このページの本文へ

ここから本文

2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータ

実機不足の課題を
パソコンでの設計検証と実機での妥当性確認の
2段階によりテスト工期を大幅短縮

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、車載向けソフトウェア開発期間の短縮に向けて組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータをパソコン上に設けました。従来、車載向けソフトウェアのテストは実機(自動車機器の試作品)に付属するマイクロコンピュータ上で実施していました。しかし、実機には限りがあり、テスト業務の支障となっていました。そこで、MESWは、テスト業務における実機不足の課題をアプリケーションの正しさを確認する設計検証とアプリケーションの性能などを確認する妥当性確認の2段階に分け、設計検証を複数のパソコン上で組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータを用いて並行実施することで、テスト工期を約4割に短縮しました。組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータはテスト工期の短縮のみならず、設計品質向上、不具合解消時の効率改善、アプリケーションの品質向上ももたらします。

  • ■京谷 智哉氏 (キョウタニ トモヤ)

    1997年入社。官公庁・防衛関連システムの開発を担当後、2010年から車載システムのソフトウェア開発に携わる。2018年から課長としてマネジメントや販売促進に従事。組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータの開発責任者。モビリティ事業統括部 姫路事業所 技術第4部 技術第2課 課長 兼 技術第4部 技術第4課 課長

  • ■竹内 孝成氏(タケウチ タカシゲ)

    2007年入社以来、車載システムのソフトウェア開発一筋。カーナビゲーションシステムの後、インバータ制御システムのソフトウェア開発を担当。モビリティ事業統括部 姫路事業所 技術第4部 技術第3課

電気自動車の拡大や自動運転技術の進歩により
ますます重要となる車載向け組込ソフトウェア

1980年ごろ、車載用マイクロコンピュータが初めて登場して以来、自動車の多くの機器がマイクロコンピュータ(マイコン)で制御されるようになりました。それは、エンジンやブレーキ、インバータ、エアバッグ、パワーステアリング、パワーウィンドウ、カーナビゲーション、キーロックなどに及びます。現在、自動車1台当たりのマイコン搭載数は平均数十台となっており、数百台になる高級車もあります。今後、電気自動車の拡大や自動運転技術の進歩でコンピュータ制御システムの役割はますます重要となり、自動車は動くコンピュータになっていきます。そして、コンピュータ制御手順を提供する組込ソフトウェアは大規模化、複雑化しています。

実機不足の課題を
2段階テスト手法で解消

大規模化、複雑化する車載向け組込ソフトウェアの開発で大きな課題となっていたのが、テストにおける実機の不足です。従来、組込ソフトウェアのテストは実機上で実施されていました。しかし、開発中の実機の数量には限りがあり、一台しか使用できない場合もありました。

車載向け組込ソフトウェアはハードウェア構成に依存しないアプリケーションとハードウェア構成に依存するドライバーソフトウェアなどから構成されます。人間に例えると、アプリケーションは脳のようなもので、ドライバーソフトウェアは目や耳や手足への神経網のようなものです。目や耳にあたるドライバーソフトウェア群から得たデータをもとに、アプリケーションは判断をして、手足にあたるドライバーソフトウェア群に動作を指示します。こうしたアプリケーションはパソコン上で、高水準プログラミング言語(C言語)を用いて開発されています。MESWは、ハードウェアに依存していない車載用アプリケーションはパソコンでも作動させることができることに着目しました。

しかし、パソコンにはドライバーソフトウェアがありません。このドライバーソフト群をパソコン上で模擬するものが、ここでご紹介する組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータです。

パソコン上でアプリケーションが設計通りに誤りなく作動することを確認した後、実機で性能などの妥当性を確認するという2段階でテストを行うことで、実機不足の課題を克服します。

テスト準備時間が不要
複数人の並列テストの実施で6割の期間短縮も

組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータの開発責任者の姫路事業所 技術第4部 技術第2課 課長 兼 技術第4部 技術第4課 課長の京谷智哉氏は、組込ソフトウェア用インターフェースシミュレータについて次のように語ります。

「2011年に、テスト工期の短縮を狙って、初めてパソコン上でアプリケーションの正しさを確認する設計検証にチャレンジしました。そこから、12年。毎回、成果や課題を整理しては改良を重ね、現在に至ります」

実機を用いたテストでは、テスト担当者がテストを行うために、機材のある実験ベンチへの移動に10分、実行前の準備に20分、合計毎回30分の準備時間が必要でした。組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータを用いると、テストを自席で行え、実行前の準備は1分以下となります。(図1)

また、組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータを用いると、設計検証を複数のパソコンを用いて並行実施できるため、テスト工期の短縮が図れます。あるソフトウェアのテストでは、実機だけでテストをした場合の工期が約2ヶ月と見積られていました。組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータを用いて、3人でテストを並行実施することにより、2週間で設計検証を終え、実機での妥当性確認は1週間強で完了しました。その結果、工期を約4割に短縮できました。(図2)

現在の組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータは、様々な改良が施されています。例えば、模擬機能の入れ替えが容易にできる構造とすることで、各種組込ソフトウェアのテストに対応できるようになっています。また、車載ソフトウェア設計で多くのメーカーが使用しているツールと連携させることでテスト検証結果を図形で表示するようにもしています。この図形出力は自動車メーカーから『とても見やすい』と評価されました。

図1:自席でテストができる組込ソフトウェア用インターフェースシミュレータ
図1:自席でテストができる組込ソフトウェア用インターフェースシミュレータ
図2:設計検証を複数のパソコン上で並行実施
図2:設計検証を複数のパソコン上で並行実施

テストシナリオに基づくテストの実行
表計算ソフトでテストシナリオが作成可能に

テストといえば、通常走行を確認する試運転をイメージする方もいるでしょう。しかし、車載搭載のソフトウェアは、例えば、機器が故障した場合の対応も含めた、様々な状況での作動を確認しなければなりません。このテストの仕方を記載したものがテストシナリオ(テストの流れ、入力データの指定)です。

技術第4部 技術第3課 専任の竹内孝成氏は組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータの最近のテストシナリオの改良を次のように説明しました。

「組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータがテストシナリオに基づいて組込ソフトウェアをテストします。少しでもソフトウェアを修正するとテストは全てやり直す必要があります。テストシナリオを使用することにより、テスト作業が自動化され、手間をかけずに再テストができるようになります。今回、テスト仕様書(テストの方法や内容を記述した文書)からExcelを活用してテストシナリオが作成できるように改良しました」

テスト業務改善に加えて
設計品質改善や不具合解消時の効率改善も

実機不足の解消のため、パソコンで設計検証を行うようにした組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータですが、その効果はテスト業務改善にとどまりません。ドライバーソフト群をパソコン上で模擬することにより、実機環境の構築前から動作検証まで含めたアプリケーション設計のインターフェース検討が実施できるため、設計品質が向上する効果を得ることができます。

また、組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータは、パソコン用プログラム開発環境(Visual Studio)上で作動させます。このため、アプリケーションの不具合解消時も、途中で停止させてデータの値を調べるなど、実機では困難な精緻な確認が行え、不具合の原因究明効率が格段に向上します。

さらに、組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータは実機では設定が困難なフォールト(異常値)に対するテスト実施により、組込ソフトウェアの品質向上ももたらしています。

テスト業務の全自動化も視野に
広がりを見せる組込ソフトウェア用インターフェースシミュレータ

さらなる業務効率化を目指して、組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータの強化は続いています。

「組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータからのテスト結果の出力と想定していた出力を比較してテスト合否を判定するテスト業務の全自動化も始めています」(竹内氏)

「組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータの開発を通して、もっとパソコンでできることを増やしていきたいと考えています。例えば、システムテスト(ハードウェアと結合して行う製品テスト)のテストシナリオとインターフェース シミュレータのテストシナリオを共通化すれば、システムテストの準備作業を短縮でき、システムテストからの手戻りを減らせます。また、インターフェース シミュレータの自動化の範囲を広げ、さらには、適用領域を広げていきたいと思っています」(京谷氏)

組込ソフトウェア開発における工期、品質、コストを改善する組込ソフトウェア用インターフェース シミュレータ。ご興味がある方は、ぜひ、MESWへお声がけください。

商標について
・Excel、Visual Studio は、米国 Microsoft Corporation の米国及びその他の国における商標又は登録商標です。