製造現場では生産設備の自動化が進んでいるものの、人がアナログで対応している作業も多く残っています。結果として、人の経験や勘に頼らざるをえない、人手不足で技術やノウハウの継承ができない、といった課題が顕在化しています。それらを解決するべく、製造現場でもIoT（Internet of Things）やAI（人工知能）の活用が始まり、生産設備の異常判定や製品の品質判定などに利用する動きが出てきています。

しかし、工場の特性や生産設備の違いなどにより、解決したい課題や収集できるデータの種類などが異なり、分析に必要なAIモデルは工場や現場ごとに作成せざるを得ないのが現状です。AIモデルの作成やデータ分析には専門知識と高度なスキルが求められるため、専用人材（データサイエンティスト）を集めるのは容易ではなく、製造現場ではAIの活用が進まない状況が続いています。

これらの課題を解決し、製造現場のデータ活用を拡大するために開発したのが「MaiLab」です。FAエンジニアリング開発第二部 FA統合ソフトウエア開発第一課 深谷有吾氏は次のように語ります。

「専門知識がない製造現場の担当者が容易にAIモデルの作成やデータ分析ができれば製造現場でAI活用が進むのではないか、というところからMaiLabの開発が始まりました」

MaiLabは、人の勘や経験をデジタル技術に置き換え、制御システムへの組み込みを簡単に実現するデータサイエンスツールです。AIを用いたデータ分析により、現在の製造工程から改善点を見つけ出し、適切な対策を促すことで、生産性の向上や品質の向上、技術の継承、省人化、人材不足への対応、コスト削減、品質改善などに貢献します。

MaiLabの特長は、豊富な分析手法で様々な課題を解決できること、直感的なユーザーインターフェース（UI）によって操作したことがないユーザーでもすぐに使いこなせること（Ultracool Design）、分析手法を知らないユーザーでも学習モデルが作成できること（AI Data Scientist）、柔軟なライセンス体系の4点にあると深谷氏は話します。

「MaiLabは“誰でも簡単にデータ分析ができる”がコンセプトです。データサイエンティストのような専門家がいなくても、MaiLabが自動的に分析して、AIモデルを作成することができます。また、分かりやすいデザインや操作性を重視して、従来のシステムのような複雑な画面ではなく、シンプルで“ぱっと見”で使える直感的なUIを採用しています。MaiLabではこのUIをUltracool Designと名付け、洗練されたデザインと豊富なグラフ表示により様々な視点で分析することを可能としています」

MaiLabの開発検討が始まったのは、2019年のことでした。2020年の初頭にはプロジェクトチームを立ち上げ、三菱電機とMESWの共同で開発に着手しました。MESWが担当した領域は、仕様の検討から設計、実装まで開発全般にわたったと、FAエンジニアリング開発第二部 FA統合ソフトウエア開発第一課 グループリーダー 山田哲也氏は語ります。

「これまでは、立ち上げ当初の企画検討は三菱電機のみで行うことが多かったのですが、今回はAIなどの技術的な課題もあったため、企画検討の時点から協力させてもらいました。そういった面からもMESWにとってチャレンジングな取り組みとなりました」

設計・開発メンバーの平均年齢は20代で、若手メンバーを中心にチームを編成した点はこれまでになかったことでした。

「今回、AIやWebアプリケーションなど、新しい要素・技術を用いた開発に挑戦することから、新卒採用で入社してすぐにMaiLabのプロジェクトに参加した深谷のように、20代の若手メンバーを中心とした開発チームを作りました」（山田氏）

開発プロジェクトはコロナ禍でのスタートとなりましたが、リモートワークの環境を整備しながら在宅で開発を進めるなどして約2年がかりでMaiLabを完成させ、2022年7月のリリースを迎えました。

「ネットワーク環境が揃うまで、エンジニアには自宅でWebアプリケーションの勉強から始めてもらいました。その後、徐々に環境を整備しながら開発を進めていきました。最終的には在宅でも会社でも同じような環境で開発できるようになり、以前よりも働きやすくなりました」（山田氏）

一方、若手中心で経験のある有識者がほぼいなかったため、自分自身で勉強を進めながら開発を進める必要があったといいます。深谷氏も1年目から自身の勉強と並行しながらの開発だったため苦労したとのことですが、結果として、ソフトウェアエンジニアとして大きく成長し、自身でも手応えを感じています。

「現在、入社して5年目ですが、MaiLabの開発歴としては長くなり、新しい機能追加も私1人に任せてもらえることが多くなり、自分自身の成長を実感しています」（深谷氏）

MaiLabの開発において、MESWの強みや技術力が特に発揮されたのは、AI（AI Data Scientist）とUIデザイン（Ultracool Design）の領域でした。

AIの領域についてMESWの開発チームには、学生時代からデータ分析やAI研究に取り組んでいる技術者や、難易度の高いAI関連の資格取得者が多く在籍しています。会社としてもAI関連の資格取得を奨励し、受験費用の負担や社内勉強会の開催などで全面的にサポートすることでAI技術者を育成しています。

「MaiLabでは、設計・開発メンバーの半数近くがAI関連の有資格者でした。その結果、AI Data Scientistの開発にMESWのAIエンジニアの技術力が存分に発揮されました」（深谷氏）

UIデザインについても、製造現場の担当者でも迷うことなく使えるようにシンプルなデザインを目指して、試行錯誤しながら開発を進めました。今回の開発チームにとってWebアプリケーションの開発は初めての経験だったことから、最新のデザインパターンを学ぶ勉強会を実施し、デザインコンセプトを理解したうえで検討を重ねていったと深谷氏は語ります。

「UIに関しては、Webデザインの標準的なガイドラインをベースに近年の国内の流行を採り入れながら、利用者がより直感的に操作できる分かりやすいデザインを目指しました。結果として、お客様からも『従来のシステムと比べて劇的に使いやすくなった』といった声を多くいただくことが多く、非常に嬉しく感じています」

MaiLabは、2022年7月のサービスリリース後もお客様から改善要望などのフィードバックを受けながら継続的に改良を続け、1年半の間に5回のアップデート版のリリースを実現しています。特にMaiLabはこれまでにないサービスだけに、初期段階では短期間での改善を心掛けています。

「MaiLabでは90日間の無料体験版を配布して、幅広いお客様に体験していただいています。そこでの意見を参考に、より使いやすいソフトウェアを目指しています」（深谷氏）

今後は、より多くの顧客獲得を目指して機能の拡充を図っていくほか、新たな付加価値の提供に向けて最新技術の情報収集を進めていく、と深谷氏は語ります。

「最近は、生成AIなどの最新技術の発展が劇的に進んでおり、様々な応用方法が期待されています。MaiLabにおいても付加価値を高めるような最新技術の適用を目指して研究を続け、自分自身の技術の向上を図りながら開発を続けてまいります」