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2022年度 三菱電機ソフトウエア技術レポート

巻頭言

創刊号記念対談

三菱電機株式会社
常務執行役
加賀邦彦

三菱電機
ソフトウエア株式会社
取締役社長
福嶋秀樹

三菱電機株式会社 常務執行役 加賀邦彦

最終学歴
  • 1990年3月 京都大学大学院工学研究科物理工学専攻修士課程修了
略歴
  • 1990年4月 三菱電機株式会社入社
  • 2017年4月 冷熱システム製作所副所長
  • 2018年4月 冷熱システム製作所長
  • 2020年4月 開発本部副本部長
  • 2021年4月 常務執行役(開発担当)、CTO、開発本部長
  • 2021年7月 常務執行役(経営企画、関係会社担当)、CSO、経営企画室長
  • 2022年4月 常務執行役 監査担当、CSO(経営企画、関係会社担当)、CTO(技術戦略担当)
  • 2022年6月 取締役、常務執行役 監査担当、CSO(経営企画、関係会社担当)、 CTO(技術戦略担当)
  • 2023年1月 取締役、常務執行役 監査担当、CSO(経営企画、IR・SR、関係会社担当)、CTO(技術戦略担当)
    <2023年2月現在>

三菱電機ソフトウエア取締役社長 福嶋秀樹

最終学歴
  • 1987年3月 京都大学大学院工学研究科精密工学専攻修士課程修了
略歴
  • 1987年4月 三菱電機株式会社入社
  • 2012年10月 同社神戸製作所副所長
  • 2013年4月 同社神戸製作所長
  • 2015年4月 同社伊丹製作所長
  • 2018年4月 同社社会システム事業本部副事業本部長、神戸製作所長
  • 2019年4月 同社社会システム事業本部副事業本部長、社会インフラ・プラットフォーム事業推進プロジェクトグループマネージャー、神戸製作所長
  • 2020年4月 同社常務執行役(社会システム事業担当)
  • 2022年4月 三菱電機ソフトウエア株式会社取締役社長
    <2023年2月現在>

稲岡 2022年4月に三菱電機グループのソフトウェア会社6社が経営統合されました。三菱電機ソフトウエア株式会社(以下MESW)設立に際し、新会社の方針や新会社への期待について三菱電機の加賀常務執行役とMESWの福嶋社長にお話を伺いたいと思います。本日、司会進行をさせていただきますMESW技術統括部長の稲岡です。

稲岡 早速ですが、まず福嶋社長に伺います。今回の経営統合の目的に、ソフトウェア技術の結集、戦略的技術の導入、ソフトウェア人材の育成等のキーワードがあります。これらを踏まえて、どのような経営方針を策定されていますか。

福嶋 当社は、幅広い事業分野に対応した柔軟性のある組織体制を構築し、三菱電機グループのソフトウェア企業の中核として、グループ内外のお客さまにソリューションをご提供していこうということで誕生しました。ソフトウェア技術の結集による事業推進体制の強化、社員が魅力的と感じる会社づくり、経営体力を生かした成長に向けた積極投資の拡大を、経営基本方針として取り組んでいます。

稲岡 加賀常務にもお話を伺いたいと思います。今回の経営統合の背景には、三菱電機グループとしての事業推進体制強化等の方針があると認識しています。ソフトウェアの重要性と統合への期待について、お考えをお聞かせいただけますか。

加賀 最初に申し上げたいのは、経営戦略説明会等において三菱電機グループの「ありたい姿」としてご説明している『循環型デジタル・エンジニアリング企業』との関係です。
三菱電機グループの強みであるコンポーネントの力を生かしながら、コンポーネントを組み合わせたシステムでお客さまに価値を提供するのみならず、コンポーネントやシステムから得られるデータに基づき、お客さまの現場でコンサルティングやエンジニアリング、運用保守の領域まで含めて付加価値をご提供していく。そのプロセスの中でコンポーネントやシステムが進化していき、価値をさらに高めていくような、循環型ビジネスでの成長を目指しています。そしてこれをデジタルの力で実現していく。実空間で運転されているシステムをデジタル空間で再現して、そこで様々な分析や最適化をやっていく。いわゆるデジタルツインの実現ですね。
デジタル空間上で、コンポーネントやシステムを様々に組み合わせ、システムが扱うデータを使ってさらに新たな付加価値を提供するということになりますから、これまで以上にソフトウェアの価値や位置づけが重要になってきます。『循環型デジタル・エンジニアリング企業』の実現に向けて、ソフトウェアの力を強化していくことは本当に大切なことで、MESWには、しっかりとその一翼を担っていただきたいと思っています。

福嶋 今、お話しいただいたように、各コンポーネントですとかシステム、それもまた設計から開発、保守までの全てを一つに繋いでいく。デジタルの世界で繋ぎ、付加価値の拡大に向けて回していくというところが、循環型デジタル・エンジニアリングの根幹ですね。新会社は、様々な分野に跨る事業を、ソフトウェアという軸で分野を越えて横通しで見ることができるようになりました。これは大きな強みで、循環型のデジタル・エンジニアリングを実現する上で、我々が貢献できる環境が整ったと思っています。

稲岡 今、福嶋社長から、MESWは統合により三菱電機の全ての事業分野のソフトウェア開発を担うこととなったというお話がありました。統合メリットはどのようなところにあり、どのように生かしていこうとされていますか。

福嶋 統合メリットとして、まず、MESW内で事業分野を超えて柔軟に業務負荷を分担することが可能になったことが挙げられます。また、当社には様々なソフトウェア技術があり、そうした先進の技術やエキスパートの知恵を他の分野で生かすことも可能となりました。
また、会社としての体格も大きくなり、人材や開発費といったリソースを必要なところに集中的に投入するということが従来よりも行いやすく、より大きな取り組みができるようになったとも感じています。ソフトウェア業界では人材の確保が課題ですが、人材獲得においても企業の魅力というものを前面にアピールしながら、しっかりとした対応が取れると考えています。

稲岡 福嶋社長から、技術の横通し、リソースの集中等の統合メリットがあるとのお話がありましたが、三菱電機でもMESWの統合に対応した動きがあれば、ご紹介いただけますか。

加賀 『循環型デジタル・エンジニアリング企業』に変貌していくために、全社のデジタル人材をしっかり見える化し、従業員の皆様方が本当に元気よく、生き生きと力を発揮いただくことができるような環境を提供する具体的な仕組みを構築していこうとしています。
三菱電機のソフトウェア人材や情報技術の人材と、MESWのエンジニアの皆さんが協力し、三菱電機グループとしてお客さまや社会に提供する付加価値を考える場を作りたいと考えています。そうした場で議論をしたり、アイデアを出し合ったり、学び合いをする。同じ方向性を共有しながら、それぞれの強みを生かして、グループ全体としてお客さまにこれまでにない付加価値を提供していくことを、ぜひ実現したいと考えています。
三菱電機が保有する事業アセットやお客さまとの繋がり、技術的な強みを融合して、お客さまに新たな価値を提供していくにあたって、MESWが先駆けてソフトウェア会社として一つに統合され、技術の融合や強化を進めていただけるのは、非常にありがたいことです。

福嶋 風土とか文化、考え方の違う人々が一緒になり、接点を持つと新しい創造が生まれると言われます。三菱電機との連携をより深めていくことで、新しいソリューションを生みだせるのではないかと期待しています。

加賀 おっしゃるとおりです。ソフトウェア技術は一つの共通技術であるものの、事業毎にドメインの特徴に応じて最適化された形でノウハウが蓄積されています。それ自身は強みだと思いますが、それらが出会って化学反応というか、融合するともっと新しい価値が生み出せるとか、ある事業で培った技術が、実は他のお客さまとか他の事業に持っていくと、思いもよらない付加価値が提供できるということが考えられます。三菱電機はそういうシナジー効果の追及をまさにこれからやろうとしている。MESWは先にその環境を整えてくれているので、これからはシナジーとか化学反応とか新しい価値創造などといったことが加速するのではないかと思います。

福嶋 私自身も、改めて、MESWに興味深い先進技術が多くあること知り、驚いています。社員も同じ思いで、技術交流会と称して技術者に他の事業所の事業内容を知ってもらう機会を作ったところ、社員からは『これほど幅広く、様々な技術を持っているということを改めて知った。これならば何か新しいことができそうだと感じた。』という声が届きました。

加賀 それはいいですね。

福嶋 本当にそういうアマルガム(合金)といいますか、化合、化学反応、創発が起きるということを期待して、社内の交流を深めていきたいなと。それがひいては統合のメリットを引き出し、社員の結束を強めていくということに、絆を作っていくということに繋がっていくと思っております。

稲岡 『循環型デジタル・エンジニアリング企業』に変貌するために、技術や人の融合が必要とのお話がありましたが、統合したMESWに対して、具体的にどのような期待をお持ちでしょうか。

加賀 最初に申し上げたとおり、『循環型デジタル・エンジニアリング企業』を実現するためには、フィールドで得られたデータから新たな付加価値を生み出していく必要があり、データの収集、分析、そして分析に基づく最適化という、三つのデジタル技術を強化していかなければなりません。
我々はハードウェアを持っている強みを生かし、データの多くはお客さまに納入した機器から収集する訳ですが、機器から動作データやセンシング情報を吸い上げる、また機器側でデータを加工した上で吸い上げることが必要になりますから、まず機器に埋め込まれるソフトウェアの技術が必要です。
もう一つは、収集したデータをクラウド上でいわゆるビックデータ解析やAIを使って意味化する部分です。機器のスマート化やデータ収集をするソフトウェア技術と、クラウドなどでデータを解析して最適化するソフトウェア技術、この二つがとても重要で、ここを強化していく必要があります。機器に組み込むソフトウェアの技術には実績があり、継続的に強化していただきたいのですが、データを吸い上げてビックデータを解析して最適化する部分にも期待しています。

福嶋 そうですね。クラウド等を活用したデータ利活用の分野は、当社でも注力していかねばならない分野だと考えています。

加賀 クラウド活用技術などは一段と強化していただきたいと思います。技術開発も事業ドメイン毎に進みがちですが、共通化できるところは資産として、流用性や継続性を担保するソフトウェアのアーキテクチャーを構築するようなことにも期待しています。ビジネスモデルを共有しながら、ソフトウェア資産を様々に展開、適用できるようにしていく。そうしたことを一緒にさせていただければ、事業の継続性・確実性が向上し、サステナブルな事業運営に繋がると考えています。

稲岡 今、お話しいただいているところに大きな二つのポイントがあると思います。一つは機器側とクラウド等の上位系の融合、もう一つはサステナビリティということで継続的にお客さまの役に立つソリューションを提供するという点です。MESWとしてそのような期待に応えるために、どのような取り組みを考えていますか。

福嶋 エッジ側のデータ収集から分析、活用、最適化といった部分、それぞれに得意分野を持った会社が一つになったということで、戦略的開発委員会を設置して、どのようなアプローチがあるかを検討しています。三菱電機の研究所とも連携しながら、どのような構想が成り立つのかということも検討していこうとしています。
また、MESWの強みとして、FPGA等のハードウェア設計を行う部門も持っています。エッジ側の部分、ソフトウェアとハードウェアの境界のロジックが分かる技術陣です。ある部門はAIの画像解析の機能をFPGAで実現し高速化を図ったりしています。ソフトウェアとハードウェアでどのように分担するのが全体としての最適化になるのかということが分かる専門家。そういう技術者が、組み込み系と上位系の技術者と連携して開発を行うことにより、システム全体の最適化も図れます。
データ分析や活用といった部分では、AIが非常に重要な技術になっていますが、この領域においても、統合によって技術力を結集させることができます。AIに関しては、MESWの中でも様々な分野で多くの社員が取り組んでいます。現在、三菱電機の主催でAIスキルアップコンテストが開催されていて、MESWからも20チーム、40名ほどが参加していますが、三菱電機グループの中で群を抜いた参加規模です。それだけ裾野も広いということで、社内の技術交流会などを通じて、こうした力をさらに深めていきたいと思っています。

稲岡 先程から、クラウドやAIというキーワードが出ていますが、加賀常務はこうしたソフトウェアの動向をどのように受け止められていて、MESWにどのような期待をお持ちでしょうか。

加賀 三菱電機では、Maisartブランドで人工知能の研究開発を進めてきました。これは機器の中の限られたリソースで、データ分析をいかにコンパクトに実現するかという技術が中心です。我々の持つ機器の強みを生かしてソリューションを実現する手段として、エッジのところで情報を分析してしまう手法が重要で、このような強みをぜひMESWも共有して強化してほしいと考えています。
一方で、機器側で分析をするのではなく、エンドポイントからデータをクラウドに上げて、クラウド環境で分析をすることが要求される事業分野もあります。クラウド活用型のソフトウェアシステム構築技術はとても重要な技術ですので、世の中にある様々な人工知能なりビックデータ解析技術を上手く使い分けていって欲しいと思います。
もう一つは、DevOpsとかアジャイル開発とか、新しい開発の手法、開発のあり方そのものも、MESWで取り入れて展開していただきたいと思います。

福嶋 開発のアプローチですね。

加賀 アプローチがどんどん進化しているので、そこはぜひMESWでも最新の情報を手に入れながら、三菱電機とも情報共有し、常に最新の開発のあり方とかアプローチの仕方、最新の要素技術、三菱電機が強みとしているものなどを受け止めていただいて、そうしたものを上手く融合させて、どんどんビジョンを広げていただけるとありがたいと思っています。

稲岡 三菱電機が保有しているソフトウェア資産はもちろん、世の中にあるソフトウェアや開発手法も使いこなすなど、新しい技術への取り込みに期待を寄せていただいていますが、昨今の技術の進展は大変スピードが速いと思います。そこで、福嶋社長にお伺いしたいのですが、そうした速い技術の進展を受け止める手段として考えていることがありましたら紹介してください。

福嶋 AI、クラウド、セキュリティにしろ、また開発のアプローチにしろ、この分野は非常に進歩が速い。そういった動向をいち早く捉え、しっかりと我々の事業に生かせるようにしていかなければならないと考えています。そのための施策としては、戦略的な開発というものを見据えて、委員会やチーム、ワーキンググループを作って技術の目利きをしていく。そういうことを進めるとともに、三菱電機の技術部会に相当する技術サークルというものを立ち上げて、モデルベースやアジャイルといった開発のアプローチとか、AIとかそうした新しい技術をチームの中で議論して、MESWとしての取り組みの方向性を決めていくということを試みています。

稲岡 新しい技術の動向を掴んで活用していくという課題についてのお話がありましたが、その他に課題として感じていることはあるでしょうか。

加賀 MESWにとってのチャンスがこれだけ広がっていますから、分散した開発リソースをいかに効率的に活用するかということと、リスキリングなどを通じてソフトウェア領域で活躍いただく方を増やしていくことが必要だと思います。技術者のレベルを高めていくことも重要な課題だと思います。

福嶋 人材面では、加賀さんのお話にもありましたように、技術者のレベルを高めていくことと、ボリュームを増やしていくことを並行して進めていかなければならない。技術レベルの面では、統合前から各社で実施していた個々の研修を相互に受講できるようにし、講座の幅と質を高める努力をしています。人材確保の面では、会社の規模が大きくなり、事業や技術分野の幅も広がったことを強みとして、新卒者や経験者の採用、それから企業としてのPRに積極的に取り組んでいるところです。

稲岡 最後に、三菱電機で進められている変革や改革についてお話を伺いたいと思います。変革に対してMESWはどのように役割を果たすべきか、そうしたところをお話しいただけますか。

加賀 三菱電機では、『全社変革プロ』の活動の中で、まずはコミュニケーションの改革を手掛けています。チームを結成し、皆で知恵を出し合う、そういう環境づくりを行っています。
チームの中で、反対意見も含めていろんな意見が言い合えるようになると、そこから新しい価値とか、新しいクリエイティビティーが生まれます。コミュニケーションの活性化をして、チームビルディングをして、チームがいろいろな課題を解決していくということ。そんなことが経営層でも、現場でも、設計や開発部門、営業部門、総務・人事部門など、いろいろなところで起こっています。
そのようなコミュニケーションの輪の中に、MESWの皆さんも入っていただいて、どうやってお客さんの価値を生み出すかということを、ぜひチームのメンバーとして一緒に考えていただきたいと思います。『循環型デジタル・エンジニアリング企業』のエンジニアリングという言葉は、開発設計という狭い意味ではなくて、様々な人が知恵を出して、お客さまに価値を提供して社会課題を解決していこうという意味です。そのような三菱電機の変革の動きに、MESWさんもチームの一員として入っていただいて一緒にやる。そのときに、まさにデジタルの力というものが役に立つと思っています。

福嶋 ありがとうございます。まずは先行している三菱電機の変革の取り組みを、MESW版として取り込むことを検討しています。各事業所を巡回して、若手社員を含めた意見を聞いていますが、三菱電機の変革で行われているコミュニケーションの改善やウェルビーイングなど、そのようなことをやってみたいと申し出てくれる社員もいます。まだ、統合に係る業務で多忙な時期ではありますが、この冬に社長直下のチームを作って、様々な活動に取り組んでみたいと思っています。

加賀 それはいいですね。期待しています。

稲岡 本日はありがとうございました。加賀常務からは三菱電機が「ありたい姿」を実現する上での新会社への期待を、また福嶋社長からはそうした期待にどのように応えるか、また統合メリットをいかに発揮するかといった内容についてお話をいただきました。引き続き両社の対話が活発に行われることを期待して、本対談を終了します。