2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)
スマートメーター通信管理パッケージ BLEnDer HE/AH
次世代スマートメーターシステムに向けて
効率的かつ高い信頼性のソフトウェア開発で
電力ビジネスに貢献
数百万台、数千万台のスマートメーターを束ねる
ヘッドエンドシステム BLEnDer HE
スマートメーターは30分毎の電力使用量を遠隔計測することができる通信機能搭載のデジタル式電力量メーター。従来のアナログ式電力量メーターでは月1回検針員が目視で検針を行い、この検針で得られた電力使用量から電気料金を算出していました。2014年から導入されたスマートメーターにより、30分に1度、リアルタイムの電力使用量データを遠隔計測できるようになりました。スマートメーターの利便は検針業務自動化だけにとどまりません。スマートメーターにより、消費者は時間帯によって電力量料金が変わるプランを選択できるようになり、また、マイページを利用することで電気代の節約に役立つ時間帯別の電力使用量を確認できるようになりました。スマートメーターは電力インフラの基盤として活用されています。
三菱電機が開発・提供するスマートメーター通信システムは、スマートメーターとヘッドエンドシステム間を各種通信方式で接続し、収集したメーターデータを上位のメーターデータ管理システムに送信するためのシステムです。MESWはスマートメーター通信システムの中核となるヘッドエンドシステムBLEnDer HEを三菱電機と協力して開発しました(図1)
BLEnDer HEの開発を担当した横浜事業所 電力流通システム第2課の有田忠生氏は次のように語ります。
「スマートメーターの通信方式には、スマートメーター間の無線マルチホップ方式、移動体通信網を利用した1:N無線方式、電力線搬送技術を応用したPLC(Power Line Communication)方式、有線ケーブルによるイーサネット方式(高圧のみ)があり、設置環境に応じて最適な方式が選択されます。そのすべての通信方式をBLEnDer HEが束ねます。電力事業者の供給規模にもよりますがBLEnDer HEは数百万台、数千万台のスマートメーターを管理する必要があります」

(出典)
三菱電機 電力システム製作所 電力ICTセンター スマートメーターシステムより
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ictpowersystem/business/solution5.html
電力デジタルトランスフォーメーション推進に向けた
次世代スマートメーター
2014年から導入された現行の第一世代スマートメーターは2024年中に全需要家に設置されることとなっています。その後、第一世代スマートメーターの有効期間(10年間)が順次満了することに伴い、2025年より次世代スマートメーターへの置き換え開始が予定されています。次世代スマートメーターは、経済産業省の外局である資源エネルギー庁の主導で活用方法の検討が進められてきました。次世代スマートメーターを電力DX推進ツールとして位置づけて活用することで、「電力レジリエンスの強化」、「再エネ大量導入・脱炭素化」、「需要家利益の向上」を目指しています
※2 「次世代スマートメーター制度検討会取りまとめ」2022年5月 次世代スマートメーター制度検討会※1
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_smart_meter/pdf/20220531_1.pdf
電力レジリエンス強化に向けた
停電検知機能と完全停電回避機能
「電力レジリエンス強化」とは、停電からの回復力強化を意味します。現在、小規模な停電に対しては、電柱から受電地点までの設備故障による停電状況を即座に把握できないという問題があります。一方、大規模な停電に対しては、大規模災害時の電源喪失に伴う『計画停電』を回避する仕組みが無いという課題もあります。
迅速な停電復旧のためには早急な検知と異常個所の特定が重要です。BLEnDer AHはスマートメーターとの通信状況により停電・復旧を早期に検知する機能を備えています。操作者は大量のスマートメーターを監視する必要があるため、操作者へ異常を通知し、容易に異常個所を特定できるように通知インタフェースを見直しました。また、大規模災害発生時に完全停電を防ぐため、遠隔で各需要家が使用できる電力の上限値を緊急に制限する仕組みも備えます。
脱炭素化社会への期待に応えるため
30分値を5分値へ
脱炭素化社会への移行には、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大が必須です。しかし、これらは「天候状態で発電量が大きく変動する」という特性があり、配電系統への接続が増加すると、供給電圧の変動や許容値逸脱、需要と供給の不一致など、供給電力の品質に問題が発生します。
次世代スマートメーターでは、30分毎の計測の他に、高粒度(5分毎)の有効電力量・無効電力量・電圧の取得が可能となるため、AI・IoTを併用した新たな配電事業や地域マイクログリッドなどの高度な配電系統の運用が期待されています。それにより、きめ細かな配電電圧の運用が可能となり、配電系統の電力損失の削減や、CO2 排出量の削減、さらには高度な運用管理による再エネの導入量拡大が可能となります。
BLEnDer AHでは、扱う電力データ量が増えることから処理能力向上が必要であり、その対応策の一つとして、データアクセス(電力データの読み書き)の高速化を行いました。現状のBLEnDer HEでは表形式の関係データベースに電力データを格納していましたが、BLEnDer AHでは並列格納が可能な高速なデータベースに変更することで高速化を実現しています。また、複数台のサーバで処理を分散化・並列化できる構成に変更し、処理性能と可用性を向上させています。これらの対応策により、データベースサーバが不調な場合でも、スマートメーターの電力データ収集やスマートメーターの制御などの主要な機能が停止しない堅牢なシステムを実現しています。
様々な業者の電力データを用いた新サービスで
向上する需要家の利便
電力データの活用方法について、様々な業者で検討が進んでいます。高齢者や単身家族の健康を見守る見守りサービス、宅配便で在宅を確認して配送を行うサービス、自分に合った電力料金プランを教えてくれるサービス。まだまだ、新たなサービスの登場が期待されています。
「需要家利益の向上」としては、上述した新サービスに加えて、スマートメーターネットワーク経由でのガス・水道メーターデータの送受信・開閉栓指令の送信を可能にする機能が検討されており、次世代スマートメーターは更なる注目を集めています。
次世代スマートメーターシステムで
今後も電力インフラの発展に貢献
「電力レジリエンスの強化」、「再エネ大量導入・脱炭素化」、「需要家利益の向上」を目標に電力DXを進める次世代スマートメーター。
「MESWは三菱電機とともに次世代スマートメーターシステムの中核機能であるBLEnDer AHを開発し、電力インフラの発展に貢献していきます」(有田氏)