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2024年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

外観検査ソフトウェアMELSOFT VIXIO

AIによる高度な画像検査を
自動化するソフトウェアを新規開発
製造現場の目視検査をサポート

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、最新のAIによる画像認識を使って、製造現場の目視検査を自動化する外観検査ソフトウェア「MELSOFT VIXIO」(以下、VIXIO)を三菱電機株式会社からの委託を受けて開発しました。従来技術では自動判別が難しかった製品の汚れやキズなどをAIが自動判別するだけでなく、検査に必要なAIの学習、検証・調整、他機器との連携、データ管理などを一つに統合しました。これにより、高度な画像検査の導入が手軽になり、製造現場の人手不足の解消、品質向上、コスト削減などを実現します。

  • ■木村 直幸(キムラ ナオユキ)

    2014年入社。VIXIO開発における設計・開発チームのマネジメントを担当。現在、FA・ファシリティ事業統括部 名古屋事業所 FA情報通信システム部 FA情報通信技術第三課

  • ■堀田 怜(ホッタ リョウ)

    2015年入社。VIXIO開発での設計・開発を担当。現在、FA・ファシリティ事業統括部 名古屋事業所 FA情報通信システム部 FA情報通信技術第三課

AIの画像認識技術を使って
従来は難しかった官能的検査を自動化

製造現場では、目視による外観検査が様々な工程に存在します。基準が明確な比較的単純な検査は、画像処理による自動化が行われてきました。一方、ランダムなすりキズや打痕、塗装の色ムラ、汚れのように基準が不明確な“官能検査”は、従来技術では自動化が難しく、依然として人の眼が頼りでした。FA情報通信システム部 FA情報通信技術第三課の木村直幸氏は目視による外観検査の課題を次のように語ります。

「目視による検査は属人性が高く、初心者とベテランでは精度や生産性に大きな差があります。ベテランが辞めてしまうと品質にばらつきが生じます。最近では人手不足により目視検査の継続が困難になっており、省人化・自動化への要求が高まっています」

そこで登場したのがAIによる画像検査です。近年、大きく進化した画像認識AIに製品の画像を学習させて良品や不良品を見分けられるAIモデルを生成します。これを使うことで、従来は自動化が難しかったキズや汚れのような官能的な検査も自動化が可能になります。

AIによる画像検査の導入を
容易にするVIXIO

しかし、AIを使った画像検査システムの構築にはいくつかの課題がありました。

「一つはAIに画像を学習させてAIモデルを生成するのに数時間から数日といった時間を要することです。精度を高めるための検証と調整も含めるとさらに多くの時間がかかります」(木村氏)

もう一つは生成したAIモデルを製造現場に適用するためのハードルが高いことです。FA情報通信システム部 FA情報通信技術第三課の堀田怜氏は、AIモデルの適用がこれまで進んでいなかった理由を次のように話します。

「検査システムを構築するには、AIモデルをカメラやシーケンサなどの設備と連携させなければなりません。一般的には、そのために連携用のソフトウェアを追加購入したり、独自にプログラムを書く必要があります。このため手軽に導入できるものではありませんでした」

VIXIOは、こうした課題に対応し、AIによる画像検査システムの導入を容易にするソフトウェアです。独自のAIアルゴリズムを搭載し、迅速にAIモデルを生成できます。加えて、VIXIOには画像検査システムに必要な機能が統合されています。AIモデルの生成からカメラやシーケンサとの連携、検査のモニタリング、検査データの管理まで、追加ソフトの購入やプログラミングなしに、画像検査システムの構築と運用が行えます。

洗練されたユーザーインターフェースで
検証・調整作業も含めて効率化

AIで画像検査を行うためには、あらかじめ製品の画像をAIに与えて学習させてAIモデルを生成する作業が必要です。VIXIOでは、三菱電機情報技術総合研究所(以下、情報総研)の開発した独自のAIアルゴリズムを搭載し、業界最速レベルの高速な学習と高精度を両立させました。100枚程度の画像であれば10秒以内にモデルの生成が可能です。

VIXIOでは高速なAIを搭載するだけでなく、認識精度を上げるために必要な検証・調整作業も含めた効率を追求しました。

「AIモデルは一度の学習で完成することはほとんどありません。実際の検査に使うためには学習したAIが実際の画像に対してどのような判定をするかを検証し、十分な判定精度が得られるまで、パラメーターを変更したり、画像を変えて再学習させる調整作業を何度も繰り返す必要があります。VIXIOではこの繰り返し作業の操作数をなるべく減らして、ストレスなくAIの調整ができるようにユーザーインターフェースを工夫しました」(堀田氏)

プログラミング不要で
カメラや製造設備と連携可能

検査システムの構築が簡単に行えることもVIXIOの特長です。

「AI画像検査ソフトの多くは、AIとカメラやシーケンサを連携させるために別途専用ツールを購入するか、独自にプログラムを書く必要があります。VIXIOでは、誰でも簡単に検査システムが構築できるようプログラムなしでカメラやシーケンサとの連携を設定できる“タスク機能”を新たに開発、搭載しました」(堀田氏)

タスク機能には、カメラでの撮影、AIによる画像判定、判定結果に応じたシーケンサの制御といった機能がブロックのようなパーツとして用意されています。これらのブロックを画面上で組み合わせるだけで検査システムの動作を設定できます。

「ユーザーから見ればブロックを組み合わせるだけのシンプルな操作ですが、それを実現するためにプログラムはかなり複雑になっており、将来のブロック追加を踏まえた拡張性のある設計としました」(堀田氏)

検査に関わるあらゆる人に
使いやすいインターフェース

VIXIOの開発では、AIの学習や調整部分だけに限らず、すべての操作で使いやすさを追求しました。

「VIXIOの開発で最も力を入れたのが、製造現場の方々にとって使いやすいシステムにすることでした。外観検査のシステムを構築する人、実際に検査を実施する人など、立場の異なるユーザーをいくつか想定し、それぞれの視点でどんな動線や流れで操作をすると使いやすいのかを考え、ユーザーインターフェースを作り込んでいきました。これは面白くもあり、大変な作業でもありました」(木村氏)

「ユーザーによって見たい情報が異なることも考慮して、検査のモニター画面は表示する項目や位置をカスタマイズ可能にしました。また、画像処理に詳しくない人でも操作できるよう、ヘルプ情報を表示したり、必須項目のみを編集可能にしたりして、覚えることを減らすような工夫もしています」(堀田氏)

FA情報通信システム部の開発チームにとってVIXIOは初めてのWebアプリケーション開発だったため、新しく学ぶことも多かったといいます。

「Webアプリケーションの開発に精通している会社と連携して、知識を蓄積しながら開発を進めました。複数のユーザーが同時に操作した時の処理などは、今まで経験してきたファームウエアの開発とは異なる部分があり、新たなことに挑戦でき、とても新鮮でした」(堀田氏)

MESWの強みは社内の他部署や
三菱電機との連携による総合力

VIXIOでは、最先端のAI技術が製品に活用されています。

「こうした情報総研の先端技術に触れられ、それをもとに製品化できるのは私たちの大きな強みです。また、社内の他部署とも連携がしやすいのも特長です。VIXIOではシーケンサの制御などで、他の部署が持っている技術も活用しています」(木村氏)

今回の取り組みの中でエンジニアとしてのやりがいを両氏は次のように語ります。

「今回は、AIという未経験の新しい技術に触れることができました。そのため、身に着けなければならないこともたくさんありましたが、振り返ってみると自らの成長を実感することができました」(堀田氏)

「人力で行っていた作業を自動化する分野は、製品化した際にお客様への貢献が目に見えて分かりやすいものでした。そのことがやりがいになっています」(木村氏)

VIXIOの開発は今後も継続していきます。これからの取り組みについて堀田氏は次のように語ります。

「お客様のニーズをしっかり把握したうえで魅力的な機能を増やしていきたいと考えています」

また、木村氏はAI技術の適用について次のように話します。

「AI技術は急速に進歩していますし、今後も進化していきます。これからは製品の価値を高める新しい技術を取り入れるとともに、自分自身の能力も向上させていきます」

図1. 検査員の目視検査をVIXIOで解決
図1. 検査員の目視検査をVIXIOで解決
図2. 画像の学習から装置連携までを簡単操作で実現
図2. 画像の学習から装置連携までを簡単操作で実現

商標について

  • ・MELSOFTは、三菱電機株式会社の登録商標です。