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2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

FA機器バックアップソフトウェア MCStoragia

FA制御機器の差分検出やバージョン管理も可能な使いやすさに優れたバックアップソフトウェアを開発

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)が開発・提供するFA機器バックアップソフトウェアのMCStoragia(エムシーストラジア)は、使いやすいグラフィカルなインターフェースと豊富なバックアップ機能を保有しており、大規模工場から小規模工場まで多くの現場で高い評価を得ています。また、バックアップ機能だけでなく、生産ラインの構成管理のニーズの高まりを受け、変更点を管理するための差分レポート出力機能を開発。今後は、クラウド対応も視野に入れ、さらに魅力ある製品を目指しています。

  • ■藤原 永年(フジワラ ナガトシ)

    1998年入社。MCStoragiaの初代開発取りまとめ。 鉄鋼システムのソフトウエア開発を経て、産業分野向けMESW製パッケージソフトウェア開発に従事。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所 技術第1部 次長

  • ■猪野 香 (イノ カオリ)

    1990年入社。主に産業分野向けMESW製パッケージソフトウェア開発に従事。社会インフラ事業統括部 トータルソリューション事業所 技術第1部 開発課にてMCStoragiaの現・開発取りまとめ。

OT※1セキュリティの市場規模の成長に伴う
MCStoragiaの必要性の高まり

MESWパッケージ製品MCStoragiaは、三菱電機株式会社製FA機器の制御プログラムやパラメータをネットワーク経由で、定期的にバックアップします。(図1)

海外のFA工場では、サーバー機器だけでなく、シーケンサや表示器などのFA機器の定期バックアップを義務付ける企業が増えており、呼応するように日本国内でも工場やプラント、ビルなどのOT※1機器のバックアップの必要性が高まっています。

MCStoragiaは、2018年販売開始以降、海外自動車メーカーを皮切りに、1,700台の三菱電機製シーケンサMELSECが稼働している大規模工場から、20台程度の小規模工場まで豊富な導入実績があります。

MESWはMCStoragiaの製品企画から、開発(設計・製作・試験)、現地調整、保守、販売促進活動の範囲を全て自社で担当しています。

※1OT : Operational Technology。自動車工場のラインや発電所システムの機器を制御・運用する技術。

図1:MCStoragiaのシステム構成
図1:MCStoragiaのシステム構成

FA機器バックアップソフトウェア
MCStoragiaの誕生

FA機器のプログラムやパラメータによって、製造ラインは制御されています。災害などによる機器故障・損壊に備えて、FA機器のプログラムやパラメータをストレージに保存し、「バックアップ」として保管しておくことが事業継続性において重要なポイントになります。FA機器を定期的にバックアップすることによって、機器故障や異常発生時に短時間でプログラムやパラメータを復元し、業務を再開することができます。

東日本大震災の後、事業継続計画立案の機運の高まりに対応してMESWは小規模工場向けながらシーケンサバックアップソフトウェア「Emainte(イーメンテ)」を企画開発し、販売していました。大規模工場対応の要望が多く出てきたことやシーケンサプログラムの変更管理のニーズの高まりから、本製品「MCStoragia」を製品化しました。

MCStoragia初代開発取りまとめのトータルソリューション事業所 技術第1部 次長 藤原永年氏は次のように語ります。

「海外自動車メーカーで、プログラム変更内容の把握不備による長時間のライン停止事故が発生し、これが発端となり、海外自動車メーカーから設備機器メーカーへ制御機器に対するバックアップソフトウェアの開発依頼がありました。これを受けて、三菱電機名古屋製作所から、すでにシーケンサバックアップソフトウェアを販売していたMESWに声がかかり、MCStoragiaの開発を行いました。MELSEC最新モデルのバックアップインターフェースの開発とMCStoragiaの開発がほぼ同時進行となり、三菱電機と協力しながら2018年にMCStoragiaを製品化しました」

各種バックアップオプションと
グラフィカルなインターフェースで使いやすさを追求

MESWは、ユーザーの定期バックアップの選びやすさを配慮して、毎日/毎週/毎月など指定した時刻にMCStoragia でバックアップを作成できるようにしました。バックアップは、「毎回」または「変更があった場合のみ」を指定できます。「変更があった場合のみ」を指定すると、機器の内容に変更がなければ、定期バックアップをスキップすることができます。変更があった場合のみバックアップするため、バックアップ用ストレージ(データ保管領域)を有効に利用することができます。

イベント履歴の機能として、時系列にバックアップ履歴、 差分結果、 操作履歴 、エラー履歴を表示。また機器名やイベント名でフィルタリングすることで、直近で発生したプログラム変更や異常発生をすぐに調べることができます。MELSECを熟知したMESWならではのノウハウを活かし、シーケンサだけでなく、表示器、インバータ、数値演算装置、ロボットについても、バックアップ対象としています。

大規模工場に納めた場合、情報管理部門、保全部門、生産管理部門、現場SEなど様々な役割の方々がMCStoragiaを操作することになります。そこで役割に応じて、スケジュール変更/照合/リストアなど、ユーザー単位で操作できる機能と操作できない機能を指定できるようにしています。

これまでに述べた各機能について、機器の登録やスケジュールの登録をマウスのみで直感的に操作できるようなユーザーインターフェースにしています。画面の左側には機器構成をツリーで表示し、右側にはツリーで選択した機器の情報をグラフィカルに表示し、ほぼマウスのみの操作で、機器やバックアップのスケジュールを簡単に登録することができます。(図2)

「開発当初はシンプルな画面構成としていましたが、最初のユーザーである海外自動車メーカーから『画面が日本的で地味すぎる』と指摘され、現在の機器構成をツリーで表示するグラフィカルインターフェースになりました」(藤原氏)

図2:ドラッグ&ドロップでバックアップ対象の機器を登録
図2:ドラッグ&ドロップでバックアップ対象の機器を登録

バックアップ機能に加えて差分検出やバージョン管理も
プログラムの変更点は見やすいように図で対比表示

現在、MCStoragiaの開発を取りまとめる猪野香氏は最近の強化ポイントについて次のように話します。

「2015年頃から品質管理・構成管理の範囲がサーバー系から制御系へ拡がり、シーケンサの自動バックアップや変更点管理のニーズが高まったため、従来のバックアップ機能に加えて、比較バックアップ機能や、差分レポート出力機能を開発、機能強化しました」

MCStoragiaは、前回のバックアップ内のプログラムと機器内のプログラムを比較することによって変更を検出し、その変更点を図でレポート出力するプログラムの変更点管理機能(図3)を有しており、バックアップだけでなく、バージョン管理としても活用いただいています。差分検知は、シーケンサだけでなく、表示器、インバータ、数値演算装置、ロボットについても対象としています。

「ある自動車メーカーで、現場責任者の許可や検証なく、定期点検中に現場側でプログラムが書き換えられており、操業開始直前に現場責任者がその変更に気がつき、間一髪でトラブル発生を回避できたこともありました」(猪野氏)

図3:差分レポート出力機能
図3:差分レポート出力機能

クラウド対応も視野に入れ
さらに魅力ある製品に

MESWが、製品企画から保守までを全て対応するFA機器バックアップソフトウェア MCStoragia。使いやすいインターフェースと豊富なバックアップ機能で、大規模工場から小規模工場まで多くの現場で高い評価を得ています。

「最近ではEV※2バッテリーメーカーへの販売が増えており、1,000台程度のシーケンサが稼働している大規模工場での導入が増えています。プログラムの変更が多いEVバッテリーメーカーからは、最新プログラムを全シーケンサに一括配信する『一括リリース機能』の要望も挙がっています」(猪野氏)

「大規模工場を持つお客様からは『大規模対応』、『クラウド化』、OT機器の改ざん防止機能による『セキュリティ強化』などの要望が挙がっています。今後、各要望について機能拡張を行い、また、生成AIのような最新技術も取り入れて、さらに魅力ある製品にしていきます」(藤原氏)

※2EV : Electric Vehicle

商標について
MCStoragia、Emainteは三菱電機ソフトウエア株式会社の登録商標です。
MELSECは三菱電機株式会社の登録商標です。