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2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

先進レーダ衛星 利用・情報システム「A4EICS」※1

※1正式名称:先進レーダ衛星(ALOS-4) 利用・情報システム「A4EICS」

新しい地球観測衛星「だいち4号」と
観測データ利用者を繋げるシステムの構築
衛星データを活用した防災・減災に貢献

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた地球観測衛星「だいち2号」および新たに打ち上げる「だいち4号」による観測要求の受付・観測データの配信等を行う新システム「A4EICS」を開発しました。地震、噴火、台風など多くの自然災害が発生する日本において、防災や減災に人工衛星による観測データは欠かせません。「A4EICS」は利用者からの観測要求とデータ配信を高速かつ安定して処理することで、平時の備えと緊急対応の両方をサポートします。

※1正式名称:先進レーダ衛星(ALOS-4) 利用・情報システム「A4EICS」

  • ■池谷 弦(イケタニ ゲン)

    電子システム事業統括部 つくば事業所 第二技術部 第一課

防災・減災に欠かせない
人工衛星の観測データ

JAXAが運用する「だいち」シリーズは、災害状況の把握や地殻変動の解析などを目的に作られた地球観測衛星です。地球観測衛星は搭載するセンサーの種類によって得られる情報が変わります。2023年現在運用中の「だいち2号」はセンサーとしてレーダーを搭載しています。電波の反射を使って計測するレーダーは太陽光や雲の影響を受けないため、昼夜、天候を問わず観測可能という利点があります。「だいち2号」に搭載されているLバンド合成開口レーダーは干渉解析を実施することで地表面の動きを数cmの精度で捉えることが可能です。後継機である「だいち4号」ではレーダーの性能がさらに向上し、より広い範囲を一度に観測できるようになるほか、観測頻度も向上します。また、長期間のデータがたまることによる時系列解析ができるようになります。

人工衛星と利用者を結ぶ
観測要求受付・配信システム

「だいち」は、地震、火山噴火、豪雨による洪水などの災害が発生した際に緊急観測を行うほか、平時にも森林伐採の状況調査など、幅広い用途に使われています。観測データの利用者も行政機関や様々な研究を行う大学など幅広く、海外からの利用もあります。「だいち」が地表のどこを観測するかは、これら利用者からの要求をもとに決められます。衛星の能力を有効に活用し観測データを役立てるためには、利用者からの観測要求を受け付け、管理し、観測結果を配信するシステムが必要です。

MESWが開発・運用する「A4EICS」は、「だいち2号」の後継機である「だいち4号」の運用に向けて新しく作られた観測要求受付・観測データ配信等を行うシステムです(図1)。「だいち2号」にも対応しています。

「観測データ提供の窓口となるシステムには迅速性、確実性が求められます。「だいち」の観測データは画像として提供されます。機能的には利用者からの要求を受け付けるWebサイトのほか、観測計画を作成する外部システムとの連携、観測データの画像への変換、データの保存・管理、利用者への配信などが求められます」(A4EICSの開発を担当した池谷弦氏)

図1:「A4EICS」は衛星と観測データ利用者を繋ぐ重要なシステム
図1:「A4EICS」は衛星と観測データ利用者を繋ぐ重要なシステム

エキスパートにとって使いやすい
観測要求受付システムを開発

観測要求の受付は専用のWebサイト「AUIG4」(ALOS-4 / ALOS-2 User Interface Gateway)で行います(図2)。衛星は地球の周りを一定の周期で回っているので、いつでも希望する場所が観測できるわけではありません。そのため「AUIG4」では観測機会の検索が可能となっています。例えば利用者が観測したい日時を指定すると、その時の衛星の位置で観測可能な範囲が地図上に分かりやすく表示されます。ひとつの画面に「だいち2号」と「だいち4号」両方の観測可能範囲が表示されるので利用者は観測可能な日時と位置を効率よく要求することができます。

「ユーザーが設定した時間に衛星がどの位置にあり、その時にセンサーの角度を何度にすると、どの範囲が観測できるかをその都度計算して表示します。この複雑な演算を高速に処理するためには工夫が必要でした」(池谷氏)

受付システムでは使い勝手が重要です。「AUIG4」の開発では早い段階からサイトのプロトタイプを作ってユーザーの意見を聞きながら改良を重ねました。

「衛星情報の利用者はある程度限定されており、その全員がこの分野の専門家です。そこで『AUIG4』では、万人向けの分かりやすさよりもオペレーションの効率や専門家のかゆいところに手が届く機能性を重視しました。プロトタイプを使ってエンドユーザーと緊密なコミュニケーションをとることで、設計通りにできていることの確認や、設計時に気がつかなかった改善点などを共有できました」(池谷氏)

ここで受け付けた観測要求をもとに後段の衛星管制・ミッション運用システムで観測計画が立てられます。衛星の能力や回線容量には限界があるため、すべての観測要求に応えられるわけではありません。観測要求が受理されたかどうかを利用者に通知するのも「AUIG4」の役割です。

図2:観測要求を受け付けるWebサイトの画面
図2:観測要求を受け付けるWebサイトの画面

センサーのデータを画像に変換
最大16PBの大容量・高速ストレージを採用

A4EICSは、衛星がセンサーで捉えたデータを利用者が使いやすい画像データに変換する役割も担います。

変換では衛星軌道から丸い地表を斜めに捉えたデータを2次元平面の地図に投影するといった処理を行います。変換後の画像データの容量は1枚あたり数GBから数十GBになります。センサーからの生データは全てストレージに保存し、処理済みの画像データも特定エリア(日本上空)のものはすべて保存します。大容量データを高速に処理するためにストレージには高速分散ファイルシステムが採用されています。ストレージ容量は最大16PBまで拡張が可能です。これは「だいち2号」、「だいち4号」の予定運用期間に取得可能なデータ量に合わせて決められました。

拠点・機器の両方を二重化して
高い耐障害性を実現

衛星関連システムならではの特徴として、池谷氏は耐障害性への高い要求を挙げます。

「人工衛星を支えるシステムには高い耐障害性が求められます。特に『だいち』の場合には災害発生時に緊急観測を行うことがあります。地上システムの障害でデータが取れないという事態は許されません。『だいち4号』単体の場合、完全に同じ位置に戻ってくるのに2週間かかることになります。このため、たとえどこかで障害が発生してもシステム全体が止まらないように設計します。ここは衛星関連システム開発の難しさであると同時にやりがいのあるところです」(池谷氏)

「A4EICS」では、システム全体を二重化しメインシステムは埼玉県の地球観測センター、バックアップは茨城県の筑波宇宙センターに設置しています。システムの稼働状況は24時間常に監視され、メインシステムの停止が検出されると自動的にバックアップシステムに切り替わります。

さらに、メインシステムは基本的に全ての機器を複数台用意する冗長構成となっています。こうした設計により「A4EICS」はトータル稼働率99.999%以上を実現しています。

“衛星の地上システムといえばMESW“と
いわれるように

「A4EICS」の開発はすでに完了し、2023年10月現在は「だいち4号」の打ち上げに備えて利用者と共に試行評価を実施しています。

「A4EICS」の開発では、MESWの開発力と、三菱電機グループとしての強みの両方が活かされました。

「私どもには衛星地上システム開発の実績に加えてWebシステム開発のノウハウがありました。また、社内にはハードウエアに強いチームもあります。これらの力を結集することでシステム全体を構築しました。加えて、衛星本体の開発を三菱電機が担当していたこともあり、グループの企業としてコミュニケーションが取りやすいという強みもありました」(池谷氏)

「A4EICS」は三菱電機ソフトウエアの衛星システム開発における新たな実績となりました。

「今後も衛星地上システムの提供を通してユーザーの目標達成を助け、よりよい社会作りの一助となれればと思います。『A4EICS』は観測要求受付・配信システムとして、優れたものができたと自負しています。実績を積み重ねて、いずれは発注者や利用者から“衛星の地上システムといえば三菱電機ソフトウエア(MESW)”といわれるような存在を目指していきたいと思います」(池谷氏)