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2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

MyMUアプリ「emoco(エモコ)」

エアコン搭載のセンサーで取得したデータから
ココロの状態を推定し、スマートフォン上で可視化
くつろぎやすい環境づくりをサポート

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)において、ルームエアコン関連のスマートフォン向けアプリケーション開発を手がけるFA・ファシリティ事業統括部 静岡事業所 京都支所。同事業所は、三菱電機の家電統合アプリ「MyMU(マイエムユー)」において、ルームエアコン搭載のバイタルセンサーで取得した人の脈拍などのデータから、ココロの状態を可視化する新機能を搭載したスマホアプリ「emoco(エモコ)」を開発しました。emocoによって三菱電機のエアコンユーザーは、日常生活をアプリでセルフチェックし、状況に応じてより働きやすい環境や、くつろぎやすい環境を整えることができます。

  • ■山本 千絵 (ヤマモト チエ)

    2010年入社。FA・ファシリティ事業統括部 静岡事業所 京都支所制御応用技術部 第二課 主査

三菱電機の家電統合アプリ「MyMU」の
一機能として「emoco」を提供

家電統合アプリ「MyMU」は、三菱電機のエアコン、キッチン家電、住宅設備などとスマートフォンをネットワークでつなぎ、これらの製品をより使いやすく、使う人の生活をより快適にするための統合アプリとして2020年11月に公開されました。ルームエアコンと連携する「emoco」の他にも、就寝中のエアコンの冷房運転または暖房運転を管理する「おやすみサポート」、冷蔵庫の温度設定や使用状況が一覧できる「冷蔵庫モニター」や使用状況にあわせた冷蔵庫の使いこなしワザをアドバイスする「気くばりナビ」、IHクッキングヒーターの音声操作や調理設定、給湯器(エコキュート)の外出先からの操作など、様々な機能を搭載しています。利用者の生活シーンにあわせて機器を一括操作する機能や日々の予定にあわせて機器操作が予約できるスケジュール機能に加え、高齢者みまもりサービス「MeAMOR」を開始するなど、日々進化を遂げています。

図1:emocoのエモーションマップの画面例
図1:emocoのエモーションマップの画面例

emocoにおいて重要な役割を果たす
バイタルセンサー「エモコアイ」

人のココロの状態を可視化するemocoにおいて重要な役割を果たしているのが、2023年度モデル以降のルームエアコン(霧ヶ峰)が搭載しているバイタル状態を取得するセンサー「エモコアイ」です。エモコアイは、準ミリ波ドップラー方式を用いて人の脈を非接触で計測し、キモチを推定・数値化しています。

三菱電機はエモコアイと従来型の赤外センサー(ムーブアイ mirA.I.+)のWセンサーにより、キモチを見つめて空気を整える世界初の空調「エモコテック」を実現しています。エモコテックでは、エモコアイで気持ちを推定してAIが風向を自動で調節したり、人の体感温度をAIが予測して運転モードやオン/オフを無駄のないタイミングで切り替えたりすることができます。

参照URL
https://www.mitsubishielectric.co.jp/home/kirigamine/function/kaiken/

emocoの初期リリースでは
2つの機能を提供

エモコアイのセンサー情報をシーンに応じて見える化するemocoは、2023年2月にリリースしました。現在、ルームエアコン「霧ヶ峰」の2023年度モデルのZシリーズと、2024年度モデルのFZ・FDシリーズ、Z・ZDシリーズを対象とし、MyMUアプリのVer3.3以降で対応しています。対象のエアコンをMyMUアプリ上で追加すると、自動的にemocoが利用可能になります。

2023年11月の時点で提供しているemocoの機能は、エモコアイで推定したココロの状態をマップに表示する「エモーションマップ」と、エモコアイで推定した情報から在宅ワークや学習時のワークスコア(作業効率)の変化を表示する「ワークメンタル」の2つです。

「エモーションマップ」では、温度・湿度などの環境データや、くつろぐ・はかどるなどのココロの状態を見ることができます。

「ワークメンタル」では、在宅ワークや学習時の「眠気度」「消耗度」「活性度」「没入度」を表示し、4つの指標を総合的に判定してワークスコアを表示します。1日の平均スコアは記録することができ、日々の変化をカレンダー上から確認することもできます。

三菱電機と共同体制を組み
アジャイルで開発

emocoの開発は2021年6月よりスタートし、まずは概念検証(PoC)で実現可能性を確認しました。その後、2022年2月より本格的な開発に着手し、2022年12月で開発を終えて、2023年2月にリリースしました。

開発は、ルームエアコンを製造する三菱電機 静岡製作所のルームエアコン(RAC)IoTの内製化チームと共同体制を組み、アジャイル方式を採用しました。今回の共同開発でMESWは、アプリの開発だけでなく、クラウドの開発も1つのチーム内で対応しました。FA・ファシリティ事業統括部 静岡事業所 京都支所 制御応用技術部 第二課 主査の山本千絵氏は次のように語ります。

「エアコンのスマホアプリをアジャイルで開発する流れはMESWでも数年前からありましたが、クラウド領域はグループ外の会社、スマホアプリはMESWなどと役割分担が比較的明確に決まっていました。今回は、市場のユーザーに価値をいち早く提供するために、共同開発を採用しました」

具体的には、1スプリントごとにスプリントレビューを行い、実際に動くものをステークホルダーに評価してもらいながら優先順位を決めました。共同の開発体制であったため、変更点を改めてインプットする手間も少なく、ステークホルダーが求めている要望を即時に対応することができました。

機器側のリリース工程や開発プロセスの関係上、即時に市場リリースすることはできませんでしたが、段階的に試験チームに評価を依頼し、いつでもリリースできる状態にしながら開発しました。

また、今回のemoco開発では、三菱電機 静岡製作所以外に、MyMUを開発しているIoT・ライフソリューション新事業推進センターと、仕様や設計について相談しながら進めていきました。

「京都支所ではこれまで、MyMUアプリにおいて、給湯器(エコキュート)の遠隔操作用のアプリや換気扇用のスマホ換気アプリなどの開発実績があり、社内にノウハウが貯まっています。emocoの開発では、MyMUアプリのチームから共通のライブラリー群の提供を受けたり連携方法を確認したりしながら進めました。クラウドに関しては、システム構成上、emocoクラウドと関わる三菱電機のIoT共通プラットフォーム「Linova」の開発担当者と密に相談することで、京都支所として家電機器用のクラウド開発を初めて一から手掛けることができました。アプリのUIデザインについても三菱電機の統合デザイン研究所と一緒に検討を進めてきました。これまでは統合デザイン研究所が決めたデザインに従って実装する開発が多かったのですが、今回のようにデザインを一緒に検討していくことで、製品内の一部のソフトウェアのみの開発というよりは、1つの製品を自分たちで開発しているという充実感や楽しみのある開発を経験することができました」(山本氏)

図2:emocoのシステム構成
図2:emocoのシステム構成

アジャイル開発のスパンを短縮し
いち早く市場に価値を提供

emocoは、2023年2月のリリース以降、順調に利用者を獲得しています。販促活動を担当している部門からの評価も良好で、付加価値の提供において一定の役割を果たしています。今後は、利用者の反響に目を向け、三菱電機とアプリの戦略を話し合いながら、初期バージョンでの提供を見送った機能も含めて、新しい価値をいち早く市場に提供していく方針です。

また、MESWの静岡事業所 京都支所としても、短期間のソフトウェア開発とリリースの実現に向けてemocoやemoco以外のアプリについても継続的にアジャイル開発に取り組んでいく方針で、規模の拡大を目指しています。

「アジャイル開発とはいえ、まだまだシステム試験までのスパンが長いという指摘もあるため、システム試験までを内製化し、リリーススパンの短縮に取り組んでいきます。また、MESWの静岡事業所 京都支所として、統合ソリューション開発の中心的な存在になるようにIoT関連の開発で実績を重ね、三菱電機のソリューションビジネスに貢献していきます。空調・冷熱機の開発においても、組み込みソフトやIoT関連の開発による効率化で貢献していきたいと思います」(山本氏)

商標について
・MyMU、emoco、おやすみサポート、MeAMOR、霧ヶ峰、エモコアイ、ムーブアイmirA.I.、エモコテック;、Linovaは、三菱電機株式会社の登録商標です。
・エコキュートは、関西電力株式会社の登録商標です。