2024年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)
MEL-BIM 空調・換気機器設備設計支援アプリケーションの開発
最適な空調・換気機器を自動選定することで
設備設計の作業効率向上をサポート
空調機器の配管による
能力補正をデスクトップアプリケーションで
ほぼすべてのオフィスビルや商業施設などに設置されている空調機器。これらの空調機器は、室内機と室外機とそれらを繋ぐ配管で構成されます。配管は室内機と室外機を循環するように接続され、配管の中には熱を伝達するための冷媒ガスが封入されます。冷房の時、室内機は室内の熱を熱交換し、冷媒ガスを温めます。暖かい冷媒ガスは循環し、室外機の熱交換で外気に放出されます。
そして、冷まされた冷媒ガスが循環して室内機に戻ります。この循環で室内の熱が屋外に排出されます。逆に、暖房の時、室外機は屋外の熱を熱交換し、冷媒ガスを温めます。暖かい冷媒ガスは循環し、室内機の熱交換で室内に取り込まれ、冷まされた冷媒ガスが循環して室外機に戻ります。
配管は長ければ熱伝達が低下するため、能力の高い空調機器を利用する必要があります。システム開発第3課 副課長 神谷達幸氏がMEL-BIMの開発を開始する時、既に空調機器の配管設計と能力補正を計算するデスクトップアプリケーションがリリースされていました。
「そのアプリケーションは、配管の長さに応じて機器能力がどれだけ低下するか補正計算します。また、配管を曲げることによっても直管より能力が低下します。1回曲げると何メートル分の長さに相当するという基準があり、配管の実際の長さと直管換算の相当長を用いて機器能力の補正計算を行います。ユーザーが室内機と室外機の機種を決めた上で、画面上でジョイントを繋ぎながら配管を完了したタイミングで、機器能力の補正計算が行われます」(神谷氏)
空調機器の自動選定を行うMEL-BIMの開発にはこの補正機能の取り込みが求められました。
熱負荷計算から快適さを提供する
最適な機種を選定
能力が足りない空調機器を採用すると、夏は冷えない冬は暖まらないという問題が生じます。逆に、能力が高すぎると急激な冷気や暖気で不快な環境になるという問題が生じます。
快適な環境を提供するため、建築設計では部屋諸元情報として必要な熱負荷計算を行います。まず、その建物の立地条件から外気の最高気温、最低気温をもとに、部屋の窓ガラス面積などから太陽の日射による熱負荷を計算し、床面積から照明の熱負荷、部屋に収納される人の数や事務機器からの熱負荷などを加算して必要な熱負荷を求めます。MEL-BIMは建築設計の熱負荷計算結果からスタートします。
すべての空調機器には、日本産業規格で定められた定格能力の表示が義務付けられています。定格能力は定められた温度条件での能力になり、冷房時と暖房時の能力が明示されています。定格能力は同じ条件下での能力のため、メーカーを越えての能力比較を行うことができます。ただし、温度条件が定格の条件と異なる場合、能力は向上したり低下したりします。そこで、MEL-BIMは、外気温度や室内温度をもとに能力の補正を行います。
室内機は、外形状から様々なタイプを揃えています。天井カセット形、天吊形、壁掛形、床置形など。ユーザーは望ましい外形状を選択して、配管情報を入力します。すると、MEL-BIMは熱負荷計算結果を満足する空調機器を温度や配管による能力補正を行なって、1,000機種を超える空調機器の中から部屋ごとに最も適した室内機、室外機を選定します。
デスクトップアプリケーションを変換
ユーザーのプライバシー情報にも配慮
「MEL-BIMの配管での能力補正計算は、デスクトップアプリケーションと同じ機能の取り込みが求められました。この実現がMEL-BIM開発のポイントとなったところです」(神谷氏)
デスクトップアプリケーションとWebアプリケーションMEL-BIMの補正計算結果が異なると、ユーザーの混乱につながるので、同一結果とすることが重要です。
「当初は、デスクトップアプリケーションのプログラムをWebアプリケーション用のプログラミング言語に変換するだけで、容易に実現できると考えていました。ところが、補正計算の計算式がデスクトップアプリケーションの中に散りばめられていたため、その抽出と確認が想定以上の作業となりました」(神谷氏)
MEL-BIMは、サーバー上にユーザー情報は何も残さないという方針で開発し、ユーザーが入力するビル情報などのプライバシー情報は、ユーザー側の環境だけに保存するようになっています。そのため、ユーザーには安心してご利用いただける配慮がなされています。
快適さを提供する換気機器を
性能特性図を確認しながら選定
換気機器は、汚れた空気を排出し、新鮮な空気を取り込みます。建築基準法等は『必要換気量(風量)』を確保できる換気設備を求めています。必要換気量は、建物用途(レストラン、公会堂、事務所など)や部屋用途(厨房、浴室、倉庫など)、空間の大きさや人の数、つまり、部屋諸元情報から求めることができます。
換気機器が空気を送る圧力を静圧(P)といい、空気の量を風量(Q)といいます。換気機器が開放状態(静圧を必要としない時)の風量は最大(カタログ風量)となります。換気機器は、静圧の変化に対応した風量を示すPQ線図で各機器の性能特性を表します。
MEL-BIMでは必要換気量を満たす換気機器の一覧を表示して、PQ線図を確認しながら利用者が換気機器を選定することができます。
さらなる使いやすさとともに
設備設計作業の効率化を追求
「会社表彰をいただいた時、改めてMEL-BIMが多くの方に役に立っていることを実感し、とてもうれしく思いました」(神谷氏)
2020年に初版をリリースしたMEL-BIM。当初は1種のCADソフトにだけ対応していましたが、現在は4種のCADソフト対応に拡張しています。また、当初、空調・換気機器だけの機器選定でしたが、現在は、設備用パッケージエアコンとルームエアコンも選定ができるように拡張が進んでいます。そして、最も大きな改良点は使いやすさの向上です。MEL-BIMは、今もなお改良が加えられ、使いやすさを増しています。
「今後も三菱電機の空調・換気製品を用いた設備設計作業の効率化・迅速化をコンピュータソフトウェアによるデジタル技術を通して貢献していきます」(神谷氏)

商標について
- ・MEL-BIMは、三菱電機株式会社の登録商標です。