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Category:FAパッケージソフトウェア
FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望

近年、各企業では、予期せぬ災害やトラブルに備えて重要なデータや情報を守るために業務データのBCP対策を策定し、平時から事業を継続できるよう措置を図っている。しかしながら、製造工場では業務データのBCP対策が不充分なケースがあり、災害やトラブルによるデータ損失発生時に、システムを復旧できず、工場が長期停止に陥ることがある。本稿では、FA機器の装置プログラムを自動でバックアップし、FAシステムを迅速に復旧するソフトウェア「MCStoragia」の特徴や機能について紹介する。
参考情報:
- この技術レポートは、当社が展開するFA・産業メカトロニクス事業のFAパッケージソフトウェアソリューションに係る技術について著述されたものです。
- FAパッケージソフトウェアソリューションは、トータルソリューション事業所が提供しています。
FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望 1.まえがき 近年、各企業では、予期せぬ災害やトラブルに備えて重要なデータや情報を守るために業務データのBCP対策を策定し、平時から事業を継続できるよう措置を図っている。しかしながら、製造工場では業務データのBCP対策が不充分なケースがあり、災害やトラブルによるデータ損失発生時に、システムを復旧できず、工場が長期停止に陥ることがある。本稿では、FA機器の装置プログラムを自動でバックアップし、FAシステムを迅速に復旧するソフトウェア「MCStoragia」の特徴や機能について紹介する。 2.開発の背景 FAシステムでは、制御装置としてシーケンサーを導入しているシステムが多いが、近年BCP対策の観点から装置プログラムの自動バックアップや変更管理機能の保有を導入条件としている企業が増えてきている。特に海外メーカーでは必須条件としている企業が多い。当社では、MELSECバックアップソフトウェア製品「Emainte」を既に販売しており、バックアップのノウハウがあることから、エンドユーザーや三菱電機㈱からシーケンサーのみならずFA機器全般のバックアップソフトウェア開発の要望が高まってきていた。そこで、シーケンサーに加え、インバータや表示器等、FA機器全般のバックアップや変更点管理が行え、データの一元管理ができるソフトウェア「MCStoragia」を開発した。3.MCStoragiaの特徴3.1 規模に応じたシステム構成小規模から大規模のFAシステムに対応するために、規模に応じてシステム構成が変更でき、また、バックアップしたデータはデータベースに一元管理することができる仕組みとした。具体的には、図1で示すようにGUIで機器の登録操作やバックアップデータの操作を行う「クライアントPC」、機器の登録情報やバックアップデータ・履歴の保管を行う「サーバPC」、バックアップを実行する「エージェントPC」の3つのサブシステムで構成し、利用者や接続機器の規模に応じて、クライアントPCやエージェントPCの台数を調整できるようにした。(1) FA機器数百台の大規模システムへの対応 本ソフトウェアでは、FA機器に接続しバックアップを実行するエージェントPCが複数台配置でき、バックアップ処理の負荷を分散できるシステム構成を可能とした。(2) 小規模システムへの対応 FA機器数十台の小規模システムに対しては、3つのサ図1.MCStoragiaのシステム構成FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望トータルソリューション事業所 技術第1部 開発課猪野 香26FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望一般論文ブシステムを1台のPCに配置し、PC1台のシステム構成を可能とした。(3) データベースによる一元管理本ソフトウェアは、情報管理のためのデータベースに市販のSQL Serverを採用し、システム規模の大小に関わらずバックアップしたプログラムをデータベース内に一元管理している。3.2 直感的操作を可能にする画面構成本ソフトウェアのユーザーインターフェースは、機器の登録やスケジュールの登録をマウス操作のみで直感的に操作できるような画面構成とした。(1) エクスプローラーライクな画面構成 図2左に示すように、画面の左側には機器構成をツリー上で表示し、右側にはツリーで選択した機器の情報やバックアップ履歴が表示される画面構成とした。(2) ドラッグ&ドロップによる登録操作 スケジュール登録については、図2右に示すように定義した時間帯・周期に対して、バックアップ対象機器のアイコンをドラッグ&ドロップするわかりやすいインターフェースとした。3.3 各種FA機器との接続とMELSOFT連携Emainteでは、シーケンサーのみのバックアップであったが、MCStoragiaでは、表1のとおりシーケンサーだけでなく、表示器やサーボ、CNC装置(注1)など工場内に設置されている三菱電機㈱製FA機器の大半をバックアップ可能とした。また、ユーザーがMELSOFT(注2)でプログラムを閲覧・編集できるように、三菱電機㈱製I/Fライブラリを用いてMELSOFTに対応したプロジェクト形式でのバックアップを実現した。さらに、インバータのバックアップには、駆動系およびセンサのために開発された三菱電機㈱標準プロトコルiQSS(注3)を採用し、機能やスペックが異なる駆動系機器やセンサに対しても同一処理でバックアップできるように拡張性を考慮した設計とした。表1.バックアップ対応FA機器対応するFA機器(機種)エンジニアリングツールEmainte MCStoragiaシーケンサー(MELSEC-A) GX Developer ○ △シーケンサー(MELSEC-Q)GX Works2GX Developer ○ ○シーケンサー(MELSEC iQ-R) GX Works3 × ○インバータ(FREQROL) FR Configurator2 × ○表示器(GOT) GT Designer3 × ○モーション(MELSERVO)MT Works2× ○サーボ(MELSERVO) × △コンピュータ数値制御装置(CNC) C70遠隔モニタ× ○ロボット(MELFA) RT ToolBox × △○:バックアップ対応、×:未対応、△:対応予定図2.MCStoragiaメイン画面(注1) 生産工程における加工工程をコンピュータ数値制御する装置。Computerized numerical controlの略(注2 ) シーケンサーのエンジニアリングソフトウェア(注3 ) 三菱電機(株)が推進するセンサソリューション27FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望3.4 差分バックアップ、差分レポートMCStoragiaには、変更が発生した場合のみバックアップする「差分バックアップ」機能と、プログラムの変更点をグラフィカルにレポート出力する「差分レポート」機能がある。「差分バックアップ」は、プログラムファイルのCRCコード(Cyclic Redundancy Check)(注4)により変更の有無を判断する。プログラム変更点のレポート出力機能である「差分レポート」では、次の(1)~(5)の処理を行うことで、図3のようにプログラムの変更箇所を強調表示するなどプログラムの照合機能を実現している。またプログラム変更の検知結果は、履歴画面に時系列で表示し、プログラムの変更管理にも利用可能とした。(1) FBD(Function Block Diagram)の各部品のID情報より追加/削除を判定(2) 各部品の変数情報より変更有無を判定(3) 新旧プログラムの比較により、プログラム毎の追加/変更/削除を判定(4) PLCopen-XML(注5)の情報よりFBDの図を描画(5) (3)の情報より変更箇所を色替えしPDF出力4.導入実績とトラブル回避事例(1) 導入実績MCStoragiaの導入実績ならびに商談状況は、表2のとおり、海外工場を主体に展開してきた。表2.導入実績(2018年9月現在)No 適用先時期対象機器(機種)1 海外自動車会社アジア工場A組立ライン2017年3月シーケンサー(MELSEC iQ-R) 51台2海外自動車会社アジア工場B組立ライン2017年8月シーケンサー(MELSEC iQ-R) 52台インバータ(FREQROL) 251台3国内自動車会社ヨーロッパ工場2018年7月シーケンサー(MELSEC iQ-R) 20台表示器(GOT) 82台インバータ(FREQROL) 160台4国内半導体工場2019年1月(予定)シーケンサー(MELSEC-Q) 150台シーケンサー(MELSEC-A) 600台表示器(GOT) 300台5海外化学メーカーヨーロッパ工場2019年6月(予定)シーケンサー(MELSEC-Q) 100台表示器(GOT) 50台6海外自動車会社ヨーロッパ工場2019年7月(予定)シーケンサー(MELSEC iQ-R) 150台インバータ(FREQROL) 300台7 海外自動車会社アジア工場C2019年7月(予定)シーケンサー(MELSEC-Q) 60台図3.差分レポート(MELSEC iQ-Rプログラムの例)(注4 ) データの誤り検出に用いる巡回冗長検査用のコード(注5 ) PLCプログラム言語をXML形式で論理的に表現する規格28FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望(2) トラブル回避事例本システム導入によりトラブル回避できた事例を紹介する。(a) バックアップデータによるシステム復元 エンドユーザーによるシーケンサープログラムの改修ミスが発生し、操業上の問題が発生したが、MCStoragiaで前日バックアップしたプログラムを復元することで、早期に操業を復旧できた。(b) プログラム変更の発見 操業休止中に意図しないプログラムの書込み変更が発生し、MCStoragiaでその変更を検知した。調査の結果、試験中に誤ってプログラムが転送されていたことが分かった。ライン稼働前に発見でき、ライン停止を未然に防ぐことができた。5.今後の展望5.1 廉価版エディション開発バックアップ対象機器が10台以下のさらに小規模なシステムにおいても商談が増加しつつある。しかし、市販データベースが安価ではないため、購入に至らないケースが多い。このような商談に対応すべく、市販データベースを用いない廉価版エディションを開発していく。5.2 エンジニアリング操作の自動化バックアップ対象機器の登録は、1台ずつ接続経路を設定し登録している。そのため、多数の機器を登録するには時間と労力がかかるとともに、登録ミスも誘発する。それらを解決するために、ポート自動検索を用いて、PCから接続できるFA機器を自動的に検出し登録できるよう、機能を改善していく。5.3 工場丸ごとBCP今後、MCStoragiaで工場全てのFA機器をバックアップ出来るように開発を進めている。(1) 全FA機器のバックアップに向けた機能拡張現在対応可能なバックアップ対象機器は、表1のとおりであるが、MELSEC他機種、サーボ、ロボットなど客先からの要望が多く挙がってきている。更に他社メーカーFA機器の対応要望もあり、図4のように工場の全ての機器に対応できるよう他社メーカーも含め対象機器を拡充していく。(2) クラウドとの連携によるBCP対策近年、大規模な自然災害が日本・世界各地で発生しているが、バックアップデータを遠隔に配置すれば、万が一、工場で火災や風雨による被害が発生した場合でも、FA機器のプログラムやパラメータを守ることができる。これまでの導入案件でも、遠隔のサーバ室にサーバPCを設置し、バックアップ保管場所を工場から離すことで、FA機器のBCP対策を行っているシステムがあった。図4のようにバックアップデータを保管するデータベースがクラウド上に配置できれば、さらに強固なBCP対策になるとともに、各工場データの一元管理も可能になってくる。今後はクラウドとの連携も行い、MCStoragiaが企業の全工場を丸ごとバックアップできるBCPソフトウェアとして利用されていくよう取り組んでいく。図4.機器拡充とクラウド連携による工場丸ごとBCP6.むすび当所では、自主事業の拡大に向けて、新しいビジネスの創出を目指している。このFA機器バックアップソフトウェアである「MCStoragia」は、競合製品がなく、今後も需要拡大が見込まれることから、当社の主力製品として事業拡大の一翼を担うものと期待している。これを実現していくためにも、今後もユーザーからの要求や市場動向に敏感に反応し、より魅力的な製品づくりに取り組んでいきたい。最後に、本開発に貴重なアドバイス・ご協力をいただいた三菱電機㈱各部門の関係者の方々に深く感謝申し上げる。執筆者紹介猪野 香 イノ カオリ1990年入社。主に自主ビジネス向けFAパッケージのソフトウェア開発に従事。現在、トータルソリューション事業所技術第1部開発課。29FA機器バックアップソフトウェア「MCStoragia」の紹介と展望