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2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

三菱インフラモニタリングシステム

道路や鉄道など社会インフラの変化状況を
計測・解析するシステムを開発し
点検・維持に関わる事業者の業務効率化に貢献

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)の神戸事業所は、道路や鉄道などの社会インフラの変化状況を、高精度レーザーや高精細カメラを搭載した車両で走行しながら、高精度に計測・解析する「三菱インフラモニタリングシステム(MMSD)」の開発に際し、データ解析システムの点群解析サーバーと、画像解析処理装置のアプリケーション開発を担当しました。MMSDの活用により、社会インフラの点検・維持管理業務を効率化し、適切なメンテナンスサイクルを促すことで、社会インフラの長寿命化に貢献します。

  • ■佐土 宏和(サド ヒロカズ)

    1995年入社。主に設備管理BUのソフトウエア開発に従事。神戸事業所 技術第2部 社会情報システム第4課

社会インフラの老朽化対策を
モニタリングシステムで解決

三菱インフラモニタリングシステム(MMSD)は、道路会社、鉄道会社、建設・土木会社など、道路、トンネル、橋梁などの社会インフラの点検・維持に関わる事業者の業務効率化に貢献するべく、2015年にリリースしました。

MMSDが開発された背景には、戦後以降、約20年の高度経済成長期に集中的に整備された社会インフラの老朽化があります。国土交通省の調査では、日本の道路には橋梁が約70万、トンネルが約1万本あるとされ、建設から50年を超えるインフラ設備の割合は急速に増加しています。そのため、限られた予算と人員で、計画的かつ効率的に老朽化対策を実施することが課題となっています。

一方、2012年12月に発生した笹子トンネル天井板崩落事故をきっかけに道路法が改正され、道路局が定めた総点検実施要領で、5年に1回、目視や打音検査による点検が義務付けられました。しかし、少子高齢化が急速に進む中、社会インフラの点検に対処する技術者不足という新たな課題に直面しています。そこで国土交通省は、インフラ点検ロボット技術を適用するガイドライン及び点検支援技術性能カタログを公開し、ロボット技術の活用を推進しています。こうした背景を受けて、MESWが三菱電機株式会社(以下、三菱電機)からの委託を受けて開発したのがMMSDです。(図1)

「MMSDを活用することでこれまで人手を介して行っていた点検作業の時間短縮につながります。また、計測ミスや変状箇所の抽出漏れの削減と点検精度の向上が実現するほか、危険を伴う高所作業も削減することができます」(MESW 神戸事業所 技術第2部 社会情報システム第4課 佐土宏和氏)

図1:計測車両
図1:計測車両

道路分野向け機能と
鉄道分野向け機能を提供

MMSDでは、道路分野向けの機能と、鉄道分野向けの機能を提供しています。これらの機能は、現場からのフィードバックを受けながら、改善を積み重ねています。近年は、AIを用いた解析支援機能なども追加され、日々進化を続けています。それぞれの機能を簡単に説明します。

●道路分野向け機能
(1)トンネル設計断面-計測点群比較機能
トンネルは、時間が経つと山の圧力などによって変形します。そこで、計測したデータから実際の断面を再現し、設計当時の図面と比べることでトンネルの膨らみなどの凹凸を検出します。解析結果画面では、ズレの数値の大きさに応じて色の変化を付けて表示するため、視覚的に認識・評価することができます。
(2) ひび/変状解析機能
トンネルが老朽化すると壁面にひび割れができ、そこから漏水することがあります。そこで、壁面を撮影した高精細画像をもとに、ひび割れの箇所や、漏水箇所を特定するのがひび/変状解析機能です。2022年度にはAI解析の機能が追加され、自動でひび割れを検出できるようになりました。
(3)経年変化比較機能
トンネルの断面変化や、トンネルのひび割れの大きさなどは、計測した瞬間だけを見るだけでは経年の変化はわかりません。そこで、経年変化比較機能では、同一地点のデータを過去のデータと比較して差異を抽出します。年単位の定期点検などで利用することで、変化の大きさを分析することができます。(図2)
(4)CADデータ生成機能
計測したデータから3次元のCADデータを生成する機能で、CADデータを設計図面として活用することができます。

●鉄道分野向け機能
(1)建築限界解析機能
上記の道路分野向け機能は、鉄道分野においても(トンネルの点検等)で利用できますが、鉄道に特化した機能も備えています。
建築限界解析機能は、列車が通過する鉄道軌道上に構造物等を配置できない空間範囲(建築限界)を解析する機能です。災害や地形変化などの影響で鉄柱、信号柱、倒木などが建築限界で定めた枠内に入ってきた、または近付いてきた場合は、速やかに対処する必要があります。MMSDでは、限界枠から物体までの距離を、色でわかりやすく表示するため、直感的に把握することができます。(図3)
(2) 設備位置計測機能
自動列車停止装置(ATS)や信号機などの各種設備の設置状況を正確に計測・確認する機能です。検知した情報をもとに一覧表を自動的に作成します。

図2:経年変化比較結果

図2:経年変化比較結果

図3:建築限界解析結果

図3:建築限界解析結果

システム開発における最大のポイントは
何十億点にもなる大規模点群データの取り扱い

MMSDにおいて、MESWが担当している領域は、データ解析システムの点群解析サーバーと、画像解析処理装置のアプリケーションの開発です。

MMSDのシステム開発において、最大の技術課題は大量のデータを扱うことにありました。解析処理で使うデータは「点群データ」と呼ばれ、3次元座標値(X,Y,Z)と色の情報(R,G,B)から構成され、データ量は膨大になります。

「点群データは、計測車両に搭載した高密度レーダーで照射した光が、壁などに当たって跳ね返ってきた時間と角度をもとに計算して収集しています。MMSDでは1秒間に100万点の点群データの取得が可能で、仮に10kmの道路を時速10kmで走行した場合の点群データは36億点になります。扱うデータサイズは360GBとなりますが、より長距離の道路や線路を計測すると、多い時には2TBのディスクがいっぱいになることもあります」(佐土氏)

システムを開発するうえでは、この大規模な点群データをどのように蓄積し、どのように高速に検索して取得するかが最大の壁として立ちはだかりました。課題克服に向けて、MESWが取った対応策は、大規模データ処理に最適化された三菱電機製センサ・ログデータベース(SLDB)を採用することでした。

「SLDBは、データ圧縮方式、データ配置、データ処理単位に最適化されているデータベースです。私たちはMMSDでの大規模処理を実現するために、データベース設計から検討し、データの登録方法や、検索方法を何度も繰り返し実験しながら、最適な方法を探っていきました」(佐土氏)

ユーザーに与えるストレス軽減に向けて
データ取得や検索時間を短縮

もう1つの技術課題は、生の点群データをシステムで利用できる形に加工して登録するまでの時間短縮と、登録した点群データの検索・取得時間の短縮でした。この2つは、システムのユーザビリティに大きく影響します。そこで課題解決に向けて、MESWはデータ登録処理と検索処理の並列化を検討し、アプリケーションとして実装しました。その結果、データ登録時間、検索時間ともに処理にかかる時間の短縮・改善を図ることができました。

「検索に関しては、解析結果を画面上に表示するところに大きく影響し、遅ければ遅いほどユーザーに与えるストレスが大きくなります。そこで、少しでも高速化するために試行錯誤を何度も繰り返しました」(佐土氏)

佐土氏が開発で実感した最大の難所は、3次元のデータを扱うことでした。

「2次元データと3次元データでは、難易度がはるかに違います。システムに組み込んで実際に適用する際も、お手本があるわけではないため、入力データに対するアウトプットが正しいかを検証する作業にも苦労しました。その課題を克服するために、まずは小さなデータを使って自分で結果を予測したうえで、アウトプットと比較しながら検証を積み重ねていきました。それを徐々に拡張することで、最終的に大規模データにも適用できるようになりました」(佐土氏)

多次元空間をデジタルツインで再現する
設備管理システムを開発

MESWでは、MMSDの関連ソリューションである三菱多次元設備管理システム(MDMD)の開発も進めています。MDMDは、MMSDで取得した道路や鉄道沿線の点群データや画像データを活用し、3次元のデジタル仮想空間内に構造物を再現するシステムで、2021年12月に提供を開始しました。現場に出向くことなくデジタルツイン(仮想空間)上で寸法計測や現地状況の確認ができるため、現場作業の負担を軽減することが可能です。

「MDMDは、お客様が点群データを直接参照したい、活用したいというニーズに応えるために開発したソリューションです。デジタルツイン上での点検ができることに加えて、設備の設置スペースの検討や配線長の算出など、設計業務でも利用できる世界を目指しています」(佐土氏)

MESWでは、MDMDについても機能強化を図りながら、お客様のニーズに応えていく予定です。

「近年は、オンプレミス環境だけでなく、クラウド環境で利用したいというお客様もいらっしゃるので、クラウド技術にも力を入れて開発を続けていきます」(佐土氏)

商標について
MMSD、MDMDは、三菱電機株式会社の登録商標です。