このページの本文へ

ここから本文

2024年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

製造現場向け「FA Smart Solution」

製造ラインの制御データ可視化に向けて
お客様自身で手軽に監視画面の開発ができる
「FA Smart Solution」を開発

製造業で利用される生産設備は、その多くが制御装置によってコントロールされています。三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)では、製造ラインの制御データを収集するデータ収集ソフトウェア「Miranda(ミランダ)」を提供しており、近年は複数の機械や装置の制御データをまとめて見たいというニーズが増えています。そこでお客様自身で手軽に画面開発ができ、Webブラウザ上で現場の様々な情報が可視化できる「FA Smart Solution(仮称)」を開発し、2025年4月にリリースします。これにより、生産状況や稼働状態の監視業務を効率化し、生産性を向上することができます。

  • ■中島 龍二(ナカシマ リュウジ)

    1996年入社。原子力関連の監視システムや粒子線治療装置のソフトウェア開発などを経て、2004年からFA関連の制御システムのソフトウェア開発に従事。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所 FAシステムソリューション技術部 開発課 グループリーダー

複数の製造ラインの制御データを監視できる
新たなWebシステム「FA Smart Solution」を開発

自動車、鉄鋼、半導体など、製造業の多くの現場では、機械を安全かつ効率的に稼働させるために制御装置を導入しています。PLC(Programmable Logic Controller)と呼ばれる制御装置は、機械から取得した温度、圧力、回転数などをもとにあらかじめ決められた指示を出すもので、モータ、アクチュエータなどを制御し機器を稼働させます。さらにこの制御装置は、運転状況の監視、生産性の改善、トラブル改善にも利用できます。

MESWが開発・販売する「Miranda」は、製造ラインの制御データを収集するソフトウェアです。製造現場の機器から収集したデータと、機器の状態をカメラで撮影した映像データを連携し、「見える化」を実現します。 これにより、データのリアルタイム監視による迅速なトラブル対応や、機械停止時の原因解析などが可能となります。

MESWでは、Mirandaのほかにも制御装置に組み込まれているプログラムなどを自動でバックアップする「MCStoragia(エムシーストラジア)」、データ活用ソリューション向けソフトウェア「Traceabia(トレサビア)」、監視・制御ソフトウェア「MonityNX(モニティエヌエックス)」などを開発して提供しています。特にMCStoragiaは、制御装置の保守・保全用の製品としてだけでなく、災害対策用の製品としても高い支持を集めています。

今回、MESWでは、独自のソリューションとして、Mirandaで収集したデータを用いて、現場の稼働や生産に関する様々な情報を表示する「FA Smart Solution」を開発しました。これにより、製造現場に設置した複数台のMirandaの情報を一括管理した監視システムを簡単に構築することができ、お客様が作成した各種監視画面を事務所などからWebブラウザで閲覧することが可能になります。開発の経緯を社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所 FAシステムソリューション技術部 開発課 グループリーダーの中島龍二氏は次のように語ります。

「MirandaはPC用のパッケージ製品で、製造ライン単位でシーケンサからデータを収集して可視化するソフトウェアです。シンプルに利用できる反面、お客様からは複数の製造ラインで得られたMirandaの情報をまとめて見たいという声が寄せられていました。そこで、複数設備・装置のデータを統合するソリューションとしてFA Smart Solutionを開発しました」

図1. 製造ライン単体のデータ収集から監視システムへのスケールアップ
図1. 製造ライン単体のデータ収集から監視システムへのスケールアップ

FA Smart Solutionの特長は、収集した複数設備・装置のデータを一元化できることに加え、お客様による画面開発が可能であることです。PowerPointで資料を作るように、様々な部品の中から必要な部品を画面上に配置していくだけでWebアプリケーションによる監視画面を作成することができます。

「生産監視システムの場合、お客様はメーカーに開発を依頼して画面を作ってもらうのが一般的です。その結果、開発に時間がかかるばかりでなく、開発後に画面変更や追加の要件が発生した際もメーカーに依頼することになり、時間とコストがかかります。FA Smart Solutionなら用途に応じた画面をお客様の手で自由に作成できるので、スモールスタートで始めやすく、導入後も自由に改善することができます」(中島氏)

図2. お客様による画面開発
図2. お客様による画面開発

「モノ売り」から「コト売り」へ
ビジネスモデルを変革

今回、MESWがFA Smart Solutionを開発した目的は、統合監視を求めるお客様の声に応えるためであることはもちろんのこと、ビジネスモデルを従来の「モノ売り」から「コト売り」へと転換を図ることにありました。

「今まで私たちは、Miranda、MCStoragiaなどのパッケージ製品を開発して販売してきました。しかし近年、お客様ニーズの多様化が進み、単一パッケージだけでは応えきれないケースが増えています。こうした変化に対してお客様の用途に応じた画面が手軽に構築できるFA Smart Solutionを開発しました」(中島氏)

着手した2020年当時は現在のようなWebアプリケーションではなく、MirandaとMCStoragiaをシンプルに連携させるWindowsアプリケーションを開発する構想でした。その後、MESWの製品群や技術などの資産を活かす形で、各製品のデータを収集する統合データベースを構築する構想が生まれ、データを可視化するFA Smart Solutionへと繋がっていきました。さらに、可視化したデータを特定のPCに限定することなく、どこからでも見られるようにWebアプリケーションとして開発することになりました。

「当初は単一の表示機能のみを提供するアプリケーションの位置付けで、統合の概念はありませんでした。開発を進める中で統合製品として考えるべきという意見が多くなり、現場の稼働や生産に関する様々な情報を表示するソリューションとしての開発が始まりました」(中島氏)

ノーコード・ローコードで実現する
画面構築ツールを開発

MESWは、様々なFAパッケージソフトウェアの開発実績があり、そこで培ったシーケンサからデータを取得するデータ収集技術、データを蓄積する技術、収集データを上位システムに提供する技術などを有しています。

FA Smart Solutionの開発を本格的に開始した2021年度は、Miranda・MCStoragiaのデータ表示機能を開発しました。2022年度と2023年度は、生産進捗、稼働監視、トレーサビリティデータの表示機能と、ノーコード・ローコードで実現する画面構築ツールの開発を行いました。2024年度は製品リリースに向けてテストなどを行っています。

FA Smart Solutionの中で、MESWの強みが発揮されたところは、ノーコード・ローコードで実現する画面構築ツールです。お客様自身で画面開発ができるように、画面部品であるユーザー画面用カードを一覧から選んで、ドラッグ&ドロップで貼り付けられるようにしています。

「お客様がWebブラウザに表示される画面を視覚的にイメージできるように開発しました。例えば、画面開発時に工場/建屋/ライン/設備などの生産ラインの階層を作成し、階層にあった画面を作成可能にしています。また、利便性を考えて、生産進捗やデマンド監視の表示などFAの監視画面で一般的に用いられる表示のセットをカードとしてまとめました。その結果、より簡単な操作で画面が作成できるソリューションができました」(中島氏)

図3. ユーザー画面の作成例
図3. ユーザー画面の作成例

ユーザー画面用カードは生産進捗、稼働監視、生産実績・稼働実績、デマンド監視のカテゴリーで現在、計18種類を用意しています。開発課では、事業所内でお客様向けのシステム・ソリューションを納入している部門にアドバイスを仰ぎながら開発しました。

「他の部門の協力を得ながら進めることが重要であることを改めて認識しました。現在もユーザー画面用カードは開発中で、PRを兼ねてパイロット版を実際にお客様に見ていただきながら改良を重ねています」(中島氏)

このように、MESWの強みは横のつながりがあり、他部門のナレッジや技術の提供を受けながらスピーディーに開発ができる風通しのよさにあります。

中島氏はFA Smart SolutionをはじめとするFAソリューションを開発する喜びについて、「企画から携われるところ」と話します。

「どのようなソフトウェアを作るか企画から始めて、開発、テスト、製品化、リリース、販売まで全ての工程で関わることができます。開発後も商談同行で、営業担当や代理店の方と一緒にお客様のところへ訪問することもあり、お客様の声を直接聞けることは開発の励みになります。こうした中で、新しいことにも積極的にチャレンジする風土が職場にあり、技術者としてもやりがいを感じています」(中島氏)

図4. ユーザー画面用カードの例
図4. ユーザー画面用カードの例

AIを使った機器の故障予測や
クラウド化にもチャレンジ

MESWとしてFA Smart Solutionを開発した効果としては、当初の目的とした「モノ売り」から「コト売り」への転換に向けて、お客様への提案が可能となったことが挙げられます。また、PoCを行うことにより、開発者がユーザーに近い視点で製品を開発でき、よりニーズにあった製品を開発できました。

2025年4月の製品版リリース後は、現在18種類あるユーザー画面用カードのラインアップをお客様の要望に応じて追加したり、既存カードの改善を図ったりしながら利便性に優れたソリューションに進化させていきます。

「将来的にはAIを使った機器の故障予測、CO2排出量の可視化などに発展させていきたいと思っています。海外工場を持つ日系企業のお客様からの要望が多いクラウド対応もチャレンジしていきます」(中島氏)

商標について

  • ・PowerPointは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
  • ・Windowsは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
  • ・Miranda、MCStoragia、Traceabia、MonityNXは三菱電機ソフトウエア株式会社の登録商標です。