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2023年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート
(コラム)

サーボアンプのネットワーク対応と安全機能

ものづくりを根幹で支えるサーボアンプ
各種ネットワーク対応でグローバル市場へ
国際規格に基づく安全機能にも対応

三菱電機ソフトウエア株式会社(MESW)は、三菱電機株式会社と協働でサーボアンプ用ソフトウェアを開発しています。サーボアンプは高速高精度にサーボモータを制御するための機器で、工場内の生産ラインやロボットなど、ものづくりを根幹で支えています。三菱電機が2019年春にリリースしたサーボアンプのMR-J5では、オープンネットワークとしてCC-Link IE TSN※1へ対応し、最小通信周期が31.25μ秒という高速通信を実現しました。2019年秋には、ヨーロッパで普及しているオープンネットワークEtherCAT※2に対応。国際規格に基づく安全機能にも対応しています。

※1 IE TSN : Industrial Ethernet Time Sensitive Networking
※2 EtherCAT : Ethernet Control Automation Technology

  • ■佐久間 基樹(サクマ モトキ)

    2012年入社以降、サーボアンプソフトウェア開発に携わる。当初、三菱電機製サーボアンプMR-J4を担当。2015年よりグループリーダーとして開発を取りまとめる。2017年から三菱電機製サーボアンプMR-J5のネットワーク、安全機能の開発取りまとめ。FA・ファシリティ事業統括部 名古屋事業所 MDエンベデッド開発部 サーボドライブ制御開発課 グループリーダー

高精度の駆動を実現するサーボモータ
ものづくりを根幹で支えるサーボアンプ

自動車製造工場で大きなロボットアームが高速で溶接加工したり、半導体製造工場でチップとフレームの間に細い電線を高速に接続したりするなど、生産ラインにおける高精度の駆動にはサーボモータが欠かせません。サーボモータが高精度に駆動できるのは、サーボモータがエンコーダ(回転角度、回転数や位置をセンサーで検出し、情報を出力する装置)を搭載しているからです。

サーボアンプはサーボモータの制御の役割を担います。図1は高精度な同期が必要な印刷工場でのサーボアンプの構成例です。4台のサーボアンプは、図左上のコントローラの指示を受けて、ベルトなどを回すサーボモータをエンコーダからのフィードバックの情報を受けながら制御します。

生産ラインの規模や用途により、1台のコントローラにサーボアンプが1台から、多い場合には百台以上配線されます。6軸制御のロボットの場合、ロボット内に6台のサーボアンプが搭載されています。

複数台のサーボアンプはコントローラからの指令で独立して動作しますが、装置として高精度で制御するためにサーボアンプ間の動作にずれが生じてはいけません。そのため、サーボアンプ間で同期しながら動作することが求められます。

MESWは三菱電機とともに数十人が協働して一つのサーボアンプ用のソフトウェアを作っています。

サーボアンプソフトウェアの開発を担当するMDエンベデッド開発部 サーボドライブ制御開発課 グループリーダー 佐久間基樹氏がサーボアンプソフトウェア開発について語ります。

「ソフトウェア開発において、MESWは上流の設計から評価試験まで一貫して携わっています。昨今はソフトウェアの規模が年々増大しており、それに伴いサーボアンプにおけるソフトウェアの重要度もどんどん大きくなってきています。また、設計や評価試験では、実際の装置と同様にコントローラからの指令でサーボモータを回転させます。試行錯誤の末に意図したとおりにサーボモータが回転したときには、サーボアンプがものづくりを支えていることを実感します」

サーボアンプのソフトウェアは高精度の駆動を実現するサーボモータを制御し、ものづくりを根幹で支えています。

図1. 印刷工場でのサーボアンプの構成例
図1. 印刷工場でのサーボアンプの構成例

市場ニーズへの柔軟な対応により
グローバル市場での躍進へ

三菱電機はe-F@ctoryを軸としたFA総合ソリューションを提唱しており、その基幹となるオープンネットワークであるCC-Link IE TSNに対応し、基本性能で他社を凌駕する製品を開発することで、グローバル市場でのトップシェアの獲得を目指しています。

そのためサーボアンプのMR-J5では、ソフトウェアアーキテクチャの抜本的な見直しをすることで、最小通信周期31.25μ秒での制御とオープンネットワークであるCC-Link IE TSNの対応を柱とした革新的なソフトウェアを実現しました。

その結果、最小通信周期31.25 μ秒による高速なモーション制御が現場の生産性を向上させ、高精度なモーション制御が従来困難であった加工品の微細化・高集積化をもたらしました。さらに同一ネットワーク上での制御通信と情報通信の混在が、システム構築の自由度を向上させて装置の多機能化活用を可能にし、加えて1Gbps※3の高速・大容量ネットワークがレシピデータなどの大容量データの高速送受信を可能にし、生産ラインを多品種生産などの市場ニーズに柔軟に対応できるようにしました。

※3 Gbps : Giga bits per second。1秒間に10億万ビット。

オープンネットワークへの対応
CC-Link IE TSN対応はμ(マイクロ)秒とのせめぎ合い

2019年春にリリースされたサーボアンプのMR-J5における対応ネットワークから見た大きな変更点は、通信仕様が公開されているオープンネットワークへの対応でした。最初の対応は、最新のCC-Link IE TSNへの対応です。TSNは1本のイーサネットケーブルで産業用ネットワークとIT用ネットワークの相互運用が可能です。サーボアンプのTSNへの対応により、従来、分離していた駆動系ネットワークを一つのFAネットワークに統合でき、自由度の高いシステム構築ができるようになりました。

TSNへの対応とともに、通信と制御の革新的な高速化に取り組みました。通信や制御を高速化することにより高速・高精度の駆動が実現でき、ものづくりをしている現場での生産性の向上につながります。また、装置として高精度とするために、複数のサーボアンプが整合して動作する必要があります。そのためにサーボアンプ間で1μ秒以下(100万分の1秒以下)の精度で同期できるように対応していきました。

「CC-Link IE TSN通信は、最小31.25μ秒の周期でコントローラからの指令が順次変わります。それに対応してサーボアンプはリアルタイムに追従し、モータを制御しなければなりません。そのため、ただ機能を実現すれば良いのではなく、同じ機能をいかに短い処理時間で実現するかが重要であり、ここが技術者の腕の見せ所でもあります。実際の開発では、プログラムの様々な箇所に処理速度のチェックを入れて無駄を削ぎ落としていくといった、地道な作業も必要になります。このような高速化の技術は先輩たちから後輩たちへ受け継がれており、組織の知恵として積み上がっています」(佐久間氏)

ヨーロッパ市場に向けての
EtherCAT対応と安全機能

グローバル市場への対応として、2019年秋にヨーロッパの販売店からの要望を受け、ヨーロッパで普及しているオープンネットワークEtherCATに対応しました。

「新しいネットワークへの対応は、MESWがゼロから調査するところから始まります。まずはネットワーク規格を読み込み、サーボアンプとして対応するべき要件を企画書としてまとめ、三菱電機と打ち合わせをしながら開発項目を決めていきます。開発項目が決まったら通常のソフトウェア開発のプロセスを実施し、最終的に規格を所管する協会での認証試験を経て規格を取得するまで、MESWで一貫して対応します」(佐久間氏)

EtherCATの需要はヨーロッパのみならず日本国内にもあるため、日本国内での対応機種の販売が開始されることになりました。

また、ヨーロッパでは、サーボシステムへの安全機能搭載が重視されます。サーボシステムの安全機能もMESWが担当しました。

大きなロボットアームが作動する危険領域に人が侵入したことをセンサーが検知した場合や緊急停止ボタンが押された場合は、ロボットは緊急停止しなければなりません。こうした機能安全要件は、もともとヨーロッパの規格EN ※4 61800-5-2で、これがそのまま国際規格IEC※5 61800-5-2となり、「速度調整可能な電動ドライブシステム」として規定されています。危険が発生した場合、安全にシャットダウンすることが重要です。IEC / EN 61800-5-2は、IEC / EN 60204-1のカテゴリ0、1、2の3つの停止機能を定義しています。「急速に停止する」、「減速しながら停止する」、「減速しながら停止し停止を監視する」という3つの停止機能にサーボアンプMR-J5は対応しています。

「機能安全では、偶発的な部品故障による装置の誤動作が許されません。そのため、どの部品が故障しても危険な状態になってはいけない、という難しい設計が求められます。旧機種の安全機能は、オプションユニットを別途購入して装着する必要がありました。それに対し、MR-J5では本体に最初から安全機能専用のCPUを組み込んでおり難しい設計とはなりますが、オプションレスで安全機能規格に適合できるため、お客様の省スペース・省コストに寄与しています。」(佐久間氏)

さらに、安全面では通信の異常(ビット誤りなど)をどのように検知するかなどを規定した各ネットワークの安全規格があります。2020年秋にはCC-Link IE TSNの安全通信に対応し、2023年春にはEtherCATの安全通信にも対応しました。

※4 EN : European Norm
※5 IEC : International Electrotechnical Commission

開発計画は3年先までも
サーボアンプ用ソフトウェアの進化は止まらない

2019年春にリリースしたサーボアンプのMR-J5用のソフトウェアは、半年ごとに機能を強化し、改善を加え進化しています。現時点で、3年先の2027年までの開発がすでに計画されています。それ以外の開発候補アイテムも一覧として存在します。

「まだまだ対応していない機能があるので、ソフトウェアの設計をより効率よく、開発をよりスムーズに実施していかなければなりません。開発期間を短縮できる開発手法も積極的に利用して、チーム運営を改善しながら、チーム一丸となって開発を進めていきます」(佐久間氏)

ものづくりを根幹で支えるサーボシステム、サーボアンプ用ソフトウェアの進化は止まることなく続いていきます。

商標について
・CC-Link IE TSN、CC-Linkは、三菱電機株式会社の登録商標です。
・EtherCATは、Beckhoff Automation GmbHの登録商標です。