このページの本文へ

ここから本文

2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

ロボット移動支援サービス

エレベーターや入退室管理システムと連携し
ビル内でのサービスロボットの
安全・確実な移動を支援

あらゆるモノがインターネットと繋がるIoT(Internet of Things)技術が、ビルの運営と管理にも変革をもたらしはじめています。IoTを使ってビルをスマート化することで、エネルギー効率の最適化や管理の自動化などが可能になります。三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、スマートビルのためのIoTプラットフォームVille-feuille®(ビルフィーユ)の開発を通じてビルのスマート化を推進。Ville-feuilleの提供する「ロボット移動支援サービス」は、ビル内での自走式サービスロボット(以下:ロボット)活用の可能性を大きく広げます。

  • ■上津 達哉(ウエツ タツヤ)

    2008年入社。主にビルの入退出管理システムやセキュリティーシステム関連のソフトウエア開発に従事。現在、稲沢事業所 ビルマネジメントシステム技術部 ビルソリューション課 グループリーダー

  • ■佐藤 麻美(サトウ アサミ)

    2010年入社。主にビルの入退出管理システムやセキュリティーシステム関連のソフトウエア開発に従事。現在、稲沢事業所 ビルマネジメントシステム技術部 ビルソリューション課 主査

スマートビルを実現するオープンな
IoTプラットフォーム「Ville-feuille」

ビル内には、空調、照明、ドア、入退出管理ゲート、エレベーターなど様々な機器・設備があります。近年のIoT技術の発達によってこれらの機器・設備から情報を収集・蓄積し、その情報に基づいて最適制御をすることが可能になりました。このような機能を搭載した建物を「スマートビル」と呼びます。スマートビルでは機器の情報を組み合わせて制御することで、例えばビル内に居る人の数や分布に合わせて空調を最適化するといったことが行われます。

実際にビルをスマート化するためには、様々な機器・設備に対して情報のやりとりや制御を行う仕組みが必要になります。「Ville-feuille」はスマートビルを実現するためのオープンなIoTプラットフォームです。ビル内の設備をVille-feuilleと接続することで各設備からのデータ収集や制御が可能になります。

Ville-feuilleは様々なメーカーの機器と接続可能で、かつオープンなAPIを備えています。外部のアプリケーションはAPIを経由してVille-feuilleが収集したデータを利活用したり、ビル内の設備を制御したりできます。Ville-feuilleというプラットフォームを利用することで、スマートビルを構成するアプリケーションの構築や運用が容易になります。(図1)

図1:スマートビルを実現するIoTプラットフォームVille-feuilleによるサービス提供の仕組み
図1:スマートビルを実現するIoTプラットフォームVille-feuilleによるサービス提供の仕組み

自走式ロボットの移動をサポートする
ユニークなサービスを提供

Ville-feuilleはスマートビルの機能を高めるサービスも提供しています。提供されているサービスとしては、ビルのエネルギーを一元管理する「エネルギーマネジメントサービス」、ロボットがエレベーターを使ってビルのフロアを縦移動することや入退出管理ゲートを通過できるようにする「ロボット移動支援サービス」があります。(2024年1月現在)

ここ数年、警備、清掃、配達といったビル内の様々な業務を人間に代わって行うロボットの普及が急速に進んでいます。その背景には、ビルのスマート化やロボット技術の進歩に加えて、人手不足、働き方改革、コロナ禍による非対面・非接触志向などの社会的ニーズがあります。ただ、現在多くのビルは必ずしもロボットが活動しやすい“ロボットフレンドリー”な環境とはいえません。代表的な課題としては、ロボットがエレベーターを使った縦移動ができないことが挙げられます。

「ロボットが人間と同じようにエレベーターを操作するためには、ボタンを押したり、扉の状態を確認しながら乗降したりできる、非常に高機能なロボットが必要になります。そこでVille-feuilleとロボット、エレベーターをネットワークで接続し、ロボットの移動をサポートするサービスを開発しました」(佐藤氏)

図2:ロボット移動支援サービスの概要
図2:ロボット移動支援サービスの概要

ロボットとエレベーターの間を
Ville-feuilleが繋ぐ

Ville-feuilleのロボット移動支援サービスは、ロボットからの「エレベーターで他の階に移動したい」というリクエストをネットワーク経由で受け付け、エレベーターの制御システムへと送ります。ロボットがボタンを押す必要がないため、ソフトウエアの対応だけでエレベーターを使った移動が可能になります。ロボットがエレベーターに乗る際には、扉が開いた状態を保持するなど、安全に配慮した設計になっています。

エレベーターの制御システムはIoTゲートウェイという装置を通してVille-feuilleと接続します。この方式はエレベーター制御システムの改変が最小限で済み、拡張性に優れているなどの特長があります。また、このサービスは入退出管理システムによるセキュリティーゲートや自動ドア制御にも対応しており、ロボットがビル内をスムーズに移動できます。

「入退出管理システムにロボットのIDを送信することで、ロボットが通過したことが記録に残ります。また、入退出管理システムでロボットの通過可能な場所や時間を制限することも可能です」(佐藤氏)

オープンなプラットフォームであるロボット移動支援サービスは、ロボット、エレベーターともに様々なメーカーの製品を接続することができます。

「パートナーやロボットメーカーにはロボットがエレベーターを使うための通信仕様を開示しています。仕様に従って開発しクラウド上での通信テストをパスすれば、基本的にロボットのメーカーを問わず利用することができます」(上津氏)

また、将来対応予定の機能としては、アニメーションライティング「てらすガイド®※1」との連携があります。てらすガイドとの連携により、ロボットがこれから移動する場所を先回りして照明で照らし、人とロボットの安全な移動を支援できます。

※1てらすガイド® : アニメーションを用いた映像サインを床面に投影することで、直感的で分かりやすい案内や注意喚起を行う。

ロボット専有運転モードと
人とロボットの同乗モードを使い分け

ロボットのエレベーター利用には「ロボット専有運転モード」と「人とロボットの同乗モード」があります。ロボット専用モードでは、ロボットから呼ばれたエレベーターはボタンによる手動操作ができなくなり人間は同乗できません。同乗モードではボタン操作が可能で、人間とロボットが同じエレベーターを利用できます。

「大型のロボットは人が乗るスペースが少ないので専有モードで運用し、小さなロボットは同乗モードで運用するといった使い分けが行われています」(上津氏)

すでに実際のビルでロボット移動支援サービスを使ったロボットによる警備や掃除、配送などが行われています。例えば、東京都内のあるオフィスビルでは、コンビニエンスストアがロボットによる自動配送を提供しています。オフィスからネットショップで商品を注文すると、ロボットがコンビニからエレベーターを使って配送してくれます。

迅速なユーザーサポートのためにクラウドを採用
ロボットの特性に合わせてサーバーレスで開発

ロボット移動支援サービスは、クラウド、サーバーレス※2といったアーキテクチャを使って開発されました。

「クラウドを採用する大きなメリットは、トラブル対応などでお客様を待たせる時間を短くできることです。物理サーバーでは、どうしてもサーバーのある場所に出向いて対応する場面が出てきます。クラウドであればすべてリモートで対応できるので、お客様を待たせすることが少なくなります。もちろん導入時の初期投資の低さやサービスを早く立ち上げられるといった一般的なクラウドのメリットもあります」(佐藤氏)

サーバーレスアーキテクチャの採用はロボットの運用特性を考慮してのものでした。

「ロボットは24時間常に動いているわけではないので、必要なときだけシステムが稼働するサーバーレスアーキテクチャを採用しました」(上津氏)

※2サーバーレス(Serverless): サーバーの構築や管理をせずに、サーバーを使った時と同様のアプリケーションやサービスを開発・運用できる仕組み。開発者はアプリケーションの開発に集中できる。

エレベーターやビル機器の
専門家が身近にいる強み

MESWは、エレベーター制御システムや入退出管理システムなどスマートビルに関係する多くの機器の開発を行っています。ロボット支援サービスの開発では、こうした機器の専門家が身近に居ることが大きな助けになったといいます。

「チームにはエレベーター開発の経験がなかったので、当初はロボットからのリクエストに対してエレベーターがどのように振る舞うのかが分かりませんでした。しかし、同じ事業所内に居るエレベーター開発部門の専門家からアドバイスを受けることで、エレベーター制御の特性を踏まえた設計にすることができました」(上津氏)

Ville-feuilleは、今後さらに接続可能な機器やそれらを活用したサービスを充実させていく予定です。

「現在のVille-feuilleには、ロボット、セキュリティーゲート、エレベーターなどの機器が繋がっていますが、ビルの中にはまだまだたくさんの機器があります。例えば照明や監視カメラなども接続できるでしょう。今後も接続する機器を増やすことでVille-feuilleを成長させていきたいと考えています」(佐藤氏)

「ロボット移動支援サービスの開発では、ロボットメーカーの方々と一緒に仕事をすることで多くの発見がありました。今後も様々な分野のパートナーと一緒に仕事をすることで、新しいサービスの創出に繋げていきたいと思います」(上津氏)

商標について
・Ville-feuille®は、三菱電機株式会社の登録商標です。
・てらすガイド®は、三菱電機株式会社の登録商標です。