に進み力率となっていることを考慮し、高圧契約容量による按分手法を採用した。3.3 系統計算機能 系統計算機能は、SVRの運転スケジュールを設定するバッチ制御と現在の電圧逸脱を監視・解消するリアルタイム制御がある。 バッチ制御は、過去一定期間の計測値から翌日の電圧分布を推定し、電圧値を適正範囲に収めるための整定値を30分単位の48断面分算出し、次世代型SVRに遠隔整定する機能である。 次世代型SVRは、この整定値に従い、1日の電圧制御を実施する。 過去データ参照期間と整定値作成イメージを図2に示す。図2.過去データの参照期間と整定値作成イメージ リアルタイム制御は、前述のバッチ制御により電圧制御が行われている配電系統を周期的に監視し、電圧急変などの想定外の変化に際し、リアルタイムに次世代型SVRの整定値の補正を行い、供給電圧を適正範囲に維持するための機能である。 具体的には、計測機器から配信される計測値を逸脱監視箇所とし、同一箇所で連続して複数回の逸脱を検出した場合、整定値を再算出し次世代型SVRに遠隔整定する。電圧補正のイメージを図3に示す。図3.整定値補正イメージ41次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発 本システムは、過去データからの推定により、次世代型SVRの翌日の整定値を決定するとともに、当日はリアルタイム監視により、電圧逸脱した場合の補正を行う2段方式を採用し、配電系統全体の供給電圧を適正範囲に維持する。4.システム開発における課題と対策 本システム開発における設計面の課題と対策を4.1節、試験面の課題と対策を4.2節に述べる。4.1 演算処理性能向上を目的とした設備データモデルの構築 設備管理システムから受領する設備データは、配電線路を構成する設備(開閉器、SVR、電柱、区間等)を1データで表現したデータモデルであり、設備状態の把握が容易で、系統探索や充停電作成に優れているという特徴がある。 しかし、データ量と機器の種類が多いため、系統計算のロジックが複雑化し、広域の系統計算を目的とする本システムでは演算処理の性能要件を満たさないという課題があった。 図4に設備管理システムのデータモデルイメージを示す。図4.設備管理システムのデータモデルイメージ 演算処理は、計測点における潮流・電圧などの計測値と、計測点間のインピーダンスが必要であり、配電線路を構成する設備の情報は不要である。 そこで、(1)~(3)の手法により、設備データからデータ量と機器の種類を削減し、演算に適したノード・ブランチモデルの系統計算用データベースを再構築した。 (1) 設備データのインピーダンス存在部位からブランチを作成 (2) ブランチの両端にノードを作成 (3) 入開閉器で繋がるノードを1ノードに集約 (1)~(3)のノード・ブランチモデルのイメージを図5に示す。図5.ノード・ブランチモデルのイメージ また、系統計算用データベースは、計算範囲で閉じたノード・ブランチの木構造となるため、系統計算用データベース利用者の設計・製作負担軽減を目的に、木構造データに対するデータアクセスAPIを準備した。 系統計算用データベースとデータアクセスAPIの導入により、演算処理の高速化と系統計算処理ロジックの簡素化を実現し、課題を解消した。4.2 試験の効率化 本システムは実証実験システムであるため、「連係先システムの模擬装置開発コストが少ない」、「画面表示機能がなく、スケルトン表示のように視覚的に配電系統の状態を確認できない」といった状況にあり、試験環境が貧弱という課題があった。 この課題に対し、当社では、試験を効率的に進めるための解決策として、開発当初より、以下の取り組みを行った。(1)市販ソフトとExcelを活用した模擬装置開発 配電自動化システム模擬装置には、Windowsベースの市販ソフトである「SocketDebugger」を使用し、通信機能(TCP/IP通信)の開発コストを削減した。42次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発 機能試験では、設備データを意識した電文や、シナリオに沿った電文、時刻に応じて現在状態や計測値が変動する電文が必要であり、これら複雑な試験をSocketDebuggerのみで実現することは非効率であったため、試験操作のUI(User Interface)および送信電文作成ロジックをExcelで実装した。これら2つを組み合わせることで模擬装置を低コストで開発した。(2)簡易スケルトン表示ツールの開発 画面表示機能を持たない本システムで、配電系統の現在状態を容易に把握するため、ターミナル上にキャラクターベースの簡易スケルトンを表示するツールを開発した。(図6参照)図6.簡易スケルトン 簡易スケルトン表示ツールは、設備管理システムの設備データを利用することで、全データを電源側を起点としたツリー形式で表示するものである。名称や現在状態、計測値等を表示することで、配電自動化システム模擬装置から送信した情報を視覚的に確認することができる。 また、キーボード操作により設備データを選択することで、設備の詳細情報表示や、データダンプを可能とした。 これらツール機能を試験に活用することで、試験箇所の特定や試験結果の確認等の作業効率が大幅に向上した。5.今後の展開と課題 本システムは、2018年4月よりフィールド試験を行っており、2018年度上期の段階で、次世代型SVRの制御動作/応答性、計測機器の精度などから本システムで採用した制御ロジックの妥当性を実フィールドで確認できた。 今後は、本システムの本格導入に向け、以下の課題解決に向けた検討を行っていく。 (1) 設備管理システムとのオンライン連係によるメンテナンスフリーなシステムの構築 (2) 可変集中制御(注7)の実現に向けて、設備管理システム、配電自動化システムとの連係強化 (3) 今回の実証システムで得られた業務処理性能をベースとした最適なハードウェア構成の整備6.むすび 今後は、実証実験システムの開発により得られた知見を今後の本格導入に向けて活かすと共に、新たな技術要素を含め、顧客にとって更に最適なシステムを提案していく所存である。 最後に、本開発にあたり貴重なご意見、ご指導をいただいた関係者の方々に深く感謝申し上げる。(注7 ) 配電系統全体の情報を一ヵ所に集め、そこで計算処理をおよび次世代型SVRに遠隔設定を実施する。執筆者紹介足立 盛彦 アダチ モリヒコ2017年入社。主に電力システムのソフトウェア開発に従事。現在、神戸事業所技術第3部電力システム第3課。43次世代配電系統電圧制御実証実験システムの開発