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2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

GENESIS64※1のPart11対応の標準部品

※1GENESIS64 : ジェネシス64、三菱電機グループであるICONICS,Inc.が開発した高度なヒューマンマシンインターフェースを持つ監視制御ソリューション

監視制御での監査証跡用部品を提供
医薬品製造ラインでの監視・制御を自動記録

今、医薬品製造ラインにも多くの三菱電機株式会社製PLC(シーケンサ)※2が導入されています。PLCは、機器や設備などを制御する装置です。PLC群からなる製造ラインの監視制御を行うSCADA※3ソフトウェアの1つとして三菱電機のGENESIS64があり、モバイル対応など多彩な機能があることから監視制御におけるプラットフォームとして注目されています。
三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、GENESIS64へ監査証跡※4を実現できる標準部品を開発し、システムに組み込んだうえで提供しています。この標準部品は、製造ラインでの監視・制御記録を自動記録します。すでに、この標準部品は実際の医薬品製造ラインで適用・運用されています。

※2PLC : Programmable Logic Controller、プログラマブルロジックコントローラ、ピーエルシー
※3SCADA : Supervisory Control and Data Acquisition、監視制御とデータ収集を行うシステムのこと、スキャダ
※4監査証跡 : オペレータの操作に対し、操作履歴を残す機能。いつ・誰が・何を・何故・変更したかを記録する。

  • ■市丸 哲司(イチマル テツジ)

    1993年入社以来、工場の監視制御システムに従事。現在は、監視制御システム課長としてマネジメントに従事。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所・長崎支所 技術第2部 監視制御システム課 課長

  • ■南 明樹(ミナミ ハルキ)

    1988年入社、システムエンジニアとして、映像対応システム、交通対応システムを経て、現在は、工場の監視制御システムに従事。GENESIS64のPart11対応開発のプロジェクトリーダーを担当。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所・長崎支所 技術第2部 監視制御システム課 所属

製薬業界の製造システムに
多くの実績を持つMESW

医薬品の製造は人命に関わるため、法令や規則も他の業界に比べて厳しいものとなっています。MESWは、2003年以来、20年間で、約20社の製薬会社へ三菱電機製PLCを用いた医薬品製造ラインでの監視制御システムを納入してきました。これらの監視制御システムの対象は秤量設備、配合設備、攪拌設備、造粒設備、乾燥設備、梱包設備、洗浄設備、蒸留水製造設備、排水設備など多岐にわたり、様々なノウハウを蓄積しています。

製薬会社から求められる
FDA※5 21 CFR※6 Part11への対応

FDA 21 CFR Part11(パートイレブン)への対応も製薬会社ならではの要望の一つです。FDAは米国食品医薬品局、CFR は米国連邦規則です。米国では50巻におよぶ連邦規則集があり、うち21巻目が「食品と医薬品」となっています。21巻は全1,499章で構成され、11章(Part11)が電子記録・電子署名に関する規則です。

工場の監視制御システムに従事して30年、トータルソリューション事業所・長崎支所 監視制御システム課長の市丸哲司氏は次のように語ります。

「製薬会社からPart11対応への要望が増えています。そのため、MESWは三菱電機のSCADA GENESIS64にPart11対応の標準部品を開発しました」

この標準部品を用いたGENESIS64の医薬品製造ラインのシステム構成例は図のようになります(図1参照)。ここでは、GENESIS64は、秤量設備、配合設備、攪拌設備、造粒設備などを制御するPLC群の監視制御を行います。これらに対する監視・制御記録はPart11対応の監査証跡として電子記録されます。

この電子記録を実現するためのPart11対応の標準部品は『ユーザー管理機能』と『監査証跡機能』から構成しています。

※5FDA : Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局
※6CFR : The Code of Federal Regulation、アメリカ合衆国の連邦規則集

図1:システム構成例
図1:システム構成例

誰が確認し、誰が操作したのかを電子記録するための
ユーザー管理機能

GENESIS64では製造装置の動作状況、部材の数量、不具合品の数、進捗状況などの情報を扱います。オペレータはGENESIS64からの情報をパソコンやタブレットなどで確認したうえで、必要に応じて装置の停止や速度の調整などのパラメータ変更ができます。Part11に対応するためには、誰が確認し操作したかを電子記録として保存する必要がありました。そこでMESWはGENESIS64に、まずユーザーを区別するためのユーザー管理機能を標準部品化しました。さらに、ユーザー管理機能には、セキュリティー強度を高めるためにパスワード有効期限の設定機能を搭載しています。

操作権限設定をプログラムレスで
監査証跡機能

GENESIS64のPart11対応開発のプロジェクトリーダーを担当した監視制御システム課の南明樹氏は次のように語ります。

「監査証跡機能では、画面からの操作を行う際に監査証跡に必要な設定を行います。ユーザーが操作、設定するグラフィック画面は、ユーザーによって対象設備が異なるため、画面仕様が異なります。今回、操作ボタンや設定欄の部品をあらかじめ準備し、監査証跡で必要な操作権限設定をプログラムレスでグラフィカルに設定する仕組みを開発しました。これにより、マウス操作で部品を監視・操作画面に配置し、部品にパラメータを設定するだけで容易に監査証跡機能を実現できるようになりました。ここでのポイントは、プログラミング言語を使用せずにGENESIS64の標準関数だけを用いて機能を実現したことです。また、データ表示色の変更や、点滅といった処理は画面側でなく、データベース側のプログラムで実施しました。その結果、パソコンに標準装備されているブラウザーが、例えばInternet Explorer※7から Microsoft Edge※7 に変更されても、監査証跡機能部品のバージョンアップが不要になりました」(図2参照)

監査証跡機能は、単に誰が確認、操作したかを記録するだけではありません。操作権限のある人に対してだけ監視、操作の部品が有効となるので、権限のない人の誤操作防止につながります。

監査証跡としての電子記録は、どの装置とか、誰がとか、どの期間といった条件をつけて検索できます。検索された電子記録はPDFファイルとして保存・印刷できます。

※7Internet Explorer, Microsoft Edge : 共にWebサイトやWebページを閲覧するためのマイクロソフト社のブラウザー。 Microsoft Edge はWindows 10からInternet Explorerに代わり、標準搭載された。

図2:画面操作権限設定機能
図2:画面操作権限設定機能

医薬品製造システムにおける検証
そのための設計時適格性評価にも対応

2004年に厚生労働省は、医薬品などの製造管理の基準として、GMP※8省令(省令第179号)を定めました。そこでは、医薬品などの開発・製造に使用されるコンピュータ化システム(コンピュータとそれに関わる人を含めたシステム)に対し、期待される結果を与えることを検証することと、その文書化としてコンピュータ化システムバリデーション(以下、CSV※9)を求めています。

「MESW 長崎支所の監視制御システム課では、GMP省令のCSVに対応するため、監視制御システム課の開発規程をCSVに合致するよう強化改訂しました」(市丸氏)

一般にソフトウェアの開発はお客様の要求仕様をプログラミング言語化するため、段階的に設計を詳細化していきます。正しく動作するかの試験も段階的にシステムに組み上げていきます。

監視制御システム課の開発規程は、この各段階、つまり、要求仕様設計から運転時適格性評価までの各段階でGMP省令のCSVに合致させています。

CSVによれば、製薬会社はMESW 長崎支所の監視制御システム課で作成したシステムやソフトウェアが「要求どおりに動作する」ことを証明できなければなりません。このため、監視制御システム課は製作するシステムやソフトウェアを製薬会社が解るように様々な説明用文書を製作工程で追加しています。その一つがトレーサビリティマトリクスです。トレーサビリティマトリクスは追跡(トレース)を可能にするための表(マトリクス)です。食品で有名なトレーサビリティは食品事故等の問題解決のため、生産、加工、流通等の各段階で入出荷に関する記録等を作成・保存しておくことです。製薬システム開発におけるトレーサビリティは、要求定義、システム設計、ソフトウェア設計の各段階で要求がどのようにシステムとなりソフトウェアになるかを追跡可能にします。マトリクスの右端(行方向)に要求項目を並べ、上端(列方向)にシステム仕様書※10、ソフトウェア仕様書の区分を設け、要求項目を実現するための仕様書の章番号を記載していきます。このトレーサビリティマトリクスにより、製薬会社は、設計時適格性評価として、要求通りのシステムができていることを確認・証明できます。

※8GMP : Good Manufacturing Practice。 日本語では「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」
※9CSV : Computerized System Validation
※10システム仕様書 : システムの全体像や機能、システムの制約条件や要件、システムの設計や開発プロセス、テストの内容や方法を記した書類

安全で堅牢な医薬品製造システムの
構築を推進

GENESIS64のPart11対応の標準部品であるユーザー管理機能は誰が確認、操作したのかを電子記録し、監査証跡機能は、操作権限をプログラムレスで設定できます。さらに、医薬品製造システムにおける検証も開発規程として整備しているMESW 長崎支所の監視制御システム課は医薬品製造システム開発に盤石の体制を築いています。

「MESWは、2002年から約20社の製薬会社にPart11対応を含め、様々な医薬品製造システムを納入してきました。今後も、お客様に満足して頂ける安全で堅牢な医薬品製造システムを提供していきます」(市丸氏)

商標について
GENESIS64は、ICONICS, Inc.の商標です。
Windows、Internet Explorer、Microsoft Edge、SQL Serverは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
Ethernetは、富士フィルムビジネスイノベーション株式会社の登録商標です。